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株主意思確認総会における株主の賛成多数を確認して発動された有事導入型買収防衛策の対抗措置としての新株予約権無償割当てについて差止命令が出された事例

NO&T Corporate Legal Update コーポレートニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 近時、買収防衛策に関する裁判例が相次いで出されていますが、今回、市場で株式を買い集めた買付者が、他の関係者と「共同協調行為」(後記3.(1)③参照)をとったとして、有事導入型買収防衛策を導入し、株主意思確認総会で株主の賛成多数を確認の上、対抗措置として発動された新株予約権無償割当てに対して差止命令が出される事案※1(「本事案」)がありました。本事案は、従来の裁判例の考え方の枠組みの範囲内ではあるものの、有事導入型買収防衛策に基づく対抗措置の安易な発動に対して警鐘を鳴らすものであり、実務的な意義があるのでご紹介します。また、この事案では、アクティビスト株主が用いるいわゆる「ウルフパック戦術」についても論点となっており、その点でも参考になると思われます。

2. 本事案の事実経過

 本事案は、東証スタンダード市場の上場会社(「M社」)の株式を市場内で買い集め、持株比率(自己株式を除く。以下同じ。)約7%を保有するに至った特定の有限責任事業組合(「A組合」)に対して、M社が、A組合がその元組合員その他の関係者※2(「A組合関係者」)と実質的に共同して持株比率合計21.63%を取得するに至ったとして、取締役会決議により有事導入型買収防衛策(「本防衛策」)を導入し、A組合及びA組合関係者が「大規模買付行為等」に該当する「共同協調行為」をしたとして、同買収防衛策に基づく差別的行使条件付新株予約権無償割当て(「本対抗措置」)の実施を決定したところ、A組合が本対抗措置の差止めを求めて大阪地裁に仮処分申立てをした事案です。M社は、本対抗措置の発動に関して定時株主総会において株主の賛成多数を得ましたが、裁判所は本対抗措置の差止めを命じました。裁判所が認定した詳しい事実関係は以下のとおりです。

2021年7月30日~2022年3月31日
A組合、2021年7月30日から市場内で買い集めを進め、同年9月16日にM社の5.04%の株式取得※3。以降も買い集めを継続し、同年10月4日頃までに持株比率7.01%まで上昇。同日以降は、株式の買増しは行っていない。
また、A組合関係者も2021年10月1日頃~2022年3月31日頃にかけてM社株式を取得。2022年3月31日時点での持株比率はA組合及びA組合関係者合計で21.63%。
2022年2月22日
A組合、M社に対して臨時株主総会の招集請求。取締役3名の解任及び新取締役3名の選任などを求める。
3月8日
A組合、M社が臨時株主総会の招集を拒否したため、大阪地裁に臨時株主総会招集許可の申立て。その後M社が臨時株主総会を招集したため申立てを取下げ。
3月16日
M社、基準日を同月31日とする基準日設定公告。
3月25日
M社、A組合に対して質問事項を記載した書面(「本質問状」)を送付。
4月8日
M社、取締役会においてA組合が求める各議案を決議事項とする臨時株主総会を5月12日に開催する旨を決定すると共に、A組合による臨時株主総会への提案議案への反対、本防衛策の導入、独立委員会の設置及び独立委員会委員3名(いずれもM社社外取締役)の選任を決議。また、A組合に対して、本防衛策に基づく意向表明書の提出を求める旨の書面を送付。
4月22日
A組合、臨時株主総会議案に賛成する株主を募るため、M社の株主に対して、「株式会社M社株主委任状勧誘担当事務局」の名称を用いた委任状勧誘書類の郵送を開始。
4月24日
A組合、M社定時株主総会に、新取締役の選任の株主提案を実施。
4月26日
A組合、M社に対して回答書を送付。A組合は回答書において、①A組合関係者は本防衛策における「特定株主グループ」(脚注5参照)に該当せず、大規模買付行為等も開始していないので、意向表明書の提出は要しない旨の反論、②M社が本質問状を公開したが、その中で虚偽事実を摘示しているとして厳重抗議、③M社が株主名簿の任意開示の前に、株主に対して委任状勧誘書類を送付したことへの厳重抗議。
5月2日
M社、A組合に対して、「株式会社M社株主委任状勧誘担当事務局」の名称を用いた委任状勧誘をしないよう警告。
5月6日
M社、A組合が同代理人弁護士を通じて「1株4,000円~5,000円で株を買い取る」旨の提案※4をM社株主にしているとして、その停止を求めて警告。
5月9日
M社、上記回答書の受領とその内容をホームページ上で公表。
A組合、①「株式会社M社株主委任状勧誘担当事務局」の名称は用いない旨の通知、②株主に対する株式買取りの提案はしていない旨の厳重抗議、③株式を買い進める予定がないことを表明。
5月12日
M社臨時株主総会において、株主提案はいずれも否決(賛成割合約46%)。
5月18日
M社、取締役会において、無償割当ての効力発生日を7月29日とした本対抗措置の発動、及び定時株主総会において本対抗措置の発動に係る株主意思確認を行う旨を決議。
6月6日
A組合、大阪地裁に本対抗措置の差止仮処分を求めて申立て。
6月14日
M社、個人株主N氏(A組合の組合員)及び法人株主4社を独立委員会の勧告を踏まえて、本防衛策における「非適格者」に認定し、その旨を公表。
6月22日
A組合、定時株主総会への株主提案を撤回。また、M社が大規模買付行為等と主張する各行為を全て撤回する旨も通知。
6月24日
M社定時株主総会において本対抗措置の発動が賛成多数で可決(賛成割合約54%)。
6月30日
A組合、A組合関係者及び個人株主N氏の持株比率が合計19.78%に減少。
7月1日
大阪地裁、本対抗措置の差止仮処分を決定。
7月6日
M社、保全異議の申立て。
M社、「非適格者」認定した株主5名のうち個人株主N氏を除く4社の認定を撤回すると共に、A組合が6か月間、大規模買付行為等を行わず、かつ、臨時株主総会招集請求を行わない場合には、本対抗措置の発動を中止する旨をA組合及びその関係者に通知。
7月11日
大阪地裁(保全異議審)、原々審の差止仮処分決定を認可。
7月14日
M社、保全抗告の申立て。
7月21日
大阪高裁、保全抗告を棄却。
M社、許可抗告の申立て。
7月28日
最高裁、許可抗告を棄却。
M社、本対抗措置の中止を決定。
7月29日
A組合、M社に対して臨時株主総会の招集請求。本防衛策の廃止、取締役3名の解任、新取締役の選任などを求める。

3. 本事例の有事導入型買収防衛策

 M社の本防衛策は、東京機械製作所やその他の事例で導入されたものをほぼ踏襲したものでした。本防衛策及び本対抗措置のうち、裁判所の決定との関係で重要なものを採り上げると、以下のとおりです。

(1) 本防衛策の対象となる「大規模買付行為等」の定義

  • ① 特定株主グループ※5の議決権割合を20%以上とすることを目的とする株券等の買付行為
  • ② 結果として特定株主グループの議決権割合が20%以上となるような株券等の買付行為
  • ③ 上記①若しくは②に規定される各行為の実施の有無にかかわらず、特定株主グループが、他の株主との間で行う行為であり、かつ、当該行為の結果として当該他の株主が当該特定株主グループの共同保有者に該当するに至るような合意その他の行為、又は当該特定株主グループと当該他の株主との間にその一方が他方を実質的に支配し若しくはそれらの者が共同ないし協調して行動する関係を樹立するあらゆる行為※6(但し、当該特定の株主と当該他の株主の株券等保有割合の合計が20%以上となるような場合に限る。)(「共同協調行為」)

※「大規模買付者」とは、かかる大規模買付行為等を自ら単独で又は他の者と共同ないし協調して行う又は行おうとする者をいいます。

(2) 本対抗措置の概要

 本対抗措置として株主に無償割当てされる新株予約権は、一般の株主はその行使によって普通株式を取得できるのに対して、大規模買付者を含む「非適格者」は新株予約権を行使できないという差別的行使条件が付されていました。また、この新株予約権は、他の有事導入型買収防衛策と同様に、取得条項に関していわゆる「第2新株予約権」方式がとられていました。具体的には、一般の株主が保有する新株予約権は、取締役会が定める日に普通株式を対価として会社に取得される旨が定められている一方で、「非適格者」が保有する新株予約権については、第2新株予約権を対価として取得される旨が定められていました。そして、第2新株予約権は、①大規模買付者が大規模買付行為等を中止又は撤回し、②大規模買付行為等を実施しないことを誓約して保有株式を処分した場合であって、かつ、③大規模買付者の持株比率が21.63%※7を下回っているときに限り、持株比率が21.63%を下回る範囲でのみ行使可能とされ、第2新株予約権の交付日から10年を経過する日以降も行使されなかった分については、同新株予約権の取得時点の公正価格に相当する金銭にて取得することができるとされていました。このように、本対抗措置における新株予約権の設計は、「非適格者」について、本防衛策導入時以降の取得分について希釈化を生じさせるおそれがあるものでした。

(3) 「非適格者」の範囲

 本対抗措置における「非適格者」は、以下のいずれかに該当する者とされていました。

  • (i) 大規模買付者※8
  • (ii) 大規模買付者の共同保有者(金商法27条の23第5項及び第6項)
  • (iii) 大規模買付者の特別関係者(同法27条の2第7項)
  • (iv) 取締役会が独立委員会による勧告を踏まえて以下のいずれかに該当すると合理的に認定した者

    • (x) 上記(i)から本(iv)までに該当する者からM社の承認なく本新株予約権を譲り受け又は承継した者
    • (y) 上記(i)から本(iv)までに該当する者の「関係者」※9

4. 争点と裁判所の判断

 本事案における争点は、大きく分けると、次の2点でした。

  • (i) 買収防衛策導入後には追加の株式取得をしておらず、またその意向もない旨を表明している買付者に対しても買収防衛策に基づく対抗措置の発動は許容されるか(争点1)
  • (ii) 本対抗措置による新株予約権無償割当ては不公正な方法によるものか(争点2)

(1) 争点1(買収防衛策導入後には追加の株式取得をしておらず、またその意向もない旨を表明している買付者に対しても買収防衛策に基づく対抗措置の発動は許容されるか)

 本事例においては、A組合は、2021年10月4日以降M社株式を取得しておらず、また、本防衛策公表後・本対抗措置発動の決定前の2022年5月9日には追加取得の予定がないことを表明していました。そのため、A組合は、裁判の過程でも「大規模買付行為等」がないのだから、意向表明書は不要であり、本対抗措置の発動も不当である旨の主張をしていました。これに対して、裁判所は、A組合による買付行為は行われていないと認めつつ、一貫して、A組合及びA組合関係者による「共同協調行為」があり、それをもって「大規模買付行為等」があったと認めたM社の判断が不合理であったとはいえないとしました。

(2) 争点2(本対抗措置による新株予約権無償割当ては不公正な方法によるものか)

 本対抗措置による新株予約権無償割当てが不公正な発行に該当するか否かについて、非常に概括的に説明すると、本事案の一連の裁判所の決定は、①本対抗措置の必要性を判断した後に、②本対抗措置の相当性を判断しています。そして、①の判定に際しては株主意思確認総会が開催されている場合には、その判断の正当性が失われるような事情が認められない限りその意思を尊重すべきとしています。これは、基本的にはブルドックソース最高裁決定(最決平成19年8月7日民集61巻5号2215頁)以降の裁判例の判断枠組みを採用しているといえます。具体的な判断内容は以下のとおりです。

① 本対抗措置による対応の必要性

 原々審決定では、本防衛策が、A組合による株式取得後に導入されたもので、A組合に不意打ちとなるおそれのあるものであり、A組合が追加的な買付行為を行っていない状況において共同協調行為が認定された場合には、A組合及びA組合関係者が本対抗措置による不利益を回避するためには、共同して対応しなければならず、かつ、いかなる行動をとれば不利益を回避できるのかも問題となるという点は認めましたが、買収者自身による新たな買付行為がない場合であっても企業価値が棄損され、株主共同の利益の保護の必要がある場合には買収防衛策の導入も許容され、また、複数の株主による会社の経営支配権取得を目的とする行為も対象とされるべきとしました。その上で、買収防衛策が現経営陣の経営支配権の維持のためのものである場合には、経営権の取得目的が濫用的なもので、その結果対象会社の企業価値に重大な悪影響が及ぶ等買収防衛策を正当化するに足る特段の事情のない限り、著しく不公正な方法によるものと解すべきであり、現に経営支配権を巡って争いがある中では、株主共同の利益を維持する観点から、買収者側の持株比率の低下を招来しても対応策を導入する必要があり、かつ、そのための手段として差別的条件付の新株予約権の無償割当てを行うことの相当性が認められるときに限り、著しく不公正な方法にはあたらないとしました。そして、株主共同の利益維持の観点の判断に際しては、対応方針の目的の合理性のほか、株主意思確認総会が開催されている場合には、その判断の正当性を失わせるよう事情が認められない限り、その意思を尊重すべきとしています。本事案の各審級でもこの判断枠組みを採用しました。

 その上で、裁判所は、本事案における具体的な当てはめとして、M社に関する経営支配権を巡る争いがあったと認定した上で、A組合からは、経営権取得後の経営方針として明確なものが示されていたとはいえず、本対抗措置によって、株主に大規模買付行為等の適否を検討する時間的余裕と情報を提供させようとすることは合理的であり、また株主意思確認総会でも新株予約権無償割当てが賛成多数で可決されていることから、株主共同の利益の維持の必要性を認定しました。

② 新株予約権無償割当て(対抗措置)の相当性

 他方で、裁判所は、大要以下の理由により、本対抗措置が相当性を欠くとして、結論として、新株予約権の無償割当てが不公正なものと判断しました。

(i) 大規模買付行為等の撤回方法が以下の点において相当性を欠くこと

 大規模買付行為等の撤回をした場合には、本対抗措置が中止されるところ、裁判所は、以下の点でM社が提示した大規模買付行為等の撤回方法が相当性を欠くとしました。

  • M社は、A組合及びA組合関係者を「大規模買付行為等を行った」と認定する一方で、本件審理の中で明らかにするまで大規模買付行為等の撤回方法を通知しておらず、A組合からすると、撤回方法についての明確な認識を持つことができなかったこと
  • M社が提示する撤回方法(以下に列挙)は、A組合及びA組合関係者の議決権等の共益権を大幅かつ長期間に制限するほか、株式譲渡も禁止するもので、一般株主に大規模買付行為等の適否を検討する時間的余裕と情報を提供させようとする目的から大きく逸脱しており、現経営陣の経営支配権の維持という結果を招来させるものであること

    • A組合及びA組合関係者が本防衛策に定める手続きを遵守せずに大規模買付行為等を実施したことを認めること
    • A組合及びその関係者が以下の内容の誓約書を提出すること

      • 大規模買付行為等を行わないこと(非適格者との関係解消を含む。)
      • A組合が保有する株式を、M社の事前承諾なく第三者にブロックで譲渡しないこと
      • 当面(例えば2023年6月開催の定時株主総会が終結するまでの間。以下同じ。)、株主提案・臨時株主総会の招集請求を行わないこと
      • 当面、株主総会における委任状勧誘を行わず、他の株主の委任状勧誘に応じないこと
      • 当面、他の株主の株主提案に賛成しないこと
      • その他経営権奪取を企図する一切の行為を行わないこと
  • 上記はA組合関係者も対象としているが、A組合がA組合関係者を支配しているような関係にあるものとまでは認められない上、A組合はA組合関係者が「特定株主グループ」に該当しないことを表明しており、M社としてもA組合が上記のような撤回方法を許容する見込みは極めて少ないものと判断していると見受けられること
(ii) 本対抗措置としての新株予約権における「非適格者」の認定方法が相当性を欠くこと

 本対抗措置により不利益を受けるおそれのある「非適格者」の認定方法に関して、裁判所は、以下の点で相当性を欠くと判断しました。

  • 非適格者として認定された株主のうち個人株主N氏を除く4社については、臨時株主総会において委任状勧誘に応じたこと等を主な理由として「共同協調行為」と一方的に認定したが、かかる認定は「共同協調行為」の判断基準から逸脱しており、経営陣による支配権維持に反対した株主が、その投票行動の結果株主権が大幅に制限される結果を招来しかねず、現経営陣の経営支配権の保持目的を示すものであること。
  • 本防衛策においては、「共同協調行為」は「あらゆる行為」が含まれており、包括的な規定であるところ、根拠薄弱・恣意的な運用となるおそれがあり、それを担保する目的で独立委員会の設置・勧告が予定されていたが、独立委員会の判断内容は公表されておらず、独立委員会が恣意性を排除するためにどのような配慮・措置をしたのか明らかでないこと。

 なお、大阪地裁(原々審)による仮処分決定後、M社は、大規模買付行為等の撤回方法(6か月間、大規模買付行為等を行わないこと及び臨時株主総会の招集請求を行わないことに関する誓約書の提出のみ求める)及び非適格者の範囲を見直しましたが、大阪地裁(保全異議審)は、かかる撤回方法の変更によって結論は左右されないとしています。また、大阪高裁は、見直し後の撤回方法についても、A組合らの持株比率が6月末時点で20%を下回っていることを踏まえると、その合理性があるとし、さらに、非適格者の認定は、その後の範囲の縮減にかかわらず、株主意思確認総会において萎縮効果をもたらすものであったのであり、これが見直されても直ちに問題が解消されたとはいい難い、と指摘しています。

5. 本事案の検討~「ウルフパック戦術」が争われた事案としての側面

 本事案は冒頭で述べたとおり、有事導入型買収防衛策に基づく対抗措置の安易な発動に対して警鐘を鳴らすものということができますが、もう一つの側面としては、会社側がいわゆる「ウルフパック戦術」※10を主張する中で、「共同協調行為」や「非適格者」が争われた、という点に注目されます。決定文からは必ずしも明らかとはなっていない事実関係もありますが、以下、この点を検討します。

(1) 「共同協調行為」の認定

 裁判所は、A組合とA組合関係者について「共同協調行為」があったとしたM社の判断自体は不合理ではないとしました。具体的には、裁判所は、A組合の元組合員である会社やその会社の役員、A組合の組合員である会社の代表取締役が、代表取締役を務める別の会社等を「A組合関係者」と認め、A組合関係者がA組合と同時期にM社の株式取得を開始したこと、A組合関係者がA組合の委任状勧誘に応じていることなどを摘示し、本防衛策上、「共同協調行為」の判定に際して「新たな出資関係、業務提携関係、取引ないし契約関係、役員兼任関係、資金提供関係、信用供与関係、デリバティブや貸株等を通じたM社の株券等に関する実質的な利害関係等の形成や、当該特定株主グループ及び当該他の株主がM社に対して直接・間接に及ぼす影響等を基礎として行う」とされていたことを重視して、A組合とA組合関係者にはそのような関係を認めています。買付者との関係性が本事案よりも緩やかな関係性に留まる場合に、どこまで共同協調行為が認定されるのかは明らかではありませんが、今後の実務の参考になると思われます。

(2) 「非適格者」についての検討

 裁判所は、M社が、A組合及びA組合関係者以外の特定の株主5名を「非適格者」と認定したことについては、上記4.(2)②(ii)のとおり、相当ではないと判断しました。M社のプレスリリースによれば、M社は、これら5名がいずれも2021年10月1日から、つまりA組合及びA組合関係者と近接するタイミングで開始して、2022年3月31日までに相当数(5名合計で14.4%)のM社株式を取得し、さらに臨時株主総会で株主提案に賛成した旨が主張され、また、このうち一部の株主は同年4月1日から5月31日までの間に株式の買増しを行ったと主張し、A組合との共同協調行為を疑って本防衛策における「非適格者」に認定したのでした。

 しかし、事前警告型又は有事導入型買収防衛策の目的は、大規模買付行為等がされる場合に、株主にその是非を判断するための適切な時間及び情報を提供するためのものです。本防衛策が導入されたのは4月8日ですが、上記のプレスリリースを前提とすると、その時点では5名の株主による取得行為の大半は既に行われていました。そうだとすると、これら5名が、単に、A組合に協調的な(=経営陣に反対する)投票行動をとったことを契機として、持分の希釈化を伴う本対抗措置の対象とすることは、本防衛策の目的を超えているといわれてもやむを得ない部分もあり、また、他の株主の投票行動に対して萎縮効果をもたらし、経営陣が株主総会の議決結果に影響を及ぼすことが可能となるという側面からは、会社機関の権限分配秩序論から問題が大きいと思われます。

 他方で、大規模買付者と特定の関係性を有する株主が、会社支配権の争いがある場面で大規模買付者の委任状勧誘に応じた上で、市場での買増しを進めていた場合には、株主による共同協調行為があったとみる余地もないわけではないと思われます。いわゆる「ウルフパック戦術」への対抗は一般論としては疎明・立証上の困難がしばしば指摘されますが、本事案においては、「共同協調行為」を行ったA組合関係者については比較的形式的に認められ、かつ、M社が「非適格者」と認定した株主のうち、A組合の組合員である個人株主N氏については「非適格者」の認定が必ずしも不当とされていない点は、注目に値します。

 また、裁判所は、M社による「非適格者」の認定について、本防衛策に定める「共同協調行為」の認定基準(脚注6参照)に沿っておらず、認定も一方的だったこと、また、勧告をしたとする独立委員会における判断内容・経緯、また、公正性担保のための措置も明らかでないと指摘しています。いうまでもなく認定基準の明確化や独立委員会の判断の透明性・公平性確保も重要と考えられます。その他、「ウルフパック戦術」は、大規模買付者と共同協調行為を行う株主との間に支配従属関係が必ずしも存在しないところ、対抗措置の撤回に当たって、どの範囲の株主にいかなる対応を求めるのか、といった課題も多数ありますが、本事案はその先行事例として意義があるものと思われます。

6. 終わりに

 本事案は、有事導入型買収防衛策が、市場での買増しが進んでいた場合には効果を発揮しにくいことを改めて示すものになりました。特に、時価総額が比較的小さな上場企業の場合には、買付者が市場での買増しにより短期間で相当数の株式を取得することも可能であるため、有事導入型買収防衛策を導入した時点で既に決着が付いている場合も考えられます。一般論として買収防衛策は機関投資家の賛同を非常に得にくい状況になっていますが、個社の状況によっては事前導入型買収防衛策を定めておくことにより、結果として、長期的・持続的な経営を守り、株主利益になるケースもあると考えられるため、それが適切な場合には、他のコーポレートガバナンスの施策と併せて株主に十分説明の上、整備を試みることも一つのアプローチとして考えられるように思われます。

脚注一覧

※1
最決令和4年7月28日(許可抗告審)・大阪高決同月21日(保全抗告審)・大阪地決同月11日(保全異議審)・大阪地決同月1日(原々審)

※2
W社(A組合の元組合員)、H氏(W社の代表取締役)、C社(同社の代表取締役がA組合の組合員の代表取締役)、S社(代表社員がW社の監査役であるほか、C社の元取締役がS社の元代表社員)。

※3
なお、A組合が大量保有報告書を提出したのは2022年3月11日であり、金商法上の提出期限を徒過していました。

※4
裁判所は、当該買取りの提案を行ったか否かについては当事者間に争いがあるとして認定しませんでした。

※5
特定株主グループとは、(i)株式保有者及びその共同保有者、(ii)株式の買付け等を行う者及びその特別関係者並びに(iii)上記(i)又は(ii)の者の関係者(アドバイザー等としてM社の取締役会が合理的に認めた者を併せたグループを含む。)を意味するとされていました。

※6
この協調関係が樹立されたか否かの判定は、新たな出資関係、業務提携関係、取引ないし契約関係、役員兼任関係、資金提供関係、信用供与関係、デリバティブや貸株等を通じたM社の株券等に関する実質的な利害関係等の形成や、当該特定株主グループ及び当該他の株主がM社に対して直接・間接に及ぼす影響等を基礎として行うものとされていました。

※7
本防衛策導入時点のA組合側の持株比率(としてM社が把握している)と同じ割合。

※8
本事案では、A組合及びA組合関係者(脚注2参照)が大規模買付者として認定されました。

※9
「関係者」とは、これらの者との間にフィナンシャル・アドバイザリー契約を締結している投資銀行、証券会社その他の金融機関その他これらの者と実質的利害を共通にしている者、公開買付代理人、弁護士、会計士その他のアドバイザー若しくはこれらの者が実質的に支配し又はこれらの者と共同ないし協調して行動する者をいうとされ、また、組合その他のファンドに係る「関係者」の判定においては、ファンド・マネージャーの実質的同一性その他の諸事情が勘案される、とされていました。

※10
本事案の原々決定では、「ウルフパック戦術」とは、「複数の株主が協調関係にあるものの、それを隠匿した上で、時機を見て一斉に対象会社に攻勢をかけ、その要求を実現させるものを指す」としています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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