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水素社会推進法及びCCS事業法の成立

NO&T Infrastructure, Energy & Environment Legal Update インフラ・エネルギー・環境ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 2024年5月24日、今国会で成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律」(以下「水素社会推進法」という。)及び「二酸化炭素の貯留事業に関する法律」(以下「CCS事業法」という。)が公布された。水素社会推進法及びCCS事業法は、それぞれ水素・アンモニアビジネス及びCCSビジネスに焦点を当てた国内最初の法律となる。

 脱炭素社会の実現に向けた国レベルの動きは、一層活発化している。今年5月13日に開催されたGX実行会議では2040年を目標とするGX施策を取りまとめる「GX2040ビジョン」の策定が示され、また、同月15日の経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会第55回会合では、第7次エネルギー基本計画の策定作業に向けた議論も始まった。

 こうした一連の流れの中で、脱炭素社会の実現に際して欠かすことのできない水素・アンモニアの普及とCCSビジネスの社会実装の礎となる水素社会推進法及びCCS事業法が持つ意義は大きい。本ニュースレターでは、この二つの新法の概要を紹介する※1

2. 水素社会推進法

1. 水素社会推進法の概要

 水素社会推進法では、主に、以下の事項が規定されるに至った。なお、水素社会推進法は公布の日から起算して6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日からの施行が予定されている。

  1. 主務大臣が低炭素水素等の供給・利用の促進に向けた基本方針を策定すること
  2. 低炭素水素等の需給両面の計画認定制度の創設
  3. 計画認定を受けた事業者に対する独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(以下「JOGMEC」という。)を通じた支援措置(価格差支援、拠点整備支援)と各種規制の特例措置
  4. 水素等の供給を行う事業者が取り組むべき判断基準の策定等

2. 水素社会推進法の目的及び基本方針

(1) 目的

 水素社会推進法は、低炭素水素等の供給(国内で製造し、又は輸入して供給すること)・利用を早期に促進するため、計画認定を受けた事業者に対する支援措置等を講ずることで、GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)が目的とする脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を図ることを目的とする(第1条※2)。

 水素社会推進法が普及促進を図る「低炭素水素等」の定義は、以下のとおりである(第2条第1項)。

「低炭素水素等」

水素等であって、

  1. その製造に伴って排出されるCO2の量が一定の値以下であること
  2. CO2の排出量の算定に関する国際的な決定に照らしてその利用が我が国のCO2の排出量の削減に寄与するものであること

その他の経済産業省令で定める要件に該当するもの

 「水素等」は、「水素及びその化合物であって経済産業省令で定めるもの」と定められた。今通常国会への提出前に国の合同会議が公表した中間取りまとめ(以下「中間取りまとめ」という。)※3では、「水素等」として、水素に加えその化合物であるアンモニア、合成メタン、合成燃料が想定されていたが(同2頁)、詳細は今後策定される経済産業省令に委任されている。

 「低炭素水素等」の要件の1つであるCO2の量の基準値については、中間取りまとめにおいて、2023年4月のG7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合にて日本が提唱した炭素集約度(単位当たりの水素等製造時等に発生するCO2排出量)を元に水素等の環境適合性を評価するという基本的な考え方に基づき、3.4kgCO2/kg-H2という値を一つの水準として(同6頁)、今後具体的な基準値の検討が進むものと想定される。

(2) 基本方針

 主務大臣※4は、低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する基本方針を策定する(第3条)。具体的には、①低炭素水素等の供給・利用に関する意義・目標、②GX実現に向けて重点的に実施すべき内容、③低炭素水素等の自立的な供給に向けた取組等が記載される。

 かかる基本方針を前提に、国、地方公共団体及び事業者は、低炭素水素等の供給及び利用の促進についてそれぞれの立場で責務を負う(第4条乃至第6条)。

3. 低炭素水素等供給等事業計画の認定と支援措置・規制の特例措置

 水素社会推進法の中核となるのが、計画認定制度と認定事業者に対する支援措置(価格差支援及び拠点整備支援)及び規制の特例措置の導入である。

(1) 低炭素水素等供給等事業計画の認定

 低炭素水素等を国内製造又は輸入して供給する事業者(以下「供給事業者」という。)や、低炭素水素等を利用する事業者(以下「利用事業者」という。)は、単独又は共同で「低炭素水素等供給等事業計画」(以下「事業計画」という。)を作成・提出し、主務大臣の認定を受けることにより、価格差支援及び拠点整備支援に係る助成金の交付を受けられるほか、高圧ガス保安法、港湾法及び道路占用に関し特例の適用を受けることができる。

 主務大臣が事業計画を認定するに際しては、申請された事業計画(なお、その記載事項については第7条第2項乃至第4項を参照)が以下の認定基準の全てに適合する必要がある(第7条第5項)。認定基準の内容は、大要以下のとおりである。

<認定基準>

  • 事業計画の内容が基本方針等に照らして適切であること。
  • 事業計画の内容が円滑かつ確実に実施されると見込まれること。
  • 事業計画の内容が経済的かつ合理的であり、低炭素水素等の供給又は利用に関係する日本の産業の国際競争力の強化に相当程度寄与すると認められること。
  • 価格差支援及び拠点整備支援に係る助成金の交付を希望する場合には、以下の全てに適合すること。

    1. 低炭素水素等の供給事業者と利用事業者が共同して作成したものであること。
    2. 低炭素水素等の供給が一定の年度までに開始され、かつ、一定の期間以上継続的に行われると見込まれること※5
    3. 低炭素水素等の利用事業者によって、事業計画に従って供給される低炭素水素等の利用を行うための新たな設備投資その他の事業活動が行われると見込まれること。
  • 導管や貯蔵タンク等を整備する港湾、道路等が、港湾計画、道路の事情等の土地の利用の状況に照らして適切であること。

 なお、中間取りまとめでは、事業計画について、2024年夏頃を目途に提出受付開始、2024年内での案件採択開始を目指すとされており、それに向けた制度整備が今後早急に進められるものと見込まれる。

(2) JOGMECを通じた支援措置(価格差支援、拠点整備支援)

 水素社会推進法では、JOGMECが、主務大臣の認定を受けた認定供給等事業計画(以下「認定事業計画」という。)に従って継続的に低炭素水素等の供給を行うために必要な資金に充てるための助成金(価格差支援)及び認定供給等事業者が認定事業計画に従って低炭素水素等の貯蔵又は輸送の用に供する施設その他の認定事業計画の実施に必要な施設の整備に必要な資金に充てるための助成金(拠点整備支援)を交付することを業務として行うことが明記された(第10条第1号)。

 なお、水素社会推進法においては、価格差支援、拠点整備支援の対象となる助成金の交付条件等について、詳細な規定は設けられなかった。かかる助成金についての交付条件は、今後JOGMECが定めることになると考えられる。

(3) 規制(高圧ガス保安法、道路法及び港湾法)の特例措置

 水素社会推進法は、計画認定制度を前提として、認定供給事業者等に対し一定の規制の特例を受けられる仕組みを導入した。

(a) 高圧ガス保安法の特例

 一定の水素ガスは高圧ガス保安法に定める高圧ガスに該当するところ、高圧ガス保安法に基づく製造の許可、各種検査(完成検査・保安検査等)については都道府県等が実施している。低炭素水素等の大規模供給・利用については、製造の許可、その後の完成検査、製造等の開始から一定の期間の保安検査等について国が自ら全般的に実施することができることが事業の迅速化にとって有効であることから、水素社会推進法においては、認定供給等事業者による製造、貯蔵等については、高圧ガス保安法の特例として、製造、貯蔵等の開始から3年間、経済産業大臣の承認や認定を受けることで高圧ガス保安法上の許可等を不要とする制度(第12条、第17条、第22条)が設けられた。

(b) 道路占用許可の特例

 認定供給等事業計画に従って認定供給等事業者が設置する導管については、一定の基準に適合する場合には、道路占用許可を与えなければならないとされている(第31条第2項)。

(c) 港湾法の特例

 低炭素水素等供給等事業計画について認定を受けた場合には、港湾法第37条第1項の許可(港湾区域内における工事等の実施についての許可)を受けたものとみなされ(第11条第1項)、臨港地区内における一定の行為について届出が不要とされている(第11条第2項)。

4. 水素等の供給を行う事業者が取り組むべき判断基準の策定等

 経済産業大臣は、基本方針に即し、かつ、水素等供給事業者による低炭素水素等の供給の状況、低炭素水素等の供給、貯蔵、輸送及び利用に関する技術水準、低炭素水素等の利用に係る経済性その他の事情を勘案して水素等供給事業者が低炭素水素等の供給を促進するために取り組むべき措置に関し、当該水素等供給事業者の判断の基準となるべき事項を定めることとされた(第32条)。詳細は法律の施行後において具体的に定められることとなる。

3. CCS事業法

1. CCS事業法の概要

 今回成立したCCS事業法は、CCSのバリューチェーン全体に対する事業法としてではなく、主に、①試掘・貯留事業の許可制度の創設、貯留事業に係る事業規制・保安規制の整備に関する規律(第二章)と、②輸送事業のうち導管輸送事業に係る事業規制・保安規制の整備に関する規律(第三章)である※6。CCS事業法が完全施行されるのは、その公布の日から起算して2年を超えない範囲内で政令で定める日であるが、試掘に関連する規律は公布の日から起算して6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されるなど、順次部分施行される(附則第1条)。なお、現時点でCCS事業法に関する政省令の内容は明らかになっていない。

2. 試掘・貯留事業の許可制度の創設、貯留事業に係る事業規制・保安規制の整備

(1) 特定区域の指定と試掘権・貯留権の設定

 CCS事業法は、先願制により貯留・試掘事業者を決定する方式ではなく、経済産業大臣が、貯留層が存在し、又は存在する可能性がある区域を「特定区域」に指定した上で、公募手続を経て、貯留事業又は試掘(以下「貯留事業等」という。)を最も適切に行うことができる者(以下「特定事業者」という。)を選定する制度を採用した(第3条※7以下)。特定区域において貯留事業等を行おうとする者は、当該特定区域に係る実施要項に従って、経済産業大臣に申請し、貯留事業については貯留区域ごとに、試掘については試掘区域ごとに、それぞれその許可を受けなければならない(第4条第1項)。但し、例外的に、既に石油、可燃性天然ガスその他の政令で定めるものについて鉱業法第21条第1項等の規定により採掘権の設定を受けた者に関しては、その鉱区(特定区域以外の区域に存するものに限る。)において貯留事業等を行おうとするときにのみ、貯留事業又は試掘に関する許可を受けることができるとされる(第12条)。

 なお、上記の貯留事業の許可を受けた者(以下「貯留事業者」という。)でなければ、鉱物の掘採に伴うものその他の経済産業省令で定める二酸化炭素の貯蔵を除いて、貯留層における二酸化炭素の貯蔵を行うことはできない(第13条第1項)。また、上記の試掘の許可を受けた者(以下「試掘者」という。)でなければ、試掘※8を行うことはできない(同条第2項)。

(2) 試掘権・貯留権の法的性質

 貯留権又は試掘権(以下「貯留権等」という。)は、鉱業権と同様(鉱業法第12条参照)、みなし物権とされ、CCS事業法に別段の定めがある場合を除いて、不動産に関する規定が準用される(第33条)。その結果、貯留権等が第三者により侵害された場合は、妨害排除請求権等の物権的請求権を行使することができる。しかし、民法上の不動産とは異なり、貯留権等は、相続その他の一般承継、譲渡、滞納処分、強制執行、仮差押え及び仮処分の目的となるほかは権利の目的となることができず(第34条本文。但し、貯留権に関しては、抵当権設定の対象とすることができる(同但し書)。)、第17条第1項又は第2項に基づく経済産業大臣の認可がなければ、移転(相続によるものを除く。)することができない(第35条第1項)。また、登記に代え、貯留権等及び貯留権を目的とする抵当権の設定、移転、変更、消滅及び処分の制限は、貯留権等登録簿に登録することにより行われる(第36条)。

(3) 貯留権等設定とその効果

 貯留事業等の許可がなされると、経済産業大臣により、当該許可がなされた旨、貯留事業者等の氏名・名称及び住所や許可貯留区域等の一定事項が告示される(第24条)。当該告示により、当該告示に係る許可貯留区域等に係る貯留権等が設定されるとともに、当該許可貯留区域等に係る土地に関するその他の権利は、当該貯留権等に係る貯留事業者等が当該許可貯留区域等において行う二酸化炭素の貯蔵若しくは試掘を妨げ、又は当該貯蔵若しくは試掘に支障を及ぼす限度においてその行使を制限※9される(第25条第1項。なお、試掘権の設定に伴う制限期間に関しては、告示の日から試掘許可の有効期間満了日までの期限付のものとなる(同条第2項)。)。

(4) 貯留事業者等に対する主な事業規制・保安規制
(a) 貯留事業等の着手時期

 貯留事業者等は、原則として、貯留事業等に着手するために通常必要と認められる期間として経済産業省令で定める期間内に、貯留事業等に着手しなければならない(第37条第1項・第58条第1項)。

(b) 貯留実施計画及び試掘実施計画の認可等

 貯留事業者は、許可貯留区域毎に貯留事業実施計画を定め、貯留事業の開始前に、主務大臣の認可を受けなければならない(第38条第1項)。貯留事業者は、認可を受けた貯留実施計画(以下「認可貯留事業実施計画」という。)によらなければ貯留事業を行ってはならない(第40条)。同様に、試掘者は、許可試掘区域毎に試掘実施計画を定め、試掘事業の開始前に経済産業大臣の認可を受けなければならない(第59条第1項)。試掘者は、認可を受けた試掘実施計画によらなければ試掘を行ってはならない(第61条)。

(c) 貯留開始貯留事業者による監視・報告

 貯留開始貯留事業者(貯留事業者であって、その許可貯留区域内の貯留層への二酸化炭素の注入を開始している貯留事業を行っているもの(第22条第1項))は、主務省令で定めるところにより、認可貯留事業実施計画に従い、その貯留開始貯留事業に係る許可貯留区域内の貯留層の温度、圧力その他の当該貯留層における二酸化炭素の貯蔵の状況を確認するために必要な事項として主務省令で定めるものを監視し、その結果を主務大臣に報告しなければならない(第43条第1項・第2項)。

(d) 貯留開始貯留事業者による引当金の積立等

 貯留開始貯留事業者は、その貯留開始貯留事業に係る許可貯留区域内の貯留層への二酸化炭素の注入を終了したときから貯留開始貯留事業の廃止許可(第53条第5項)を受けるまでの間における監視費用その他の当該貯留開始貯留事業の実施に必要な費用に充てるため、経済産業省令で定めるところにより、引当金の積立てその他の当該費用に充てるための資金を確保するための措置として経済産業省令で定めるものを講じなければならない(第44条第1項)。

(e) JOGMECへの移管と拠出金の納付

 貯留開始貯留事業者が主務大臣の認可を得て閉鎖措置を講じ、経済産業大臣の許可を得て貯留開始貯留事業を廃止した場合※10、JOGMECに対してその旨が通知され、一定の告示がなされる(第53条)。通知貯留区域(JOGMECへの当該通知に係る許可貯留区域をいう。)に関する貯留権は、当該告示により、JOGMECに移転する(第53条及び第55条)。JOGMECは、通知貯留区域内の貯留層における二酸化炭素が安定的に貯蔵されていることを確認するために必要な事項として主務省令で定めるものの監視その他通知貯留区域の管理の業務を実施することとされている(第54条)。その管理業務に必要な費用に充当するため、貯留開始貯留事業者は、各年度(毎年4月1日~翌3月31日までの期間)、許可貯留区域ごとに、機構に対し、一定の拠出金※11を納付しなければならない(第45条)。

(f) 保安規制

 貯留事業者等に対しては、経済産業省令で定める技術上の基準に適合するよう貯留等工作物を維持する義務(第67条第1項)、災害時の報告(第68条)、保安規程の策定と届出(第69条)、工事計画の届出(第75条)、貯留等工作物に関する使用前自主検査(第76条)、定期自主検査(第77条)等の保安規制が課せられる。

(5) 試掘事業者・貯留事業者の賠償責任

 CCS事業法は、試掘や貯留事業に起因する賠償責任に関し、事業者に無過失責任を課している(第124条)。すなわち、貯留層における二酸化炭素の貯蔵若しくは試掘のための土地の掘削、坑水の放流又は貯留層に貯蔵した二酸化炭素の漏えいによって他人に損害を与えた場合、当該損害発生時における当該許可貯留区域等の貯留事業者等※12が、当該損害を賠償する責任を負うと規定する。損害の賠償は、金銭賠償が原則であるが、賠償金額に比して著しく多額の費用を要しないで原状の回復をすることができる場合、被害者は原状回復請求をすることができるほか、賠償義務者の申立てがあった場合において裁判所が適当であると認めるときは、金銭をもってする賠償に代えて原状回復を命ずることができるとされる(第126条第2項・第3項)。以上は、鉱業法における賠償メカニズムと同様である(鉱業法第109条第1項・第111条第2項・第3項)。

3. CO2の導管輸送事業に係る事業規制・保安規制の整備

(1) 届出制の採用と約款規制

 パイプライン輸送の場合、貯留サイトと排出源の間でパイプラインを介した物理的な接続を前提とすることから、地域における自然独占の発生や、輸送事業者がCO2排出者に対して優越的な地位になることも想定される※13。そこで、CCS事業法は、導管輸送事業(二酸化炭素を貯留層(外国における貯留層に相当するものを含む。)に貯蔵することを目的として、導管により当該二酸化炭素を輸送する事業)について届出制を採用し(第78条)、一定の規制を及ぼすこととした。

 特に、特定導管輸送事業者(他の者の委託を受けて行う導管輸送事業であって、他の者の活動に伴って排出された二酸化炭素に係るものを行う導管輸送事業者)については、特定導管輸送事業約款を定め、経済産業大臣に届け出るよう求め(第82条第1項。なお、変更についても同様である。)、原則として、当該約款以外の条件でかかる導管輸送事業を実施することを禁止する(同条第2項)。また、一定の場合、経済産業大臣が相当の期間を定めて約款を変更すべきことを命じることができるものとした(同条第3項)。さらに、特定導管輸送事業者は、当該事業の業務等に関し、特定の者に対し、不当に優先的な取扱いをし、若しくは利益を与え、又は不当に不利な取扱いをし、若しくは不利益を与えてはならないと規定する(第83条)※14

(2) 保安規制

 導管輸送事業者に関しても、貯留事業者等と同様に、経済産業省令で定める技術上の基準に適合するよう導管輸送工作物を維持する義務(第86条第1項)、災害時の報告(第87条、第68条)、保安規程の策定と届出(第88条)、工事計画の届出(第90条)、導管輸送工作物に関する使用前自主検査(第91条)、定期自主検査(第92条、第77条)等の保安規制が課せられる。

4. 海洋汚染防止法におけるCO2の海底下廃棄に関する許可制度との関係

 現行の海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(以下「海洋汚染防止法」という。)は、何人も、原則として、油、有害液体物質等または廃棄物の海底下廃棄(物を海底の下に廃棄すること(貯蔵することを含む。)をいう。)をしてはならないと定める一方(同法第18条の7)、環境大臣の許可を得た場合に限り、「特定二酸化炭素ガス」を海底下廃棄することを認めている(同条第2号)。CCS事業法の制定により、今後、海洋汚染防止法における特定二酸化炭素ガスの海底下廃棄許可制度(現行海洋汚染防止法第18条の8参照)は廃止され(CCS事業法附則第14条)、CCS事業法に一本化されることになる(改正後海洋汚染防止法第18条の7第2号参照)。

4. 最後に

 本ニュースレターにおいては、新たに成立した水素社会推進法及びCCS事業法について概観した。黎明期にある水素等事業の更なる進展とCCS事業の早期の社会実装に向け、今後の政省令の制定動向に加え、ビジネスの進展についても引き続きその動向に注目する必要がある。

脚注一覧

※1
なお、2024年2月時点における水素社会推進法に基づく支援概要及びCCS事業法の詳細については、三上二郎=渡邉啓久=宮城栄司=河相早織「CCSに係る制度的措置のあり方に関する中間取りまとめの公表」(本ニュースレター No.34:2024年2月)及び「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案の公表」(本ニュースレター No.35:2024年2月)を参照されたい。

※2
以下、本第2項においては、特に明示しない限り、水素社会推進法の条文を摘示する。

※3
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 水素・アンモニア政策小委員会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 水素保安小委員会「中間取りまとめ」(2024年1月29日)

※4
項目に応じて、経済産業大臣及び国土交通大臣の双方又は経済産業大臣となる(第42条第1項)。

※5
「一定の年度」は経済産業大臣により、「一定の期間」は経済産業省令により定めることとされているが、現時点ではその内容は定まっていない。

※6
その他に、貯留層の探査に関しても許可制を導入する(CCS事業法第107条参照)など、一定の事項を規律している。

※7
以下、本第3項においては、特に明示しない限り、CCS事業法の条文を摘示する。

※8
「試掘」とは、地下の地層が貯留層に該当するかどうかを調査するため、当該地層を掘削すること(当該地層を構成する砂岩その他の岩石を採取することを含み、当該地層における二酸化炭素の貯蔵を伴わないものに限る。)をいう(第2条第4項)。

※9
制限により具体的な損失が生じた者は、当該告示の日から1年以内に限り、貯留事業者等に対してその損失の補償を請求することができる(第26条第1項)。補償内容については、貯留事業者等と損失を受けた者の協議により定められるが(同条第2項)、協議が成立しないときは、土地収用法第94条第2項から第12項までの規定が準用され、収用委員会の裁決やその後の訴訟等の手続により処理されることになる(同条第3項)。

※10
かかる許可を申請できるのは、当該閉鎖措置に係る許可貯留区域内の貯留層への二酸化炭素の注入を最後に行った日から起算して当該貯留層に貯蔵された二酸化炭素の貯蔵の状況が安定するまでに必要と認められる期間として主務省令で定める期間を経過する日以後とされる(第53条第5項)。

※11
当該拠出金の額は、許可貯留区域ごとの当該管理業務に要する費用の長期的な見通しに照らし、当該管理業務を円滑かつ着実に実施するために十分なものとするために経済産業省令で定める基準に従って、JOGMECが定めることとされる(第45条第2項)。なお、JOGMECが拠出金の金額を設定又は変更する際には、経済産業大臣の認可を受ける必要がある(第45条第4項)。

※12
当該損害の発生の時、既に第55条第1項の規定によりJOGMECに貯留権が移転しているときは当該移転時に当該貯留権を有していた貯留事業者、また、当該損害の発生の時、既に貯留権等(貯留権にあっては、貯留開始貯留事業以外の貯留事業に係るものに限る。)が消滅しているときは、当該貯留権等の消滅の時における当該許可貯留区域等の貯留事業者等とされる。

※13
総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 カーボンマネジメント小委員会/産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 産業保安基本制度小委員会 合同会議「中間取りまとめ CCSに係る制度的措置の在り方について」20頁

※14
なお、特定貯留事業者(他の者の委託を受けて行う貯留事業であって、他の者の活動に伴って排出された二酸化炭素に係るものを行う貯留事業者)についても、特定貯留事業約款の策定・届出等、同様の規律が設けられている(第50条第1項・第51条)。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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