

アジアにおける不動産・インフラ案件への当事務所の取り組み
当事務所のアジアプラクティスチームは、中国・インド・ベトナム・タイ・インドネシア・フィリピン・マレーシア・オーストラリア等の地域を中心に、アジアの様々な地域において、分譲住居・物流施設・ホテル・ショッピングモール等の様々なアセットタイプの案件、スマートシティ等の開発を含む、地域一帯の大規模開発案件等の様々な不動産開発案件に取り組んでいます。また、再生可能エネルギーや伝統的な化石燃料を用いたインフラ設備・LNGプラットフォームの開発等、多様なインフラ案件にも多く関与をしています。本稿では、アジアの不動産・インフラ開発案件に豊富な経験を有する各オフィスの弁護士がアジアにおける開発案件の最新の傾向や当事務所の案件取り組みの体制等についてディスカッションした内容を記載しています。

中川幹久

洞口信一郎

箕輪俊介

パトリシア・O・コー

莫燕

ホアイ・チャン

前川陽一

Chapter 01
アジアにおける不動産・インフラ案件の特徴
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- 中川
本日はアジアにおける不動産・インフラ案件に関する当事務所のサポート体制・近時の取り組みについてお話したいと思います。
まず、アジアにおける不動産・インフラ案件の特徴について伺えますでしょうか。
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- 洞口
アジアに限らず不動産案件は一般的に、複数の法制に着目して案件を解決する必要がある点に特徴があります。プロジェクトの中心となる不動産については、土地に関する法制度、建物の建築基準等の法令が問題となりますし、近時は環境法令等が問題になることも多いです。
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- 莫燕
土地制度は土着の制度を基礎とした上で過去の歴史を踏まえて現在の制度が形作られているため、その法域毎に制度自体が大きく異なります。不動産プロジェクトを進めるにあたり、不動産業界への進出につき外資制限がないか、対象となる不動産の権益に問題がないか、何かプロジェクトを進行するにあたり問題となる事象はないかを確認することが肝要ですが、このような調査も各国の土地制度を理解した上で進めることが重要となります。
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- 前川
企業による不動産の利用や開発は、経済的に重要であることはもちろん、安全保障、さらには国家主権に影響を及ぼしうる活動であるため、特に東南アジアの国々では外資規制の対象とされていることが多いことも特徴と言えます。不動産の保有主体、具体的な事業内容などによって、異なる規制が適用されることもあるので、こうした国での不動産開発は、専門的な知見を持つアドバイザーの助言を受けながら検討を進めることが必要になります。
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- 中川
外資規制に対応するために、地場の不動産ディペロッパーをパートナーとして合弁事業を組成することも多いですよね。
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- 前川
はい。そのため、合弁パートナーとの間の契約交渉が非常に重要なポイントとなります。また、多額の投資を必要とするため、地場の金融機関から資金調達をすることもあり、金融機関との条件交渉も重要となります。
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- パトリシア
投資額が大きく、当地で一定の市場的地位を有する者が合弁パートナーとなることが多いことから、競争法上の問題が生じることが多いことも特徴といえます。フィリピンでも多くの案件で企業結合届出の必要性が検討されますし、実際に企業結合届出が必要となることもあります。
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- 箕輪
インフラ案件については不動産開発案件と共通した論点が出てくることが多いですが、アジアでも近時は再生可能エネルギー案件が増えてきており、政府がクリーンエネルギーシフトを進めるために税務等の恩典を与えたり、外資規制を緩和したりしている例もみかけられます。法制度の変更により、投資の機会が拡大している場合もあるため、政府の動向とそれに伴う法制度の変更は注視しておくべきと考えます。


Chapter 02
多様化と変化
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- 中川
アジアの不動産・インフラ案件の特徴についてよくわかりました。次に、近時のトレンドについても伺えますでしょうか。
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- ホアイ
例えば、ベトナムでは法制度の変更や実務の変更が継続しておきています。開発関係の許認可の発行のスムーズさも時期によって異なるため、現地のトレンドのインプットを現地の専門家に聞きながらスケジュールを組み、進めていくことが重要と考えます。
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- 洞口
案件が多様化したことも近時のトレンドとして挙げられると思います。
日系企業のアジア進出が加速した2010年前後は分譲マンション等の建設後一定期間で販売を完了させることにより、短期で成果を上げる案件が好まれる傾向にありましたが、近年は、各国に長期的に投資することを見越して、長期で保有することを念頭に置いた物件の開発も増えてきているように思います。長期物件としては、旧来から開発がなされたオフィスビルに加え、日本国内と同様、電子商取引の増加に伴い物流施設を扱う案件が増えてきています。加えて、コロナ禍以降は人の移動も復活してきており、ビジネス利用・プライベート利用それぞれの利用者のニーズに応えるようなホテルやサービスアパートメントの開発も増えてきている印象です。
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- 莫燕
中国や東南アジアの一部の地域では日本と同様に高齢化が進行しており、高齢化社会にどのように対応していくかを社会課題になっている国も多いため、今後はヘルスケア関連の介護施設等のホスピタリティー施設の開発案件も増えるかもしれません。
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- 箕輪
タイでも高齢化が進んでおり、タイの投資委員会も介護施設の開発には恩典を与えていることもあって、今後このような案件が増える可能性があるように思います。ヘルスケアの関連では、ヘルスケア・モビリティー・テックといった高度な技術を総動員したスマートシティの構想も進んでおり、我々もそのような案件の法的課題の検証を支援しています。
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- ホアイ
インフラ案件では先ほども話題に上がりましたが、再生可能エネルギーへの転換が急速に進んでおり、太陽光発電の案件等の数が増えています。
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- パトリシア
フィリピンでも再生可能エネルギー事業の外資規制が昨年緩和されました。これに伴い、外国企業の進出が活発化することが期待されています。


Chapter 03
各拠点の取り組み・拠点を越えたサポート体制
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- 箕輪
私はバンコク・オフィスに所属しているため、タイ国内の開発案件にも多くの件に関与させていただいておりますが、縁あってフィリピンの開発案件も多く担当しており、その際にはシンガポール・オフィスの同僚と一緒に案件に対応することが多いです。
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- パトリシア
フィリピン案件を行うにあたっては、土地回りの調査等、地場の法律事務所との連携が不可欠です。当事務所は多くの案件で地場の法律事務所と協業を行うことにより、地場の法律事務所と良好な関係を築き、日系企業の勘所をおさえた地場の弁護士と共に、スムーズに案件支援ができる体制を構築しています。
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- 洞口
東京オフィスの不動産案件に多くの経験を有する弁護士が、アジア各国のオフィスと共同して案件に携わることも多いです。また、オーストラリアやインド等の当事務所の拠点が開設されていない法域向けの開発案件についても、東京オフィスが積極的にリードする案件は多いです。
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- 莫燕
中国案件は、東京オフィス及び上海オフィスにおいて、中国弁護士や顧問、中国での執務経験を有する日本国弁護士が多く所属するチャイナプラクティスグループを中心に案件に対応をしています。普段から、内部での勉強会を行ったり、上海オフィスに所属していたメンバーが東京オフィスで執務を行っていたりして、案件内外での交流があり、中国語・英語・日本語のトライリンガルでの案件へ対応できる体制が整っています。
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- 中川
各オフィスで精力的に不動案・インフラ案件に携われており、個々のオフィスとしても経験と実績を上げつつ、拠点を越えて協力することにより、ナレッジを共通化し、シナジーも出されていることがよく分かりました。またより多くの案件で皆さんとご一緒し、依頼者を支援していきたいと思います。
皆さん、本日は有り難うございました。


Profiles

中川幹久
長島・大野・常松法律事務所パートナー。長島・大野・常松法律事務所ホーチミン・オフィス(Nagashima Ohno & Tsunematsu HCMC Branch)代表。1999年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2003年第一東京弁護士会登録。同年、長島・大野・常松法律事務所に入所し、現在に至る。その間、2009年Stanford Law School(LL.M.)卒業後、2010年ニューヨーク州弁護士資格を取得。2009年から2010年までニューヨークのPillsbury Winthrop Shaw Pittman LLPに勤務し、2011年から2014年までアレンズ法律事務所のホーチミンオフィスに勤務。2012年ベトナム外国弁護士登録。M&A、合弁その他の企業間取引を中心に企業法務全般にわたるリーガルサービスを提供し、近時は、ベトナムを中心とするアジアへの進出支援業務を主に取り扱っている。

洞口信一郎
長島・大野・常松法律事務所パートナー。2003年 京都大学法学部卒業。2005年 京都大学大学院法学研究科修了(法学修士)。2006年第一東京弁護士会登録(59期)、長島・大野・常松法律事務所入所。2012年 Duke University School of Law卒業(LL.M.)。2012年~2013年 Haynes and Boone, LLP(ダラス)勤務。2013年~2015年 三井不動産株式会社勤務を経て2015年10月から長島・大野・常松法律事務所に弁護士として復帰。主な取扱分野は、不動産関連取引(J-REIT及び私募ファンドの組成・運営、不動産ファイナンス、不動産証券化、不動産関連企業のM&A等)、日系不動産関連企業の海外不動産開発案件、プロジェクトファイナンス、エネルギーその他のインフラ関連プロジェクト等

箕輪俊介
2014年より長島・大野・常松法律事務所バンコク・オフィス勤務。バンコク赴任後は、タイ及びその周辺国への日本企業の進出、並びに在タイ日系企業に関連する法律業務に数多く関与。不動産開発案件もタイやフィリピンの案件を中心に多くの案件にて関与している。

パトリシア・O・コー
シンガポール・オフィス所属。フィリピン法の弁護士資格を有する。当事務所に入所前は、フィリピンの大手事務所にて執務をしていた。フィリピンに関連するM&A、不動産開発、対外直接投資、PPP案件、証券化、知的財産、入管規制及びデータ保護等を取り扱い、クロスボーダーでの資産・事業取得や合弁事業の組成等の案件についても経験を有する。また、一般企業法務やフィリピン法に関する規制関連の助言も行っている。

莫燕
長島・大野・常松法律事務所上海オフィス顧問。2012年華東政法大学経済法学部卒業。2017年ノースウェスタン大学ロースクール(LL.M)卒業。アメリカに留学する前には、中国のローカル法律事務所及び現地企業に勤務。2017年、長島・大野・常松法律事務所上海オフィスに入所し、現在に至る。M&A、企業再編及び一般企業法務を中心に幅広い分野を取り扱っている。

ホアイ・チャン
ホーチミン・オフィス所属。ベトナムにおける不動産取引、一般企業法務、ベトナムへの対外投資案件を専門とする。ベトナムにおける外国人投資家や外国企業の投資活動や土地買収、不動産開発、合弁事業、M&Aなどのプロジェクトについて20年近くに渡り助言を行っており、豊富な経験を有する。ベトナム地場の大手企業や多国籍企業を代理して、ベトナムにおけるM&A案件や新規事業の設立案件等にも関与している。また、多くの不動産開発業者に対して助言を行っており、売買契約や賃貸契約等の不動産取引の基幹となる契約書の作成にも数多く関与している。

前川陽一
ジャカルタの業務提携先法律事務所に3年間駐在し、日本企業のインドネシア進出及び投資、進出後の労務問題、危機管理等に関して豊富な経験を有する。日本企業のインドネシアを含む東南アジア地域におけるJV案件、M&A案件、不動産取引、既進出企業の現地での日々のオペレーションに伴う法務面のアドバイスを行っている。
