
中翔平 Shohei Naka
アソシエイト
バンコク
NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報
従前、タイにおける安全保障貿易管理に関する規制は、主として、輸出入に関する一般的な法律である輸出入管理法によってなされており、デュアルユース品(民生用途及び軍事用途の双方の目的に使用可能なもの。以下同じ。)等の輸出に関連する規制についても同法に基づく告示(「旧告示」)にその詳細が定められていた。旧告示の下では、規制対象となるデュアルユース品等(例えば、鉄部品、変換器、バルブ及びパイプ等)が定められ、輸出者は、特定のデュアルユース品等を輸出する際には、事前に許可を取得するか又は自己申告(Self-Certification)を行うことが求められていた。しかし、2019年4月に大量破壊兵器の拡散に関連する品目の規制を目的とした大量破壊兵器及び関連品目貿易管理法(Trade Controls of Weapons of Mass Destruction Act)(「TCWMD法」)が制定されたことに伴い、それまで輸出入管理法の守備範囲であったデュアルユース品等の輸出に関する規制は主としてTCWMD法に基づき規制されるべきであるとして、2020年1月、輸出入管理法に基づく旧告示は廃止された。旧告示が廃止されて以降、TCWMD法に基づく告示が制定されなかったために、デュアルユース品等の輸出に関する規制が実質的に存在しない時期が続いたが、2021年10月11日に大量破壊兵器の拡散に関連する規制対象品の管理及び最終使用用途又はエンドユーザーが大量破壊兵器の拡散に関連する疑いのある物品に関する措置を定めた告示(「新告示」)が公表され、2021年12月26日に施行された。本稿では、TCWMD法及び新告示の概要を紹介する。
TCWMD法が規制する活動は、大量破壊兵器、軍事兵器及びデュアルユース品目を含む、大量破壊兵器に関連する物品の輸出、再輸出、積み替え、移送及び媒介その他の大量破壊兵器に関連する物品の拡散を企図した活動(「規制対象活動」)である。TCWMD法は、以下の3つのレベルに分類して、商務省が定める告示に基づき規制対象活動を規制することを予定している。
2022年4月1日時点では、上記(1)及び(2)に関する告示は公表されていないため、TCWMD法上、許可又は認証の対象となる物品は存在しない。新告示は、上記(3)に定める大量破壊兵器の拡散に関連する物品の管理のために課される措置の対象となる物品及びかかる措置の詳細を定めるものである。
新告示においては、以下の2種類のリストを通じて規制品目を特定している。
リスト1は、2019年EU Dual-Use Item List(「EUデュアルユース品目リスト」)をベースに作成されたリストであり、大きく以下の10のカテゴリーに分類される。
なお、リスト1の中には、有体物のみならず、技術それ自体を規制品目としているものもある。例えば、ウォータージェット推進システムのオーバーホール又は修理に使用される技術や低水線面積船舶(small waterplane area vessels)の開発又は生産に関する技術がこれに該当する。そのため、かかる技術を化体した図面等も規制品目に該当すると考えられる。
リスト2は、HSコードに基づいて規制品目が特定されている。リスト1が、EUデュアルユース品目リストに準拠して一般的に軍事利用が可能なものをリストアップしているのに対して、リスト2は、これに加えて、一般的にデュアルユース品目に該当しないものであっても、デュアルユース品目と同等の規制を課すべきと判断されたものが広く定められている。
リスト1及びリスト2に記載されている品目の物品の輸出その他の規制対象活動を行う際には、TCWMD法上、輸出許可又は認証申請を行う必要はなく、これらの物品は、関係当局による事後審査の対象になり得るに留まる。具体的には、新告示によれば、日々の行政活動を通じて、警察局、陸軍局、科学技術開発局等の関係当局から商務省外国貿易局(「DFT」)に対して、大量破壊兵器の拡散のリスクがある物品が輸出される又は最終使用用途若しくは輸出先のエンドユーザーが大量破壊兵器の拡散に関連するとの疑いがある等のリスク情報が報告された場合に初めて当該物品がDFTによる審査の対象になる。
DFTは、かかるリスク情報を受領した場合、以下の3つの手順に従って、大量破壊兵器の拡散のリスク評価を行う。
上記(3)のとおり、DFTによるリスク評価の対象となった場合、輸出許可等の判断にあたって一つの重要な要素となるのが輸出者におけるICPの体制整備の状況である。新告示ではICPの体制整備の内容として大要以下のものを挙げている。
上記各システムの構築のための詳細はDFTが別途定める告示(「DFT告示」)において定められている。また、DFT告示によれば、ICPの体制整備の程度に応じて輸出者に体制整備に関するランクが付与されることになっている。具体的には、上記各システムの基準を満たした数に応じて以下のランクが付与される。
このランク付けがどの程度リスク評価の際に影響を及ぼすかという点については、今後の実務の運用を注視する必要がある。
リスク評価に関する罰則は以下のとおりである。
法人が処罰の対象となる場合、法人の行為が、取締役等の指示若しくは行為によって生じた場合、又は、取締役等が指示を怠ったことにより生じた場合には、当該取締役等も同様に処罰の対象になる。なお、ICPの体制整備を行っていないことそれ自体は、罰則の対象にはなっていない。
デュアルユース品等の輸出に関する規制は主としてTCWMD法に基づき行われることとなったが、特定の国に対する武器等の輸出については、依然として輸出入管理法に基づき禁止されている場合があるため注意が必要である。例えば、イエメンに対しては武器の輸出、ISIL及びアルカイダ組織に対しては武器及び経済資源の輸出、北朝鮮に対しては兵器、武器、液化天然ガス、石油製品、機械、鉄鋼等の輸出が禁止されている。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
国際商事法研究所 (2022年6月)
服部薫
長島・大野・常松法律事務所 (2022年6月)
鹿はせる
商事法務 (2022年6月)
中翔平
長島・大野・常松法律事務所 (2022年5月)
塚本宏達、大沼真、逵本麻佑子、アクセル・クールマン、北川なつ子(共著)
長島・大野・常松法律事務所 (2022年6月)
川合正倫、鹿はせる、莫燕(共著)
商事法務 (2022年6月)
酒井嘉彦
長島・大野・常松法律事務所 (2022年6月)
鹿はせる
長島・大野・常松法律事務所 (2022年6月)
箕輪俊介
長島・大野・常松法律事務所 (2022年6月)
川合正倫、鹿はせる、莫燕(共著)
商事法務 (2022年6月)
酒井嘉彦
長島・大野・常松法律事務所 (2022年6月)
鹿はせる
長島・大野・常松法律事務所 (2022年6月)
箕輪俊介
長島・大野・常松法律事務所 (2022年6月)
箕輪俊介
商事法務 (2022年6月)
中翔平
長島・大野・常松法律事務所 (2022年4月)
中翔平
商事法務 (2022年3月)
佐々木将平