松﨑景子 Keiko Matsuzaki
アソシエイト
シンガポール
NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報
2025年4月4日、シンガポールの通商産業省(Ministry of Trade and Industry)と税関は、「先進半導体及び人工知能(AI)技術の輸出管理に関する共同勧告(Joint Advisory: Export Controls on Advanced Semiconductor and Artificial Intelligence (AI) Technologies)」を公表した。
近年、半導体やAI等の先進技術が軍事・安全保障目的に転用されるリスクへの懸念が高まる中、各国において輸出管理の規制強化と執行の厳格化が進められている。シンガポールにおいても、2025年2月、米国の輸出規制を回避する目的で、米国製AIチップをシンガポール経由で中国のAI企業に迂回輸出した疑いにより、関係者がシンガポール当局に逮捕・起訴される事案が発生し、国内外で注目を集めた。
本勧告は、こうした情勢を踏まえて発出されたものであり、企業にとって、輸出管理に関する適切な対応を講じるための重要な指針となると考えられるため、本稿ではその概要を紹介する。
シンガポールの輸出管理制度は、主に「戦略物資(管理)法(Strategic Goods (Control) Act)」及び「輸出入規則(Regulation of Imports and Exports Regulations)」に基づいて構築されており、戦略物資・技術の移転及び仲介が規制対象とされている。これらの法令は、主要な多国間輸出管理体制や国連安全保障理事会(UNSC)による制裁措置と整合しており、「戦略物資(管理)命令(Strategic Goods (Control) Order)」に基づくリストに定められた技術仕様に適合する物品及び技術が輸出管理の対象とされている。
本勧告は、シンガポールで事業を行うすべての企業に対し、事業活動の透明性を確保し、これらの関係法令を厳格に順守することを強く求めるものである。また、法令に違反した企業や個人に対しては、シンガポール政府が断固たる措置を講じる方針であることも明示されている。
本勧告は、シンガポール国内で事業を展開する企業に対し、他国の輸出管理規制が国際事業活動に及ぼす影響についても常に情報を収集し、適切に考慮する必要があることを改めて明示している。
また、シンガポール政府は、同国を拠点として他国の輸出管理規制を回避しようとする企業の行為を一切容認しない方針を明確に打ち出しており、この方針はすべての貿易相手国に適用されることが示されている。さらに、輸出管理規制の回避を目的とする不正又は不誠実な行為が認められた企業や個人に対しては、シンガポール法に基づき、厳正な措置が講じられることが明言されている。
輸出管理における予期せぬ違反リスクを防ぐため、企業には以下の措置を講じることが推奨されている。
企業は、顧客確認(KYC)手続き及びエンドユーザーのスクリーニングを適切に実施し、取引先が輸出管理規制を順守する正当な顧客又はエンドユーザーであることを確認する必要がある。また、異常な輸送ルート等の不審な取引の兆候にも留意し、注文段階におけるスクリーニング体制を整備することが重要である。これらの対応にあたっては、シンガポール税関が公表する「戦略貿易ハンドブック(Customs’ Strategic Trade Handbook)」及び「制裁リスト及び警戒すべき兆候に関する指針(Guidance on Sanctioned Lists and Red Flags)」を参照することが推奨されている。
管理対象技術を伴う国際事業活動に際しては、必要に応じて専門家から適切な法的助言を得たうえで、慎重に対応することが推奨されている。
本勧告の結びにおいて、シンガポール政府は、技術と貿易のグローバルハブとしての地位を堅持し、ビジネス環境の健全性を維持するとともに、同国内で事業を展開する正当な企業が最先端技術へのアクセスを確保できるよう支援していく方針が明示されている。
シンガポール通商産業省及び税関による「先進半導体及びAI技術の輸出管理に関する共同勧告」は、越境取引に携わるシンガポール企業等に対し、特に先進技術製品を取り扱う際には、国内法令の遵守にとどまらず、他国の輸出規制にも十分に配慮する重要性を改めて認識させるものである。不注意による違反であっても、重大な法的責任を負ったり、企業の評判に深刻な影響を及ぼしたりするおそれがあることから、専門家の法的助言を活用し、輸出管理に関する万全なコンプライアンス体制を構築していくことが求められる。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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