
中翔平 Shohei Naka
アソシエイト
バンコク
NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報
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The NO&T Podcast – JP
「民商法の会社法制に関する改正(タイ)」
2022年9月14日に民商法の会社法制に関する改正法(以下「本改正法」という。)が成立した※1。本改正法は、国王の署名を経た後、官報に公告された日の翌日から90日経過後に正式に施行される。本稿脱稿時点で本改正法の公告はまだなされていないが、2023年初旬までには本改正法が施行されることが見込まれている。本稿では、本改正法のうち実務上重要と考えられる事項につき、その概要と留意点を概説する。
現行の民商法では、非公開会社の設立には、3名以上の発起人(個人であることを要する。)が必要であり、また、会社設立後、株主数が3名未満になることが非公開会社の解散事由となっている。本改正法では、非公開会社の設立の際の発起人の最低人数が2名となり、これに合わせて、非公開会社の解散事由も株主数が1名になった場合とする改正がなされた。現行の民商法下では、日系企業がタイに現地法人を設立する際には、タイの合弁パートナーに加えて、現地法人の役員らに1株の株式を保有させるアレンジが通常であったが、本改正法の下では、そのようなアレンジは不要となる※2。また、実務上、タイの現地法人の買収案件では、買主の要望に応じて、クロージング時に売主が1株保有株主からその保有する株式を一次的に買い取る、又は、1株保有株主が買主の指名する譲受人に対して直接株式を売却するといったアレンジを行う必要があり、株式売買契約においてもその内容を規定することが通常であったが、本改正法の施行後は、1株保有株主が不要となり、このような対応を省略することが可能となる。
現行の民商法では、株主総会の定足数を満たすためには、資本金の4分の1に相当する株式を有する株主の出席が必要とされているのみで、最低出席株主数に関する要件は課されていなかった。もっとも、現行の民商法下でも、判例上、株主総会の定足数を満たすためには、自ら又は代理人を通じて2名以上の株主が出席することが必要であると考えられており、当局が公表しているルーリング(当局が示す一般的な解釈指針をいう。)でも、その旨が示されていた。本改正法は、かかる判例・当局のルーリングを明文化したものと考えられる。上記1のとおり、本改正法により、株主を2名とした非公開会社を維持することも可能となったが、この場合、合弁会社の合弁パートナーが株主総会を欠席したときには、株主総会を開催できないという不都合が生じることになる。とりわけ、自ら単独で株主総会を決議できる株式を保有しているにも拘わらず、マイナー株主である合弁パートナーが、株主総会を欠席することによって、事実上、拒否権を行使することも可能となってしまう。そのため、本改正法の施行後であっても、自らが選任した非公開会社の取締役やグループ会社に株式を持たせることで、合弁パートナーが株主総会に欠席した場合の不都合を回避することが考えられる。
現行の民商法では、非公開会社は、株主総会の7日前(特別決議を要する場合は14日前)までに、各株主に対して書面により招集通知を行い、かつ、新聞公告を行うことが求められていた。本改正法では、無記名式株券を発行する場合を除き、株主総会の招集に関する新聞公告を行うことが不要となった。本改正法により株主総会の招集に関する新聞公告を行うための所要の事務手続を省くことができる点で実務上一定の意義があると考えられる。もっとも、一般的に、非公開会社の定款には、現行の民商法の規定に従い、株主総会の招集のために招集通知及び新聞公告を行う旨が規定されていることが通常であるため、このような規定が残存する限り、本改正法の施行後も新聞公告を行うことが求められると考えられる。そのため、実際に本改正法に従って新聞公告の手続を省略するためには、本改正法の施行後最初の株主総会において新聞公告の要件を撤廃するための定款変更を行う必要がある場合がある点に留意されたい。
現行の民商法では、合併当事会社の権利義務関係を全て新規に設立される会社に承継させる新設合併のみが認められており、合併当事会社のいずれかが合併後も残存する吸収合併の制度は認められていなかった。本改正法では、従来の新設合併に加えて、吸収合併による合併を認める改正がなされた。新設合併を行う際には、新設会社の設立手続や両合併当事会社において、外資規制・業法上のライセンスの移転及び労働契約の承継に係る労働者の同意※3の取得の手続等を行う必要があった。吸収合併による合併が認められれば、法的な観点からは、合併当事会社が保有するライセンスの移転の煩雑さや労働者の移転の数等を踏まえて、いずれの合併当事会社を存続会社として残すか等柔軟な検討が可能になると考えられる。
また、本改正法の下では、合併反対株主の株式買取制度が新設された。加えて、合併当事会社による共同株主総会の決議及び当該共同株主総会の定足数・決議要件等に関する事項も新たに規定されている。これらは新設合併及び吸収合併のいずれにも適用される。
現行の民商法上、明示的にビデオ又は音声等のオンラインによる取締役会の開催を認める規定は存在しないものの、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機として発付された2020年4月19日付緊急勅令その他の関連する規則(以下「本緊急勅令等」という。)に基づき、一定の要件の下、オンラインにより取締役会を開催することが認められている。本改正法では、民商法上、本緊急勅令等に従い、オンラインにより取締役会を開催することができる旨を明確にする改正がなされた※4。
現行の民商法では、株券の作成の際に会社印の押印は求められていなかった。もっとも、本改正法では、会社印を商務省に登録している場合には、株券に当該会社印を押印することが求められるようになった。実務上、株券の発行の際には会社印も併せて押印しているのが通常と思われるため、実務上の影響は小さいと考えられる。
※1
民商法の会社法制に関する改正案は、2020年6月に閣議承認され、パブリックヒアリングもなされていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大等諸般の事情により、国会における審議は滞っていた。本改正法は、2022年5月に下院が承認、同年7月に上院が一部修正(但し、字句の修正等形式的な修正に留まる。)の上、承認した後、同年9月14日に下院が再度承認して成立したものである。
※2
なお、タイの土地法(以下「土地法」という。)は、「外国人」がタイの土地(特に事業用地)を所有することを原則として禁止している。土地法上の「外国人」の定義には、登録資本の49%超の保有者又は株主の過半数(頭数ベース)が外国人である場合が含まれる。日系企業とタイの合弁パートナーのみを株主とする合弁会社を設立する場合、外国法人とタイ法人の株主数は同数であるため、外国法人たる日系企業が49%超の株式を保有しない限り、当該合弁会社は、上記「外国人」の定義には該当しない。そのため、合弁会社が土地を保有する場合であっても、外国法人とタイの合弁パートナーの株式保有割合を49:51とした株主数が2名の合弁会社を設立することが可能である。
※3
合併は、事業譲渡と異なり包括承継であるものの、タイの労働者保護法上、合併に伴う雇用契約の承継に際しては、従業員の同意が必要となる。
※4
本改正法では、ビデオ又は音声等のオンラインにより株主総会を開催することができる旨を明確にする改正はなされなかった。もっとも、従前と同様、本緊急勅令等に従い、一定の要件を満たした場合には、オンラインにより株主総会を開催することが可能である。
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(2025年4月)
三笘裕、伊藤環(共著)
(2025年4月)
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酒井嘉彦
商事法務 (2025年4月)
長島・大野・常松法律事務所 農林水産・食品プラクティスチーム(編)、笠原康弘、宮城栄司、宮下優一、渡邉啓久、鳥巣正憲、岡竜司、伊藤伸明、近藤亮作、羽鳥貴広、田澤拓海、松田悠、灘本宥也、三浦雅哉、水野奨健(共編著)、福原あゆみ(執筆協力)
(2025年4月)
宮下優一
商事法務 (2025年4月)
長島・大野・常松法律事務所 農林水産・食品プラクティスチーム(編)、笠原康弘、宮城栄司、宮下優一、渡邉啓久、鳥巣正憲、岡竜司、伊藤伸明、近藤亮作、羽鳥貴広、田澤拓海、松田悠、灘本宥也、三浦雅哉、水野奨健(共編著)、福原あゆみ(執筆協力)
(2025年3月)
石原和史
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逵本麻佑子(コメント)
大久保涼、伊佐次亮介、小山田柚香(共著)
(2025年4月)
鈴木明美、西村修一、真野光平(共著)
(2025年4月)
伊佐次亮介
商事法務 (2025年4月)
長島・大野・常松法律事務所 農林水産・食品プラクティスチーム(編)、笠原康弘、宮城栄司、宮下優一、渡邉啓久、鳥巣正憲、岡竜司、伊藤伸明、近藤亮作、羽鳥貴広、田澤拓海、松田悠、灘本宥也、三浦雅哉、水野奨健(共編著)、福原あゆみ(執筆協力)
大久保涼、伊佐次亮介、小山田柚香(共著)
(2025年4月)
伊佐次亮介
商事法務 (2025年4月)
長島・大野・常松法律事務所 農林水産・食品プラクティスチーム(編)、笠原康弘、宮城栄司、宮下優一、渡邉啓久、鳥巣正憲、岡竜司、伊藤伸明、近藤亮作、羽鳥貴広、田澤拓海、松田悠、灘本宥也、三浦雅哉、水野奨健(共編著)、福原あゆみ(執筆協力)
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安西統裕
(2025年4月)
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大久保涼、伊佐次亮介、小山田柚香(共著)
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(2025年4月)
梶原啓
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(2025年3月)
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箕輪俊介
(2025年1月)
箕輪俊介、ヨティン・インタラプラソン、ポンパーン・カターイクワン、ノパラック・ヤンエーム、プンニーサー・ソーンチャンワット、サリン・コンパックパイサーン(共著)