
大川剛平 Kohei Okawa
パートナー
東京
NO&T Restructuring Legal Update 事業再生・倒産法ニュースレター
コロナ禍で、多くの企業の収支及び資金繰りが悪化しましたが、コロナ関連の救済融資、雇用調整助成金、補助金、納税の猶予等の様々な支援を受ける等して、何とか資金繰りを維持しつつ、収支改善を試みる時間を与えられることで、倒産を免れていたケースは多かったと思われます。しかし、結果として収支改善の目処が立たず、膨らんだ金融債務や租税債務を含め、何らかの形で事業再生のための手続を取らねばならなくなるケースが増えてきているものと思われます。
そして、企業が事業再生を試みる場合、いきなり法的整理(民事再生、会社更生)を申し立てるのではなく、まずは私的整理(事業再生ADR、中小企業活性化協議会※1の再生支援、令和4年3月に公表された中小企業の事業再生等に関するガイドラインに基づく手続、特定調停、私的整理ガイドライン、いわゆる純粋私的整理等)を申し立てることが以前よりセオリーではありましたが、近時、以前にも増してそのような傾向が見られます。
そこで、本稿では、まず私的整理の概要、特徴等について簡潔に説明した上で、取引先(顧客及び仕入先)が私的整理手続を申し立てた場合の対応について述べます。
なお、本稿では、便宜上、事業再生を図る企業を「債務者」と呼び、法的整理については、特にことわらない限り、民事再生手続を想定します。
私的整理の前提として事業再生について一言説明します。事業再生という言葉は多義的ですが、本稿では、過剰債務状態に苦しむ企業(債務者)が、事業継続のため、リスケジュール、債権放棄等により、当該過剰債務状態を解消することと定義します。事業再生は私的整理と法的整理に分かれます。
私的整理手続とは、一般的には、債務者が、借入先金融機関のみを相手として、裁判所に申し立てることなく、借入金の返済をいったん止めた上で※2、借入先金融機関と協議しながら、リスケジュール・債権放棄等の金融支援を盛り込んだ事業再生計画案を作成し、借入先金融機関全員の同意を得て、当該金融支援を受ける手続をいいます。ただし、このような再生型の私的整理のみならず、廃業型の私的整理もあることは後述2.⑷のとおりです。
私的整理の主な特徴は、①参加する債権者が基本的に借入先金融機関のみであること(したがって、その他の債権者への弁済は止まらず、その他の債権者の債権は影響を受けない)、②裁判所が手続を監督しないこと、③通常公表されないこと、④私的整理において債務者が提出する、金融支援の依頼を含む事業再生計画案が発効するには借入先金融機関全員の同意が必要であること※3、です。当該特徴とは、法的整理との主な相違点でもあります。すなわち、法的整理では、①参加する債権者が借入先金融機関に限定されず、法的整理手続開始前※4の原因に基づいて生じた債権(以下「倒産債権」といいます。)の全債権者が手続に取り込まれて参加することになり※5、弁済がいったん停止される、②裁判所が手続を監督する(具体的には、毎月裁判所に事業や資金繰りについて報告をしたり、一定の重要な行為に際しては、裁判所の許可や、裁判所が選任する監督委員の同意を要する)、③債務者は法的整理を申し立てたことを取引先等に通知し、手続が開始されると官報公告もされ、よって法的整理は公表される、④再生計画案は、届出債権者の頭数の過半数及び債権額の2分の1以上の賛成で可決され、加えて、裁判所の認可を得て確定することが発効のために必要です※6。
本稿の冒頭の「はじめに」で述べたとおり、事業再生を試みる場合、まず私的整理ができないかの検討をし、私的整理が難しい場合に法的整理を検討することが一般的ですが、その理由も上記の特徴から導かれます。つまり、私的整理の場合、借入先金融機関以外の取引先に迷惑が掛からず、裁判所が関与することもなく、一般的に公表されない形で行うことができるため、通常、法的整理に比し、債務者の事業価値が毀損されずに済みます。法的整理の場合、基本的には取引先を含め、全ての債権者の倒産債権の弁済がいったん停止され、裁判所監督下の手続が始まったことが公になるため、取引先が取引継続に応じない等の影響が生じ、私的整理に比し、事業価値の棄損が起きやすくなります。そこで、法的整理は、借入先金融機関全員の同意を得られる見込みがなく、私的整理が成功する見込みがない場合、資金繰りが厳しく借入先金融機関以外の取引先の債権の弁済も停止し、債権放棄等を受けないと事業再生ができない場合等に利用されます。
また、③については、公表されなければそもそも取引先の私的整理に気付かないのではないかとの疑問も生じるところです。この点、例えば、上場企業が私的整理をする場合には、一定の場合、適時開示事由等の開示事由に該当して開示が必要となって開示をしたり、債務者自らが積極的に任意に開示をしたりする場合もあります。それ以外の場合でも、何らかの理由で情報が漏れ、インターネットニュースを含むメディア、業界や他の取引先等、様々なソースからの情報提供を通じて、私的整理中であることが判明する場合はあります。
私的整理は大きく2種類に分かれ、第三者機関が手続を監督する、いわゆる準則型私的整理と、当該機関が存在しない、いわゆる純粋私的整理に分けられます。事業再生ADR、中小企業活性化協議会の再生支援、中小企業の事業再生等に関するガイドラインに基づく手続、特定調停※7、私的整理ガイドライン等は前者に含まれます。一方、第三者機関が存在せず、債務者が借入先金融機関全行との間で直接協議を行う場合は後者に含まれます。準則型私的整理手続はそれぞれ特徴があり、相違点があります(ここでは紙幅の都合上割愛します)。しかし、上記の私的整理の特徴は如何なる準則型私的整理であっても純粋私的整理であっても等しく当てはまります。
如何なる場合に如何なる手続を用いるかについては、個々の事案ごとの事情・経緯、主要金融機関を含む借入先金融機関との関係、それらの借入先金融機関の意向、債務者の規模等によります。一般的には、事業再生ADRは大規模企業による利用が多く、中小企業活性化協議会は中小企業による利用が多いです。
私的整理においては、借入先金融機関に、借入債務について、リスケジュール、債権放棄等の金融支援を依頼することになりますが、借入先金融機関以外の第三者の支援も受けて事業再生を図るのか否かによって、大きく2つの方法に分かれます。1つめは借入先金融機関以外の第三者の支援を受けずに自力で再建を図ること(いわゆる自主再建型)、2つめは第三者の支援を受けて再建を図ること(いわゆるスポンサー型)です。
近年では、スポンサー型がかなり増えています。私的整理手続を行う企業が相当に厳しい状況にあり、収支改善及びそれによる借入先金融機関への弁済原資の確保を自力で行うことができないケースが多いためです。
どういう者がスポンサーになるかについては、事案によりけりであり、事業会社(競合他社、顧客、仕入先等)、ファンド等、様々です。
スポンサー型の場合、スポンサーが事業を買収することが一般的であり、例えば、対価を支払って債務者の事業を譲受したり、債務者に出資したりします※8。債務者は、事業の譲渡対価や出資を受けた資金をもって借入先金融機関への返済を行うことが一般的です。
また、債務者が複数の事業を営んでいる場合、一部事業をスポンサーに譲渡し、残部事業につき自主再建型を試みる等、様々なバリュエーションがあり得ます。
これまで、私的整理とは、事業再生のための手続であり、すなわち事業継続のための手続であると説明してまいりましたが、実はそのような場合(いわゆる再生型)だけでなく、私的整理が事業を清算するための手続として用いられる場合(いわゆる廃業型)もあります。つまり、廃業する際に、破産手続を使うのではなく私的整理を使うものです。
従来より、破産手続による廃業以外にも、特定調停、特別清算、REVIC(株式会社地域経済活性化支援機構)の特定支援によって、廃業は行われていました。そして、中小企業の事業再生等に関するガイドラインでも、廃業型私的整理手続が明示されています。たとえ事業継続が難しく廃業せざるを得ない場合でも、破産手続を申し立てた場合、取引先にも迷惑を掛け連鎖倒産を招くおそれもあり、大混乱が生じ、ひいては地域経済に与えるマイナスの影響も大きいものです。これに対し、私的整理により廃業する場合、借入先金融機関以外の取引先には全債務を弁済し、ソフトランディングな廃業をすることにより、廃業に伴うマイナスの影響を可及的に抑えることができ、その結果、借入先金融機関にも破産の場合よりも良い弁済率を実現することとなり、全関係者にとって好ましい結果となります。
ここでは、紙幅の都合上詳述はしませんが、簡潔に述べますと、概ね、①債務者による、第三者機関及び主要借入先金融機関等への事前相談、②私的整理開始、③債務者による、手続に参加する借入先金融機関及び第三者機関との協議(バンクミーティング及び個別説明等)、④デューデリジェンス(DD)、⑤債務者による、金融支援(リスケジュール、債権放棄等)を含む事業再生計画案の作成、並びに手続に参加する借入先金融機関及び第三者機関への提出、⑥第三者機関がいる場合には当該機関による事業再生計画案についての調査報告書の提出、⑦借入先金融機関による賛否表明、⑧事業再生計画案の成立又は不成立、⑨(手続に参加する借入先金融機関全員の同意を得て事業再生計画案が成立すれば)事業再生計画案の遂行及びそのモニタリング、という流れになります。個々の手続に応じて異なることもありますので、あくまで大きなイメージとしてご理解ください。
なお、②においては、債務者が、参加を求める借入先金融機関に対し、書面により私的整理開始を通知します。当該通知には、元本返済猶予依頼、個別的権利行使(債権取立て、担保設定、強制執行、担保権実行、相殺、対抗要件具備、法的整理申立て等)の禁止依頼等も記載されることが一般的です。
③の手続に参加する借入先金融機関及び第三者機関との協議については、基本的には手続中を通して必要に応じ、バンクミーティング及び個別協議がされます。バンクミーティングについては、手続によっては、開催タイミング等の定めがあるものもありますが、ここでは割愛します。
④のDD及び⑤の事業再生計画案の作成については、そのタイミングが手続や個々の事案の状況によって異なります。例えば、中小企業活性化協議会の再生支援では、通常、手続開始後にDD及び事業再生計画案の作成検討が開始されます。その主体も、DDは債務者側のアドバイザーが行う場合と第三者機関である中小企業活性化協議会が選任するアドバイザーが行う場合があります。事業再生計画案についても、債務者側に事業再生計画案を作成できる専門家体制が整っているか否かによって、中小企業活性化協議会が選任するアドバイザーの関与度合いが変わってきます。一方、事業再生ADRでは、手続開始時には、既に債務者により、DDが完了し、事業再生計画案の概要が策定され、第三者機関である手続実施者になる予定の者にて所定の要件を充足することも確認されていることが予定されています(ただし、実際の案件では債務者が手続開始時にそこまで対応完了していない場合もあります)。
また、⑦で借入先金融機関全員の同意を得られない場合、基本的には法的整理に移行する可能性が高くなります。
私的整理手続においてその開始~事業再生計画案の成立に要する期間は、個々の事案によりけりではあり、債務者の規模、債務者の窮境の程度、金融支援の内容(リスケジュールで足りるか債権放棄まで必要か等)、問題や債務者債権者間の対立点の多さ等に応じて決まります。中小企業活性化協議会の再生支援では6か月(債務者側がDDを行う場合は4か月)、事業再生ADRでは3か月~3か月半程度が標準とされていますが、実際にはより長期になることも多く、1年以上かかる場合もあります。
①状況の把握、②取引関係の見直しの要否及び債権等保全策の検討が必要です。
第1に①状況の把握ですが、把握すべき対象は、(ⅰ)顧客及び私的整理等の状況、及び(ⅱ)自社と顧客の間の取引状況に分かれます。
(ⅰ)については、客観的に申し立てたのか検討している状況なのか、申し立てた又は検討しているのは何の手続なのか、申し立てたとして今はどういう手続段階なのか、準則型か純粋型か、再生型か廃業型か、自主再建型かスポンサー型か(スポンサー型なら探索状況等も)、資金繰りはどの程度厳しそうなのか、近時の事業・損益・資産負債はどのような状況なのか、私的整理について借入先金融機関の協力を得られているのか、借入先金融機関以外の取引先に対して弁済遅延を生じさせていないか、すぐ法的整理に移行することはないのか、顧客の資産に担保等はどの程度設定されているのか、訴訟・強制執行・担保実行等が起こっていたりしないか、その他どういったことが私的整理において大きな問題になっているのか等かと思われます。
把握した情報の取扱いには十分注意すべきです。私的整理の情報が公になっていない場合、情報漏洩により公になってしまった場合、顧客の事業継続上マイナスの影響が生じるとともに、自社の債権回収等の観点からもマイナスになります。
情報ソースは、顧客自身(法定情報開示、顧客の担当者からの開示等)、インターネットニュースを含むメディア、業界や他の取引先、信用調査会社(帝国データバンク等)等が考えられます。しかし、顧客自身に確認するしかない事項も多いと思われます。顧客との契約書に、情報提供を求められる条項等がないかも要確認です。
また、定期的に把握する情報をアップデートする必要があります。
(ⅱ)については、どういった取引をしているか、債権債務状況(支払サイトや支払方法含め)、物の貸し借り状況、債権や貸与物等の保全状況、その他顧客との契約内容等があります。
第2に、以上の状況把握を受けて、②取引関係の継続の是非及び債権等保全策の検討を要します。
まず重要なことは、顧客が行っているのはあくまでも私的整理であって、基本的に、借入先金融機関以外の取引先には弁済のいったん停止等の影響もないことです。加えて、顧客の取引先が皆顧客との取引を継続することで顧客の私的整理もうまくいき、事業継続が可能となり、その結果、顧客との取引も継続され、ひいては顧客の取引先の利益に繋がるという状況にあることです。したがって、顧客の私的整理のニュースを聞いただけで、状況把握もせずに、直ちに顧客との取引を安易に停止する、といった対応は正しいとはいえません。状況把握の結果、私的整理がうまくいく見込みがあり、資金繰り等含め顧客の事業継続上大きな問題が見当たらなければ、むしろ取引を継続することが合理的であることが多いと思われます。自社が顧客の大口取引先である場合に、客観的に見て取引継続が合理的であることが明らかであるにもかかわらず、私的整理のみを理由に形式的に取引を停止し、顧客の私的整理が頓挫したような場合、レピュテーションリスク(自社が顧客の事業再生に協力しなかったために顧客が潰れた等の風評が流れるリスク)が生じないとも限りません。ただし、一方で、状況把握の結果、例えば、債務者が会計不正を行っていて主要金融機関が私的整理に協力的でなくいつ法的整理に移行するかわからない、顧客の資金繰りがかなり厳しそうである、既に自社の債権について支払遅延が生じている、自社の未回収の債権が多額にのぼっている等の状況があれば、当該状況含め全ての状況を総合考慮して、必要に応じ、顧客に対する然るべき債権等保全策、場合によっては取引の縮小・停止を含め、必要な措置を検討することになり得ます。
抽象的にいえば、私的整理手続の申立てのニュースのみで判断するのではなく、適切な状況把握の上で、自社にとっての顧客との取引の必要性、取引内容の合理性、顧客の資金繰り、事業及び私的整理の状況、債権債務の状況、債権・貸与物等の保全状況、債権回収見込み、その他一切の状況を総合考慮し、判断すべき事項です。
次に、債権等保全策について少し述べます。
債権等保全策としては、自社債権の支払サイト短縮、担保受領(預かり金受領や所有権留保含む)、相殺できる反対債務の取得等があります。また、自社が顧客に預けたり貸したりしている資産があれば、その所在場所の把握、自社所有物であることを明認方法を用いて明らかにしておくこと等も含まれます。
可能であれば、当然、債権等の保全策を採ることができれば好ましいです。しかし、当然ながら、顧客としては、借入先金融機関以外の取引先には債務の弁済に影響が生じない以上、私的整理開始のみを理由とする債権保全策への協力要請には、素直に応じないことが多いと思われます。一取引先に応じると収拾がつかなくなるため、基本的には一律に応じない姿勢を採ることも多いです。したがって、最終的には、両者の立場の強さ、両者それぞれの相手方との取引継続の必要性、自社にとっての債権保全策の必要性の程度(具体的には債権額の多寡、顧客の資金繰り・財務状況等による)、顧客において担保等に供せる財産があるか等によります。よく言われることですが、やはり私的整理が始まってからの債権保全検討ではなく、平時からの検討及び対応が有益です。
なお、基本的に、債権等保全策自体につき法的な制約はありませんが※9、担保受領、弁済受領、相殺できる反対債務の取得等(以下「担保受領等」といいます。)については、私的整理が失敗して法的整理に移行した場合、状況によっては、担保受領等が否認されたり相殺禁止されたりする可能性もありますので、そのリスクも考慮しておく必要があり、担保受領等のタイミングが遅れれば遅れるほど、法的整理に移行した場合の否認等のリスクは高くなります。ただし、否認等される可能性がある場合は、既存の債権に対して、後に担保受領等をしたケースです。例えば、顧客への製品納入により売掛債権が発生した後、当該売掛債権につき担保受領等をすると、受領等の時点で顧客が窮境に陥っていれば、後に法的整理に移行した場合、否認等される可能性があります。しかし、私的整理手続の申立て後の製品納入に先立ち、それと引換に、当該製品納入に係る売掛債権に対して担保受領をした場合には、既存の債権に対する担保受領等でなく、新規の債権に対する担保受領等であって、基本的には否認されません(こうした否認等されない担保受領等は、「同時交換的取引」と呼ばれます)。
なお、廃業型の場合には、債務者が想定する廃業までの計画、廃業までに想定される取引や廃業のスケジュール等も踏まえた検討を要します。
仕入先が私的整理手続を申し立てた場合、基本的には、自社は仕入先に対して買掛債務を負っているものの、仕入先に対する金銭債権を有していないことが多いと思われますので、債権等保全策は問題にならないことが多いと思われます※10。
しかし、例えば、仕入先からの仕入物が自社の製造に不可欠である場合、万が一仕入先が破産手続に移行すると、その後の仕入れに支障を来すおそれがありますので、代替先の探索開始等の検討をしておく必要はあり得ます。場合によっては、自社の顧客への納品義務に影響しかねないこともありますので、要注意です。状況によっては、仕入れを確保するために仕入先を支援する観点から、仕入先への支払サイトを縮める支援をする、といったことも考えられなくはありません。なお、廃業型の場合は、仕入先が遠からず廃業するわけですので、代替先の早期探索等の対応が必要になります。
また、前述⑴でも触れましたが、自社が顧客に預けたり貸したりしている資産(例えば、自社に所有権がある金型や有償無償支給品等)があれば、その所在場所の把握、自社所有物であることを明認方法を用いて明らかにしておくこと等も含まれます。
取引先が私的整理手続を申し立てた場合、そのことのみをもって当該取引先との取引を安易に停止するのではなく、前述の私的整理の特徴(取引先の借入先金融機関以外には基本的に影響がないことを含む。)等を十分理解した上で、まずは、冷静且つ客観的に、取引先の状況を把握することが重要です。その結果、私的整理がうまくいく見込みがあり、資金繰り等含め取引先の事業継続上大きな問題が見当たらなければ、むしろ取引を継続することが合理的であることが多いと思われます。ただし、一方で、大きな問題がある場合には、状況に応じて、その後の取引について、債権等保全措置、場合によっては取引の縮小・停止を含め、必要な措置を検討することになり得ます。
当該検討の際には、債権回収のみならず私的整理・法的整理の視点が必要となり、専門家のアドバイスを求める際には、その点も考慮することが好ましいと思われます。
※1
以前は中小企業再生支援協議会と呼ばれていましたが、令和4年4月1日より、経営改善支援センターと統合され、中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジを一元的に支援する中小企業活性化協議会として設置されました。
※2
返済を止めるのは元本のみで、金利は支払うことが多いですが、債務者の資金繰り等にもよります。
※3
近時、私的整理を多数決及び裁判所の認可等により成立させる制度の法制が検討されていることが注目されています。
※4
法的整理手続申立て後開始前の原因に基づいて生じた債権については、裁判所の許可又はそれに代わる監督委員の承認等により、共益債権となり優先される可能性があります(民事再生法120条、会社更生法128条)。
※5
ただし、民事再生手続の場合、一定の担保権を有する債権者は、別除権者として、原則的には、手続外で担保権を実行できます。一方で、会社更生手続の場合、更生手続開始に伴い、担保権者は担保権の実行が禁止されます。
※6
会社更生手続の場合には、確定を待たずに発効します(会社更生法201条)。
※7
特定調停は裁判所が第三者機関として関与はしますが、民事再生手続のような監督や、多数決及び裁判所の認可による権利変更は予定されておらず、基本的に、債務者と債権者の協議に基づく調停手続ですので、法的整理ではなく、準則型私的整理として整理されます。
※8
その場合、債務者の既存の株主の株式は債務者に無償取得され株式消却されることが多いです。
※9
私的整理に参加する借入先金融機関は、私的整理手続開始後には、抜け駆け的に担保受領等をすることはできません。
なお、顧客は、借入先金融機関やその他取引先との間の契約に、第三者に担保提供等をしない旨のネガティブプレッジ条項がある場合、その同意を得ずに担保提供等をすると、当該条項に反することになる可能性がありますので、留意する必要があります。
※10
もっとも、仮に何らかの理由により、仕入先に対して金銭債権を有している場合、前述(1)が当てはまります。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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