田原一樹 Kazuki Tahara
パートナー
東京
NO&T Corporate Legal Update コーポレートニュースレター
本年は、会社法改正やコーポレートガバナンス・コード改正等、株主総会に直接関係する制度の改正の施行は予定されていないため、株主総会の準備に際して、制度改正の観点から留意が必要となるポイントは特に見当たりません。他方で、①電子提供措置制度開始2年目の株主総会であることや②アフターコロナ2年目の株主総会であることを踏まえて、招集通知の作成に際して、昨年からの変更の要否・内容について一定の検討が必要になると考えられます。本ニュースレターでは、これらのトピック及び③2024年4月1日をもって施行された改正障害者差別解消法(正式名称:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)の株主総会・招集通知に対する影響に関して、本年2月1日から3月22日までの間に公表された上場企業114社の株主総会の招集通知(以下「2024年2・3月招集通知」といいます。)の分析を通じた、実務動向を報告いたします。
昨年は電子提供措置の制度開始初年度であったことから、いわゆるアクセス通知・電子提供措置事項・議決権行使書面の全てを書面により任意で送付する、いわゆるフルセットデリバリーを採用する例が多数派(会社の規模に応じて差異はあるものの資本金500億円以下の会社であれば、約6割~7割強の会社がフルセットデリバリーを採用※1)を占めておりました。これに対して、2024年2・3月招集通知においても、約3割程度の会社でフルセットデリバリーを採用している旨の記載がなされており、招集通知に特段の記載を行うことなくフルセットデリバリーを採用する会社もそれなりに存在すると推察されることも踏まえると、本年度においても、引き続きフルセットデリバリーを採用する会社が多数を占める傾向は継続していることが窺われます。他方で、フルセットデリバリーを行った会社の中でも、来年度以降の扱いについては未定であり、書面を必要とする株主は交付請求をするよう明記する等、将来の運用変更の可能性に配慮した文言を採用する会社もあり、今後の対応については引き続き各社にて検討が進められるものと思われます。また、フルセットデリバリーを採用せず、アクセス通知等一部の書面のみを送付している会社でも、その旨を招集通知に明記する例も見受けられます。以上からすれば、どのような送付方法を採用する場合であっても、電子提供措置制度が十分に株主に認識されるまでの間、招集通知において一定の説明や今後の対応方針を記載することは引き続き検討に値するものと考えられます。
電子提供措置制度のもとでは、株主総会の日の3週間前の日(又は招集通知を発した日のいずれか早い日)までに、発行会社が株主総会の資料を自社のホームページ等のウェブサイトにアップロードすることが必要とされています。実際の開始タイミングの傾向としては、約6~7割の会社がこの3週間の法定期限の日又はその数日前である、総会開催日の21~23日前に電子提供措置を開始しており、例えば、28日以上前から開始する会社は1割程度に留まっています。東京証券取引所が早期開示の要請※2を行っていることを踏まえれば、各社において法定期限よりも早期の開示が期待されるところではあるものの、2024年2・3月総会においては、昨年に引き続き、法定期限近辺での開示がボリュームゾーンとなっており、大きな傾向の変化は見受けられませんでした。
また、電子提供措置を行う会社が総会資料を提供するにあたっては、その閲覧に必要な情報として、当該資料を掲載するウェブサイトの情報を招集通知に記載する必要があります。この点に関し、昨年の総会においても、ウェブサイトのURLの記載に加え、QRコードを併記する会社が多く見受けられたところ、2024年2・3月招集通知において、約7割の会社がQRコードを掲載していることからすれば、QRコードの掲載については、新たな招集通知の作成実務として一般的なものになっていると考えられます。
電子提供措置事項を掲載したウェブサイトが、システムトラブル等により閲覧不能の状態(「中断」が生じた状態)となってしまうと、過料の制裁※3の対象となるほか総会決議の取消のリスクが生じる※4ため、かかるリスクに対応する方法として、複数のウェブサイトを利用して電子提供を実施する例があり、昨年の総会においても約9割※5の会社がこの方法を採用しました。この傾向は2024年2・3月総会でも継続しており、9割超の会社が複数のウェブサイトに掲載しています。掲載先としては自社のウェブサイト及び東証等の証券取引所のウェブサイトを選択する会社がほとんどであり、掲載先を含め、確立した実務の運用として定着したものと考えられます。
2023年5月8日新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類感染症となり、本格的なアフターコロナを迎えた最初の総会であった昨年6月総会以降の総会においてもコロナ関連対応の記載を行わないか、限定的な記載に留めた会社が大半であったところ、本年においてもその傾向は継続しており、2024年2・3月招集通知上、消毒液の設置やマスクの着用等のコロナ関連対応について一切記載を行わない会社が9割強を占めています。コロナ関連対応について言及した会社においても感染症対策等の項目立てをする等詳細な記載をしている会社はごく少数(2社)に留まり、体調不良の場合における来場自粛の要請等について簡潔に記載する会社が大半(7社)を占めています。
2024年2・3月招集通知上、株主の来場に関して、体調不良の場合における来場自粛・退出要請・入場拒否に言及する会社が1割弱、来場以外での議決権行使を推奨する会社が1割弱、中立的な記載の会社が約9割でした。他方で、総会後に工場見学等のイベントや株主懇談会を開催する等、株主の来場を積極的に促す方向での記載をしている会社は1割弱に留まりました。アフターコロナ2年目の総会を迎えて、来場の自粛を促す会社の割合が大幅に減少していることが見て取れる一方で、積極的に来場を促す方針を採用する会社は引き続き限定的であるという傾向が窺われます。
2024年2・3月招集通知上、昨年から開催場所を変更している会社は1割弱に留まりました。開催場所を変更した会社のうち、招集通知の記載から開催場所の規模についても変更したと見受けられる会社としては、拡大した会社は2社、縮小した会社は1社でした。また、開催場所を外部会場から自社会場にしている会社は3社、反対に自社会場から外部会場にしている会社は1社でした。以上のとおり、総会の開催場所を変更したり、その規模を変更する動きは限定的といえます。もっとも、昨年度の株主総会の来場者数は緩やかな増加傾向に留まり、8割以上の会社において座席数が余ったという統計結果※6が出ていることを踏まえると、仮に、本年度の総会においても、昨年に引き続き座席数が余った会社においては、来年度以降、昨年及び本年の来場者数を踏まえた上で、会場の選定や席数について改めて見直しを検討することも考えられます。
障害者差別解消法とは、行政機関等及び事業者に対し、障害のある方への不当な差別的取扱いの禁止や、障害のある方の社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮を行うこと(以下「合理的配慮の提供」といいます。)等を求める法律です。同法については2021年に合理的配慮の提供を事業者の努力義務から法的義務へと変更する法改正がなされ、同改正法は2024年4月1日に施行されました※7。
なお、同改正法施行前から、例えば東京都では東京都障害者への理解促進及び差別解消の推進に関する条例7条2項において、また大阪府でも大阪府障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例7条において、同法の施行に先行して事業者による合理的配慮の提供は既に法的義務とされていたところですが、法改正を機に、合理的配慮の提供について世間の関心・注目が今後高まることも予想されます。
株主総会も事業者の事業の一環として行われるものである以上、障害のある株主から社会的障壁を取り除いてほしい旨の意思が示された場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、社会的障壁を取り除くための合理的配慮の提供を行う必要があります。但し、ここにいう合理的配慮の提供とは、法律上、「その実施に伴う負担が過重でない」範囲で行うこととされており、また、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであることが必要とされていますので※8、事業者として障害のある株主からのあらゆる要望に応える法的義務を負うものではありません。
株主総会との関係で具体的に考えてみますと、例えば、障害のある株主から、株主総会中に必ず質問をさせてほしい旨を依頼された場合、他の株主と平等に質問の機会を与えること(質問の機会を制限しないこと)は当然必要ですが、「必ず質問をさせる」と約束することは、他の株主との比較において同等の機会の提供とはいえないため、そこまでは約束できないとして断ることは許容されると考えられます。
他方で、議決権は株主としての重要な権利であり、株主総会における役員の説明を聞いた上で議決権を行使する機会を他の株主と同様に平等に与えるために、障害のある株主から介助者や手話通訳者の同伴を求められた場合に同伴者の入場を認めることは、障害者差別解消法上、合理的配慮の提供の一環として必要な措置であると考えられます※9。実務上も、多くの会社において、介助等が必要な株主の付添人については株主総会の会場に入場させている(又はその方針を採用している)との調査結果もあります※10。
もっとも、障害のある株主から、株主総会当日又は事前に手話通訳を用意してほしい旨の申出があったとしても、手話通訳の用意には相応の費用負担が生じること等を踏まえますと、「その実施に伴う負担が過重」であるとして、手話通訳の会社負担での用意は断る(但し、株主自身が手話通訳者を同伴する場合には同伴者の入場を認める。)との対応を採ることは許容されると考えられます※11。
前記2のとおり、会社は、株主総会当日の運営に際して、合理的配慮の提供を行う義務を負うことになりますが、他方で、合理的配慮の提供は少なくとも障害のある株主から社会的障壁を取り除いてほしい旨の意思が示された場合に求められるものである以上、特段の事情がない限り、改正障害者差別解消法を踏まえても、招集通知において、株主総会当日における合理的配慮の提供に関する内容等を記載することまで法的に義務づけられるものではなく、招集通知への記載の要否・内容は各社の任意の判断に委ねられていると考えられます。
なお、2024年2・3月招集通知では、株主総会における障害のある方への対応について明記している例は2社※12に留まっています。他方で、招集通知の文字フォントにUDフォント(ユニバーサルデザインフォント)を採用していることを明示している事例は数多く見受けられ、障害のある方に限らず、全ての株主にとって視認性の高い招集通知となるよう配慮をしている会社が相応にあることが窺われます。
2024年2・3月招集通知は改正障害者差別解消法の施行前に公表されたものであるため、障害者差別解消法の改正を受けて招集通知の作成実務に影響が生じるか否かは、引き続き、今後の他社事例の蓄積を待つ必要があると考えられます。
以上述べてきた2024年2・3月総会における動向の整理が、本年度の今後の総会の準備に際して、その検討の一助となれば幸いです。
※1
商事法務研究会編「株主総会白書2023年版―電子提供制度の施行を迎えてー」旬刊商事法務2344号78頁
※2
東京証券取引所は、有価証券上場規程において、株主総会の日の3週間前より早期に招集通知等を電磁的方法により提供するよう努めることを求めています(有価証券上場規程446条・有価証券上場規程施行規則437条3号)。
※3
会社法976条19号
※4
会社法831条1項1号
※5
商事法務研究会編「株主総会白書2023年版―電子提供制度の施行を迎えてー」旬刊商事法務2344号73頁
※6
商事法務研究会編「株主総会白書2023年版―電子提供制度の施行を迎えてー」旬刊商事法務2344号47頁
※7
なお、障害者差別解消法上、合理的配慮は「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合」になすべきこととされていますので(同法8条2項)、同法は事業者に対し、障害のある方にとって社会的障壁となり得るものを予め全て除去しておくことまでを求めるものではありません。
※8
内閣府作成のリーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」5頁。
※9
なお、同伴者(通訳)入場の可否については外国人株主についても問題となり得ますが、CGコード基本原則1においては、外国人株主の権利行使に係る環境への十分な配慮を行うべきことが示されており、会社側で通訳を用意しない場合において、外国人株主が通訳者の同伴を希望したにもかかわらずこれを拒絶したときは株主権行使の不当な制限にあたり、決議取消事由に該当し得るとする見解もあります(大阪株式懇談会編『会社法 実務問答集Ⅵ』(商事法務、2024年)180頁〔前田雅弘〕)。
※10
全国株懇連合会「2023年度全株懇調査報告書」(2023年)16頁によれば、「介助等が必要な株主の付添人は入場させる」と回答した会社は75.5%とのことである。
※11
会社は、事前に株主から求めがあったとしても、株主総会において手話通訳を置くことに要する費用等を考慮して手話通訳を置かない措置をとることもできると解する見解として、大阪株式懇談会編『会社法 実務問答集Ⅳ』(商事法務、2022年)84頁〔前田雅弘〕。
※12
具体的には、手話通訳者の同席が可能であり、かつ日本語の手話通訳者に限り会社でも手配可能であることから、ご希望の場合には事前の書面申出をお願いしたい旨を明示する例(日本たばこ産業株式会社第39回定時株主総会招集ご通知)、及びお身体の不自由な方の同伴者については会場に入場可能である旨を明示する例(カゴメ株式会社第80回定時株主総会招集ご通知)があります。
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