
佐々木将平 Shohei Sasaki
パートナー/オフィス代表
バンコク
NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報
タイの民商法(Civil and Commercial Code)上、非公開会社(private limited company)には、社債や新株予約権の発行は認められておらず、非公開会社による資金調達手段は、原則として、新株発行又は借入に限られている。しかし、2020年3月12日付(同3月30日付施行)のタイ証券取引委員会(以下、「SEC」という。)の規則(以下、「本規則」という。)※1に基づき、コロナ禍の影響を踏まえた中小企業向け支援策として、一定の要件を充たす中小企業に限って、転換社債の発行が認められることとなった。
本規則に基づき転換社債を発行することが認められる非公開会社は、中小企業促進法(Small and Medium Enterprises Promotion Act B.E. 2562(2019))に基づく省令において定義される「中小企業」に限定されており、転換社債の発行に際して、中小企業促進事務局(Office of Small and Medium Enterprises Promotion)に対して登録を行う必要がある。同省令上、中小企業(小企業及び中企業)は、以下の通り定義されている(なお、同省令上、従業員数に基づく区分と年間収入に基づく区分に齟齬が生じる場合には、年間収入に基づく区分が用いられるとされている。)。
製造業の場合 | サービス業又は卸売小売業の場合 | |
---|---|---|
小企業 | 従業員50名以下、又は、年間収入が1億バーツ以下 | 従業員30名以下、又は、年間収入が50百万バーツ以下 |
中企業 | 従業員50名超200名以下、又は、年間収入が1億バーツ超5億バーツ以下 | 従業員30名超100名以下、又は、年間収入が50百万バーツ超3億バーツ以下 |
本規則に基づき、中小企業(小企業及び中企業)は、以下の者に対して転換社債を発行することが認められており、この場合、発行金額及び投資家の人数に関する制限は特に設けられていない。
さらに、中企業の場合には、上記以外の者に対しても、転換社債を発行することが認められている。但し、この場合には、発行額は原則として20百万バーツ以下に限定されており、また、投資家の人数は10名以下とされている。
投資家の種別 | 発行額 | 投資家数 |
---|---|---|
① 機関投資家、プライベートエクイティファンド、ベンチャーキャピタル及びエンジェル投資家 | 制限なし | 制限なし |
② 発行会社及びその子会社の取締役又は従業員(取締役又は従業員への割当のために設立された特別目的会社を含む) | 制限なし | 制限なし |
③ 上記以外の者(発行会社が中企業の場合のみ) | 合計20百万バーツ以下 | 10名以下 |
本規則上、発行会社は、転換社債の発行に関して、以下の規制に服する。
また、転換社債の発行及び株式への転換については、SECとの関係で必要となる上記の手続に加えて、民商法及び社内規則上必要となる社内手続を経る必要がある。もっとも、民商法の非公開会社に関する規定においては、転換社債の発行や株式への転換に関する定めは特段設けられておらず、商務省事業開発局における登記手続を含め、どのタイミングでどのような手続が具体的に必要となるかは、法文上明確ではない。そのため、実際に転換社債の発行や転換を行う場合には、当局や専門家に相談の上、具体的な手続を確認しつつ進める必要があると思われる。
一般に、転換社債は、スタートアップの(特に)アーリーステージにおいて、バリュエーションの実施を将来の株式発行時に先延ばしできるメリットのある資金調達手段と評価されている。従前、スタートアップの資金調達手段は新株発行や借入に限定されていたが、本規則により転換社債の発行が解禁されたことにより、スタートアップの資金調達手段が多様化し、タイにおけるスタートアップ投資のさらなる活発化に繋がることが期待される。
※1
Notification of Capital Market Supervisory Board No. Tor Jor. 17/2563。証券取引法37条において、証券取引法に基づき社債の発行が認められる場合には、非公開会社の社債の発行を禁ずる民商法1229条の適用が除外されることとされている。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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