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ニュースレター

外資誘致に向けた施策をとる中国、日本企業はどう活用できるか

NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 昨年12月に急速なゼロコロナ政策からの転換を行い、全面的な経済重視へと舵を切り替えた中国は、内外からの信頼を回復し、2023年経済成長率5%前後という目標を達成すべく、(特に欧米市場における景気悪化等のため輸出による経済成長が今後期待できないことから)内需、特に国内消費と投資の拡大を目指して、積極的に各種施策をとっている。

 その一環として、外国投資家による中国への投資に関して各種の緩和、優遇措置が相次いで発表、導入されており、地方によってはかなり具体的な内容が出ている地域もあり、今後さらに踏み込んだ内容も出てくることも期待され、日本企業にとっても活用の可能性を検討する必要がある。

2. 各種の緩和策、優遇策

1. 広州市における一部サービス業の開放

 広州市において、既存の法令では開放されていない一部サービス業について外資による参入を許す措置が出されている。商務部が2022年12月29日付けで「広州市サービス業拡大開放総合試点全体方案」を発表し、(既存の法令の条件を満たす前提での)各種の奨励分野が示されたのに加えて、以下のような新たな参入緩和措置が示された。3年間の試行的措置としてまずは広州市において実施するとされているが、将来的には全国展開する可能性もあるものとして位置づけられている。

  • 商務サービス:社会調査事業(ただし、外資33%以下など条件あり)、海外旅行業務(一定の条件あり、台湾を除く)
  • テレコム:国内VPN業務(ただし、出資比率は50%以下)、海外の通信事業者が合弁会社を設立し、広州市内の外商投資企業のために国内VPN業務を提供することを可能とする。
    また、一部の情報サービス業務及びネット接続サービス業務について付加価値電信業務に関する外資の出資比率規制を撤廃。
  • 外商投資性企業:申請条件を緩和し、資産総額は全国性の条件としての4億米ドルにかえて2億米ドルでよく、中国国内で設立済みの外商投資企業の数については(全国性の条件としては10社以上が設立済みであることが求められているが)特に要件を設けないこととする。

2. 上海市

 また、上海市も、「上海市外資誘致利用強化若干措置」を2023年4月に公表、施行している。上記1.と異なり現時点では既存の法令で認められている範囲内ではあるが、半導体、バイオ、人工知能、電子情報、ヘルスケア、自動車、ハイエンド設備、先端材料、ファッション等の分野における投資を奨励し、中国における本部等の設立につき補助金を設定しているほか、外国投資家が受け取った配当を直接投資に回す場合には源泉所得税を免除する措置の実施を確保すること、その他各種利便性向上のための施策が打ち出されている。

3. その他

 他には、浙江省、北京市、天津市、重慶市などで同様の外資誘致策としてまとまった通知が公表されている。例えば、浙江省は、「製造業を中心に外資誘致を強化する若干措置」を2023年5月9日に公表、6月11日から施行している。その内容としては、外資企業による製造業プロジェクトが実行に移されるよう推進するため、省レベルで交渉中の重大プロジェクトについて、一定の条件のもとで環境規制や各種要素において各地方政府が調整を行うことや、プロジェクト所要の土地、環境評価、エネルギー消費等を優先的にサポートすること、サプライチェーン、物流、人員の入出国等へのサービス強化などが打ち出されている。

 上記のような一般的な優遇策に加えて、中国では各地方政府が開発区等において業種限定のプロジェクト等を立ち上げ、優遇措置も付して外資による投資を募っているが、以前は、日本企業としては、当該地方政府から直接情報をもらうか、人的な紹介等を通じてはじめてどのような機会があるのか認識するに至るのが主であった。しかし最近では、国務院「全国統一大市場の建設加速に関する意見」(2022年3月25日施行)においても情報の統一的な公開・共有がうたわれていることもあってか、商務部のウェブサイトにおいて、多数の各地のプロジェクトが統一的に検索、閲覧できるようになっていることが着目される(但し、まだ優遇策の詳細までは記載されていないプロジェクトが多い)。下記の今年6月14日の記者会見でも、中国に投資する多国籍企業と地方政府等の間の情報プラットフォームを拡充する旨がうたわれている。(URL:https://fdi.mofcom.gov.cn/come.html

3. 中央レベルの姿勢と今後の見通し

 上記外資誘致の動きは、ゼロコロナ撤廃後に急に始まったものではない。今年に入ってから、中国の政府高官や各地方政府の外資誘致担当部門が日本をはじめとする各国に頻繁に訪問し、精力的な誘致活動を行っているが、ゼロコロナ期間中も中国国内に進出している外資企業等に積極的にアプローチしていた。

 2021年3月に全人代で制定された「国民経済及び社会発展の第14回5カ年計画及び2035年の長期目標綱要」においてすでに、テレコム、インターネット、教育、文化、医療等の領域で開放を行うとともに、ミドルからハイエンドの製造業、ハイテク、伝統製造業の転換、現代サービス、研究所の設立、国家科学技術プロジェクトへの参加等を奨励することが示されていた。これを受けて商務部は「十四五外資利用発展規画」を2021年10月12日に制定した。

 そのなかでは、外商投資ネガティブリストの縮減と制限の緩和、上記のような分野に加え、法律、運輸、金融等における緩和についても規定されていた。さらに、現代物流、サプライチェーン管理、情報サービス、医療、健康、養老等のサービス業における外商投資企業をサポートし、優良なサービスの供給を増加させることもうたわれている。特に、欧米諸国からの投資を強化することで、各産業のサプライチェーンで重要な要素が不足しているものを補っていくことや、投資国ごとに、戦略的な新興産業、グリーン産業、デジタル経済、スマート製造、科学技術イノベーション等の新興領域の誘致を進めていくこと、RCEP加盟国との間で、農業、越境、デジタルコミュニケーション、エネルギー等の領域で協力を進めていくことなど、外資誘致を戦略的に進めていく姿勢が示されている。

 2021年版以降、新たに更新されたネガティブリストは公表されていないが、上記広州市のトライアル施策はその一環であるといえるであろう。また、国家市場監督管理総局や国家発展開発委員会などの関連部門が共催した事業環境の改善に関する2023年6月14日記者会見においても、明確にネガティブリストの合理的な縮減が宣言されていた。上記分野のうち一部については、近く公表されると予想される新たな外商投資ネガティブリストにおいて全国的な緩和の方向性が示されることが期待される。

 また、同記者会見においては、さらに強力な外資誘致政策を出す準備を進めていることも述べられた。

 なお、日本国在上海総領事館においても、日本企業による対中進出の4本柱として、①グリーン(水素を含む)、②デジタル、③ヘルスケア、④食品(農産品輸出含む)が設定され、加えて旅行需要の回復をにらみインバウンドも加えて、各種の取り組みが実施されている。

4. 日本企業は中国市場にどう向き合うべきか

 日本企業においては、ゼロコロナ政策がもたらしていた不確実性や渡航制限がほぼ緩和された(ただし、コロナ前と比べると、日本人による中国へのビザなし渡航は執筆時点ではまだ復活していない)後も、中国への投資については、データ移転等を含めた各種規制の強化リスクや、いわゆる「台湾有事」のリスク、米中対立に関連した地政学的リスク(また、これに伴い、経済安全保障の関連措置が米国、そして日本でも導入され、今後も拡大していく見込みであること)、また直近では反スパイ法に基づく身柄拘束のリスク等をきらって、慎重な姿勢をとる動きも少なくない。

 もちろんそれらの要素については、(無責任な扇動と現実的に検討に値するリスクを峻別した上で)当事務所などの法律事務所あるいはその他の専門家の助言も得て、十分な対応をとるべきであるし、これらリスクを踏まえて、また中国における市場の変化や競争状況の変化なども踏まえて、撤退や縮小することが適切な選択肢であることも少なからずあるであろう。しかし、他方で、全体的にみれば、中国投資について慎重姿勢をとっているのはかなり日本特有の現象であることも事実である。実は統計をみるかぎりヨーロッパ、韓国、東南アジア諸国等からの対内直接投資はゼロコロナ期間中も大幅に増加し続けていたのであり、中央政府による積極的な外交や上記のような各種誘致活動に加え、本稿で述べたように相次いで各レベルで出されている緩和、優遇措置もあって、今後も世界経済の牽引役であることが予想される中国への外国企業による投資は増えていくことが見込まれる。中国は様々な領域において世界最大かつ最先端の市場であって、米国企業のなかであっても、「中国において成功しなければ世界で勝てない(In China, For Global)」との姿勢で、規制の対象となる一定の分野は除いて、積極的に投資を拡大しているところも少なくない。経済安全保障的観点からいっても、自社の強い独自性のある分野において貿易や投資を通じた中国とのつながりを強化し、中国企業や中国市場から頼られ、依存される存在(又はその一角)となり、中国企業や他国企業との競争においてもその存在感を示し続けることは、(単体企業としてみても、国全体としてみても)武器となるのであり、あえて深く入り込むことでいわゆる経済的威圧(ひいては軍事的威圧)の対象となりづらくなる、という逆説が成り立ち得る。日本企業も、今回紹介したような措置や、今後出てくる措置で、自社のニーズにあうものがないか目を配り、リスクを見極め緩和する手段を講じつつも、積極的に、賢くチャンスをいかしていくことを検討すべきであろう。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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