
福原あゆみ Ayumi Fukuhara
パートナー
東京
NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター
ニュースレター
SECによる気候関連開示及びESGに関する規則案の概要及び近時のESG関連の執行動向(2022年11月)
欧州の企業持続可能性DD指令(CSDDD)案及び強制労働製品・流通禁止の規則案に関する近時のアップデート(2024年3月)
サステナビリティの意識の高まりとともに、グリーン・ウォッシュ(環境に配慮したように見せかけること)についての問題意識も高まっていますが、EUでは他国に先行して規制強化を進める動きが見られます。
欧州委員会が2020年に行った調査では、環境に関する主張の53.3%が曖昧、誤解を招く、又は根拠に乏しいものであり、40%が完全に根拠を欠くものであったとされています※1。こうした問題を受けて、EUでは、消費者保護のためにグリーン・ウォッシュを規制する指令(不公正な慣行に対するより良い保護と情報提供を通じてグリーン移行するための消費者の権限強化に関する指令)及びグリーン・クレーム指令等の制定に向けた議論がなされてきました。これらの規制は、消費者が十分な情報を得た上で購買決定を行い、より持続可能な消費パターンに貢献することを可能とすることを目的としており、大きな枠組みとしては、欧州委員会が2019年に公表した欧州グリーン・ディール(欧州経済を持続可能なものに移行するための戦略)に含まれるものです。
これらの規制は製品を欧州域内で流通される日本企業等にとっても影響が及ぶことから、以下では、これらの規制の動向について紹介します。
EU理事会は、2024年2月20日、従前の欧州の不公正商行為指令(Unfair Commercial Practices Directive: UCPD)と消費者権利指令(Consumer Rights Directive: CRD)を改正する形で、不公正な慣行に対するより良い保護と情報提供を通じてグリーン移行するための消費者の権限強化に関する指令(Directive on empowering consumers for the green transition through better protection against unfair practices and better information 以下「ECD」といいます。)を採択し※2、同指令は同年3月26日に発効しました。今後、EU加盟国は採択から2年以内に国内法規制への置き換えを行い、30か月以内に適用することが求められます。
ECDは、商業的な企業対消費者(B2C)のコミュニケーションにおける全ての持続可能性の主張を対象としており、持続可能性の主張には、以下に記載する環境主張及び社会的特性に関する主張の双方が含まれます。
したがって、「グリーン」ウォッシュに関する規制であることが注目されますが、必ずしも環境に関する表示だけでなく、人権やD&Iも含む表示の在り方が問題となる場面があることに注意が必要です。
ECDに基づく禁止行為又は規制には以下のものが含まれます。
その他、ECDでは、法律上の強制的な要件を満たすことを特徴として宣伝することの禁止や、通常の使用条件下における製品の耐久性に関する虚偽の主張の禁止等についても定められています。
グリーン・クレーム指令(The green claims directive 以下「GCD」といいます。)は、環境主張の広告を出す前に、環境マーケティングのクレームに関する証拠の提出を企業に義務付けるものであり、ECDに基づくグリーン・ウォッシュの規制を補完するものになります。同指令は、消費者が購入する製品の環境認証に関する信頼できる情報をアクセス可能にすることを目的として2023年3月に提案され※4、審議がなされていましたが、2024年3月12日に欧州議会により採択がなされています。今後、2024年6月に実施される欧州選挙後の新議会で更に同指令案の審議が行われることが見込まれ、内容については変更がありうるものの、現時点で同指令で定められる項目には以下のものが含まれます※5。
グリーン・ウォッシュに関しては、EU域外でも、2023年12月にイギリスの広告基準協議会(ASA)が複数の航空会社の広告が環境への影響について誤解を招く広告であるとして当該広告を禁止するなどの執行が見られたり※6、オーストラリアにおいて2023年12月にガイダンスが制定されたりする※7など、様々な動きが存在します。
本ニュースレターで紹介したグリーン・ウォッシュに関する規制については、欧州域内に製品を出荷する企業にとっては直接的に問題となりうるほか、これらの規制に基づいてグリーン・ウォッシュを理由とする訴訟が増加することも見込まれます。
企業としては、自社の製品・サービスのサステナビリティに関連する情報・データについて収集・保存するとともに、科学的根拠に基づく実証や適切な開示がなされているかを検証する内部体制を構築していくことが重要と考えられます。
※3
ただし、何をもって「一般的」とするかは解釈の余地があるように思われます。
※5
提案時の草案においては、ECDにおいて対象とされる環境主張と社会的特性に関する主張のうち、GCDでは環境主張のみを対象とするものとされています。
※6
米国のSECによる執行の例として2022年11月発行「SECによる気候関連開示及びESGに関する規則案の概要及び近時のESG関連の執行動向」(本ニュースレター第71号)参照
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