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外国人事業法の改正方針~保護主義から競争力強化への政策転換(タイ)

NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報

著者等
佐々木将平
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Asia Legal Update ~アジア最新法律情報~ No.233(2025年5月)
業務分野
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 タイ政府は、2025年4月22日の閣議において、外国人事業法(Foreign Business Act, B.E. 2542)の改正方針を決定した。当該閣議決定は改正の方針を承認するもの(原則承認)であり、具体的な改正内容は、今後、所管官庁である商務省における検討に委ねられることになる。

1. 外国人事業法の規制概要

 外国人事業法上、外資比率50%以上の外国企業等は「外国人」※1と定義され、同法に列挙された規制対象業種に従事することが制限される。一般的な製造業は規制対象外(すなわち、外資100%での進出が可能)であるが、サービス業一般は広く規制対象業種に該当するため、同法上の許認可を取得しない限り、「外国人」が従事することはできない。タイ投資奨励委員会(Board of Investment、BOI)の投資奨励を受けた業務については、当局への申請により外国人事業法上の許認可が付与されるが、そもそもBOIの投資奨励の対象となるのは原則として製造業に限定されているため、サービス分野においては、このルートでの許認可の取得は難しい。当局の許認可発給の運用状況に照らすと、BOI投資奨励を利用せずに外国人事業法上の許認可を取得することは、一定の例外を除き困難である。そのため、サービス分野に参入する外資企業は、多くの場合、同法の規制を受けないよう、外資比率を50%未満に抑えつつ、タイ企業との合弁等を選択することとなる。

 タイの外国人事業法上の外資規制は、規制対象となる業種の範囲が広範であり、かつ、規制対象となる外資比率は一律50%以上の場合となっている(逆に言えば、外資比率を50%未満に抑えれば、いかなる事業についても同法上の規制の適用はない)点が特徴と言えよう。

2. 改正方針の背景と目的

 閣議決定によると、今回の改正方針の背景及び目的は、大要以下の通り説明されている。

  • 国際競争力への悪影響:現行の外国人事業法は約25年前に制定され、国内企業の保護を重視する内容となっているが、近年の経済状況や技術革新には適合しておらず、タイの起業家の成長や競争力強化を阻害しており、また、タイへの進出を呼び込む仕組みとなっていない。そのため、タイの成長力は他国と比して低迷している。
  • スタートアップ等への悪影響:スタートアップ企業などの未来志向型のビジネスにおいては、国内外の投資家が関わるイノベーション、最新技術及びビジネスモデルに依拠するところが大きい。現行法においては外国人の持株比率や特定業種への参入に関する規制のため、外国人投資家からの資金調達に制限があり、スタートアップの成長の妨げとなっており、ひいては国家経済にも悪影響を及ぼし得る。

 今回の改正方針は、法制委員会(Council of State)の下に設置されている法改正委員会(Law Reform Commission)の答申に基づくものであり、スタートアップ振興を重要政策の一つと位置付けるタイ政府の方針に合致するものとなっている。これらの背景を踏まえ、外国人事業法上の規制について「保護主義」から「競争力強化」への転換を図り、各産業において国内企業の潜在能力を引き出し、競争力を強化するという、本改正方針が決定されている。

3. コメント

 外国人事業法上の規制に関しては、従来、一定の規制緩和(例えば、駐在員事務所について同法上の許可を不要とした2017年改正や、グループ会社間で提供される一定のサービス業務を規制対象外とする2019年改正等)は行われてきたが、実務上の不都合を解消するための技術的な改正が中心であり、規制対象業務を実質的に緩和して外資に開放するような抜本的な改正は、これまで行われてこなかった。今回の改正方針は、タイ政府が外国人事業法の規制を緩和する抜本的な改正に初めて着手するものであり、実際に改正に至れば、日系企業を含む外資企業のタイ投資に大きな影響を与える可能性があり、注目に値する。

 具体的な改正内容は閣議決定には含まれておらず、今後、商務省が草案を作成することとなっている。今後、具体的な改正案が策定され、再度の閣議決定及び議会での審議を経て制定・施行されるまでには相応の時間を要するものと思われるが、改正内容(規制緩和が行われる対象業種や、外資比率上限を含む規制の枠組み等)を注視する必要がある。

脚注一覧

※1
(i)タイ国籍を有しない自然人、(ii)タイ国外で設立された法人、(iii)タイ国内で設立された法人で全株式数又は株式の価値に占める上記(i)又は(ii)の者が保有する割合が50%以上の者、(iv)タイ国内で設立された有限責任組合又は登録組合でその業務執行組合員又は運営者が上記(i)である者又は(v)タイ国内で設立された法人で全株式数又は株式の価値に占める上記(i)、(ii)、(iii)又は(iv)の者が保有する割合が50%以上の者

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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