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パスウェイズ・ジャパンの支援活動


対談者

アソシエイト

人見 愛

2008年に入所以降、M&A、企業結合規制対応など様々な分野の案件に従事。近年は、海外企業が関係する案件やインターネット関連法務に従事するほか、プロボノ活動に積極的に取り組んでいる。また、外務省領事局ハーグ条約室での経験とオランダ・ライデン大学(Advanced LL.M. in International Children’s Rights)への留学経験を活かして、国際家事ADRや子どもの権利に関する問題にも取り組んでいる。2021年から東京都児童相談者一時保護所第三者委員。

ゲスト

折居 徳正

1968年生。企業勤務を経て2002年よりNGO職員としてアフガニスタン、イラン、パレスチナ、シリア、ミャンマー等での人道危機、またイラン、パキスタン、インドネシア、ミャンマー、ハイチ等での自然災害にて人道支援に従事。2016年より(特活)難民支援協会にて難民受け入れ事業マネージャーを務め、シリアの若者を各地の大学・日本語学校に留学生として受け入れ。2021年7月、難民支援協会より同事業の移管を受けてパスウェイズ・ジャパンの設立に携わり、代表理事に就任。国際政治学修士。

【はじめに】

2022年2月にロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから半年が経ちましたが、ウクライナの各地では未だ戦闘が続いており、大勢の市民が国外へ避難しています。NO&Tでは、プロボノ活動の一環として、ウクライナからの避難民の受け入れを行っている一般財団法人パスウェイズ・ジャパンを支援しており、今回は、パスウェイズ・ジャパンの代表理事である折居徳正様をお招きして、その活動内容やNO&Tへの期待等をお伺いしました。

CHAPTER
01

教育を通じた受け入れの始まり

人見

はじめに、パスウェイズ・ジャパンの成り立ちについてお伺いできますでしょうか。

折居

パスウェイズ・ジャパンは、難民支援協会が行っていた、シリア人を留学生として受け入れるプロジェクトを継承・発展させる目的で2021年7月に設立されました。団体名にもなっている「パスウェイズ(Pathways)」には、「道筋」という意味があり、「受け入れの道筋」という意味で、国際的にも定着してきている言葉です。パスウェイズ・ジャパンでは、教育を通じた難民・避難民の受け入れを行っています。

人見

パスウェイズ・ジャパンの原点は、シリア人留学生の受け入れにあるということですが、シリア人留学生の受け入れはどのような経緯で始まったのでしょうか。

折居

2015年から2016年にかけて100万人とも言われるシリア人がヨーロッパに移動し、日本社会でもできることはないだろうかということで受け入れの検討を始めました。日本政府によるシリア人の受け入れが発表されていない中で、いくつかの教育機関から、教育機関が受け入れを行えば、日本に難民の方が来られるのではないかという申出をいただき、民間主導の教育を通じた受け入れをスタートすることになりました。当時、カナダでは、民間主導で難民を受け入れるプラクティスがすでにできあがっており、カナダからたくさんのことを学びましたが、日本の場合、カナダや他の移民政策が進んでいる国と違って、日本語を安価に学ぶことができる公的施設があまりありませんので、日本語学校や大学に受け入れてもらうというモデルができました。

人見

2016年に始まったプロジェクトでは、何人くらいのシリア人の方を受け入れられたのでしょうか。

折居

5年間で31人のシリア人留学生を受け入れました。規模は大きくないかもしれませんが、人を一人受け入れるということは大変なことですので、慎重に扉を開き、留学生がどのように日本社会で道を切り拓いていけるかということを留学生や関係機関とともに検討しながら進めてきました。その結果、当初、日本語学校1校、大学1校で始まったプロジェクトも、全国各地の教育機関に広がり、その後のパスウェイズ・ジャパンの設立に繋がりました。
CHAPTER
02

ウクライナ人学生の受け入れ

人見

ウクライナからの避難民に対して、パスウェイズ・ジャパンでは、「日本語パスウェイズ」と「大学パスウェイズ」の2つのプログラムを提供しているとのことですが、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。

折居

「日本語パスウェイズ」では、最大2年間、日本語学校で日本語を学んだ上で、進路を選択します。日本語学校では、生活の立ち上げに関するサポートのほかに進路指導を受けることもできますので、日本語の習得と同時に大学(院)への進学や就職などができるようになります。「大学パスウェイズ」では、日本語を学ぶのと同時に、科目履修生として大学の授業を受けられますので、学問を継続することができます。基本的には、大学在学中の方で退避の場所とともに学問を継続するための場所を探している方を対象に募集しています。最初に2年程度日本語をしっかり学んだ後、試験に通れば、学位のプログラムに編入することもできます。希望があれば、日本でキャリアを目指していくことも考えられます。どちらのプログラムも来日後のオリエンテーションに加えて、教育機関の支援がありますので、留学生本人が努力をすれば、日本社会で生活していくための素養を身につけられるようになっています。

人見

受け入れる学生の選考にあたり、重視されていることはありますか。

折居

選考の際には、来日する以外に選択肢がないのか、本人が目指している職業や希望している分野が日本社会で実現しやすいものなのかといったことを吟味しています。周辺国への避難など現在置かれている状況と来日することを比較して、どちらが本人のためになるかということも考えます。厳しいようですが、日本に対する憧れだけで、将来設計が甘い場合には不採用にすることもあります。日本語を習得して、日本社会で暮らすということは簡単なことではありませんので、言葉を学ぶ大変さなどについては、本人によく確認しています。

人見

ウクライナから来日した学生たちは何人くらいになりましたか。

折居

7月末の時点で40人程度になりました。まだ募集が続いていますので、来年の5月末までで100人程度の学生を受け入れることになると思います。

人見

来日した学生たちにはどのようなサポートが必要ですか。

折居

当面の住居や学ぶ場所は、プログラムで用意していますが、プログラムが終了するときにいろいろなニーズが出てくると思っています。具体的には、大学への進学や就労の機会です。今、様々な企業に関心を持っていただいていますが、来年、再来年を見据えて、雇用に繋がるようなインターンシップや就業経験をご提供いただけるようになるとよいと思っています。

人見

ウクライナ人学生の受け入れが日本社会に影響を与えることはありますでしょうか。

折居

今回、政府はたくさんのウクライナ人を避難民として受け入れました。受け入れには、各地の自治体や企業、財団、個人も関わっています。この受け入れを通じて、日本社会でも難民の背景を持つ人々の受け入れができるということが広く認識されたということは大きな収穫でした。次に何らかの人道危機があった時に、日本社会として難民・避難民の受け入れがこれまでよりもスムーズにできると思います。また、パスウェイズ・ジャパンが従前から取り組んでいるシリアやアフガニスタンからの受け入れについても、多くの方に理解していただきやすくなっています。ウクライナ人の受け入れを通して、日本の難民受け入れが一歩前に進んだように感じます。
CHAPTER
03

NO&Tに期待すること

人見

NO&Tでは、学生が来日されたときのオリエンテーションに弁護士が参加し、学生たちと交流させていただきましたが、これまでのNO&Tの取り組みで役立ったことや、今後、NO&Tに期待することがあればご教示ください。

折居

NO&Tでのオリエンテーションは、学生たちが入国後の待機期間を終えて日本で過ごす最初の日でした。NO&Tの弁護士との交流を通じて、日本社会の中で学生たちを歓迎している、応援している人がいるということを伝えることができたのは、大変意義があったと思っています。今後については、法律系の仕事を目指している学生がいれば、インターンシップの機会や経験を聴く機会などをご提供いただけるとよいと思います。また、長い人生の中では、法務的なサポートが必要になる場面もあると思いますので、そのような場合に、ご協力いただけたらと思います。

人見

NO&Tでできることがあれば、ぜひご相談ください。プロボノ活動の一環として、必要なサポートを提供したいと思っています。
CHAPTER
04

おわりに

折居

パスウェイズ・ジャパンのプログラムで来日している学生は、素晴らしい人材となり得る優秀な方々だと思います。紛争という悲しい出来事がきっかけではありますが、日本を選んで来てくれている方々でもあるので、「助ける」という視点だけではなく、日本社会としてどのように学生たちを活用できるのか、win-winの視点でこれからも応援いただけるとよいと思います。

人見

最後に大事な視点をお話いただきありがとうございました。日本語、英語、ロシア語、ウクライナ語をマスターされた優秀な方々にどのように日本社会で活躍していただくかも考えていかなければなりません。本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
  • 当事務所は、一般社団法人パスウェイズ・ジャパンによるウクライナ避難民受入プログラム「日本・ウクライナ教育パスウェイズ」を支援しています。
    https://www.noandt.com/pro_bono/20220602/

本対談は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。