

アジアにおけるコンプライアンス・紛争解決案件の近年の傾向
当事務所のアジアプラクティスチームは、地域を横断するコンプライアンス体制の構築、贈収賄や不正等の有事への対応、個人情報保護法対応等のコンプライアンス対応に日常的に従事していることに加え、シンガポール・オフィスに紛争解決を専門的に取り扱うチームを有し、様々なコンプライアンス・紛争に関連する案件に取り組んでいます。本稿では、アジアのコンプライアンス案件や紛争解決案件に豊富な経験を有する各オフィスの弁護士がコンプライアンス・紛争解決案件の最新の傾向や当事務所の案件取り組みの体制等について対談をした内容を記載しています。

福井信雄

德地屋圭治

ヨティン・
インタラプラソン

長谷川良和

ジャスティン・イー

ゴック・ホアン

Chapter 01
アジアにおけるコンプライアンス・紛争解決案件の特徴
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- 福井
本日はアジアにおけるコンプライアンス・紛争解決案件に関する当事務所のサポート体制・近時の取り組みについてお話したいと思います。
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- ジャスティン
私からはまず、アジアにおける紛争解決案件の特徴についてお話したいと思います。
アジアでは、残念ながら一部の例外を除き、欧米のように十分に発展し効率的な司法機関を有するとは限りません。また、法域によっては、司法を通じた紛争解決に非常に長期間を要する場合もあります。そのため、判断の妥当性・公平性が担保され、スピード感を持った解決を期待できる仲裁制度が積極的に活用されています。特に、シンガポールや香港の仲裁機関では他の法域で発生した紛争も含めて多くの案件が日々裁定されています。
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- ヨティン
地域差はあるものの、贈収賄等のコンプライアンスリスクが一定程度あることも特徴といえます。贈収賄一つをとっても、商業賄賂を規制する国があったり、公務員の贈答や接遇に一定の基準を設けている国があったり、規制の内容も異なります。
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- ゴック
法令上記載されている内容と実務上慣行として許容されている内容に差がある場合もあります。さらに、実務慣行は時間の経過によっても変化します。そのため、各国毎の特徴をよく理解している実務家に、実務的に即した合理的な対応が何かを確認することが重要です。


Chapter 02
近時のトレンド-個人情報保護規制と競争法規制の強化
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- 福井
コンプライアンス・紛争解決案件に関する近時のホットトピックやトレンドについて伺えますでしょうか。
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- 長谷川
近年、多くの動きがあり、注目が高まっている法分野としては個人情報保護法制が挙げられると思います。アジアではここ数年新制度の導入や、大規模な改正が相次いでいます。法改正が多く、キャッチアップが大変な分野となりますが、当事務所では積極的に情報発信を行っており、ニュースレターやウェブサイトを通じて、最新の情報を継続的に提供しています。
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- ゴック
個人情報保護法制法については、ベトナムで大きな話題となっています。今年に入ってから包括的な個人情報保護法制に関する政令が公布され、十分な準備期間がないまま、施行された状況です。当局からの指導も完全ではなく、前例も少ないことから、実務的な慣行等について、情報が集積しやすい法律事務所への問い合わせが増えています。
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- 德地屋
中国についても個人情報保護法の分野は法改正が相次いでおり、ホットな法域の一つといえます。中国はベトナムと同様に他の法域と比べると独自の規制も多く、法制の整備も急速に進んでいるため、最新の情報を正確に把握した上で、中国の規制に則した対応が必要となります。
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- 福井
その他の法域の動向はいかがでしょうか。
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- ゴック
各法域で競争法の強化が図られていることも近時のトレンドといえるかと思います。
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- 長谷川
東南アジアでも2021年にカンボジアが競争法を施行したことにより、全てのASEANの国で競争法が施行されました。各国で競争法に関する規制の運用が本格化してきたこともあり、最近は数年前と比べると企業結合届出を検討しなければならない法域が増えてきているように感じています。談合等の規制についても強化を図る法域が増えているように感じます。


Chapter 03
各拠点の取り組み・拠点を越えたサポート体制
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- 德地屋
上海オフィスでは、中国本土の案件のみならず、台湾や香港の法律事務所とも継続的に案件で共同しており、台湾や香港の案件も対応できる体制を整えています。
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- ジャスティン
シンガポール・オフィスは紛争解決に特化したチームを有しています。国際紛争解決に多くの経験を有する日本法資格、シンガポール法資格、ニューヨーク法資格を有する複数の弁護士が在籍しており、巨大案件や建設関係の紛争を含めて、幅広い案件をワンストップで対応できる十分な体制が整っています。
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- 福井
アジア・オセアニア地域は、中国・インド・東南アジア・オーストラリアとカバーする国も多く、規制もそれぞれ異なりますので、全てを網羅的にカバーすることは多くの作業を有します。この地域はひとつの地域として捉えられ、域内横断での仕組み作りを求められることが多く、コンプライアンスマニュアルの作成、内部通報窓口等を複数の法域でカバーできるようにすることも多いです。その場合には、当事務所も拠点を越えてチームを組成して対応をするようにしています。
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- ヨティン
シンガポールやタイは地域統括拠点を有する依頼者が多く、シンガポールやタイにとどまらない幅広い法域をカバーしなければならないことも少なくありません。そのような場合には、各拠点の弁護士と連携を取って対応をすることが必須です。タイは伝統的に製造業の進出が進んでいる国であり、完成車メーカーや自動車部品メーカーを中心にタイに地域統括拠点を有する企業も多く、そのような企業では、品質保証や製造物責任、労務問題等製造業で問題になりやすい法務的な課題について、横断的な調査を求められることもあります。そのような場合には、シンガポールやベトナム、中国の拠点の協力が必須となります。
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- 福井
個人情報保護や競争法等、アップデートが多く、他国との比較も多く求められることが多い、コンプライアンス・紛争解決の領域ですが、拠点を越えて協力して、ナレッジを共通化し、課題に取り組まれていることがよく分かりました。またより多くの案件で皆さんとご一緒し、依頼者を支援していきたいと思います。
皆さん、本日は有り難うございました。


Profiles

福井信雄
長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス代表。2001年東京大学法学部卒業、2009年デューク大学ロースクール卒業(LL.M.)。2010年から2013年までインドネシアの現地法律事務所Widyawan & Partners (Jakarta)で執務。2013年末にシンガポールに拠点を移し、以降現在に至るまでインドネシアを中心に東南アジア各国の法務に従事している。
インドネシアに常駐して現地ベースで企業法務を提供した初の日本人弁護士であり、インドネシア法務に関しては直近10年の知識と実務経験を有する。
シンガポールでは、日本企業及び多国籍企業の地域統括拠点から寄せられるアジア・オセアニア各国の様々な法務相談に対応しており、過去に取り扱った経験のある国としては、以下が挙げられる。
シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、インド、ミャンマー、カンボジア、トルコ、UAE、韓国、台湾、香港、オーストラリア、ニュージーランド
取り扱い分野には、東南アジア各国のM&A、ジョイント・ベンチャー、不動産開発、コンプライアンス対応、危機管理・不祥事対応、コーポレートガバナンス、ファイナンス、知的財産、労務、競争法、贈収賄規制、個人情報保護、リストラクチャリング、撤退、倒産等が挙げられる。
東南アジア各国の現地法律事務所・弁護士とのネットワークの構築にも注力しており、事務所内外の各国弁護士と協働しながら依頼者に最適にカスタマイズされた法務サービスを提供することを心がけている。

德地屋圭治
長島・大野・常松法律事務所パートナー、上海オフィス一般代表。2003年東京大学法学部卒業。第二東京弁護士会所属。2011年University of California, Berkeley, School of Law卒業(LL.M.)、2013年Peking University Law School卒業(LL.M.)。豊富な海外法務の経験を有する(Zhong Lun、Lee and Liで研修)。
M&Aを中心に国内企業法務分野を取り扱うとともに、海外(中国大陸・台湾を含む)の企業の買収、海外企業との紛争解決、現地日系企業に関するコンプライアンス、危機管理・不祥事対応等企業法務全般に関して日本企業に助言を行っている。

ヨティン・インタラプラソン
バンコク・オフィス所属。タイへの投資案件を中心に、タイにおける企業法務案件全般に関与している。日本企業及びタイ国内企業のみならず、多国籍企業への助言経験を豊富に有する。タイ法務に関する情報発信についても積極的であり、定期的にセミナー/ウェビナーを開催し、幅広い法的トピックに関連してニュースレターに寄稿しているほか、タイの外資規制等に関するタイ語の文献も執筆している。

長谷川良和
シンガポールを拠点に、東南アジアその他アジア地域において日系企業が直面する法律問題に幅広く関与している。特に、日系企業による東南アジアへの進出、M&A、ジョイント・ベンチャー、危機対応、エネルギー・インフラ案件を取り扱っている。

ジャスティン・イー
シンガポール・オフィス所属。シンガポール法の弁護士資格を有する。商取引にまつわる紛争案件・助言業務に10年以上に渡り関与し、豊富な経験を有する。関与した案件は、建設・インフラに関連する案件、銀行や保険業等の金融関連の案件、サービス事業や製品販売等の一般商取引に関する案件など多岐に及び、病院、商業施設、空港、発電所、鉄道又はインフラ設備等の様々なプロジェクトに関連した案件に関与している。争訟及び非訟の双方に渡り幅広く助言しており、紛争案件に関しては、相手方の訴訟内外の交渉から、訴訟、仲裁、裁定等の法定手続、和解や調停等の手続を含む紛争解決に向けた幅広い課程において、主任弁護士として依頼者を代理している。

ゴック・ホアン
ハノイ・オフィス所属。企業法務において豊富な経験を有する。外国人投資家や外国法人によるベトナム進出、進出後の運営上の問題の解決に多くの経験を有する。また、ベトナムの知的財産権に関連する資格を有し、知的財産権に関する知識も豊富である。
