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ニュースレター

補償契約の現在地と補償契約の導入に際しての検討ポイント

NO&T Corporate Legal Update コーポレートニュースレター

著者等
田原一樹河野ひとみ(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Corporate Legal Update ~コーポレートニュースレター~ No.13(2022年3月)
業務分野
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 令和元年改正会社法※1(「改正会社法」)により、補償契約に関する手続面及び内容面に関する規律が整備されました※2。本ニュースレターでは、改正会社法施行から1年が経過する中、上場企業における補償契約の締結状況に変化の兆しが見受けられることを概観した上で、役員賠償責任保険契約(D&O保険)との比較の観点を踏まえた補償契約のメリット・デメリット(手続的負担を含みます。)、補償契約の導入に際しての留意点・要検討事項を整理することを通じて、補償契約の活用の可能性について、改めて検討いたします。

1. 補償契約の締結状況

 改正会社法が施行された2021年3月1日から2022年2月28日までの期間に定時株主総会を開催した上場会社における、当該定時株主総会に係る株主総会参考書類及び事業報告によれば、これらのいずれにおいても、補償契約に関する記載がないものが大多数であり、多くの会社において補償契約の利用は様子見の状況が続いていたと思われます。具体的には、2021年3月1日から9月30日までの期間に定時株主総会を開催した上場会社のうち、株主総会参考書類において役員等と補償契約を締結又は継続する予定であることを記載している事例は77社※3に留まり、また2021年10月1日から2022年2月28日までの期間に定時株主総会を開催した上場会社についても、当該記載をしている事例は10社に留まっていました。

 もっとも、2022年3月に定時株主総会を開催した上場会社に係る株主総会参考書類及び事業報告についてみてみると、今回調査したところでは、23社において当該記載をしている事例が確認されました。2021年3月総会に係る株主総会参考書類上当該記載をしている事例は10社に留まっていたことを踏まえると、3月総会の会社においては、補償契約を利用する企業が一定の増加傾向にある※4といえるように思います。

 このような実務の動向を踏まえると、少なくとも、今一度補償契約のメリット・デメリット(手続的負担を含みます。)を整理・確認した上で、自社における導入の要否を改めてご検討いただくことは有益なのではないかと考えられます。

2. 補償契約のメリット・デメリット

 補償契約の導入の要否を判断するためには、まずはそのメリット・デメリットを整理することが有益であると考えられるところ、多くの会社において導入されているD&O保険との比較の観点を踏まえて、以下整理いたします。

(1) 補償契約のメリット

メリット①:補償実行の即時性

補償契約 D&O保険
特段の手続を要せず補償の実行が可能(原則として※5取締役会決議も不要)であり、一定の前払いも可能。
保険会社に対する保険金請求手続が必要となる(一般に、手続に際しては各種証憑の提出が必要となり、保険金の支払いまでには相当の期間を要する。)。
【コメント】
補償契約を導入することによって、弁護士費用の支払い等について利便性・機動性を高めることが可能であり、これによって、役員等において防御活動のために必要十分な費用をかけることで会社の損害を回避ないし縮減することが期待できる※6

メリット②:補償の範囲

補償契約 D&O保険
《防御費用》
役員等が、その職務執行に関して法令違反の嫌疑をかけられたこと又は会社若しくは第三者から責任の追及を受けたことに対処するために支出する費用※7
  • *会社に対する任務懈怠責任に係る請求についても補償可能(改正会社法430条の2第2項2号参照)。
  • *役員等がその職務を行うにつき悪意又は重過失があった場合も補償可能※8(改正会社法430条の2第2項3号参照)。
《損失(賠償金及び和解金)》
役員等が、その職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失たる賠償金及び和解金※9
補償可能な範囲について会社法上の制約なし。もっとも、保険契約上、保険金額や免責金額といった絶対額での限定があったり、特殊なリスク等については免責事由が定められたりすることから、通常、防御費用や賠償金・和解金の全額を補填することはできない。
【コメント】
  • 会社補償においては、例えば、①役員等に悪意・重過失がある場合における防御費用や②第三者委員会対応に係る費用等、D&O保険において保険金支払の対象外とされることがある費用等についても補償の対象に含めることができ、また、補償の上限額を設けないことも可能である等、D&O保険でカバーしきれない部分について会社補償によりカバーすることが可能である。特に、防御費用については、役員等に悪意又は重過失がある場合でも補償が可能である等、補償契約がカバーすることができる範囲は広範であるといえる。
  • 他方で、賠償金・和解金については、役員が第三者に対して損害賠償責任を負担するケースの典型例である会社に対して責任を負う場合が補償の対象外である他、第三者に対して責任を負う場合についても、悪意又は重過失がある場合が補償の対象外であることから、会社補償で第三者に対する損害賠償責任がカバーされるケースは限定的とも考えられる。
  • D&O保険は、保険金額等の限定はあるものの、対会社責任と対第三者責任の両方についてカバーし、役員等に重過失があっても保険金の支払いの対象となることから、D&O保険にも引き続きメリットが認められる。

(2) 補償契約のデメリット及び手続等の負担

デメリット①:役員等の職務の適正性への懸念

補償契約 D&O保険
一定の範囲で個人責任を問われるリスクを負わないことが明確になる結果、役員等の職務の適正性が損なわれるリスクがある。
基本的に同様のリスクが想定される。
【コメント】
補償契約の導入を通じて、役員等にとっての予見可能性と法的可能性を確保することができることは会社にとってのメリットもあるが、その反面、役員等が適正に職務を行わなくなるというリスクも生じうる。もっとも、この点は、D&O保険とも共通のリスクであり、必要に応じて適正性確保措置を講ずることにより対処することが期待されているといえる(下記3.(2)参照)。

デメリット②:補償契約の締結又は補償実行後の手続負担

補償契約 D&O保険
  • 株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)決議が必要※10
  • 補償契約に基づく補償をした取締役会設置会社の取締役及び当該補償を受けた取締役は、遅滞なく、当該補償についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない※11・12
  • 同様に、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)決議が必要※13
  • 補償契約と異なり、重要な事実の報告義務は課されない。
【コメント】
補償契約の締結又は補償実行後の手続負担に関しては、D&O保険との間で大きな差異はなく、また、重要な事実の報告義務についても、むしろ取締役会決議を要せず補償の実行が可能であり、事後的に取締役会に報告をすれば足りる旨を定めているものと言え、補償契約を導入する際の障壁となるものではないと考えられる。例えば防御費用については、弁護士費用等が毎月発生するような場合であっても、毎月の取締役会毎に報告を行うことまでは必要なく、事案の進捗状況に鑑み、一定の合理的期間ごとに報告を行うことでも、遅滞なき報告義務は果たされていると考えられるとされており※14、負担としては重いものではないとの評価も可能と考えられる。

デメリット③:開示の負担※15

補償契約 D&O保険
公開会社の場合、役員等との間で締結された補償契約に関する以下の事項を事業報告に記載することが必要※16

  • ① 当該役員等の氏名
  • ② 当該補償契約の内容の概要(適正性確保措置を講じているときはその内容を含む。)
  • ③ 当該株式会社が補償契約に基づき防御費用を補償した場合においては、当該株式会社が、当該事業年度において、当該役員等(当該事業年度の末日までに退任した者を含む。)の職務執行に関し、当該役員等が責任を負うこと又は当該役員が法令に違反したことが認められたことを知った旨
  • ④ 当該事業年度において株式会社が当該役員等(当該事業年度の末日までに退任した者を含む。)に対して損失を補償した場合においては、その旨及び補償した金額

役員等の選任議案を提出する場合、株主総会参考書類には、候補者と当該株式会社との間で補償契約を締結しているとき又は補償契約を締結する予定があるときは、その補償契約の内容の概要を記載することが必要※17

公開会社の場合、D&O保険に関する以下の事項を事業報告に記載することが必要※18

  • ① 被保険者の範囲に関する概括的な情報(個別の被保険者の氏名の開示は不要。)
  • ② D&O保険の内容の概要(適正性確保措置を講じているときはその内容を含む。)

役員等の選任議案を提出する場合、株主総会参考書類には、候補者を被保険者とするD&O保険を締結しているとき又はD&O保険を締結する予定があるときは、当該D&O保険の内容の概要を記載することが必要※19

【コメント】
  • 補償契約とD&O保険とでは、その利益相反の程度の差異等を踏まえ、会社法上事業報告において開示すべきとされる事項の範囲が異なる(補償契約の方が広汎な開示が求められる※20。)。特に上記③及び④についての開示が求められることについては留意が必要である。
  • 他方、株主総会参考書類において開示すべき補償契約の内容は、株主が補償契約のうち重要な点を理解するに当たり、必要な事項を記載すれば足りるとされているため※21、概要を超えてその内容を細部に亘るまで開示する必要はないものと考えられ、開示の負担としては重いものではないと考えられる※22

 以上まとめましたとおり、補償契約には様々なメリット・デメリットが認められますが、各企業におかれましては、その事業内容・役員構成等も考慮した上で、これらのメリット・デメリットを評価した上で、自社における補償契約の必要性を改めてご検討いただくことが考えられるのではないかと思います。

3. 補償契約の導入に当たっての留意点・要検討事項

 以下では、上記2.で述べた補償契約のメリット・デメリットの内容を踏まえた上で、実際に補償契約を導入するにあたって留意・検討いただくことが考えられる主要な事項を取りまとめます。

(1) 補償の支払時期

 上記2.(1)のとおり、会社補償は、補償実行の即時性にメリットがあります。当該メリットを最大限活かすためには、補償契約を締結したものの、実際に補償を行うにあたって必要な社内手続が明らかでない、手続負担が必要以上に重いといった理由により補償の支払が滞ることがないよう、役員等からの補償請求のプロセスについて、補償請求に要する書類※23等や適式な請求があってから会社補償を支払うまでの日数等を含め、具体的に補償契約上規定することが望ましいと考えられます。

(2) 適正性確保措置

 会社補償の範囲及び補償契約の締結又は実行段階の手続は、上記2.で述べた会社法上の規律には服するものの、その範囲においては任意に契約内容として定めることが可能であり、補償契約によって役員の職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置(適正性確保措置)として、会社法上の規律により認められる補償契約の内容を制限し、若しくは、会社法上要求される補償契約の締結又は実行段階の手続を加重することが考えられます※24。具体的に考えられる適正性確保措置としては大要以下のものが考えられます。

会社補償の範囲に関する適正性確保措置
  • ① 補償額に関する措置(補償額に一定の限度額を設ける、一定額以下の金額の補償はしないとする、防御費用又は損失の一定割合のみを補償する等)
  • ② 補償の対象に関する措置(悪意又は重過失の場合には防御費用を補償の対象から除外する、法令違反の行為については補償の対象外とする、図利加害目的に至らない程度の悪意若しくは重過失の場合又は会社による調査等に協力しない又は虚偽の申告等をした場合に防御費用の返還請求を可能とする、会社による責任追求訴訟の防御費用を補償の対象から除外する、損失は一律補償の対象外とする等)
補償契約の締結又は実行段階の手続に関する適正性確保措置
  • ① 補償契約の締結にあたり社外取締役全員の賛成を要求する、補償契約の実行・要否及び範囲等について取締役会又は任意の委員会(社外取締役や外部有識者を構成員とする補償検討委員会等)が承認することを要件とする。
  • ② 裁判所その他の公的な紛争解決機関が関与した手続に基づいて役員等の第三者に対する損害賠償責任が認められることを損失補償の要件とする。
  • ③ 監査役若しくは補償検討委員会等による認定又は外部の独立性を有する弁護士からの意見書の取得を損失補償の要件とする。

(3) 義務的補償か任意的補償か

 会社補償においては、義務的補償(会社補償契約に定める事由等が生じれば会社は役員に会社補償する法的義務を負う。)と任意的補償(会社補償を現に行う時点で取締役会決議等の会社の意思決定を改めて要する。)という区分があります。任意的補償では、役員等の立場からすると会社補償が支払われる確証が得られず、また、補償をする会社側としても、取締役会決議の要否を含め、補償の可否の判断には悩ましい場面が想定されることから、少なくとも、防御費用の補償については、会社が現に補償を実行する際の補償費用の範囲や善管注意義務に関する疑義・不明確性等の実務上の懸念を払拭すること、役員にとっての予見可能性と法的安定性を与えるという会社補償契約制度の趣旨に照らして、義務的補償とすることが合理的な場合が多いと考えられる等の指摘がなされています※25

(4) D&O保険との関係

 補償契約とD&O保険の双方を導入する場合、補償契約において、両者の関係について言及しておくことが考えられます。補償契約とD&O保険の填補対象の関係は様々であり、自社が加入しているD&O保険契約の内容を踏まえて、補償契約の具体的な方針を検討する必要があります。補償契約に基づく補償の対象となる防御費用等がD&O保険でも填補対象とされている場合には、自社のD&O保険における規定ぶりを踏まえ、二重払いとならないアレンジを行うことや会社が加入するD&O保険との関係での役員側の一定の協力義務を規定することが考えられる他※26、D&O保険について会社費用担保特約(会社が補償契約に基づいて補填した部分について一定の範囲内で保険金が支払われる旨の特約)を付すことも考えられます。

(5) 対会社責任等の防御費用の扱い

 上記2.(2)で述べたとおり、補償契約については、実際の損失補償額を含む一定の事項を事業報告で開示することが求められます。この観点から、会社補償においては、その実効性を主眼に置いた内容の検討と同時に、開示を前提として、ステークホルダーからの理解を得られる補償範囲の検討も必要になる※27ところ、会社が会社法423条を根拠に役員等を提訴する場合や、役員等が会社を提訴する場合の防御費用は、補償契約の対象外とする等の対応をすることも考えられます※28

(6) 和解金の扱い

 補償契約制度の射程に含まれる和解金※29については、会社法上はその額については何ら限定はなされていないところ、和解に至った背景事情や和解内容が様々であることから、会社による会社補償を見越した安易な和解(モラルハザード)によって過大な和解額を会社補償として支払わなければならないような事態を回避すべく、①会社側の事前同意を必要とする※30、②裁判手続又はそれに準ずる公的手続において行われるものに限定するなど補償契約に何らかの手当てを定めることによって、一定の歯止めを設けておくことが考えられます※31

おわりに

 以上述べてきたとおり、補償契約についてはメリット・デメリットが存在するところ、企業ごとにこれらに対する評価や当該評価を踏まえた補償契約の必要性に関する評価・判断は異なるものと考えられます。冒頭で述べたとおり2022年3月総会の会社における補償契約の締結状況は一定の増加傾向にあるものの、依然として補償契約を導入した企業数が上場企業全体に占める割合は高くはなく、多くの企業においては、今後の実務がどのような動きをみせるか(上場企業において補償契約がどの程度の割合をもって普及するのか。)という観点も踏まえつつ、引き続き検討を行うことになるのではないかと思われます。本ニュースレターが、その際の一助となれば幸いです。

脚注一覧

※1
会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)

※2
改正会社法430条の2

※3
太田洋ほか「補償契約における適正性確保措置の事例分析」(資料版商事法務452号)

※4
補償契約を導入している企業の属性について必ずしも共通の傾向等は見受けられないものの、補償契約を導入している企業の中には海外に事業を展開している企業や外国人が役員等に就任している企業が一定数見受けられました。

※5
裁量的補償の場合であって、補償実行段階の裁量が大きい場合には、「重要な業務執行の決定」(会社法362条4項柱書)に該当する可能性も高まり、裁量権行使の適正性確保の観点からも、取締役会決議を経ることが望ましいとするものとして、田中亘ほか「Before/After会社法改正」(弘文堂・2021)79頁。

※6
山越誠司「会社補償とD&O保険の発展の方向性─両制度の関係性の検証を前提として─」(旬刊商事法務2261号)、藤田友敬ほか「新・改正会社法セミナー 会社補償(2)・D&O保険」(ジュリスト1566号)

※7
通常要する費用の額を超える部分については補償の対象外(改正会社法430条の2第2項第1号)

※8
補償対象者に図利加害目的がある場合には、会社は返還請求可能(改正会社法430条の2第3項)

※9
会社に対する任務懈怠責任に係る部分又は悪意若しくは重過失がある場合は損失の全部が補償の対象外(改正会社法430条の2第2項2号及び3号)

※10
改正会社法430条の2第1項

※11
指名委員会等設置会社における執行役についても同様。

※12
改正会社法430条の2第4項及び5項

※13
改正会社法430条の3第1項

※14
会社補償の実務に関する検討会「会社補償実務指針案(令和3年10月15日改訂版)」11頁

※15
補償契約は、その性質上、役員等の職務執行の適正性に影響を与えるおそれがあり、また、補償契約には、利益相反性が類型的に高いものもあるため、その内容は株主にとって重要な情報であると考えられることから(令和元年改正会社法の解説〔Ⅳ〕(旬刊商事法務2225号))、事業報告及び株主総会参考資料上の記載が求められています。

※16
改正会社法施行規則121条3号の2ないし4、125条2号ないし4号、126条7号の2ないし4

※17
改正会社法施行規則74条1項5号、74条の3第1項7号、75条5号、76条1項7号及び77条6号

※18
改正会社法施行規則119条2号の2、121条の2

※19
改正会社法施行規則74条1項6号、74条の3第1項8号、75条6号、76条1項8号及び77条7号

※20
D&O保険においては、被保険者の範囲に関する概括的な情報及びD&O保険の内容の概要(適正性確保措置を講じているときはその内容を含む。)の事業報告での開示が求められますが、保険金額、保険料又は保険給付の金額については開示すべき事項に含まれていません。

※21
パブコメ回答(会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について)第3の1(4)ア②

※22
補償契約に関する記載内容としては、「会社法430条の2第1項1号の費用及び2号の損失を法令の定める範囲内において補償する補償契約を締結・再任時に継続予定」とのみ記載している事例が大多数です。なお、会社法施行規則で求められてはいないものの、株主総会参考書類において適正性確保措置について言及している事例も存在します。

※23
役員等において合理的に入手することができ、当該費用の前払いの必要性及びその範囲を判断するために合理的に必要な書類及び情報を含めることが考えられますが、補償請求時の提出書類として、弁護士と依頼者との間の秘匿特権等を侵害するおそれのある内容を含む書類又は情報までは提出を求めるべきではないとされています(会社補償の実務に関する検討会「会社補償実務指針案(令和3年10月15日改訂版)」26頁)。

※24
2021年3月1日から9月30日までの期間に定時株主総会を開催した上場会社について、補償契約を締結している旨を記載している事例についていえば、半数以上の事例で、適正性確保措置についても記載しており、補償契約を締結する場合には、適正性確保措置を併せて講じる会社が多い傾向にあるとの分析があるところ(太田洋ほか「補償契約における適正性確保措置の事例分析」(資料版商事法務452号))、この傾向は2021年10月以降2022年3月までの期間に定時株主総会を開催した上場会社に関しても維持されていると考えられます。

※25
会社補償の実務に関する検討会「会社補償実務指針案(令和3年10月15日改訂版)」12頁

※26
会社補償の実務に関する検討会「会社補償実務指針案(令和3年10月15日改訂版)」27頁

※27
山越誠司「会社補償とD&O保険の発展の方向性─両制度の関係性の検証を前提として─」(旬刊商事法務2261号)

※28
会社補償の実務に関する検討会「会社補償実務指針案(令和3年10月15日改訂版)」26頁。なお、米国会社補償契約においては、経営権の移転に際しての新役員から旧役員への責任追及の場合において、旧役員に対する補償を確保するために、経営権の移転(change in control)が生じた場合に備えた手続規定が置かれることが多く、わが国における補償契約についても、かかる規定を置くことも考えられます。

※29
補償契約制度が射程とするのは、「役員等が、その職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における」損失であり、役員等が損害賠償責任を負うことを認めるものでない和解の場合や、会社と役員等の両者が同一事案で第三者から請求等を受けた場合で、第三者との紛争を解決する目的等の経営判断で会社が支払い義務者として一括して和解金を支払う場合については、射程外となると考えられます(会社補償の実務に関する検討会「会社補償実務指針案(令和3年10月15日改訂版)」15頁)。

※30
この場合には、仮に義務的補償の建付けを採っていたとしても、当該和解金が会社補償の対象となるためには会社側の同意を要するため、会社が同意をするか否かの判断を通じて会社補償の対象とするか否かを判断することになる点で、実質的には義務的補償とはいえないことになります。

※31
会社補償の実務に関する検討会「会社補償実務指針案(令和3年10月15日改訂版)」28頁

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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