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危機下の国際的紛争対応


対談者

パートナー

小原 淳見

国際紛争解決の交渉、訴訟、仲裁、調停及び紛争予防を主な取扱分野とし、とりわけ国際仲裁の分野では、様々な仲裁地における仲裁機関において代理人を務める。LCIAやICC国際仲裁裁判所の副所長を歴任。ICCA理事。日本政府よりICSID仲裁人パネルに指名。

パートナー

青木 大

アジアを中心とする国際的な紛争解決を手がけ、SIAC、ICC、JCAAその他における国際仲裁及びアジア各国での訴訟対応等に精通する。シンガポール法弁護士4名を含むシンガポール・オフィスの紛争解決プラクティスチームを率いる。

【はじめに】

コロナ・ショック、米中対立、ロシア・ウクライナ危機を受け、経済面における世界の分断が進み、制裁、制裁への対抗措置、その他経済安保関連の各国の規制が、サプライチェーン、海外での事業展開に大きな影響を与え、企業は新たな紛争への備えを求められています。本対談では、近時起こっている新たな紛争の実例を紹介しつつ、紛争への日頃の備え等について議論します。

CHAPTER
01

パンデミックと紛争解決 ―不可抗力

青木

2020年の新型コロナウィルスによるパンデミックでは世界の企業活動が一斉に影響を受けましたが、日本企業からのどのような紛争の相談が寄せられましたか。

小原

パンデミックによるロックダウンや行動制限で、サプライチェーンが大混乱に陥り、原材料、部品がタイムリーに届かない、工場の操業が停止し製品が製造できない、ロックダウンで製品を納品できないなどを理由に、相手方に損害賠償請求できるか、相手方からの損害賠償請求および解除通知にどう対応したらよいのかなど、内容は多岐にわたりました。中には仲裁に発展したものもあります。

青木

日本企業の締結する契約のひな形には、パンデミックを不可抗力事由に列記した契約も多々ありますが、それらの不可抗力規定は効力を発揮したのでしょうか。

小原

不可抗力規定はあるにこしたことはありませんが、特に一般的な不可抗力規定だけで紛争を回避することはできません。パンデミック=不可抗力ではなく、個別具体的な状況を踏まえて真に不可抗力といえるかが問題になります。そのためまずは、不可抗力を立証するための証拠作りが必要となります。また、不可抗力が認められても、契約の当事者はそれによって一切の契約上の債務を免れるわけではありません。不可抗力の状況の中で、相手方の損害を抑えるアクションをとる必要があり、かつ不可抗力事由が終了すれば、合理的にすみかに履行を行う必要がありますが、いつ不可抗力事由が終了したと考えられるかなど、争いはつきません。日頃から、事業部と連携しながら不可抗力条項を作り込み、いざ不可抗力が発生した場合には、不可抗力の立証、債務不履行責任を免れるためのアクションが重要となります。
CHAPTER
02

地政学リスク・気候変動リスク・資源ナショナリズムと紛争解決 ―投資協定

青木

2021年のミャンマー軍事クーデター、2022年のロシアによるウクライナ侵攻、昨今の台湾海峡の緊張など、地政学リスクが高まっていますが、これらのリスクに関連して、企業からどのようなご相談があるのでしょうか。

小原

地政学リスクに関連しては、企業間の紛争とともに、投資先の国との紛争についてのご相談も受けています。前者では、物流の滞りや制裁措置による履行遅延や履行不能が大きな問題となりました。後者では、現地の事業が戦乱に巻き込まれるリスクや、制裁国企業への対抗措置などで、投資先の政府による事業の接種リスクなどについてのお問い合わせを数多く頂きました。さらには、気候変動対策の規制や資源ナショナリズムに基づく資源事業への制約などに対抗する手段がないかといったご相談も受けています。投資先の国の措置から日本企業の投資をまもるのが、投資を保護する投資協定です。予め投資協定上の保護が得られるように投資をストラクチャすることで、投資先の政府と、投資協定に違反する措置を撤回するよう交渉することもできます。最後の手段としては損害賠償および原状回復を求めることができます。実際に、我々が投資協定に基づく仲裁で日本企業を代理した事件では、投資先の政府のへの損害賠償請求が認められ、投資協定のメリットを強く実感しました。

青木

投資協定上の保護があるのとないのとでは企業にとっては大違いですね。そうなると、企業法務としても投資協定上の保護を確保しておく必要がありますね。

小原

その通りです。投資先の国が、思いがけない措置を導入してから投資協定上の保護があるか検討するのでは遅いのです。問題が起きてから投資協定上の保護がないことに気づき、投資ストラクチャを変えて投資協定上の保護を得ようとしても、制度の濫用として保護が認められていません。投資協定上の保護を投資時に確保しておけば、投資先の国が外国投資家を不当に取り扱うことの歯止めにもなります。そのため、平時から、海外投資に先立ち、よりよい投資協定上の保護を確保するための投資のストラクチャについても助言しています。
CHAPTER
03

海外子会社の不祥事事案における紛争対応

小原

シンガポール・オフィスでは、日本企業の海外子会社における不祥事事案の相談なども多く受けているのでしょうか。

青木

はい、内容としては、現地役職員の不正(横領・贈収賄)、不適切な会計処理や循環・架空取引などが典型例ですが、最近はパワハラなどの労務問題が対象となることも少なくありません。コロナ禍で海外との行き来が難しくなっていたこともあり、海外子会社の内部統制の強化が以前にも増して重要になってきているように感じます。

小原

そのような不祥事事案については、どのような対応をされていますか。

青木

まずは徹底した調査を通じた事実解明が優先されますが、最終的に問題となるのは、やはり対象者や関係他社に対する民事・刑事責任や人事上の責任をどこまで追及すべきかという点です。これには現地裁判所での訴訟や契約に基づいた仲裁を提起する必要が生じてきます。海外において子会社の役職員や取引先の法的責任を追及するのは、現地事情や法制度の不透明さなどから、どうしても慎重になりがちです。基本的には回収の確度、回収可能利益とコストのバランス、レピュテーションの観点などから総合的に判断する必要がありますが、回収可能性が乏しいと安易に結論づける前に、本当に会社のステークホルダーの最善利益に適っているのかどうかという点に立ち返って考えてみるべき事案もあろうかと思います。訴訟・仲裁を提起しないことによる他の取引先への影響や当該海外子会社の他の役職員のモラルへの負の影響も無視しがたいこともあるでしょうし、提訴しないことが善管注意義務に反しないというような狭義のコンプライアンスを超えたインテグリティの観点から、不正行為に対して厳然たる対応を示すことが要請される場合もあるでしょう。訴訟・仲裁を辞さずと腹を決めて交渉すれば、結果としてそこに至らず有意な和解がまとまるケースも少なくありません。
CHAPTER
04

海外JVにおける紛争対応

小原

海外のパートナーとの間で組成するジョイントベンチャー(JV)において、とりわけ昨今の経済情勢や政治情勢を受け、経営がうまくいかずに紛争に発展するケースもよく聞かれます。

青木

はい、このような場合に留意すべき点の一つとして、親会社(株主)から派遣されているJVの取締役の善管注意義務の問題が挙げられます。その取締役は親会社の役職員という立場を有する一方で、現地法上、JVの取締役としてJV自体の最善利益を優先すべき義務を負っているのが一般的です。善管注意義務の中には、JVと株主を含む第三者との間の取引に関して利害関係を有する場合の開示義務、自己や第三者の利益のために会社の情報を不当に用いてはならない義務などが含まれ、善管注意義務に違反した場合、民事責任のほか、刑事責任を伴うケースもありますので注意が必要です。

小原

株主間の紛争が顕在化し、既に仲裁にかかっているような場合でも、この点は留意すべきでしょうか。

青木

はい、仲裁が既に始まっていたとしても、取締役個人に対しては別途現地裁判所で責任追及の訴訟を提起されるリスクがあります。特にJVの事業が継続している中で、株主間の対立が先鋭化すると、法的根拠の確度にかかわらず、紛争を複雑化して交渉上の有利なポジションを得るために、現地パートナー主導でそのような訴訟が提起されることも特に新興国においては稀ではありません。取締役に対して刑事告訴がなされるケースもあり得ます。そのような場合であっても慌てず毅然とした対応を行うことが必要ですが、他方で無用な紛争を招かぬよう、親会社としても、現地の会社法制を正しく理解し、現地取締役をきちんとケアしていくことが重要です。
CHAPTER
05

海外M&A取引における紛争対応

小原

クロスボーダーのM&Aでは、平時でも表明保証違反や、価格調整規定による価格決定で紛争が起こりがちですが、コロナに伴う緊急事態宣言がM&A取引を終了させるMAC(Material Adverse Change)に該当するか、制度変更リスクを売主買主どちらが負担するか等も問題になりました。ポリティカルリスクに伴う当事者の責任分担の明確化が重要です。

青木

海外におけるM&A取引において法令遵守等のコンプライアンスを徹底することが重要なことはいうまでもありません。ただし、特に新興国においては、コンプライアンスに名を借りて、実質的な債務不履行を行ってこようとする相手方もいることには注意が必要です。経験した事案では、日本の当事者(売主)が、海外当事者(買主)との間でM&A契約を締結し、後はクロージングを残すのみとなっていたところ、クロージングの前提条件となっていた現地当局の許認可が下りないことを理由にクロージングがいつまで経っても行われないというようなケースがありました。よく調べてみると、どうも買主が契約締結後になって売買代金額に納得がいかなくなったようで、当局に許認可を出さないよう裏で働きかけていたことが強く疑われる事案でした。慎重な検討が必要ですが、取引不成立による損害の回復に加え、関係者への説明責任を果たしていくため、仲裁手続中の文書開示手続等を通じて真相解明を行うというのも一つの選択肢だと思います。
CHAPTER
06

最後に

小原

コロナ渦や地政学リスク、気候変動リスク、資源ナショナリズムのリスクなど、昨今、様々なリスクが同時に高まり、グローバルな事業活動を営んできた企業にとって、事業のオンショア化など事業モデルの見直しを迫る事態が発生してきています。他方で、これらの危機の到来により、企業法務において、契約の整備や、投資プランニングなど、平時からリスクに備えることが極めて重要であることが改めて確認されました。またリスクが高まった後も、リスクと共存しながら事業継続する際の契約の作り込みが重要になっています。早期に弁護士に相談することで、リスクに備え、リスク発生後も、リスクをコントロールしながら、できる限り紛争を回避しつつ、事業継続することが求められます。

青木

コロナ禍、ウクライナ問題、米中対立をはじめとして、世界的に様々なリスクが高まっている昨今、海外事業の適法性を確保しつつ、JVその他における海外の関係者との関係をうまくコントロールしていくことの重要性はますます高まっていると感じます。想定外の事態により関係性がこじれることは不可避的に生じ得ますので、そこにおいては、法的手続による紛争解決を殊更に回避しようとするのではなく、交渉のツールとしてうまく活用していくという観点が重要だと思います。実際、交渉の延長として仲裁や訴訟を提起することを厭わない海外当事者も多く、日本企業側が法的手続に持ち込みたくないという本音を見透かし、強気の交渉をしてくる相手方も少なくありません。法的手続の開始は関係の終結を意味するものではなく、仲裁・訴訟を提起した後、調停などで有意な和解が成立することも多いです。法的手続を「伝家の宝刀」とせず、柔軟かつ大胆に相手方との関係性を構築していくうえでうまく活用していくという姿勢が、特に海外業務においては必要と思います。
もちろん法的手続に至る前にソフトランディングできることが望ましい場合も多く、我々も事案に応じて、できる限り双方の利益となる形で紛争を早期に解決できるお手伝いをさせていただくことを心がけています。



本対談は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。