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【From Singapore Office】上訴裁判所による判決 – 仲裁判断債務者(敗訴当事者)は、管轄権の問題について別の裁判所において再度争うことができるのか?

NO&T Dispute Resolution Update 紛争解決ニュースレター

著者等
ヴェトリース・シュー茨城雄志(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Dispute Resolution Update ~紛争解決ニュースレター~ No.25(2024年7月)
関連情報

本ニュースレターは、「全文ダウンロード(PDF)」より日英併記にてご覧いただけます。シンガポール・オフィスの紛争解決チームについてPDF内にてご紹介しております。

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

イントロダクション

Republic of India v. Deutsche Telekom AG ([2024]1 SLR 56)において、シンガポール上訴裁判所(Singapore Court of Appeal(シンガポール控訴院);以下「SGCA」という。)は、仲裁地の裁判所が既に判断した問題を再度争うことを試みた当事者の主張を認めなかった。この点に関し、SGCAは、外国の判決の文脈において既に確立されている「Transnational issue estoppel(国際的禁反言)」の原則が、国際商事仲裁においても同様に適用されることを判断した。

当該判決は、仲裁判断の執行が求められた各法域において、同じ争点について再度争うことによって仲裁判断債務者(敗訴当事者)が執行手続から脱線させることを防止し、これにより、国際仲裁の終局性及び確定性を促進させるものである。

本事案の背景

本判断は、仲裁地をスイスとする仲裁において、仲裁廷がインド共和国(本事案の上訴人)に対して下した仲裁判断に関するものである。

ドイツの会社であるDeutsche Telekom(本事案の被上訴人)は、インドが、インド国有会社とDeutsche Telekomが株主であった会社との間の衛星リース契約を不当に解除したと主張して、ドイツ=インド投資協定に基づき、2013年にインドを相手方として仲裁を申し立てた。2017年12月13日にDeutsche Telekomに有利な中間的な仲裁判断が下された後、インドは、スイスの裁判所(仲裁地の裁判所)に対し、当該仲裁判断を取り消すための申立てを行ったが、これは認められなかった。その後、2020年5月27日に、Deutsche Telekomは、9330万米ドルもの最終的な仲裁判断を獲得した。

そして、Deutsche Telekomがシンガポールにおいて仲裁判断(Final Award)の執行手続に着手すると、インドは、スイスの裁判所において拒絶されたのと同じ理由に基づき、仲裁判断の執行を拒む申立てを行った。

第1審判決において、シンガポール国際商事裁判所(Singapore International Commercial Court; SICC)は、スイスの裁判所(仲裁地の裁判所)において主張されたのと同じ理由に基づいて、インドがその後の手続において執行を拒むことは、スイスの裁判所(仲裁地の裁判所)の判決の既判力によって許容されないという前提の下、インドによる、執行を拒む旨の申立てを却下した。そこで、インドはSGCAに上訴した。

本判決の重要な点

SGCAは、「Transnational Issue Estoppel」に基づき上訴を認めなかった。

SGCAは、「Transnational Issue Estoppel」の要件を改めて述べている:

  1. 一般的に、「Transnational Issue Estoppel」の原則の下で、シンガポールの訴訟手続の当事者は、先行する外国の裁判所の判決で判断された問題を(再度)取り上げることを禁じられている。「Transnational Issue Estoppel」の要件は次のとおりである:

    1. 外国の判決は、シンガポールにおいて承認できるものでなければならない。すなわち、(1)本案についての終局的かつ確定判決でなければならず、(2)当該判決は、相手方に対して国際裁判管轄権を有し、かつ正当な権限を有する裁判所によってなされたものであり、及び(3)承認につき抗弁がないことである。
    2. 先行した外国における手続及びシンガポールにおける手続との間で、当事者に共通性がなければならない。
    3. Estoppel(禁反言)が及ぶ事項は、先行する判決において判断がされたものと同一でなければならない。
  2. 外国の判決がシンガポールの公序良俗に反する場合や、外国の判決が十分に深刻かつ重大な誤り(Sufficiently Serious and Material Error)を含んでいる場合など、「Transnational issue estoppel」には一部例外がある。

SGCAは、「Transnational issue estoppel」の原則が、外国の判決だけではなく、仲裁判断の有効性に関する仲裁地の裁判所の判決にも適用されることを判示した。「Transnational issue estoppel」は、原則として当事者の仲裁地の選択を尊重するものである。その選択により、両当事者は、仲裁に関する多くの事項に関して最も重要性を有する法域を選択している。これに従い、執行地の裁判所は、通常は、仲裁地の裁判所が既に行った判断に倣うべきである。

また、SGCAは、「Transnational issue estoppel」により、執行地の裁判所と仲裁地の裁判所との間の一貫しない法的な判断という問題の発生を抑え、かつ仲裁地の裁判所が決定した問題について再度争うことができる範囲を制限し、これによって、時間とリソースの浪費を減少することができると述べた。

本件において、SGCAは、「Transnational issue estoppel」の要件が満たされており、いずれの例外にも該当しないと判断した。そのため、インドは、シンガポールの裁判所において、管轄権に関する同一の反論を主張することは許容されなかった。

コメント

本件によれば、限定的な例外はあるものの、仲裁判断債務者(敗訴当事者)は、既に仲裁地の裁判所が判断している問題について再度争うことによって執行手続を妨害又は遅延させることができないため、シンガポールで仲裁判断を執行しようとする仲裁判断債権者(勝訴当事者)にとっては歓迎されるべき判断である。

また、この新たな裁判例の下では、いずれの法域であっても仲裁判断に対する不服申立てを最初に決定する裁判所も、基本的に当該問題に関する最終的な判断者になると考えられる。したがって、仲裁判断に不服を申し立てようとする仲裁判断債務者(敗訴当事者)は、仲裁地の裁判所において仲裁判断を取り消す方法によって不服を申し立てるのか、又は執行地の裁判所において執行の申立てへの反論を待つことによってこれを行うのか、いずれの方法によるかを判断する前に、その戦略的かつ法的メリットを、比較検討すべきである。

※「【コラム】日本企業の国際法務と紛争⑤ ―「不可抗力(force majeure) v フラストレーション(frustration)」」をPDF内に掲載しておりますので、「全文ダウンロード(PDF)」よりご覧ください。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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