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ニュースレター

中国におけるライブ配信マーケティングに関する法的規制

NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報

著者等
德地屋圭治鄧瓊(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Asia Legal Update ~アジア最新法律情報~ No.210(2024年9月)
業務分野
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 中国において、ライブ配信マーケティングとは、インターネットサイト、アプリ、ミニプログラムなどを通じて、ビデオライブ、オーディオライブ、画像文書ライブ、又はこれらを組み合わせた形式で行われるマーケティング活動を指すが※1(ライブ配信マーケティングでは、消費者に対し配信者(「ライバー」)が商品推薦・商品紹介をしたり、ライブ配信中の他の視聴者とのインタラクションの機会を与えたりる)、中国におけるライブ配信マーケティングは、2016年以来、大きな成長を経て、2023年にはライブコマースユーザー(配信マーケティングを見て商品を購入するユーザー)の規模が5.26億人に達し、取引規模は4兆9168億元に至っている※2

 このようなライブ配信マーケティングについては、近時諸種の法的規制が制定されてきている(別紙1参照(※))。中国でBtoCビジネスを行う日本企業としては、マーケティングの選択肢として検討する価値はあるが、日本では中国のライブ配信マーケティングの法的規制の状況はあまり知られていないことから、本稿で紹介することとする。

(※)別紙1はPDF内に掲載しておりますので、「全文ダウンロード(PDF)」よりご覧ください。

1. ライブ配信マーケティングの関連主体

 ライブ配信マーケティングにおいては、通常、販売者(ブランド、メーカーなど)は、MCN(マルチチャンネルネットワーク)機構※3及びライバーに商品に関するライブ配信を委託し、協力してライブ配信のコンテンツを決めた上、ライブ配信プラットフォームを通じてコンテンツを提供し(そして、最終的に消費者がECプラットフォームで商品を購入する)、MCN機構、ライバー及びプラットフォームは一定の手数料を取得する。

 このようなライブ配信マーケティングを規制する主な法令はライブ配信マーケティング管理弁法であるが、その規制対象主体は、ライブ配信マーケティングプラットフォーム※4、ライブ配信ルーム運営者※5(ライバーやMCN機構が該当)、ライブ配信者※6(ライバーが該当)、ライブマーケティングサービス提供者※7(MCN機構が該当)である(同弁法第2条)。

 これらのライブ配信マーケティング関連主体及びその相互関係は、以下のとおりである。

2. ライブ配信マーケティングに関する法的規制

1) ライブ配信マーケティングの関連主体の資格について

ライブマーケティングプラットフォームは、諸種の許可証又は届出を取得し又は履践する必要がある(例えば、増値電信業務経営許可証(ICP)、データ処理及び取引処理業務許可証(EDI)、ネット文化経営許可証、情報ネットワーク視聴プログラム配信許可証/届出、ネット情報管理部門への届出、公安部門への届出など)※8

他方、ライブ配信ルーム運営者及びライブ配信者は、上記のような許可証又は届出までは求められないが、ライブ配信の形式で営業活動を行う行為は、電子商務法上の「電子商取引経営者※9」に該当するため、市場監督管理部門にて市場主体の登録をする必要がある。 

2) ライブ配信マーケティングについての全般的規制

ライブ配信マーケティング管理弁法(試行※10)は、ライブ配信マーケティングの関連主体に対し、全般的な規制をしている。当該規制により、ライブ配信マーケティングプラットフォーム、ライブ配信ルーム運営者、ライブ配信者、ライブマーケティングサービス提供者が負う主要な義務は以下のとおりである。なお、同弁法上、販売者(ブランド、メーカーなど)については特段の義務は設けられていない。

関連主体 主要な義務
ライブ配信マーケティングプラットフォーム 情報安全管理、各主体の身分検証及び監督管理、ライブ配信内容の監督管理
ライブ配信ルーム運営者 商品又はサービス情報の真実性保証、商品又はサービス提供者の情報の検証及びデータ管理、ライブ配信ルームを関連基準に合致させること
ライブ配信者 ライブ配信マーケティング活動をするにあたっては、法律、公序良俗を遵守すること
ライブマーケティングサービス提供者 ライブ配信ルーム運営者・ライブ配信者との書面業務契約の締結

3) ライブ配信マーケティングについての広告の観点からの規制

「ライブ配信マーケティング管理方法(試行)」によれば、ライブ配信マーケティングプラットフォームが一定のサービスを提供しライブ配信マーケティングを宣伝・推進する行為が「商業広告」に該当する場合や、ライブ配信ルームの運営者、ライブ配信者が配信するコンテンツが「商業広告」に該当する場合は、広告法に基づく義務を遵守する必要があるとされている。「広告法」及び関連規定では、商業広告に該当する基準について具体的に定められていないが、一般的には、消費者への直接販売において、商品の状況を客観的に紹介することのみでは商業広告とみなされず、主観的な推薦や評価が含まれる場合は商業広告とみなされる可能性が高いと考えられており、ライブ配信マーケティングにおいては、ライブ配信マーケティングプラットフォームのライブ配信マーケティングの宣伝・推進や、ライブ配信ルーム運営者やライブ配信者配信のコンテンツは、上記の商業広告に該当して、広告法の適用を受けうる。

商業広告に該当し広告法の適用を受ける場合、ライブ配信マーケティング活動について広告法に従う必要がある。「広告法」では、広告主、広告代理店、広告媒体主、広告出演者による法的義務・責任を規定しているため、ライブ配信マーケティング活動が商業広告に該当する場合、その関連主体は、その行為の内容に応じて、広告主、広告代理店、広告媒体主又は広告出演者として「広告法」上の義務・責任を負担するものと思われる。具体的には、市場監督管理総局「インターネットライブ配信マーケティング活動の監督管理の強化に関する指導意見」及び「インターネットライブ配信マーケティング活動の監督管理における広告法の適用」によれば、ライブ配信マーケティング活動の関連主体は、以下のとおり広告法による規制対象主体に該当しうる。そして、広告主、広告代理店、広告媒体主又は広告出演者は、広告法上、主として、以下の義務を負う。

広告法上の立場 主要な義務
販売者(ブランド、メーカーなど) 広告主 広告の内容の真実性の保証、関連資格の保有
ライブ配信マーケティングプラットフォーム 広告媒体主 広告主の資格などの情報の形式審査及び保存、広告業務のデータ管理
ライブ配信ルーム運営者 広告代理店、広告媒体主 広告主の資格などの情報の形式審査及び保存、広告業務のデータ管理
ライブ配信者
  1. (広告のデザイン、制作、代理及び配布する場合)広告代理店、広告媒体主
  2. (自己名義で商品・サービスを推薦する場合)広告出演者
  1. 広告主の資格などの情報の形式審査及び保存、広告業務のデータ管理
  2. 広告の対象商品の実際使用・体験に基づいて代言活動を行うこと
ライブマーケティングサービス提供者 広告代理店、広告媒体主 広告主の資格などの情報の形式審査及び保存、広告業務のデータ管理

4) ライブ配信マーケティングについての競争の観点からの規制

2024年9月1日から施行された「インターネット反不正当競争法暫定規定」(以下「暫定規定」という。)は、反不正当競争法に基づき、インターネットを利用する活動における不正競争行為を規制対象とすることを明確にしており、ライブ配信マーケティングにも適用されうる。当該暫定規定では、主に以下のとおりに混同行為、商業賄賂、虚偽宣伝、虚偽情報の捏造・流布に関する規制を定めている。

当該規制の対象主体は、同暫定規定上「事業者」とされているが、ライブ配信に当該暫定規定に違反する内容がある場合、ライブ配信マーケティングの関連主体(販売者、ライブ配信マーケティングプラットフォーム、ライブ配信ルーム運営者、ライブ配信者、ライブマーケティングサービス提供者)は、それぞれその関与等の具体的状況により当該暫定規定上の責任を負う可能性がある。

暫定規定のライブ配信マーケティングにかかる主な内容は以下のとおりであるが、暫定規定は不正競争防止法の規定に類似する内容を規定している部分があるため、以下では、暫定規定のうち、反不正競争防止法と異なる主要な部分について記載し説明している※11※12

反不正当競争法 インターネット反不正当競争法暫定規定
混同行為 第6条
事業者は、次に掲げる混同行為を行って、人々に他人の商品であると誤認させ、又は他人と特定の関係があると誤認させてはならない。

  1. 他人の一定の影響力を有する商品名称、包装、装飾等と同一又は類似の表示を無断で使用すること。
  2. 他人の一定の影響力を有する企業名称(略称、商号等を含む)、社会組織名称(略称等を含む)、氏名(筆名、芸名、訳名等を含む)を無断で使用すること。
  3. 他人の一定の影響力を有するドメイン名の主体部分、ウェブサイト名称、ウェブページ等を無断で使用すること。
  4. 人々に他人の商品であると誤認させ、又は他人と特定の関係があると誤認させるに足る混同行為。
第7条
左記のほか、インターネット上の以下の行為についても、規制対象となる。

  • 他人の一定の影響力を有するアプリケーションソフトウェア、ネットショップ、クライアント、小プログラム、公式アカウント、ゲームインターフェースなどのページデザイン、名称、アイコン、形状などと同一又は類似の表示を無断で使用すること。
  • 他人の一定の影響力を有するインターネット上の別称、ネットシンボル、ネット略称などの表示を無断で使用すること。
  • ネット運営の場を提供するなど、他の事業者と共同で混同行為を行うこと。
  • 他人の一定の影響力を有する商業標識を無断で検索キーワードに設定し、他人の商品であると誤認させ、又は他人と特定の関係があると誤認させること。
商業賄賂 第7条
事業者は、財物又はその他の手段を用いて、以下の団体又は個人に賄賂を行い、取引機会や競争上の優位性を図ってはならない。

  1. 取引相手方の従業員
  2. 取引相手方から委託を受けて関連業務を行う団体又は個人
  3. 職権や影響力を利用して取引に影響を与える団体又は個人

(以下省略)

第10条
「財物」には、現金、物品、インターネット上の仮想財産、ギフト券、基金、株式、債務免除などの財産権利を含むとされる(反不正競争防止法と比べ、財物の具体例が定められている)。
事業者は、財物その他の手段を用いてプラットフォームのスタッフや取引に影響を与える団体又は個人に賄賂を行い、取引機会や流量、ランキング、コメントサービスなどで競争上の優位性を図ってはならないとされている(反不正競争防止法と比べ、贈賄の相手方にプラットフォームのスタッフが追加され、また、競争の優位性について具体例が記載されている)。
虚偽宣伝 第8条
事業者は、自らの商品の性能、機能、品質、販売状況、ユーザー評価、受賞歴などについて、虚偽又は誤解を招く商業宣伝を行い、消費者を欺き、誤導してはならない。
事業者は、虚偽取引の手配などの方法で、他の事業者の虚偽又は誤解を招く商業宣伝を助けてはならない。
第8条
事業者による虚偽宣伝の方法について、以下の方法が定められている。

  1. ウェブサイト、クライアントアプリ、小プログラム、公式アカウントなどを通じ、展示、デモンストレーション、説明、解説、紹介又はテキスト表示を行うこと。
  2. ライブ配信、プラットフォームの推薦、ネット上の文案などを通じ、商業マーケティング活動を行うこと。
  3. 検索ランキング、熱評、バイラル転送、ランキングリストなどを通じ、商業マーケティング活動を行うこと。
  4. その他、虚偽又は誤解を招く商業宣伝。
虚偽情報の捏造・流布 第11条
事業者は、競争相手の商業信用や商品の評判を損なう虚偽情報又は誤解を招く情報を捏造・拡散してはならない。
第11条
左記のほか、事業者は、インターネットを利用して以下の行為を行い、競争相手の商業信用又は商品の評判を損なう又はその可能性がある行為を行ってはならないとされている。

  1. 競争相手の商品に対して悪意のある評価を行うよう他者を手配又は指示すること。
  2. インターネットを利用して、虚偽又は誤解を招く情報を拡散すること。
  3. 虚偽又は誤解を招く情報を含むリスク警告、顧客への通知書、警告書、告発書などをインターネット上で拡散すること。
  4. その他、虚偽又は誤解を招く情報を捏造・拡散し、競争相手の商業信用又は商品の評判を損なう行為。

3. 日本企業にとっての留意点

 中国のライブ配信マーケティングに関わる法的規制は、上述のとおり、大部分は、他の関連主体(ライブ配信マーケティングプラットフォーム、ライブ配信ルーム運営者、ライブ配信者、ライブマーケティングサービス提供者)に対するものであり、販売者に対する規制は多くはないが、中国でライブ配信マーケティングを行う場合において、万一関連主体に規制違反がありそれが公になるときは、その状況によっては、販売者のイメージについても影響が生じる可能性はありうる。日本企業としては、中国でライブ配信マーケティングをする場合、他の関連主体の法規制についても、一定の注意が必要と思われる。

脚注一覧

※1
「ライブ配信マーケティング管理弁法(試行)」第2条

※2
網経社電子商取引研究センター(https://www.100ec.cn/zt/2023zbdsscbg/

※3
MCN機構は、配信者(ライバー)のマネジメント、コンテンツ作成などを行う業者である。

※4
「ライブ配信マーケティングプラットフォーム」は、ライブ配信マーケティングにおいてライブサービスを提供する各種プラットフォームを指し、ECプラットフォームなどが含まれる。

※5
「ライブ配信ルーム運営者」は、ライブ配信マーケティングプラットフォーム上でアカウントを登録し、又は自前のウェブサイトなどその他のネットサービスを通じてライブ配信ルームを開設し、ライブ配信マーケティング活動を行う個人、法人、その他の組織を指す。

※6
「ライブ配信者」とは、ライブ配信マーケティングにおいて直接社会一般に向けてマーケティングを行う個人を指す。

※7
「ライブマーケティングサービス提供者」とは、ライブ配信マーケティング活動を行うために、企画、運営、マネジメント、トレーニングなどのサービスを提供する専門機構を指す。

※8
地方によって、一部の許可証等を取得することを要求しないケースがあるが、事前に当局に確認する必要がある。

※9
電子商務法 第9条 「電子商取引経営者」とは、インターネットなどの情報ネットワークを通じて商品を販売し、サービスを提供する経営活動を行う自然人、法人、及びその他の組織を指す。電子商取引プラットフォームの運営者、プラットフォーム内の経営者、自前のウェブサイトやその他のネットサービスを通じて商品を販売し又はサービスを提供する者を含む。

※10
試行とは、試して施行になる法令規則であり、その施行効果によって修正する可能性がある法令規則である。

※11
本文の表記載の規定に加え、暫定規定では、トラフィック乗っ取り行為、挿入リンクや強制的にターゲットにリダイレクトする行為、特定の事業者の情報やページを遮断・ブロックする行為などのインターネット上の不正競争行為に対する規制もしている(第12~22条)。

※12
ライブ配信マーケティングについては、本文記載の規制のほか、以下の規制も適用されうる。①ライブ配信マーケティングは、主に消費者向けの活動であるため、消費者保護の観点から、ライブ配信の内容、又はライブ配信ルームの標識などが違法又は不良的な情報を含んではならず、消費者の合法権益の保護、未成年者に対する特殊保護を遵守する必要がある。②ライブ配信マーケティングにおいては、個人情報の収集・利用などが発生すると想定できるため、「ネット安全法」、「個人情報保護法」及びその関連規定に従い、合法、正当かつ必要な原則に基づき、情報収集・使用の目的、方式及び範囲を明示し、消費者の同意を得た上に行う必要がある。③ライブ配信マーケティングにおいては、知財権利の保護にも留意が必要である、例えば、ライブ配信ルーム運営者又は配信者は、販売・宣伝活動のために配信の内容を事前にドラフト作成することが多いようであり、そのドラフトの内容が独創的である場合、作品と見られる可能性があるため、その内容を無断で利用する場合、著作権の侵害になりうる。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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