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ニュースレター

ドイツにおける新たな多数決に基づく私的整理手続の概要

NO&T Europe Legal Update 欧州最新法律情報

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

I.はじめに

 ドイツでは、2021年1月1日付けで、「再建及び倒産法令の更なる発展に関する法律」(Gesetz zur Fortentwicklung des Sanierungs- und Insolvenzrechts, SanInsFoG)(以下「倒産改革法」といいます。)が施行されました。この倒産改革法の施行により、①ドイツの倒産法(Insolvenzordnung)(以下「ドイツ倒産法」といいます。)にて定められていた新型コロナウィルス感染症対応の各種の緩和措置が延長されることに加え、②「企業の安定化及び再建の枠組みに関する法律」(Gesetz über den Stabilisierungs- und Restrukturierungsrahmen für Unternehmen, StaRUG)(以下「StaRUG」といいます。)が新たに導入されました。

 欧州では先立って、2019年6月20日に、EU加盟国に対して予防的事業再生の仕組み(preventive restructuring frameworks)の国内法化を義務づけたDirective (EU) 2019/1023が発令されました※1。StaRUGは、このEU指令に従って、加盟国であるドイツが国内法化した予防的な早期事業再生の仕組みであり、経営危機の初期段階にある企業を対象に、裁判外の私的整理に基づく新たな事業再生の手段を提供するものです。StaRUGは、ドイツ倒産法に基づく伝統的な法的整理を補完するものであり、私的整理の枠組みの中で、計画により権利変更を受ける当事者(債権者・株主)の法定多数決の賛成により、少数の反対当事者も拘束させることができるようになりました。

 このニュースレターは、StaRUGに基づく新しい事業再生制度の概要を説明することを目的としています。

II.StaRUG手続の概要

1.手続の特徴

 StaRUG手続の特徴を一言で言うと、「裁判所の限定的な関与・支援の下での、多数決原理を導入した私的整理」であるという点です。まず私的整理の点で言うと、StaRUG手続は、債務者と対象当事者との間だけのクローズドな私的整理(裁判外の手続)であるため、一般に広く公開される法的整理に伴うネガティブなイメージ(スティグマ)を避けることができます。また、多数決の点で言うと、裁判所の限定的な関与(=認可手続)の下で、対象当事者全員の同意がなくとも、法定多数決により反対当事者にも権利変更の効力を生じさせることができます。さらに、StaRUG手続には、一時停止命令、計画案の予備審査、法廷内議決手続といった裁判所の支援措置もあります。

2.利用企業

 こうしたメリットのあるStaRUG手続を利用できる企業は、「差し迫った支払不能」(支払不能が差し迫っていること:imminent illiquidity)が認められるが、支払不能又は債務超過にまでは至っていない(そのため、倒産申立義務※2は生じていない)企業に限定されます。「差し迫った支払不能」とは、今後の財務状況に照らして、債務者が既存の支払債務を弁済期限までに履行できない可能性が高い場合をいいます。「差し迫った支払不能」を判断する期間は、原則として今後24ヶ月間が基準となります(ドイツ倒産法18条)。したがって、例えば、債務者のキャッシュフロー予測に基づくと、現時点ではまだ支払不能(弁済期にある債務を支払えない状況)とまでは言えないが、今後24ヶ月間以内にその可能性が高い場合には「差し迫った支払不能」が認められることになります。

3.対象当事者の選別・再建計画案の策定・組分け

(1)対象当事者の選別

 StaRUG手続では、法的整理手続とは異なって全ての債権者や株主をStaRUG手続に入れる必要はなく、債務者は、権利変更の対象としたい当事者を選別することができます。ただし、債権者(及び株主)間の衡平に照らし、債務者による対象当事者の選択は「適切な基準」に基づく必要があり、それを再建計画案に明記する必要があります(StaRUG 8条)。ここでいう「適切な基準」とは、以下のいずれかの場合です(同条)。

  • ①倒産手続においても全額弁済が想定される債務を除外する場合
  • ②債務者の経済的窮境の性質や状況に照らして異なる扱いをすることが適切だと考えられる場合
  • ③法定除外債権(従業員の請求権、故意の不法行為に起因する請求権、及び罰金関連の請求権をいいます。以下同じ。)を除く全ての債権を含める場合

 このうち、②の例としては、金融債権と関連する担保権のみを対象とする場合や、少額債権者(特に消費者の債権、零細・中小企業の債権)を除外する場合などが考えられます。

(2)再建計画案の策定

 再建計画案は、債務者が立案し、対象当事者の権利変更を定めることができます。典型的な権利変更の内容としては、対象債権のリスケジューリング、リファイナンス、エクスチェンジオファー、デット・エクイティ・スワップ(DES)、債権カットなどがあります。もっとも、再建計画案で定められる内容は柔軟性が高く、例えば、対象債権の権利変更だけでなく、その他の内容(新規融資・担保設定に加えて、株主総会を経ずに再建計画に基づく減増資を行うなど)も定めることが可能です。ただし、法定除外債権は対象外です。

 再建計画案は、説明的記載事項と規範的記載事項によって構成されます。

 まず、説明的記載事項は、計画によって権利変更を受ける当事者が計画案を決議し、裁判所がこれを認可するために必要な一切の情報を含んでいなければなりません。完全な情報開示により、対象当事者による適切な議決権行使、裁判所による適切な認可決定を確保するためです。具体的には、①危機の根本原因、②再建コンセプト(restructuring concept)、③代替シナリオとの経済合理性比較、④権利変更の対象となる当事者の選定方法、の各説明を含める必要があります(StaRUG 6条、8条)。

 次に、規範的記載事項は、対象となる債権者及び株主の法的権利がどのように変更されるかの権利変更内容を定めるものです。StaRUG手続は、権利変更の内容・方法について柔軟性が高く、会社法上許容されるあらゆる内容・方法の権利変更を定めることができます(StaRUG 7条)。例えば、デット・エクイティ・スワップ(DES)も権利変更の内容として定めることが可能です(ただし、DESの対象となる債権者の意向に反してまでDESを実施することはできません。)。ほかにも、担保付与を含む新規融資、株式譲渡、減増資なども計画にて定めることが可能です。

(3)組分け(グループ分け)

 再建計画によって権利変更を受ける当事者は、基本的に以下のグループ(Gruppen)に分けられます(StaRUG 10条1項)※3。グループ分けの目的は、グループ毎の法定多数決の議決を求めることにより、対象当事者を保護することにあります。

  • ①担保付債権者
  • ②無担保債権者
  • ③劣後債権者
  • ④株主

 ただし、当事者の経済的状況に応じて、グループを更に細かく分割することができます。もっとも、適切な分割でなければならず、計画案に分割の基準を記載する必要があります(StaRUG 9条2項)。

 また、同一のグループに属する関係者については、原則として平等な取扱いをする必要があります(StaRUG 10条1項)。ただし、例外的に、同じグループ内で不利な取扱いを受ける者の同意があれば、同一グループ内の権利変更の内容に差異を設けることができます(StaRUG 10条2項)。

4.再建計画案の提示・可決

(1)計画案の提示

 再建計画案が策定されると、債務者は、法令上の留意事項を付した上で(StaRUG 17条各項)、対象当事者に対して再建計画案を正式に提示し、議決を求めることになります。

(2)可決要件

 計画案の可決要件は、グループ毎に、各グループの議決権の額の4分の3(75%)以上の賛成です(StaRUG 25条1項)。頭数要件はありません。議決権は、①無担保債権者の場合には債権の簿価、②担保権利者・保証求償権者の場合には担保の価値、③株主の場合には原則として株式額、に基づいて付与されます(StaRUG 24条1項)。

(3)クラムダウン(cross-class cram-down)

 StaRUG手続の非常に重要な点として、EU指令11条の指示に従い、計画案の可決を容易にするために、クラムダウン(cross-class cram-down)制度が導入されたことが挙げられます(StaRUG 26条)。クラムダウンとは、あるグループで必要な可決要件を満たさない場合であっても、以下の要件の全てを満たす場合にはそのグループは賛成したと見做される制度のことを言います※4

  • ①当該グループのメンバーが、再建計画によって、再建計画がない場合よりも不利になる合理的見込みがないこと。
  • ②当該グループのメンバーが、再建計画に従って権利変更を受ける対象当事者が受領する「経済的価値の公正な分配」を受けること。
  • ③全グループのうちの過半数のグループが、法定多数決をもって計画案に賛成したこと(ただし、二つのグループしか組成されていない場合には、もう片方のグループの賛成で足りる。また、賛成したグループが株主のグループ又は劣後債権者のグループのみで構成されていてはならない。)。

 なお、可決要件を満たした再建計画が反対当事者を拘束するためには、後述する「裁判所による認可」が必要となります。

5.裁判所の関与・支援

 StaRUG手続では、従前の法的整理手続とは異なり、裁判所の全面的関与は想定されていません。もっとも、債務者が必要に応じて裁判所に対して申し立てることができる各種措置も規定されています(StaRUG 29条1項)。以下では、その概要を説明します。

(1)安定化命令(一時停止命令)

 再建の目的を達成する見通しを維持するために必要な限度で、裁判所は、債務者の申立てにより、一定の要件の下で、強制執行の禁止・一時的停止、担保権実行の禁止などの措置を命じることができます(StaRUG 49条1項)。

 一時停止の期間は通常、最大3ヶ月の期間ですが(StaRUG 53条1項)、一定の条件の下では合計で最大8ヶ月まで延長することができます(同条2項、3項)。

(2)再建計画案の予備審査

 債務者は、関係者集会の議決に付する前に、再建計画案について裁判所に照会することができます(StaRUG 47条)。この規定は、計画案の作成や決議における瑕疵を避けて、可決後に裁判所の認可がなされない可能性を予め回避するためのものです。照会内容としては、例えば、対象債権の選別やグループ分けが法令上の要件に反していないか、権利の属性(担保付債権、無担保債権、株主権など)に応じて適切な議決権付与がなされているか、StaRUG手続の利用要件である「差し迫った支払不能」があるか、などが考えられます。

(3)法廷内議決手続

 再建計画案の議決は、債務者の申立てにより、裁判所が関与する関係者集会において行うこともできます(StaRUG 45条)。法廷内議決手続の趣旨は、計画案の協議・議決権の行使を裁判所の監督・関与の下で行うことができるため、これらに関する紛争を事前に回避することができる、という点にあります。一方、法廷内議決手続をとらない場合には、裁判所の認可決定にあたって、適切な投票手続がとられていたかについては債務者が立証する必要があります(StaRUG 60条3項)。

(4)再建計画案の認可

 可決した再建計画案を反対当事者に拘束させるためには、裁判所による再建計画案の認可が必要となります※5。前述の法廷内議決手続をとる場合には、裁判所の認可は法廷内議決手続の中で行うことができます。裁判所は、認可決定を出す前に、対象当事者の意見を聴取することができますが、法廷内議決手続が取られない場合には対象当事者の意見聴取は必要的になります(StaRUG 61条)。

 認可決定の判断にあたっては、裁判所は、手続開始要件の欠如、計画の内容・手続や議決権行使手続における法令不遵守、計画の履行可能性の欠如、対象当事者間の不平等などの法定の不認可事由に該当しない限り、可決された計画案を認可することになります(StaRUG 63条、64条)。

 裁判所の認可決定により、反対当事者に対しても、再建計画の規範的記載事項は効力を有することになります(StaRUG 67条)。ただし、裁判所の認可決定については、一定の場合に不服申立て(即時抗告)をすることが可能です(StaRUG 66条)。

6.再建担当者の選任

 StaRUG手続は、従前の経営陣がそのまま事業を経営し続けるいわゆるDIP型の手続です。もっとも、StaRUG手続の特徴の一つとして、再建担当者(Restrukturierungsbeauftragter)の存在が挙げられます。具体的には、債務者(又はあるグループの議決権の25%以上を有する若しくは有する可能性がある債権者)の申立てにより、裁判所は、再建担当者を選任します(StaRUG 77条)。ただし、クラムダウンが想定される場合など一定の場合には、裁判所の職権による再建担当者の選任は必要的になります(StaRUG 73条1項、2項)。債務者(又は債権者)の申立てにより選任された場合には、再建担当者は、再建コンセプト(restructuring concept)とそれに基づく計画案の策定・交渉にあたって、債務者・債権者を支援する義務があります(StaRUG 79条)。

7.倒産解除条項(ipso facto条項)の無効

 私的整理又は法的整理の申立て又は開始を契約上の解除事由又は期限の利益喪失事由とする契約が実務上しばしば見られますが、StaRUG手続を理由とした解除又は期限の利益喪失は認められず、そのような合意は無効であることが明文化されました(StaRUG 44条)。

8. DIPファイナンスの一定の保護

 StaRUG手続の下では、対象当事者の可決・裁判所の認可により拘束力が生じた再建計画上の条項や計画実行のための行為(例:新規融資の付与)は、原則として、一定の例外(例:株主ローン)を除き、債務者が持続可能な再建を達成するまで、否認権の対象にはならないことになりました(StaRUG 90条)。再建計画に従って提供される新たなローンの場合、当該ローンのための担保設定についても否認の対象にならなくなります。

 このような新規融資(DIPファイナンス)の保護のあり方としては、法的整理時における権利の優先順位を上位にする法制などもあるところですが(米国のチャプター11のスーパープライオリティやプライミングリーン、フランスの迅速保護手続の新規資金特権など)、ドイツは「否認権の対象にしない」という方法により一定の保護を図ることにしました。

III.結語

 StaRUGの下で行われる新しい事業再生は、本年から開始したまだ比較的新しいものであり、事業再生のマーケットにおいてその役割がどれほど重要なものであるかは今後の見極めが必要となります。もっとも、StaRUG手続下の再建計画案の認可に関する初期の裁判所の決定を見る限り、この新しい手続は、財務的に困難な状況にある企業に対して、実務的で法的整理ほど「大袈裟ではない」手段(多数決原理に基づく私的整理手続)を提供していることを示しています。

 こうしたドイツ法の改正は、日本の投資家を含む外国投資家にとって見れば、法的整理手続に伴う事業価値毀損のリスクを負わずに、経済的苦境にあるドイツ企業を買収する魅力的な方法を提供するものであり、ドイツ企業を対象としたDistressed M&Aを実施する際にはStaRUG手続は一つの選択肢として念頭に置くべきと考えられます。

※1
Directive (EU) 2019/1023は通称、Preventive Restructuring Frameworks Directiveと呼ばれるものです。このEU指令は、予防的な早期事業再生の枠組み、債務免除及び免責、リストラクチャリング・倒産・債務免除に関する手続効率化のための措置に関する指令です。

※2
ドイツ倒産法の下では、企業が支払不能又は債務超過に陥った場合には、その企業の取締役は、支払不能又は債務超過に陥った後遅くとも3週間以内に、倒産手続の申立てをしなければならないとされています(ドイツ倒産法15a条1項)。これは、一般に「倒産申立義務」と呼ばれ、欧州の倒産法制ではしばしば見られる強行法規です。なお、ドイツでは、新型コロナウィルス感染症対策の一環として、倒産申立義務が生じる支払不能・債務超過の要件該当性判断は一時的に緩和されています。

※3
StaRUG手続のグループの基本的な区分は、日本の会社更生法の組分け(更生担保権、優先的更生債権、一般更生債権、約定劣後更生債権、優先株式、普通株式)に似ています(会社更生法168条1項各号、196条1項)。

※4
なお、国毎に要件は異なりますが、反対する組があっても可決可能な制度は一般に「クラムダウン」と呼ばれます(米国のチャプター11、英国のRestructuring Plan、フランスの迅速保護手続など)。

※5
日本では、反対債権者がいる場合に私的整理の下で多数決原理により計画案を成立させる方法として、幾つかのモデル(裁判所認可型、反対債権者への異議申立権付与型、多数決に従う旨の合意を予め得ておく事前合意型、簡易再生など法的整理手続との連携を図る連動型など)が提示されています(平成27年3月「事業再生に関する紛争解決手続の更なる円滑化に関する検討会報告書」参照)。StaRUG手続はこのうち「裁判所認可型」の私的整理であると言えます。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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