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電子提供措置の始動に向けて―2023年総会の対応


座談会メンバー

パートナー

田原 一樹

M&A、プライベート・エクイティ投資、コーポレートガバナンスを中心として、企業法務全般にわたり、リーガルサービスを提供している。株主総会対応全般についても力を入れて取り組んでいる。

パートナー

井上 聡

日本国内及び海外における紛争解決業務(会社法関連訴訟、労働訴訟、知的財産関連紛争など)を中心として、企業法務全般に従事している。

アソシエイト

石本 晃一

2016年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2017年弁護士登録。M&Aその他の各種取引、株主総会、企業結合審査を中心とする規制・官公庁対応を含む案件においてサービスを提供している。

アソシエイト

鬼頭 あゆみ

2017年東京大学法科大学院修了。2018年弁護士登録。主に金融機関を対象とした規制対応、金融取引、その他企業法務全般についてアドバイスを行う。2021~2022年、外資系証券会社に出向・勤務。

【はじめに】

今回は、その適用が目前に迫っている株主総会資料の電子提供制度に関し、実務的な対応が悩ましいと思われるポイントについて、意見交換を行いました。

CHAPTER
01

電子提供制度の概要

井上

今年の3月1日以降に開催される株主総会から株主総会資料の電子提供制度の適用が開始され、上場会社は、その利用を強制されることになります。本日は、制度を利用するにあたって実務上検討が必要となる主なトピックを中心に議論をしていきたいと思います。

鬼頭

電子提供制度は、株主の個別の承諾がなくとも、株主総会資料を、自社のウェブサイト等で掲載する方法により、適法に株主に提供できるものとする制度です。株主は、議決権行使基準日までに書面交付請求をしない限り、書面での株主総会資料の提供を受けることができなくなります。

石本

制度のメリットとしては、株主に対して情報を早期に提供できる、印刷・郵送のための時間・コストを節約できる、紙幅にとらわれず充実した情報開示ができるといった点が挙げられています。

田原

制度自体はシンプルに設計されているのですが、他方で、株主に対して従前と同様、株主総会資料の全てを書面により任意で送付する、いわゆるフルセットデリバリーも許容されているなど、制度の運用について会社の裁量に任されている部分が多くあります。そのため、特に制度適用の初年度である今年は、他社の動向を見極めた上で自社の対応方針を決めようとしている会社も多いのではないかと推察します。
CHAPTER
02

株主に対して送付する書面

井上

フルセットデリバリーを行うかどうか含め、株主に送付する書面の内容をどうするかは、最大の検討ポイントの一つですね。まずはその点を整理したいと思います。

鬼頭

電子提供制度適用後、会社法上、株主に対して送付することが求められる書面は、株主総会の日時・場所、株主総会資料をアップロードしたサイトのURL等のごくごく限定的な情報を記載した招集通知(アクセス通知)のみになります。もっとも、アクセス通知の記載事項は、電子提供措置の対象とされる事項の一部(会社法298条1項各号に掲げる事項)と重複するため、書面交付請求を行った株主に対して送付する書面に重複感が生じてしまうことから、両者を網羅した一体型アクセス通知を用いることも考えられます。東京株式懇話会ではこのような一体型アクセス通知のひな型を公表していますね。

田原

議決権行使書面についても電子提供措置を行うことにより書面の交付を不要とすることができますが、当面の実務運用としては、議決権行使書面を招集通知と併せて送付することになるであろうといわれていますね。アクセス通知を採用するか一体型アクセス通知を採用するかはさておき、基本的にどの会社においても、少なくとも招集通知と議決権行使書面は送付することになると思いますが、これらに加えてさらに任意の書面を送付するか、という点はどうでしょうか。

石本

任意の書類を送付しない場合、書面交付請求を行わなかった株主としては、議案の内容その他議決権行使のために必要な多くの情報を確認するために電子提供措置事項が掲載されたウェブサイトを確認するという一手間をかける必要があります。これから総会を迎える各社においては、この一手間が議決権行使比率の低下に繋がらないか等といった点を考慮して、任意の書面を送付するかどうかを検討されているのではないかと思います。

井上

任意の書面の内容にはある程度幅がありそうですね。フルセットデリバリーの他には、会社の側で電子提供措置事項をベースに何らかのサマリーを作成して送付するという方法もあります。サマリーの内容にも様々なバリエーションがあり、例えば、電子提供措置事項のうち、議案の内容や提案の理由等が記載された株主総会参考書類部分のみを提供する方法や、株主総会参考書類に加えて、財務ハイライトや対処すべき課題等といった他の電子提供措置事項に記載された主要な情報の一部を盛り込む方法も検討されているようです。これらの書面は会社法上要求されるものではないものの、実務上、各社においてどのような対応を採るべきなのか、悩ましい部分も多いですね。

鬼頭

2023年の定時株主総会に向けた各社の検討動向について、「株主総会白書2022年版」(旬刊商事法務2312号78-79頁)等各種のアンケートの集計結果が公表されています。大まかな傾向としては、任意の書面を提供する予定の会社が7、8割、そのうち、フルセットデリバリーとサマリー送付の割合は、アンケートごとに差異が生じているものの概ね半々程度といったところでしょうか。サマリー送付の中では、新たに独自のサマリーを作る場合には実務上の負担も生じますし、複数の同種の書類を作成する過程でミスを誘発する可能性も想定されますので、株主総会参考書類部分のみを抜粋して提供する会社が比較的多いようです。もっとも、これらのアンケートにおいては、具体的な方針を回答していない会社も多く、実際に今年の株主総会でどのような対応を採る会社が多いかは予想が難しい面もありそうです。

田原

今年は、各社にとって、電子提供制度が適用される初めての株主総会になりますので、株主に制度が十分に理解されていない可能性があること、また、これまでに電子提供制度について周知を図ってきていたとしても、いざ実際に例年と異なる書類を受け取ってみると違和感を覚える株主もいるのではないか、といったことを懸念して、フルセットデリバリーを採用する会社が相当数出てくるのではないかと思います。ただ、従来株主に対して送付されていた株主総会資料の中には、必ずしも議決権行使に直接関連しない情報も含まれていたようには思います。今年はフルセットデリバリーを採用するという会社でも、来年以降は送付書面をスリム化することを検討するといった対応も十分考えられます。また、今年の株主総会の段階で、来年以降に送付書面をスリム化する方針がある程度固まっているのであれば、その旨総会の場でアナウンスしたり、今年の送付書面にその旨記載したりすることも考えられると思います。

井上

今年の送付書面の内容を検討するにあたっては、来年以降への影響も考慮する必要がありますね。毎年のように送付書面に記載される事項が変わることになれば不便に思う株主もいるでしょうし、ある年は任意の書面を充実させたものの、翌年には急に簡素なものとするような場合には、そのような方針転換の合理性に疑問を持つ株主が出てくるかもしれません。

石本

いずれの方法を採るにしても、電子提供制度への対応について総会の場で株主から質問されることは考えられます。そのため、対応方法を選択した積極的な理由について、会社としての立場を整理した上、株主に対して説明できるようにしておく必要がありそうです。株主に対する送付書面をスリム化する場合、株主の中には、昨年までと同様に、書面交付請求をするまでもなく株主総会資料一式を送付して欲しいという要望を持つ株主がいることはあり得ますし、特に今年の総会時点ではそのような反応があっても不思議ではないように思います。他方で、従来どおりフルセットデリバリーをしておけば説明の必要がないかというとそうではなく、インターネットで閲覧できる書面を印刷して多数の株主に送付するために要する印刷コストや資源を節約するべきではないかという見方をする株主もいるかもしれません。

田原

最後に、フルセットデリバリーを行ったとしても、電子提供措置が免除されるものではなく、また、電子提供措置の中断のリスクを排除することもできませんので、どのように中断を防止し、電子提供措置の継続を証拠化するかという点はいずれにしても検討が必要です。証拠化の方法としては、電子提供措置を行うウェブサイトのログの保存が考えられますが、自社内でこれに対応するのはそれなりの手間がかかりますので、より保守的な方法として、電子公告調査機関に依頼することも考えられます。
CHAPTER
03

株式取扱規則の整備

井上

株主による書面交付請求や異議申述手続における異議を述べる方法について、書面に限定する旨の規定を定める等、株式取扱規則を整備する必要があるといわれています。

鬼頭

前述の「株主総会白書2022年版」によれば、電子提供制度の施行準備として実施(予定)している取組みとして、「株式取扱規則の変更」を挙げたのは、回答会社全体の65%程度ということでした。数字としてはやや低いようにも思いますが、これは、既に、株主の権利行使等について「会社の定める書式によるものとする」といった包括的な規定を定めていることから特に対応を必要としない会社が一定程度存在することによるものではないかと思われます。

田原

株主による書面交付請求は2022年9月1日から行使することが可能となっています。思ったよりその件数は少ないのではないかといった話を聞くこともありますが、現時点までのところ、特に統計資料等は存在しないため、具体的な実態は分かりません。ただ、総会開催時期が近づいてから請求を行う株主も一定数存在すると思います。特に株式取扱規則上、包括的な規定もなく、対応が未了の会社においては、今からでも遅くはないので、規則の変更を検討すべきかと思います。

石本

現時点までに書面交付請求がなされていないとしても、実際には、アクセス通知等これまでよりも簡略化された株主総会資料を受け取って初めて電子提供制度の内容を認識した個人株主からその段階に至って書面交付請求がなされることも考えられます。規則に反して口頭で書面交付請求がなされたときにどうするのか、また、議決権行使基準日後に書面交付請求がなされた場合にどのように対応するのか等、イレギュラーな事態が生じた場合を想定して、予め会社としての統一的な対応方針を決めておいた方がよいと思います。
CHAPTER
04

総会当日の運営

井上

次に、総会当日の運営について、電子提供制度の導入に際して留意すべき点はあるでしょうか。

石本

まず、受付事務については、基本的に従前と同様議決権行使書面を紙媒体で送ることが予想されますので、特に影響はないと思います。

鬼頭

主な検討事項としては、総会会場において、株主の参照用に電子提供措置事項を印刷したものを配布すべきかという点が挙げられると思います。制度趣旨からすると、紙の資料を配布しないで株主総会において電子提供措置事項の内容を引用しながら議事進行することに問題はないと考えられるものの、株主の理解を助けるための任意の取り組みとして、

  • ①電子提供措置事項記載書面を当日一定数用意しておき、希望者には配布する
  • ②総会会場のスクリーンに資料の一部を投影して必要事項を示す
  • ③必要な資料は各自で印刷して持参するか、手持ちの携帯・タブレット等で表示できるよう予め招集通知等に記載して促しておき、当日は受付票にウェブサイトのQRコードを記載して案内する

などの対応を検討することが考えられます。

井上

①については、ウェブ開示の実務では現状一般的に行われているようで、前述の「株主総会白書2022年版」によれば、総会当日に来場株主のために「WEB開示箇所」の書類を用意した会社が約78%(うち57.7%が会場への備置)を占めるということでした。これまでの株主総会当日の様子を見ていると、招集通知をきちんと持参して来場する株主も多く、こうした株主には紙であれタブレットであれ、手元になんらかの資料がある方が安心感があると感じられるかもしれません。

田原

②については、従前の実務においても行われてきたことではありますが、採決時に議案の内容を改めて示したり、報告事項は視覚的な効果を意識してスライドを作成する等の工夫が考えられますね。

鬼頭

制度趣旨からすれば、③を採用し、株主自身の端末で確認してもらう方がよいようにも思いますが、従前会場での携帯電話等の使用を禁止していた会社では、勝手に録音・録画したデータの意図しない利用を誘発してしまうのではないかという懸念もあるでしょうか。

田原

そもそも大規模な総会自体が減少してきている中で無許可での撮影等が問題になるのは一部の企業に限られるとは思いますが、機器の使用を制限しても無断録画等を完全に防げるわけではありませんし、自社のウェブサイトで総会の様子を公開する会社も多いですよね。質問株主に配慮して質疑応答部分は非公開としているかもしれませんが、情報の漏洩リスクが問題になるのはその限度であることを踏まえて、機器利用は許可した上で無断録音・録画をしている人物を発見した場合は制止するという対応もあり得るように思います。

井上

細かい点ではありますが、株主総会シナリオについて、「お手元の招集通知●ページに記載のとおり」といった文言は、「当社ウェブサイトに掲載した本株主総会に関する招集通知●ページに記載のとおり」等と書き換えるか、スクリーンに表示する場合は、概要を説明の上「スクリーンに表示したとおりです。」とし、詳細はウェブサイトを閲覧するよう促す等の調整も必要になりますね。
CHAPTER
05

異議申述催告

井上

書面交付請求の日から1年を経過した場合、それ以降会社は株主に対して異議申述催告をすることで、書面交付請求の効力を失わせることができます。このような異議申述催告について、会社としてはどのような点を検討する必要があるでしょうか。

田原

催告を行うタイミング・範囲とその頻度が主な検討ポイントになりますね。

鬼頭

催告を行うことができるタイミングは株主ごとに、書面交付請求を行った時点に応じて異なりますし、催告に対して異議を述べるかどうかも株主ごとに区々であることが想定されます。もっとも、株主ごとに個別に催告の要否やタイミングを判断して対応するのは煩雑ですので、実務的には、アクセス通知等の書面に定型的な催告文を記載することで画一的に対応するといった方法が模索されることになるように思います。

石本

アクセス通知に記載して年に1回催告することでよいのか、アクセス通知以外に株主に対して送付される書面通知等を含め年に複数回催告するのか、あるいは、毎年催告する必要まではなく、ある程度書面交付請求がたまってきたところで数年に1回催告することで足りるのかといったあたりも、検討が必要ですね。

田原

いずれにしても、異議申述催告は、どんなに早くとも2023年9月1日以降に行うことになりますので、この点の具体的な検討は、実際になされた書面交付請求の数を踏まえつつ、本年度の定時株主総会以降に検討するということでもよさそうですね。

井上

ありがとうございます。本日は、電子提供制度について、実務的にも重要性が高いと思われるトピックについてお話をしました。特に本年度は確立した実務が全く形成されていない中で各社手探りの状態となりますので、他社の動向も踏まえながら、自社にとって、適切な対応を検討する必要があります。本日の議論が、皆さんの今後の検討に際して、少しでも参考になれば幸いです。

FOCUS

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