はじめに
本年4月30日に経済産業省から「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」(以下、「本研究会」といいます。)の取りまとめ資料が公表されました※1。本研究会では、コーポレートガバナンス(以下、「CG」といいます。)改革の進め方や会社法改正の方向性等について検討する目的で2024年9月に設置され、合計8回にわたり議論がなされており、本ニュースレターの執筆者の一人である三笘弁護士も、本研究会の委員として、その議論及び取りまとめ資料の策定に関与いたしました。
過去10年間において、コーポレートガバナンス・コード(以下、「CGコード」といいます。)の制定・改訂をはじめとする一連の取組みにより、日本企業におけるCGの取組みが着実に進展するなか、CGが実効的に機能することで、「稼ぐ力」の強化、すなわち「中長期的かつ持続的な収益性・資本効率の向上」を実現している企業も増えつつあります。他方で、CGコードの遵守が目的化し、形式的な体制の整備にとどまっている企業も多いとの指摘もなされています。
そこで、多くの企業において、実効的なCGの下、「稼ぐ力」を強化していくための取組みを支援するため、その取組みの前提となる考え方や、実際に取組みを行う際に有益と考えられる内容を整理する目的で、本研究会が設置されました。
本ニュースレターにおいては、本研究会での議論を踏まえて経済産業省から公表された取りまとめ資料のうち、実務的に特に重要と考えられる「『稼ぐ力』を強化する取締役会5原則」(以下、「取締役会5原則」といいます。)及び「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(稼ぐ力のCGガイダンス)」(以下、「CGガイダンス」といいます。)について、その内容を概括します※2。
「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則
1. 総論
取締役会5原則を含むCGガイダンスは、上場企業の中でも、特にTOPIX500を構成する企業を主な対象としており、CGには多様な考え方や取組方法があることを前提に、各企業において「稼ぐ力」を強化するための取組み等の一例を示すもの(CGガイダンスに記載されている取組みを一律に要請するものではない)とされています。
その上で、「稼ぐ力」の強化(中長期的かつ持続的な収益性・資本効率の向上)に向けた企業経営を行うためには、「価値創造ストーリー」、すなわち「長期的に目指す姿の実現に向けて、どのようなビジネスモデルを通じて、どのような社会課題を解決し、どのように長期的な企業価値向上に結びつけていくかについての一連のストーリー」を構築し、それに基づき、事業ポートフォリオの組替えや成長投資を実行していくことが不可欠であるとの考えの下、取締役会が取締役会5原則を踏まえて行動するとともに、CEOら経営陣においても、しかるべき行動をとることが望ましいとされています。
なお、取締役会5原則は、主として取締役会の監督機能の発揮に関する原則であり、社外取締役が本原則を踏まえて行動することが主に念頭におかれていますが、業務執行役員であっても、取締役会においては、取締役として本原則を踏まえて行動することが求められています。
2. 取締役会5原則
上記のとおり、「稼ぐ力」の強化のためには、取締役会とCEOら経営陣がそれぞれの役割に応じて機能を発揮することが望ましいとされています。そのため、取締役会5原則においては、取締役会が踏まえるべき原則が掲げられ、これに対する細項目の形でより具体的な取締役会のとるべき行動が構造的に示されるとともに、経営陣がとるべき行動もあわせて記載されています。その上でCGガイダンスでは、これらについて各論的な説明が検討ポイント・取組例等とともになされるという構造となっています。以下では、取締役会5原則の各原則についてご紹介します。
原則1(価値創造ストーリーの構築)
自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築する。
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経営陣が策定した価値創造ストーリーの案について、以下の事項も含めて議論し、その結果を経営陣に還元するとともに、必要に応じて、経営陣に更なる検討を促す。
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自社の強み(潜在的な強みを含む)とリンクした内容となっているか
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社会課題やステークホルダーについて考慮されているか
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長期的な経営環境変化の適切な分析の下、複数のシナリオが考慮されているか
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中長期的な資本効率や成長性が考慮されているか
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経営環境変化等に応じて、株主・投資家との対話も活用しつつ、随時、経営陣と協働して価値創造ストーリーを磨き上げる。
原則1は、取締役会に長期的な視点から自社の価値創造ストーリーを議論することを求めるという大原則を提示しています。細項目の1点目では、価値創造ストーリー策定に係る議論の活性化のため、取締役会が設定すべきアジェンダや考慮されるべき要素を提示しています。また、細項目の2点目では、策定した価値創造ストーリーをより洗練させるため、株主・投資家との対話(エンゲージメント)が活用されるべきとされています。
取締役会が原則1を踏まえて行動することを前提に、経営陣がとるべき行動は、以下の事項とされています。
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グループの強みを生かした全体最適の視点を重視し、価値創造ストーリーを策定すること
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P/L視点だけでなく、B/S視点やC/F視点でも議論すること
原則2(経営陣による適切なリスクテイクの後押し)
経営陣が、価値創造ストーリーの実現に向け、事業ポートフォリオの組替えや成長投資等、適切なリスクテイクを行うよう、後押しする。
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価値創造ストーリーの実現に向けた経営陣の具体的な行動が十分ではない場合には、不作為の理由も確認しつつ、経営陣に行動を促す。
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事業ポートフォリオの組替えや成長投資等にあたり、必要十分な検討がなされているかや、その後の進捗状況・成果の確認等を行い、過度なリスクテイクは抑止する。
取締役会が原則2を踏まえて行動することを前提に、経営陣がとるべき行動は、以下の事項とされています。
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価値創造ストーリーの実現に向けて、資本効率と事業の成長性を考慮しつつ、事業ポートフォリオの組替えや成長投資を実行すること
原則3(経営陣による中長期目線の経営の後押し)
取締役会自体が短期志向に陥らないよう留意しつつ、経営陣が、中長期目線で、成長志向の経営を行うよう、後押しする。
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資本市場からの評価も踏まえつつ、経営陣が、短期的な成果にとらわれ、中長期的な成長を犠牲にした対応を行っていないかを確認し、そのような状態となっている場合には、経営陣に改善を促す。
取締役会が原則3を踏まえて行動することを前提に、経営陣がとるべき行動は、以下の事項とされています。
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短期的な成果をあげることを過度に意識せず、価値創造ストーリーを基に、中長期目線で業務を執行すること
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中長期的な成長による株主利益も考慮した株主還元を検討すること
原則2及び原則3については、経営陣がとるべき行動には内容が実質的に重なる部分もありますが、原則において重要な点は、適切なリスクテイク(原則2)と短期志向の回避(原則3)を分け、取締役会がそれぞれ明確に意識すべきとする点にあると考えられます。
原則4(経営陣における適切な意思決定過程・体制の確保)
マイクロマネジメントとならないよう留意しつつ、経営陣の意思決定過程・体制が、迅速・果断な意思決定に資するものとなるよう促す。
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経営陣の意思決定過程や体制を確認し、それらが価値創造ストーリーを構築し、実現する上で十分ではない場合には、経営陣に体制や仕組みの整備を促す。
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経営陣の創意を阻害し、責任の所在が曖昧になるマイクロマネジメントの弊を避け、取締役会に期待される役割を意識して行動する。
原則4は、原則1や原則3に基づき取締役会により策定される価値創造ストーリーや中長期的な計画等を踏まえ、CEOら経営陣による意思決定過程の仕組みや体制の整備を促すよう取締役会に求めることで、経営陣の業務執行が中長期的な視点の下で実施される仕組みを確保しようとしている点が重要です。
取締役会が原則4を踏まえて行動することを前提に、経営陣がとるべき行動は、以下の事項とされています。
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価値創造ストーリーの構築・実現のための強靭な経営チームを組成すること
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経営環境の変化も踏まえつつ、社内論理に陥ることなく、多角的な視点で議論し、意思決定できる仕組みを構築すること
原則5(指名・報酬の実効性の確保)
最適なCEOの選定と報酬政策の策定を行うとともに、毎年、原則1~4の内容も踏まえたCEOの評価を行い、再任・不再任を判断する。
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経営陣と役割分担を行い、経営トップとして最適なCEOを選定するための後継者計画や価値創造ストーリーの実現に向けた報酬政策を策定する。
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毎年、CEOの評価を通じて、CEOが期待通りのパフォーマンスを発揮しているかについて、中長期的な取組の実施状況等も含めて検証する。
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自社の目指す姿や経営環境、CEOの評価結果等も踏まえ、CEOを誰に任せるのが最適であるかを十分に検討する。
原則5は、取締役会によるCEOの選定と報酬政策の策定の実効性の確保を求めるものです。CEOの評価と再任・不再任の判断が毎年実施されることとされていますが、同時に原則1~4を踏まえることも求めることで、CEOの評価・選定やその報酬政策の策定が短期目線に陥ることなく、中長期的な視点の下で行われることを促しています。
取締役会が原則5を踏まえて行動することを前提に、経営陣がとるべき行動は、以下の事項とされています。
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自社の経営トップとして適切なCEO候補者を選定し、育成する仕組みを構築すること
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価値創造ストーリーの実現に向けた業務執行を行うとともに、取締役会に進捗等を適切に報告すること
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取締役会からの評価結果を踏まえて、翌年度以降の業務を執行すること
CGガイダンスで示されたコーポレートガバナンス体制・仕組みの検討ポイント
上記の取締役会5原則を前提として、「稼ぐ力」の強化に向けたCGに取り組むためには、CEOら経営陣の主体的な関与が必要であり、CEOら経営陣による業務執行を様々な側面から支える取締役会の構築、価値創造ストーリーを立案・実現できる強靭な経営チームの組成、及びCGの実効性・持続性を担保する評価・検証の仕組みの構築が重要となります。そこで、CGガイダンスでは、CG体制・仕組みについて、「稼ぐ力」の強化の観点から重要と考えられる検討ポイントが示されています。以下では、CGガイダンスで示されたCG体制・仕組みに関する主要な検討ポイントをご紹介します。
CGガイダンスでは、総論として、自社におけるCGの在り方について、「稼ぐ力」の強化の観点から重要と考えられる主な検討ポイントを以下のとおり整理しています。
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「自社におけるCGの在り方(CGの位置づけ/役割分担等)」は明確か。
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全取締役とCEOら経営陣において、常に「自社におけるCGの在り方」の共通理解があるか。
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「自社におけるCGの在り方」を踏まえ、最適な機関設計を選択しているか。
その上で、以下のとおり、取締役会、指名委員会、報酬委員会、CEOら経営陣及び事務局に関し、各体制・仕組みに関する主要な検討事項を整理しています。
1. 取締役会
(A) 取締役会の構成
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経営環境や事業特性等も踏まえ、経営戦略に照らしてスキル・マトリックスは適切な状態か。
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自社の取締役会の役割を踏まえ、取締役の人数・属性や独立社外取締役の比率等は適切か。
適切なスキルを保有する候補者を確保できる場合には、独立社外取締役の比率を引き上げることについて検討することも考えられるとされています。
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適切な取締役会の構成を実現し、持続的に人材を確保するための仕組みは整っているか。
将来的には取締役の過半数を独立社外取締役とすることが適切であると考えるものの、すぐに実現ができない場合には、徐々に独立社外取締役を増やしつつ、ボードサクセッションの取組みを強化していくことが考えられるとされています。
(B) 取締役会の議長/筆頭社外取締役
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自社の取締役会の役割を踏まえ、取締役会議長の属性は適切か。
①取締役会における意思決定過程の合理性・透明性の確保や執行に対する監督機能発揮の観点から、執行のトップであるCEOが議長を兼ねることが適切か、また、②独立社外取締役を議長とする場合に、在任期間の長さではなく、議長の役割を踏まえて必要なスキルや経験等を有するか等について検討することが考えられるとされています。
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適切な取締役会議長を選び、持続的に人材を確保するための仕組みは整っているか。
議長にはアジェンダセッティングや議事進行のスキルに加えて、強いコミットメント、十分な時間の確保、自社の深い理解等が求められるため、例えば、議長は独立社外取締役が適切であると考えるものの、適任者がすぐに見つからない場合には、一旦、議長を社内の非業務執行取締役とし、筆頭独立社外取締役を設置しつつ、将来、議長を独立社外取締役とすることを見据え、ボードサクセッションの取組みを強化していくような対応も考えられるとされています。
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筆頭独立社外取締役を設置する必要はないか。
特に、執行のトップであるCEOが議長を兼ねる場合には、取締役会の実効性を確保する観点から、筆頭独立社外取締役を設置し、独立社外取締役の意見集約を行う役割を担うことが考えられるとされています。
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取締役会議長や(筆頭)独立社外取締役をサポートする体制は整っているか。
(C) 取締役会のアジェンダ等
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自社の監督と執行の役割分担を踏まえ、取締役会とCEOら経営陣との間の権限配分は適切か。
取締役会とCEOら経営陣との間の権限配分は、CGが実効的に機能するかの肝であり、CEOら経営陣が迅速・果断な意思決定を行う観点から、どのような権限配分が適切かを検討することが考えられるとされています。
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自社の取締役会の役割を踏まえ、アジェンダや開催頻度の設定は適切か。
経営戦略の策定においては、取締役会とCEOら経営陣が協働して磨き上げていくことが重要であるため、検討プロセスについて取締役会とCEOら経営陣との間で共通認識を持ち、年間のアジェンダに組み入れることや、開催頻度を減らしつつ、一回当たりの議論時間を充実させる(例えば、半日以上議論を行う)ことも考えられるとされています。
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取締役会で実効的な議論を行うための環境は整備されているか。
取締役会で実効的な議論を行うためには、重要なアジェンダの議論に時間を割くことが望ましいため、執行サイドからの報告事項や説明時間を必要最小限とする等の取組みを行うことや、デジタルツールの活用により取締役会の議論の状況を可視化し、現状把握、改善に生かすことも考えられるとされています。
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取締役会の特定の経営アジェンダの実効的な議論のため、委員会を設置する必要はないか。
指名委員会・報酬委員会の設置に加え、その他、戦略委員会、サステナビリティ委員会、ガバナンス委員会等、特定の経営アジェンダについて重点的に議論する諮問委員会を設置することが考えられると指摘されています。
(D) 取締役会の実効性評価
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取締役会の実効性評価の実施目的は明確か。
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取締役会の実効性評価の評価内容やプロセスは実施目的に資するものとなっているか。
必要に応じて取締役会5原則も参照しつつ、評価対象、項目、方法を決定すること、この際、取締役会の独立性に支障が生じない範囲で、CEOら経営陣からの一定のインプットを行うこと、また、取締役会の実効性評価の実施目的を踏まえ、抽出された課題は、その解決策について取締役会で議論し、解決するまでモニタリングを継続することが考えられるとされています。また、各種委員会についても実効性を検証する必要があり、取締役会の実効性評価の中で合わせて評価することが考えられるとされています。
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第三者評価機関を活用する必要はないか。
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取締役個人の評価を行う必要はないか。
取締役個人の評価を行うことで、より有用な実効性評価が可能になるとされています。
(E) エンゲージメント
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株主等との対話の内容を取締役会の議論に適切に反映できているか。
価値創造ストーリーについて、株主等からの意見を踏まえることで磨き上げること、投資家を含む社会からの信頼獲得のため、株主等との対話等を通じて資本市場等の視点を把握するとともに、取締役会の議論に適切に反映できているか確認することが考えられるとされています。
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対話の相手や事項に応じ、株主等と対話を行う主体が明確になっているか。
例えば、経営戦略についてはCEOら経営陣が対応し、取締役会による執行の監督状況については社外取締役が対応することが考えられるとされています。この際、経営を監督する立場にある社外取締役が株主等に対して説明することは、社外取締役として説明責任を果たすことに関係すると考えられるため、株主から社外取締役との対話の要請があった場合等に、迅速に建設的な対話ができるよう、誰が、どのような内容について対話するか等について、予め定めておくことも考えられるとされています。
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株主等との建設的な対話ができる社外取締役を継続的に確保する仕組みはできているか。
例えば、資本市場等の事情やファイナンスに関するリテラシーを備えた社外取締役を確保するとともに、就任後も会社の理解を深めるための取組みを継続的に行っていくことが考えられるとされています。
2. 指名委員会
(A) 指名委員会の体制
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指名委員会の役割を踏まえ、委員長の属性や委員の構成は適切か。
一般的に、独立社外取締役が委員長を務める方が、実効的な委員会運営が図られやすくなるとされています。また、特に、取締役の過半数が独立社外取締役ではない場合には、指名委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることが考えられるとされています。CEOの後継者計画等、指名に関する事項については社内者との連携や情報収集が欠かせないことから、社内事情に精通する社内者(CEO等)が委員に加わることには一定の合理性があるとされる一方で、その場合には、指名委員会において実効的な議論が行われるよう、本人の選解任や評価等については、本人のいない場で議論するという対応が考えられるとされています。
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指名委員会が役割を果たしているかについての評価・検証、改善の仕組みは整っているか。
指名委員会の実効性評価を行うこと、その際、取締役会の実効性評価と合わせて行うことで、取締役会と指名委員会とが一体として実効的に機能しているかについても評価を行うことが考えられるとされています。
(B) CEOの後継者計画
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後継者計画策定にあたり、役割分担は明確か。
CEOの後継者計画について、取締役会・指名委員会と執行の役割分担(指名委員会への諮問内容を含む)について共通認識を持った上で運営すること、例えば、取締役会・指名委員会は、執行案を基にしたCEOの人材要件の決定や執行側におけるCEOの選定プロセスの確認を中心に行い、執行側が一定数まで最終候補者を絞り込んだ段階から、独立社外取締役が、直接インタビューを行う等、個人の評価に関与し、最終的な絞り込みを行うような取組みも考えられるとされています。
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選定プロセス(選抜・育成・評価の仕組みを含む)は明確か。
経営環境や経営理念、経営戦略等を踏まえて人材要件を設定し、それを踏まえて選抜・育成・評価の仕組みを検討すること、選抜にあたっては、様々なシナリオを想定した上で、それぞれにおいて必要なスキル、強みを備えた人材を後継者候補に含めることが考えられるとされています。
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策定対象(次期CEO候補者、次々期CEO候補者、エマージェンシープラン等)は明確か。
CEOの育成には長い期間を要するため、どの世代まで後継者計画を策定するかについて共通認識を持った上で、取組みを進めること(新CEOの就任とともに、新たな後継者計画の検討を始めること)が考えられるとされています。
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取締役会と指名委員会の間での情報共有は十分か。
(C) CEOの再任・不再任(CEO評価)
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CEOの再任・不再任基準は明確か。
取締役会・指名委員会が、毎年、CEOが期待した役割を果たしているかについて評価・検証し、再任・不再任の判断を行うために、その判断基準(単なる形式的な基準ではなく、CEOに期待される役割に応じて、定性・定量の両面から実効的に判断できる基準)を設定しているか確認することが考えられるとされています。
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CEOの再任・不再任の検討にあたり、CEOの評価基準は明確か。
CEOの再任・不再任の判断を実効的に行うために、CEOがリスクテイクを行っているかも含め、期待通りのパフォーマンスを発揮しているか(「稼ぐ力」を強化できているか)について評価・検証することが考えられるとされています。また、評価にあたり、業績(例えば、報酬委員会における評価を活用)や資本市場からの評価に加え、CEOの人材要件やミッションを踏まえ、定性面(例えば、期初に設定した目標の達成状況(自己評価や面談を通じて評価)、360度評価、従業員エンゲージメント調査等を活用)についても評価対象とすること、他方で、CEOの再任・不再任の実効的な判断がなされるよう、数値基準を過度に重視するのではなく、経営環境等も踏まえた検討を行うことが考えられるとされています。
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CEOの評価結果を、翌年度以降の業務執行に生かすことはできているか。
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CEOを不再任にした場合に、後任を務めることができる人材を確保できているか。
(D) ボードサクセッション
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取締役会の役割や適切な取締役会構成は明確か。
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必要となる社外取締役を継続的に確保するための仕組みは整っているか。
いつ頃、どのような人材が必要になるかを想定し、常に人材プールを準備しておくことが考えられるとされています。
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社外取締役の貢献度を高めていくための工夫はできているか。
社外取締役が会社のサポートなしに期待される役割を果たすことは困難であるため、必要な情報の提供や研修・トレーニングの支援等、事務局からのサポートについての環境整備を行うことも考えられるとされています。
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取締役会と指名委員会の間での情報共有は十分か。
3. 報酬委員会
(A) 報酬委員会の体制
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報酬委員会の役割を踏まえ、委員長の属性や委員の構成は適切か。
一般的に、独立社外取締役が委員長を務める方が、実効的な委員会運営が図られやすくなるとされています。また、特に、取締役の過半数が独立社外取締役ではない場合には、報酬委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることが考えられるとされています。役員報酬に関する事項については社内者との連携や情報収集が欠かせないことから、社内事情に精通する社内者(CEO等)が委員に加わることには一定の合理性があるとされる一方で、その場合には、報酬委員会において実効的な議論が行われるよう、本人の報酬の決定等については、本人のいない場で議論するという対応が考えられるとされています。
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報酬委員会が役割を果たしているかについての評価・検証、改善の仕組みは整っているか。
報酬委員会の実効性評価を行うこと、その際、取締役会の実効性評価と合わせて行うことで、取締役会と報酬委員会とが一体として実効的に機能しているかについても評価を行うことが考えられるとされています。
(B) 報酬政策
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役員報酬の基本方針は明確か。
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役員報酬の基本方針に即した、報酬水準、報酬構成となっているか。
どのような企業群(ピアグループ)と比較し、どのような報酬水準(上位/中位/下位等)・報酬構成(基本報酬/短期インセンティブ報酬/長期インセンティブ報酬(株式報酬等)の割合、業績連動報酬/非業績連動報酬の割合、金銭報酬/自社株報酬の割合)とするか等について検討することが考えられるとされています。
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経営戦略と報酬政策が連動し、経営戦略の実現やリスクテイクを後押しする設計であるか。
役員報酬を有効に活用するために、経営戦略と連動した設計とすることが考えられるとされています。特に、インセンティブ報酬における、KPI(財務指標/非財務指標(サステナビリティ指標等)/個人評価等)や評価期間・評価方法を、どのように経営戦略と連動させるか等について検討することが考えられるとされています。
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役員報酬決定プロセスは適切か。
取締役会や各種委員会(指名委員会、戦略委員会、サステナビリティ委員会等)との適切な連携体制を整備することも考えられるとされています。
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役員報酬に関する開示は価値創造ストーリーを示す内容となっているか。
4. CEOら経営陣
(A) 執行役員等体制(CxO等)
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「稼ぐ力」の観点から特に重要となる執行機能は明確か。
CEOを支える経営チームが不可欠であるとした上、その組成にあたっては、価値創造ストーリーの実現に向けた業務執行を行う上で、特に重要となる執行機能を明確にし、必要となるCxOポジション等を設置することが考えられるとされています。
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各ポジション(CxO・執行役員等)の役割・責任や人材要件は明確か。
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各ポジションを担える人材が選任され、経営チームとして実効的に機能しているか。
(B) 経営会議等の在り方
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執行の意思決定のための会議体(経営会議等)の設置目的や機能は明確か。
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執行内における権限設定やモニタリングの仕組みが適切に整理されているか。
経営会議等の決議事項(執行内での権限配分)についても整理することが考えられるとされています。
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執行の意思決定のための会議体(経営会議等)は適切な人数・メンバーとなっているか。
特に、取締役会からCEOら経営陣に対して大幅な権限委譲を行う場合においては、経営会議等は、CEOの判断を支えることや、意思決定の合理性を担保すること等、より重要な役割を担うこととなるため、議論するのにふさわしい人数規模やメンバーとなるよう体制を整備することが考えられるとされています。
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特定の経営アジェンダの実効的な議論のため、委員会を設置する必要はないか。
戦略やサステナビリティ等の特定の経営アジェンダをCEOのコミットメントの下で全社的に検討・推進するための委員会を設定することも考えられるとされています。
(C) 幹部候補人材の選抜・育成
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各ポジションを担える人材を選抜・育成するための仕組みは整備されているか。
各執行機能に必要な専門性と全社的な視点の双方を兼ね備えている人材を継続的に確保するため、ポジションごとに、選抜・育成の仕組みを整備しておくこと、例えば、CEO以下の社内者を中心とする人材育成委員会等を設置し、人事部門・事業部門(HRBPを含む)等と連携しながら幹部候補人材の選抜・育成を担うことも考えられるとされています。
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取締役会や指名委員会等は、幹部候補人材の選抜・育成に適切に関与できているか。
将来、経営チームを担う人材の選抜・育成に際して、取締役会や指名委員会等も一定の関与を行うこと、例えば、一定階層(例えば、CxOやカンパニープレジデント候補等)以上については、指名委員・社外取締役等が幹部候補人材と接触する機会を増やすことで一人ひとりの候補者を把握し、取締役会や指名委員会等が、個人の評価や選定に関与する一方で、その下の階層については、取締役会や指名委員会等はプロセスの確認や手続を中心に関与することも考えられるとされています。
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CEOの後継者計画やその他の人材育成等の仕組みと上手く連動できているか。
5. 事務局体制・仕組み
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取締役会事務局の役割が明確になっており、その重要性も含めて十分認識共有されているか。
取締役会事務局は、CGや取締役会の実効性の担保・向上に関しても重要な役割を担うとされています。
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取締役会事務局の役割を踏まえ、具体的な実務は構築されているか。
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取締役会事務局の役割を踏まえ、適切な担当部署・位置づけとなっているか。
取締役会事務局の組織上の位置付けや執行側部署との人材の兼務等も明確にすることが考えられるとした上、いずれの場合においても、人事評価や異動等も含め、取締役会の独立性に支障が生じないよう留意する必要があるとされています。
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取締役会事務局の役割を踏まえ、十分な体制(人数や知見等)となっているか。
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取締役会事務局と各委員会事務局や経営会議事務局等は適切に連携できているか。
最後に
CG研究会による今回の取りまとめの内容は、上場企業におけるCGの取組みに少なからず影響を与えることが想定され、特に取締役会5原則を踏まえた上場企業の取締役会の在り方やCGガイダンスを踏まえたCGの在り方を再検証することが望ましいといえます。また、会社法改正の議論状況についても引き続き注視が必要であると考えます。
脚注一覧
※2
取りまとめ資料としては、このほか、各種の概要資料に加え、CGガイダンス別添企業事例集、会社法の改正に関する報告書及びCG研究会において問題提起のあった事項が公表されておりますが、紙幅の関係上、本ニュースレターではそれらに関する説明は割愛します。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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