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【From Singapore Office】訴訟資金提供事業者による保証を訴訟費用の担保として認めるシンガポール裁判例

NO&T Dispute Resolution Update 紛争解決ニュースレター

著者等
カラ・クエック
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Dispute Resolution Update ~紛争解決ニュースレター~ No.10(2023年6月)
関連情報

本ニュースレターは、「全文ダウンロード(PDF)」より日英併記にてご覧いただけます。シンガポール・オフィスの紛争解決チームについてPDF内にてご紹介しております。

業務分野
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

要旨

2023年5月10日付け判決(Hyflux Ltd (in compulsory liquidation) and others v Lum Ooi Lin [2023] SGHC 113、以下「本判決」)において、シンガポール高等裁判所は、訴訟資金提供事業者(Litigation Funder)による保証を原告が訴訟費用の担保として差し入れることを認め、これを訴訟費用の担保として適切な形式の一つであると位置付けた。この判決は、シンガポールにおいて、裁判手続に関する訴訟資金提供のスキームがますます受け入れられていることを示す新たな一例である。

シンガポールにおける訴訟資金提供

訴訟資金提供(Litigation Funding)とは、訴訟費用が原告自身ではなく第三者の訴訟資金提供事業者によって支払われるスキームであり、通常は、これと引換えに紛争の解決によって回収された収益の一部を資金提供事業者が得る。訴訟資金提供によって司法へのアクセスが改善すると考えられている。特に、訴訟資金提供を受けることにより、通常は自力で訴訟を提起する資力のない原告であっても訴訟を起こし、資力に富む相手方に対して正当な請求権を行使する機会を得る。

シンガポールにおいて、訴訟資金提供は過去に禁止されていたが、2017年の民事法改正により合法化された。第1次改正で訴訟資金提供が認められたのは、国際仲裁及びその関連手続についてのみであった。

2021年には、民事法の第2次改正によって対象が拡大され、国内仲裁とその関連手続、シンガポール国際商事裁判所で開始された手続、及び上記のいずれかに関連する調停手続のための訴訟資金提供が追加的に認められた。法務省はこの第2次改正に関するプレスリリースにおいて、紛争の範囲を拡大する意図は「正当性のある請求権行使を援助する趣旨で必要な資金提供を行うための代替手段」を事業者等に提供することにあると述べた。

訴訟費用の担保

訴訟費用の担保は、シンガポール裁判所が与える暫定的救済の一種であり、これにより、原告は、訴訟手続の過程で被告が被る可能性のある費用の担保を提供するよう命じられる。伝統的な費用の担保の形態には、銀行保証や原告の代理人弁護士による保証の提供が含まれる。

費用の担保の目的は、原告の請求を斥けることに成功したにもかかわらず無資力の原告からその費用を回収することができないリスクから被告を保護することにある。

本判決の事案の経過

本判決の事案においては、被告が、多数の原告に対し訴訟費用の担保を提供するよう申し立てた。第1審において、書記官が、原告に対して次の条件で担保を提供すべきことを命じた。

  • (ア) 原告の訴訟資金提供事業者の保証であって被告にとって満足のできる条件のもの
  • (イ) 上記保証でない場合、被告にとって満足のできる条件の銀行保証
  • (ウ) 上記のいずれでもない場合、被告にとって満足のできる条件の代理人弁護士保証
  • (エ) 両当事者が合意に至らなかった場合、裁判所への支払

原告らはこの決定に対して不服申立を行い、担保の形態について、被告の要望に左右される形ではなく、訴訟資金提供事業者による保証のみに限定するよう求めた。

この不服申立によって高等裁判所が判断すべき論点は次の2つであった。

  • 1. 原告は担保の形式について制約を受けるか否か
  • 2. 訴訟資金提供事業者による保証が担保の目的からして適切か否か

裁判所の判断

裁判所は、原告らの不服申立を認め、原告らに対し、訴訟資金提供事業者による保証という形で担保を提供することを許し、さらに、提供された保証の形式は、費用の担保の目的に照らし適切なものであると判断した。

裁判所は、判決の理由として、担保自体が適切である限り、提供すべき担保の形式について原告は制約を受けるべきではないと指摘した。この点に関して、本判決は、シンガポール裁判所規則には担保の形式についての明示的な文言が存在しないことから、「裁判所は、費用の担保の形式についてはこだわらない。」と判示した。

この基本的な考え方をあてはめて、裁判所は、担保として提供された保証が原告の訴訟資金提供事業者の保証という形式であったとしても、これが不十分な担保になるものではないと判示した。むしろ、保証が不十分とみなされるか否かは、個々の事案の固有の事実に基づいて判断されるべき問題であり、原告は、提供した担保が適切であることを証明する責任を負うことになる。この点に関して、裁判所は、銀行保証や代理人弁護士による保証などのいわゆる「伝統的」な形式の担保は、これまでにも利用されてきた歴史的な経緯のために、「適切であると容易に分類され得る」かもしれないものの、「伝統的」ではない形式の担保が、事案の特性に照らして適切とみなされることを妨げるものではないとした。

本判決の事案について、裁判所は、訴訟資金提供事業者の保証は、「被告が必要に応じて費用負担命令を容易に執行することができる資金又は資産を提供する」ため、適切な担保であると判断した。この結論に至るに当たって裁判所が考慮した要因は以下のとおりである。

  • 1. 資金提供事業者による「撤回不能かつ無条件の約束」として担保額を支払う保証の性質は、「銀行保証に近い」ものであること。
  • 2. 担保額を支払うための資金提供事業者の資産が十分であること。
  • 3. 訴訟資金を提供する事業においては、本件で提供されたような保証を履行しないとすれば顧客を失うことを意味し、そのことからして、訴訟資金提供事業者が保証の不履行を犯すリスクは低いこと。
  • 4. 資金提供事業者の一人はシンガポールを拠点とし、もう一人はシンガポール判決の執行を「比較的容易に」許可した実績のある法域(オーストラリア)を拠点としていたこと。
  • 5. 提供された保証の条件によれば原告との間で訴訟資金提供契約が終了した場合には、訴訟資金提供事業者は被告に通知する義務もあったこと。

本判決の位置付け

本判決は、シンガポールの紛争解決の領域における訴訟資金提供の重要性と役割の増大を端的に示している。裁判所は、このような「非伝統的」な形式の保証にも扉が開かれていることを示し、費用の担保を求める命令に直面した原告に対してより多くの選択肢を提供した。

また、本判決は、担保が「適切」であるか否かについての別途の審査が必要であることを強調しており、裁判所が検討した個々の要因は、訴訟資金提供を利用し、また費用の担保を提供しようとする当事者にとって、担保の適切性に関し裁判所が何を期待しているかを示す有用な指針となるはずである。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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