
德地屋圭治 Keiji Tokujiya
パートナー/オフィス一般代表
上海
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2024年12月25日、第十四届全国人民代表大会常務委員会第十三次会議において、『中華人民共和国反不正当競争法(改正草案)』(以下「2024年改正草案」という)が審議され、公表された(パブリックコメントは同月30日まで実施)。反不正当競争法は、1993年の現行法施行以降、複数回の若干の改正を経た後、2022年に『中華人民共和国反不正当競争法(改正草案意見募集稿)』(以下「2022年改正草案」という)が公表されて大幅な改正が予定されていたものの、結果的には2022年改正草案は施行されないままとなっていたところ、今回上記のとおり2024年12月に再度、2022年改正草案を調整した改正案(2024年改正草案)が公表されたものである。
近年、中国の市場競争環境は大きく変貌を遂げており(例えば、デジタル経済が急速に発展して新たな業態が登場する一方、プラットフォーム運営者など大企業の優越的地位による市場競争上の問題行為が顕在化するとともに、商業賄賂や虚偽宣伝など不正競争行為の手法も多様化しているなど)、これに対応するため、2024年改正草案は、2022年改正草案を踏まえて、現行の反不正当競争法(2019年最終改正)の大幅な見直しを行い、より公平で秩序ある健全な市場環境の構築を目指している。
本稿では、2024年改正草案の概要及び留意点について、紹介することとする。
2024年改正草案は全41条で構成されており、現行法と比べて8条増加している一方、2022年改正草案と比べると7条削減されている。実質的な新設条項の数は多くないが、事業者の自律管理制度の導入、不正競争行為の整理・追加、域外適用の条項の追加などの実質的な改正が行われている。2022年改正草案と比較すると、当該草案公表当時実務界で注目を集めた条項の一部が修正・削除されているものもあり、立法機関に寄せられた意見が一定程度考慮されたものと思われる。
2024年改正草案の概要は以下のとおりである。
第6条※1では、業界団体及びプラットフォーム運営者の義務を強化し又は新設している。具体的には、業界団体が市場競争秩序を維持するため法令に基づく(公正な)競争をさせるべきその対象を、当該業界団体の会員から「業界内の事業者」全体に拡大している。また、プラットフォーム運営者(例えば、ECサイトやSNS運営者)に対しては、サービス契約や取引ルールにおいて、公平な競争ルールを明示し、プラットフォーム内の事業者が不正競争行為をしないよう必要な措置を講じる義務を新設している。これらの改正は、業界団体やプラットフォーム運営者による関連する事業者に対する自律的な管理を促すものであり、これらの業界に所属し又はこれらを利用して事業活動を行う事業者については、このような自律的な管理に従い、不正競争行為をしないことが求められることになる。
第7条※2では、不正競争行為の一つである混同行為に関する規制範囲を詳細化し、拡大している。例えば2024年改正草案では、現行法と比べ、新たに、①一定の影響力のある他人の新メディアアカウント名、アプリケーションの名称、アイコンを無断で使用する行為、②他人の登録商標や著名商標を無断で企業名称に使用する行為、③一定の影響力のある他人の商品名称、企業名称等を無断で検索キーワードにする行為について、禁止される混同行為として新たに追加している。さらに、④他人の混同行為に便宜を提供してはならないとの規定を新設し、他人の混同行為を幇助する行為を禁止している。
これらは、デジタル社会に対応して市場における識別標識の保護を強化するものであるが、「新メディアアカウント名」などが具体的に何を指すかが不明確な点もあり、解釈の余地が残っている。
第8条※3では、現行法上規制対象であった商業賄賂の贈賄行為の規制に加え、2024年改正草案では、収賄行為も規制範囲に含まれることが明確化された。また、第23条※4では、商業賄賂規制の違反について、(贈賄)法人に対する過料上限額が200万元から500万元に引き上げられたほか、贈賄の責任者など個人に対する過料(上限100万元)が新設されるとともに、(収賄)法人・個人の処罰も新設された(法人過料上限額200万元、個人50万元)。商業賄賂規制についてはこのように処罰が大幅に強化されている。
第9条※5は、事業者が一定の主体に対して虚偽を宣伝することを禁止しているが、2024年改正草案ではその主体について、宣伝の対象を「消費者」から「他の経営者」にも拡大している。また、同条は、現行法上他の事業者による虚偽宣伝に対する幇助行為を処罰対象としていたが、その幇助行為の手段として、従来の虚偽取引に加え、「虚偽評価」を追加し(「虚偽評価」は定義もなく明確でないが、文言からすると、SNS上での商品・サービスの評価についての虚偽を流布することなどが考えられる)、規制対象を拡大している。(なお、この虚偽宣伝条項は、2022年改正草案では、これらの改正のほか、その他の多岐にわたる文言の調整等もあったが、2024年改正草案ではそれらはなくなっている。)
これらのうち、上記虚偽宣伝における主体の追加については、B to Cビジネスでの宣伝行為のみならず、B to Bビジネスでの宣伝行為も明確に規制対象となるので、留意が必要である。
第15条※8では、大企業の行為を規制する条項が新たに追加された。具体的には、大企業等の事業者は、自己の資金、技術、取引ルート、業界影響力などの優位な立場を濫用し、中小企業に対し、明らかに不合理な支払条件、支払方法、支払期限、違約責任を課したり、排他的契約の締結を強制したり、あるいは、他の方法により、市場の競争秩序を妨げてはならないとされている。2022年改正草案では、「相対的優越的地位」を有する事業者は一定の不合理な行為をしてはならないなどとする規定があったが、このような「相対的優越的地位」という概念は、2024年改正草案では導入されず、「大企業等の事業者」が「優位な立場を濫用」して不合理な行為を禁止する規定に整理されたものである。「優位な立場」がどのように認定されるかなど適用には課題があるように思われるが、規模の大きい日系企業が企業規模等が比較的に小さい中国の取引相手との間で取引を行う場合において、その取引条件を自社に有利なものになるよう交渉する場合は、その合理性に疑義が挟まれないよう、注意する必要があるように思われる。
新たに追加された第34条※9では、不正競争行為によって得られた違法所得について、法に基づき返還される場合を除き、没収しなければならないことが規定された(現行法では、一部の不正競争行為のみ違法所得の没収が規定されていたが、これが不正競争行為一般に及ぶことになった)。これにより、不正競争行為があり、不正競争行為による違法所得があれば、(法令でその返還について別段の定めがある場合除き)没収されることになりうる。企業にとっては、不正競争行為についての経済的なリスクが一定程度高まることになる。
第40条※10では、中国外において本法に規定する不正競争行為が実施され、中国国内の市場競争秩序を乱したり、国内の事業者の利益を損なったりした場合は、本法や関連法令を適用して処理するとの規定が新設された。この規定によれば、外国企業が中国で中国企業と取引をし、中国外で不正競争行為がありそれが中国企業の利益を損なったというような場合には、本法が適用され、当該外国企業が処罰対象となりえる。ただ、実際には処罰の執行の問題はあるように思われる。
反不正当競争法にかかる2024年改正草案の概要は上記のとおりであるが、処罰の強化や、不正競争行為の追加・整理など、規制の強化の側面が強く、それに伴い、違反のリスクは増大している。そのため、日系企業としては、内部コンプライアンス部門や中国の法務部門などとの連携を通じ、自社又は子会社などによる中国での事業活動が不正競争行為に該当しないかを改めて精査すること望ましい。
さらに、域外適用条項により、新たに、中国国内のみならず、中国国外での行為も中国の市場競争や事業者の利益に影響がある限り、本法の適用対象となりうることとなっており、中国に拠点等があるかにかかわらず、中国企業と取引のある日系企業においては本法に一定の留意をすることが望ましいと考えられる。
※1
第6条 国は、組織及び個人が不正競争行為に対する社会的監督を行うことを奨励、支持し、保護する。
国家機関及びその職員は、不正競争行為を支持したり、庇護したりしてはならない。
業界団体は業界内の自律を強化し、当該業界の事業者に対し、法に基づく競争を指導し、規範化し、市場競争秩序を維持しなければならない。
プラットフォーム運営者は、プラットフォームサービス契約及び取引規則において、公正な競争ルールを明示し、プラットフォーム内の事業者による不正競争行為に対して必要な措置を適時に講じなければならない。
※2
第7条 事業者は、以下の混同行為を行い、他人の商品又は他人と特定の関係があると誤認させてはならない。
事業者は、他人の混同行為の実施のため便宜を提供してはならない。
※3
第8条 事業者は、取引機会又は競争上の優位を得るため、以下の単位又は個人に対し、財物やその他の手段による賄賂を行ってはならない。
前項に規定する単位及び個人は、取引活動において賄賂を受け取ってはならない。
事業者は、取引活動において、明示的な方法で取引相手にディスカウントを提供し、又は仲介者にコミッションを支払うことができる。事業者が取引相手にディスカウントを提供し、仲介者にコミッションを支払う場合、帳簿に正確に記載しなければならない。ディスカウント、コミッションを受け取る側も正確に帳簿に記載しなければならない。
事業者の従業員が賄賂を行った場合、原則としてその行為は経営者の行為とみなされる。ただし、経営者がその行為が取引機会や競争優位を得る目的と無関係であることを証明できる場合はこの限りではない。
※4
第23条 経営者が第8条の規定に違反して賄賂を行った場合、監督検査機関は10万元以上100万元以下の過料を科す。情状が重大な場合、100万元以上500万元以下の過料及び営業許可の取消し処分を行うことができる。経営者の法定代表者、主要責任者及び直接責任者が賄賂行為について個人的責任を有する場合、100万元以下の過料を科すことができる。
取引活動において賄賂を受け取った場合、法律・行政法規に定めがある場合はその定めに従う。定めがない場合、監督検査機関は、単位に対して200万元以下の罰金、個人に対して50万元以下の過料を科す。
※5
第9条 経営者は、自らの商品の性能、機能、品質、販売状況、ユーザー評価、受賞歴などについて、虚偽又は誤解を招くような商業宣伝を行い、消費者及び他の事業者を欺き、誤導してはならない。
虚偽の取引や架空の評価などを通じて、他の事業者による虚偽又は誤解を招く商業宣伝を幇助してはならない。
※6
第13条 事業者は、インターネットを利用して生産・経営活動を行う場合、本法の各条項を遵守しなければならない。
事業者は、データ、アルゴリズム、技術、プラットフォーム規則等を利用し、ユーザーによる選択に影響を与える方式又は他の方法により、以下のような他の事業者が適法に提供するネットワーク製品又はサービスの正常な運営を妨害・破壊する行為を行ってはならない。
※7
第14条 プラットフォーム運営者は、プラットフォーム内の事業者に対し、その価格ルールに従って、コストを下回る価格で商品を販売するよう強制し、公正な競争秩序を乱してはならない。
※8
第15条 大企業などの事業者は、自らの資金、技術、取引ルート、業界影響力などにおける優位性を濫用し、中小企業に対して明らかに不合理な支払条件、支払方法、支払期限、違約責任を課すこと、排他的契約の締結を強制すること又は他の方法により、公正な競争秩序を乱してはならない。
※9
第34条 経営者が本法の規定に違反して不正競争を行った場合、不当な利益があるときは、法律に基づき返還させるほか、没収される。
※10
第40条 中華人民共和国の域外において、本法が規定する不正競争行為を実施し、国内市場の競争秩序を乱し、又は国内の経営者の合法的権益を損なう場合、本法及び関連する法律の規定に従って処理する。
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