
中翔平 Shohei Naka
アソシエイト
バンコク
NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報
ニュースレター
データセンター開発・運営プロジェクトの法的留意点①~ストラクチャリング上の論点~(2025年7月)
データセンター開発・運営プロジェクトの法的留意点② ~カスタマー契約の性質・許認可・電力調達の観点~(2025年7月)
Eコマースの普及やAIの開発に伴う社会のデジタル化が急速に進んでいる中で、大量のデータを安全かつ迅速に処理できるシステムを構築することが可能なデータセンターに対する需要が高まっている。東南アジアにおいてはシンガポールやマレーシアのデータセンター市場が先行して大きく成長しているが、近隣諸国に比べて電力供給価格が比較的安価で安定している等の理由から、タイにおけるデータセンター市場も今後、急速に拡大することが予想されている。
本稿では、タイにおいてデータセンター事業に参画するにあたって法的な観点から特に留意すべき基本的な事項を紹介する。紙面の都合上、データセンター事業のうち、主として、データセンターのスペース又はこれに設置されるサーバー等の全部又は一部を提供するコロケーションサービスやホスティングサービス事業を念頭に置いて説明を行う。
まず、タイにおいて投資を行うにあたってはタイ投資委員会(「BOI」)の投資奨励恩典の利用可否を検討すべきである。BOIはデータセンター事業に関して、いくつかの投資奨励恩典を用意している。下記は、コロケーションサービスやホスティングサービス事業に係るBOIの投資奨励恩典の条件である。
上記の投資奨励恩典の付与を受けると8年間の法人所得税の免除や機械輸入税の免除といった税制面の恩典を受けられる他、外資企業による土地の所有や外国人従業員のワークパーミットの容易な取得といった非税制面の恩典も受けることができる。
データセンターの開発を行うにあたっては用地を確保する必要がある。しかし、外資企業による用地の確保については外資規制上の問題をクリアしなくてはならない。まず、データセンターの用地を自前で確保する場合には土地の取得が必要となるが、土地法上、「外国人」※1(登録資本の49%超を外国企業が保有するタイ法人等)による土地の所有は原則として認められない。他方で、建物の所有自体は土地法の規制の対象外であるため、第三者が所有する土地の上に、データセンターを建築すれば土地法上の規制は回避することが可能である。また、上記のとおり、投資奨励恩典の付与を受けると、土地法上の「外国人」に該当しても、BOIから許可を受けて土地を所有することが可能である。用地を自ら所有することによりスキームの安定性を確保する観点からも、BOIの投資奨励恩典を利用する意義があると考えられる。
次に、外資規制の観点からは、土地法のみならず、外国人事業法上の規制にも留意が必要である。外国人事業法上、同法に定める「外国人」※2(50%以上の株式を外国企業が保有するタイ法人等)がタイ国内において一定の規制対象業種に従事する場合には、原則として、外国人事業許可(いわゆるFBL)を取得する必要がある。コロケーションサービスやホスティングサービス事業に従事する場合には、少なくとも、データセンターを第三者の利用に供することになるが、そのような事業を行うことは、規制対象業種である「その他のサービス業」に該当することになるため、FBLが必要になる。もっとも、一般的にFBLを取得することは容易ではなく、取得できる場合でも、半年近くかかるのが通常である。そこで、かかる外国人事業法の規制をクリアするための方法として、タイの事業者との間で合弁会社を設立し、タイの事業者に合弁会社の50%超(土地法の規制も勘案すると通常は51%以上)の株式を保有させて、合弁会社が外国人事業法上の「外国人」に該当しないように設計することが考えられる。あるいは、上記の投資奨励恩典を利用することも考えられる。すなわち、BOIの投資奨励恩典の付与を受けた事業であれば、かかる投資奨励恩典に基づいて外国人事業証明書(いわゆるFBC)を容易に取得することが可能であり、FBCを取得すれば外国人事業法に抵触することなく事業に従事することができる。かかる観点からも投資奨励恩典を利用する意義があると考えられる。
データセンター事業に従事するにあたってはタイの電気通信事業法(Telecommunications Business Act)の規制に留意する必要がある。電気通信事業法上、電気通信事業に従事する事業者は後述のとおりその内容に応じてライセンスを取得する必要がある。電気通信事業法上は、「電気通信事業」の具体的な定義を設けていないものの管轄当局である国家放送通信委員会が過去に出した告示によれば、インターネットサービスを提供することは電気通信事業に該当するという前提の下、一般的なデータセンター事業はインターネットサービスの提供を伴うため電気通信事業に該当するとされている。そのため、サーバーの提供を行うホスティングサービスのみならず、いわゆるスペース貸しであるコロケーションサービスであっても、ユーザーのために自前のものであるか否かに拘わらずネットワーク環境の提供を含んだセキュリティ・ユーティリティ等を顧客の用に供している限り、電気通信事業に該当すると解される可能性が高い。電気通信事業者は、事業内容に応じて、以下の表のとおりType 1からType 3のライセンスのいずれかを取得することが求められる。独自のネットワーク環境を持たない事業者が大半であるため、一般的には、Type 1のライセンスを取得することになる。また、Type 1であれば、電気通信事業者の外国人株式保有割合の制約もない。
自前の電気通信 ネットワークの有無 |
顧客 | 電気通信事業法上の外資規制 | |
---|---|---|---|
Type 1 | 無 | 制限なし | 適用なし |
Type 2 | 有・無 | 特定の顧客グループに限定 | 適用あり |
Type 3 | 有 | 一般公衆 | 適用あり |
主としてハイパースケールのデータセンターで見られるが、データセンター事業者は顧客との契約上、施設の改装や廃棄物(ケーブル等)の処理を行うことになっている場合がある。そのため、かかる場合には、建設工事関連の規制(エンジニアリング法・建築士法等)や有害物質法関連の規制の検討が必要となる可能性がある。また、データセンター事業者において顧客から個人データを取得するケースでは、個人情報保護法上の対応も検討する必要がある。
本稿ではコロケーションサービスやホスティングサービス事業を行う際にまず検討すべき基本的な事項を概観した。実際には事業形態、ターゲット顧客や立地によって適用される法令は変わり得るため、個別事案に応じた網羅的な検討が不可欠である。また、タイにおけるデータセンター事業に係る法規制は必ずしも十分に整備されているとはいえず、解釈や実務の運用に委ねられている部分もあるため、実際にタイにおいてデータセンター事業を行うにあたっては、関係当局と連携しながら対応していくことが不可欠となると考えられる。
※1
土地法上の「外国人」には、登録資本の49%超の保有者又は株主の過半数(頭数ベース)が外国人である場合が含まれる。
※2
外国人事業法上の「外国人」の定義は土地法の「外国人」の定義とはずれがあり、タイ国内で設立された法人については、(i)全株式数又は株式の価値に占める外国人又は外国法人の者が保有する割合が50%以上である場合、並びに、(ii)外国人、外国法人及び全株式数又は株式の価値に占める外国人又は外国法人の者が保有する割合が50%以上であるタイ法人の者が保有する割合が50%以上の場合に、外国人事業法上の「外国人」に該当する。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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