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欧州におけるグリーン・ウォッシュ規制のアップデート

NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 サステナビリティの意識の高まりとともに、グリーン・ウォッシュ(環境に配慮したように見せかけること)についての問題意識も高まっていますが、EUでは他国に先行して規制強化を進める動きが見られます。

 欧州委員会が2020年に行った調査では、環境に関する主張の53.3%が曖昧、誤解を招く、又は根拠に乏しいものであり、40%が完全に根拠を欠くものであったとされています※1。こうした問題を受けて、EUでは、消費者保護のためにグリーン・ウォッシュを規制する指令(不公正な慣行に対するより良い保護と情報提供を通じてグリーン移行するための消費者の権限強化に関する指令)及びグリーン・クレーム指令等の制定に向けた議論がなされてきました。これらの規制は、消費者が十分な情報を得た上で購買決定を行い、より持続可能な消費パターンに貢献することを可能とすることを目的としており、大きな枠組みとしては、欧州委員会が2019年に公表した欧州グリーン・ディール(欧州経済を持続可能なものに移行するための戦略)に含まれるものです。

 これらの規制は製品を欧州域内で流通される日本企業等にとっても影響が及ぶことから、以下では、これらの規制の動向について紹介します。

2. グリーン・ウォッシュを規制する指令の発効

 EU理事会は、2024年2月20日、従前の欧州の不公正商行為指令(Unfair Commercial Practices Directive: UCPD)と消費者権利指令(Consumer Rights Directive: CRD)を改正する形で、不公正な慣行に対するより良い保護と情報提供を通じてグリーン移行するための消費者の権限強化に関する指令(Directive on empowering consumers for the green transition through better protection against unfair practices and better information 以下「ECD」といいます。)を採択し※2、同指令は同年3月26日に発効しました。今後、EU加盟国は採択から2年以内に国内法規制への置き換えを行い、30か月以内に適用することが求められます。

(1) 適用範囲

 ECDは、商業的な企業対消費者(B2C)のコミュニケーションにおける全ての持続可能性の主張を対象としており、持続可能性の主張には、以下に記載する環境主張及び社会的特性に関する主張の双方が含まれます。

  • 環境主張:ラベル、ブランド名、企業名、製品名などの文章、絵、図表、象徴的表現を含むあらゆる形式において、EU法又は国内法の下で強制力を持たないメッセージ又は表現であり、製品、製品カテゴリー、ブランド、又は取引業者が環境に与える影響がプラス若しくはゼロであること、又は他の製品、製品カテゴリー、ブランド、若しくは取引業者よりも環境へのダメージが少ないこと、若しくは時間の経過とともにその影響が改善されていることを表明又は示唆するものとされています。
  • 社会的特性に関する主張:適切な賃金、社会的保護、労働環境の安全性、社会的対話など、関係する労働者の労働条件の質と公正さに関連する情報であり、人権の尊重、男女平等、D&Iを含む全ての平等な待遇と機会、社会的イニシアティブへの貢献、動物愛護などの倫理的コミットメントに関連しうるものです。

 したがって、「グリーン」ウォッシュに関する規制であることが注目されますが、必ずしも環境に関する表示だけでなく、人権やD&Iも含む表示の在り方が問題となる場面があることに注意が必要です。

(2) 禁止される行為の概要

 ECDに基づく禁止行為又は規制には以下のものが含まれます。

  • 一般的な環境主張の規制:一般的な環境主張※3(例えば、「環境に優しい」「エコフレンドリー」「グリーン」「エコ」「生分解性」等の口頭又は文書での主張)については、当該主張に関連する優れた環境性能(EU規則等に準拠した環境性能)を実証できない限り禁止されます。
  • 持続可能性ラベルの使用の規制:ECDでは、認証制度に基づかない持続可能性ラベル(自主的な信頼マーク、品質マーク又はそれに準ずるもので、公的又は私的なものであり、環境又は社会的特性、あるいはその両方によって、製品、プロセス、事業を区別し、促進することを目的としたもの)の表示が禁止されます。そして、認証制度は、独立した第三者の検証スキームとして、透明かつ公正な条件で全ての者に開かれており、関連する専門家やステークホルダーとの協議を通じて策定される等の要件を満たさなければならないとされます。
  • カーボンオフセットのみに基づく主張の禁止:カーボンオフセットのみに基づき、製品が温室効果ガス排出の点で環境に中立、削減、又はプラスの影響を与えると主張することは禁止されます。
  • 将来の環境性能に関する主張の規制:ECDでは、将来の製品、サービス等の環境性能に関する主張(当社はXX年までに・・・との主張等)は、明確かつ客観的で一般に公開され、詳細かつ現実的な実施計画に基づく実証可能なコミットメントに基づき、かつ独立した第三者の専門家によって定期的に検証され、その結果が消費者に提供されない限り、禁止されます。

 その他、ECDでは、法律上の強制的な要件を満たすことを特徴として宣伝することの禁止や、通常の使用条件下における製品の耐久性に関する虚偽の主張の禁止等についても定められています。

3. グリーン・クレーム指令(The green claims directive)

 グリーン・クレーム指令(The green claims directive 以下「GCD」といいます。)は、環境主張の広告を出す前に、環境マーケティングのクレームに関する証拠の提出を企業に義務付けるものであり、ECDに基づくグリーン・ウォッシュの規制を補完するものになります。同指令は、消費者が購入する製品の環境認証に関する信頼できる情報をアクセス可能にすることを目的として2023年3月に提案され※4、審議がなされていましたが、2024年3月12日に欧州議会により採択がなされています。今後、2024年6月に実施される欧州選挙後の新議会で更に同指令案の審議が行われることが見込まれ、内容については変更がありうるものの、現時点で同指令で定められる項目には以下のものが含まれます※5

  • 明示的な環境主張に関するアセスメントの実施と立証に関する要件:事業者は、明示的な環境主張を行う場合、これを立証するため、当該主張が製品全体又は一部のいずれに関わるものか、企業の全活動又は一部の活動のいずれに関わるものかを特定すること、気候変動、資源の消費、水資源の保護等に有害な影響がないことを確認すること等が求められます。また、ある製品が他の製品又は他の事業者よりも環境への影響が少ない、又は環境性能が優れていることを明示する場合(比較環境主張)には、評価に同等の情報・データを使用すること、同じ仮定を用いること等の追加の要件を満たすことが求められます。さらに、明示的な環境主張は、第三者機関による検証を受ける必要があります。
  • 環境主張の伝達に関する要件:明示的な環境主張は実証された主張のみを対象とし、製品又は事業者にとって重要であると特定された環境への影響又は性能のみを対象とすること、URL又はQRコード等を用いて情報を開示すること等が求められます。
  • 環境ラベル制度の要件:環境ラベルの認証のスキームとして、透明であること、要件が科学的に確実であり社会的観点からも適切であること、苦情及び紛争解決制度が設けられていること、不遵守に対処する手順と違反した場合の取消手順が定められていること等の要件を定めることが求められています。

4. おわりに

 グリーン・ウォッシュに関しては、EU域外でも、2023年12月にイギリスの広告基準協議会(ASA)が複数の航空会社の広告が環境への影響について誤解を招く広告であるとして当該広告を禁止するなどの執行が見られたり※6、オーストラリアにおいて2023年12月にガイダンスが制定されたりする※7など、様々な動きが存在します。

 本ニュースレターで紹介したグリーン・ウォッシュに関する規制については、欧州域内に製品を出荷する企業にとっては直接的に問題となりうるほか、これらの規制に基づいてグリーン・ウォッシュを理由とする訴訟が増加することも見込まれます。

 企業としては、自社の製品・サービスのサステナビリティに関連する情報・データについて収集・保存するとともに、科学的根拠に基づく実証や適切な開示がなされているかを検証する内部体制を構築していくことが重要と考えられます。

脚注一覧

※3
ただし、何をもって「一般的」とするかは解釈の余地があるように思われます。

※5
提案時の草案においては、ECDにおいて対象とされる環境主張と社会的特性に関する主張のうち、GCDでは環境主張のみを対象とするものとされています。

※6
米国のSECによる執行の例として2022年11月発行「SECによる気候関連開示及びESGに関する規則案の概要及び近時のESG関連の執行動向」(本ニュースレター第71号)参照

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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