
佐々木将平 Shohei Sasaki
パートナー/オフィス代表
バンコク
NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報
本ニュースレターの概要をPodcastで配信しています。
The NO&T Podcast – JP
「公開会社法の改正・民商法の改正に関する動向(タイ)」
2022年5月23日付で公開会社法の改正法(Public Limited Companies Act (No.4) B.E. 2565 (2022))が官報に掲載され、5月24日付で施行された。改正法においては、公告、書面交付手続の電子化等、公開会社(public limited company)の運営の円滑化・効率化のための各種措置が講じられている。
改正法における主要な改正事項は、以下の通りである。
改正前の公開会社法においては、公開会社における公告は新聞公告によるものとされており、少なくとも連続3日間、地元のタイ語日刊新聞に掲載すること、また、当該地元紙が存在しない場合には、バンコクのタイ語日刊新聞に掲載することが求められていた。
改正法の下では、従来の方法である新聞公告の他に、電子的方法による公告も認められることとなった。具体的な公告方法は、下位規則により定められることとなっており、現在公表されている下位規則案によれば、自社、オンライン新聞、証券取引委員会等のウェブサイトに掲載する方法によることが認められている。
改正前の公開会社法においては、公開会社が第三者に対して書簡又は文書を交付する義務を負っている場合、当該書簡又は文書の交付は、①本人又はその代理人に直接手交するか、②本人の記録上の住所又は居住地に対して書留郵便で送付する必要があった。
改正法の下では、公開会社又はその取締役会が、取締役、株主又は債権者に対して書簡又は文書を交付する場合には、上記の方法に代えて、電子的方法により行うことも認められることとなった。但し、上記の受領者が、電子的方法による交付を希望する旨申告し、又は、同意していることが条件となる。
コロナ禍の影響を受けて2020年に制定された電子的方法による会議に関する緊急勅令(Emergency Decree on Electronic Meetings B.E. 2563 (2020))に基づき、株主総会及び取締役会は、一定の要件の下で、電子的方法によるオンライン開催が認められている。改正法は、公開会社の株主総会及び取締役会についても、オンライン開催が認められることを明確化した。オンライン開催にあたっては、①上記緊急勅令及びその他の法令に従って開催されること、及び、②当該公開会社の定款において特別な制限が設けられていないことが条件とされている。また、電子取引開発機構(ETDA)のウェブサイトに掲載されているFAQにおける回答によれば、実開催とオンラインを組み合わせたハイブリッドでの開催も認められている。
また、株主総会のオンライン開催が許容されたことに伴い、株主総会における委任状も、安全性及び信頼性の担保のための一定の要件を充たすことを条件に、電子的方法によることが認められることとなった。
改正前の公開会社法においては、取締役会の招集手続は、議長が自ら招集するか、又は、少なくとも2名の取締役が共同で議長に対して招集を請求し、議長が請求日から14日以内に招集するものと定められていた。しかし、何らかの事情で議長が取締役会を招集できない場合、又は、議長が他の取締役からの請求通りに会議を開催しない場合の取扱いについては、明文規定が存在せず、取締役間で意見対立や紛争が発生している状況において、公開会社の意思決定に支障が生じうる状況となっていた。
かかる問題を踏まえ、改正法の下では、以下の改正が行われている。
改正前の公開会社法においては、取締役会の招集通知は会議の7日前までに行うことが求められていたが、改正法においては、当該期間が3日に短縮された。また、会社の権利利益を保護するために必要又は緊急の場合には、他の手段により、かつ、より短期の通知期間で、取締役会の招集を行うことも認められている。
公開会社法は公開会社(主として、上場会社又は上場を目指す会社に利用される会社形態)に適用されるものであるが、多くの日系企業の子会社や合弁会社において採用されている会社形態である非公開会社(private limited company)は、民商法(Civil and Commercial Code)により規律されており、今回の改正の対象外となる。そのため、今回の法改正が、日系企業に対して及ぼす影響は限定的と言える。もっとも、今回の改正の趣旨の多くは非公開会社にも妥当するものであり、将来的には、民商法においても同様の改正が行われる可能性はありうると思われる。民商法については、(実際の法改正に至るまでには長期間を要しているものの)各種改正が検討されているところで(NO&T Asia Legal Update No.89「民商法改正案に関する閣議承認」)、当事務所としても注視しており、今後も、積極的に情報発信を行っていきたい。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
(2025年4月)
三笘裕、伊藤環(共著)
(2025年4月)
宮下優一
酒井嘉彦
商事法務 (2025年4月)
長島・大野・常松法律事務所 農林水産・食品プラクティスチーム(編)、笠原康弘、宮城栄司、宮下優一、渡邉啓久、鳥巣正憲、岡竜司、伊藤伸明、近藤亮作、羽鳥貴広、田澤拓海、松田悠、灘本宥也、三浦雅哉、水野奨健(共編著)、福原あゆみ(執筆協力)
(2025年4月)
宮下優一
商事法務 (2025年4月)
長島・大野・常松法律事務所 農林水産・食品プラクティスチーム(編)、笠原康弘、宮城栄司、宮下優一、渡邉啓久、鳥巣正憲、岡竜司、伊藤伸明、近藤亮作、羽鳥貴広、田澤拓海、松田悠、灘本宥也、三浦雅哉、水野奨健(共編著)、福原あゆみ(執筆協力)
(2025年3月)
石原和史
(2025年4月)
逵本麻佑子(コメント)
(2025年4月)
関口朋宏(共著)
殿村桂司、松﨑由晃(共著)
大久保涼、伊佐次亮介、小山田柚香(共著)
服部薫、塚本宏達、近藤亮作(共著)
酒井嘉彦
(2025年4月)
梶原啓
(2025年3月)
金田聡
(2025年3月)
石原和史
今野庸介
(2025年3月)
中翔平
箕輪俊介
(2025年1月)
箕輪俊介、ヨティン・インタラプラソン、ポンパーン・カターイクワン、ノパラック・ヤンエーム、プンニーサー・ソーンチャンワット、サリン・コンパックパイサーン(共著)