
中村洸介 Kosuke Nakamura
アソシエイト
シンガポール
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インドネシアでは、首都をジャワ島のジャカルタからカリマンタン島(ボルネオ島)東カリマンタン州に移転し、新首都をヌサンタラ(Nusantara。略記は「IKN」)とするプロジェクトが進められている。
計画のマスタープランによれば今年から段階的に移転が実施されることとなっており、今年の独立記念日(8月17日)の式典や2月の大統領選挙に勝利したプラボウォ次期大統領の10月の就任式もヌサンタラで行われる方針であることから、現地では大統領宮殿や省庁の建設、インフラ整備等が行われている。
首都移転計画は、2019年8月インドネシア政府によって公式発表された。移転の主な理由としては、ジャカルタ近郊の人口過密の解消や、経済活動のジャワ島一極集中を分散してジャワ島外との均衡を図ること等が挙げられる。移転先には、自然災害(地震や噴火等)のリスクが低いこと、インドネシア国土の中央に位置していること、用地確保の容易さ等の観点から、ジャカルタから約1,200キロ離れた東カリマンタン州が選定された。新首都名である「ヌサンタラ」はジャワ語で「群島」を意味する。
これまでの報道等によれば、国会(国民議会)、商業省、法務人権省、金融庁(OJK)を含む25以上の機関がヌサンタラに移転する模様である。
首都移転に掛かるコストは466兆ルピア(2024年5月21日現在、約4.56兆円)と試算されており、また、移転は5つのフェーズに分けて段階的に実施され2045年までの完了を目指す、という大規模かつ長期的な国家プロジェクトと言える。なお、2045年はインドネシア独立100周年の年であり、政府は2045年までに世界5位の経済大国入りを目標に掲げている。
法律レベルでは、2022年2月15日に首都法が公布、施行されており、首都法には新首都名を「ヌサンタラ」とすることや、ヌサンタラの地理的範囲の特定及び面積、本プロジェクトを所管するヌサンタラ首都庁(OIKN)の権限等が規定されている。計画のマスタープランも首都法の付属文書として公開されている。
首都法の下位規則にあたる政令、大統領令、OIKN規則も制定されており、例えば政令2023年第12号では、ヌサンタラへの投資促進を図るために、ヌサンタラの土地において事業者の保有可能な権利(事業権、建設権、使用権)が他の一般の土地に比べて強化されている。
具体的には、建設権(土地の上に建物を建設して所有する権利)については、一般の権利保持期間が最長50年(最長30年+延長20年まで。一定の場合に追加更新可)であるのに対して、ヌサンタラでは、1サイクルを最長80年(最長30年+延長20年まで+更新30年まで)として2サイクルまで可能という制度が設けられた(この土地に関する権利の強化は、2023年10月の改正により首都法にも反映されている。)。同政令では、他にもヌサンタラへの投資促進のために事業者への税制上の優遇措置等が定められている。
また、首都移転に関連して、今年3月28日、ジャカルタ特別州法案が国会で可決された。
同法では、ジャカルタは首都特別州(DKI)から特別州(DKJ)に区分が変更されることや、ジャカルタとその周辺地域(ボゴール県・市、ブカシ県・市、チアンジュール県、デポック市、タンゲラン県・市、南タンゲラン市)による「集積地域」(アグロメレーションエリア)が形成されること等が定められている。ジャカルタには首都移転後もインドネシアの経済の中心となることが期待されていると言える。
なお、今後正式に首都をヌサンタラとする旨を宣言する大統領令が発行されることになっており、それまでは引き続きジャカルタがインドネシアの首都である。
ジャカルタからの首都移転は、過去の政権でも検討されては頓挫してきたが、今回は現職のジョコウィ大統領悲願のプロジェクトとして推進されている。プラボウォ次期大統領は現政権の路線継承を表明しており、首都移転の方針も継続すると見られている。
他方で、移転コストの約8割はPPP(官民連携)や民間投資でカバーすることが想定されており、首都移転の実現には民間からの投資が欠かせない。日本企業を含む各国企業からのヌサンタラへの投資の関心を示すLOI(意向表明書)の件数は当初に比べて伸びているようであるが、今後民間事業が活発化していくことが必要である。
ジャカルタからヌサンタラへの首都移転が成功するか、また本プロジェクトが日本企業はじめ民間企業にとって魅力的なインドネシアへの投資機会を生み出すものか、これから更に注目される。
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