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ニュースレター

<宇宙法アップデート> COPUOSによる「推奨される宇宙資源活動に関する原則の初期草案」の発表

NO&T Technology Law Update テクノロジー法ニュースレター

著者等
大久保涼小谷祐介江坂仁志(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Technology Law Update ~テクノロジー法ニュースレター~ No.64(2025年7月)
業務分野
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 2025年5月に開催された、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS(United Nations Committee on the Peaceful Uses of Outer Space))の第64回法律小委員会において、推奨される宇宙資源活動に関する原則の初期草案(Initial draft set of recommended principles for space resource activities(A/AC.105/C.2/L.339)。以下「本原則案」といいます。)※1が宇宙資源活動の法的側面に関する作業部会(the Working Group on Legal Aspects of Space Resource Activities)(以下「宇宙資源WG」といいます。)の副議長※2により提案されました。

 本原則案は、宇宙空間における資源採集等の活動について、一定の方向性を提示するものであり、今後の各国における宇宙資源活動における法制度策定の指針として重要な意味を有するものと思われます。本ニュースレターでは、本原則案のポイントについて解説します。

2. 本原則案の概要

 本原則案は、上記のとおり、宇宙空間における資源採取等の活動について推奨される原則(プリンシプル)の初期草案ですが、本原則案は宇宙資源WGにおける従前の議論を土台に宇宙資源WGの副議長が作成したものであり、その項目立てや各原則の文言につき作業部会参加各国のコンセンサスが得られているものではなく、また現時点では、本原則案がどのような法的位置付けのものとして採択されるかという点について、作業部会参加各国間において何らの合意も存在しません。もっとも、宇宙資源活動に関する明確な国際的ルールが定められていない中で、国連の委員会であるCOPUOSが基本原則の方向性について具体的に議論を開始したという点でインパクトは大きく、今後各国で宇宙資源活動に関する法整備を行うに際して、本原則案が参考とされる可能性が高いと考えられます。

 本原則案は、以下の二部構成で構成されています。

  • 第一部:宇宙資源活動に関する基本概念を反映した推奨される原則について、宇宙資源WG内で共通理解(common understanding)が得られている可能性が高い点を中心に副議長が作成した初期草案(前文を含む。)。
  • 第二部:宇宙資源WG内で共通理解(common understanding)が見られていない事項に関する、今後の議論の出発点となる追加条項案(possible additional draft provisions)。

 なお、本原則案には、ブラケット([])が付されている箇所があります。これは、本原則案を作成した宇宙資源WGの副議長が、本原則案中に追記することが考えられる表現等について、オプションとして記載したものです。ブラケット内の表現も含めて本原則案が最終的に採択されるかは未知数ですが、本原則案の一部として公表されている以上、ブラケット内の記載も他の部分と同様、各国の宇宙資源活動に関する法整備に際して参考とされるものと思われます。本ニュースレターにおいては、本原則案中ブラケット内で表現されている箇所については、同様に適宜ブラケットを付して記載します。

 また、本原則案は、第64回COPUOS法律小委員会の会期中に議論にかけられ、各原則の見出しと前文に修正がなされました※3。本ニュースレターでは修正後の本原則に従って記載していますが、適宜修正前後の内容に触れています。

3. 第一部について

 第一部は、宇宙資源活動に関する基本原則となるべきと考えられる原則及び前文から構成されています。

(1) 前文

 前文では、宇宙資源活動を含む宇宙空間の探査及び利用が、全人類及びすべての国の利益のために行われるべきであり、宇宙資源活動が、月やその他の天体を含む宇宙空間の安全で持続可能な探査と利用に重要な支援を提供できることを認識すること、及び宇宙資源活動の実施において、国際法に従い安全、持続可能、合理的かつ平和的な方法で実施されることを確保する必要性を考慮し、推奨される原則が策定されるべきであることなどの考え方が示されています。また、修正後の本原則では、宇宙の[探査と利用]が全人類のためのものであることを認識し、現在及び未来の世代のために[責任ある]管理とその[宇宙]資源の持続可能な利用の重要性を強調すること、宇宙資源が法的規制の対象として、宇宙空間における不可欠な部分であることを考慮すること、COPUOS[の加盟国]が、以下の原則が法的拘束力のある権利や義務を生じさせるものではなく、[加盟国の]国際法に基づく[既存の]権利や義務に影響を与えることを意図していないという理解を認識すること、及び以下の原則が、関連する国際法[、宇宙条約[、及び宇宙活動に関するガイドライン、原則、勧告][国際宇宙法]]の条項を補完するものであり、置き換えるものではないことに留意すること、等の内容が追加されています。

 なお、当初提案されていた本原則案前文では、本原則案で用いられる「宇宙資源」(space resource)及び「宇宙資源活動」(space resource activity)について、以下のとおりその定義が示されていました。

  • 宇宙資源:月及びその他の天体[の表面又は地下]を含む宇宙空間に[その場に]存在する、抽出可能及び/又は回収可能な天然の、非生物学的資源[物質][鉱物、水、氷、その他の液体、気体など]を含むもの[衛星軌道、電波の周波数帯、太陽エネルギー、その他の物理的性質を有しない資源は含まない。]※4
  • 宇宙資源活動:月その他の天体を含む宇宙空間において、宇宙資源の探索、宇宙資源の抽出、宇宙資源の開発及び利用(並びに加工及び輸送等の関連活動)を[主たる]目的として行われる活動※5

 しかしながら、修正後の前文からは、上記の定義は削除されました。修正後の前文においては、上記の定義が記載されていた箇所に、ブラケットで、宇宙資源及び宇宙資源活動に関するベストプラクティスを特定し、法的明確性を持つ必要があることに留意する必要がある旨が記載されています。

(2) 第1原則:国際宇宙法を含む国際法の遵守

 第1原則においては、宇宙資源活動は国際法(国際連合憲章を含む。)に従い、国際平和と安全を維持し、国際協力と理解を促進するものでなければならないとした上で、特に宇宙条約やその他の適用可能な国連条約を含む宇宙探査及び利用に関する既存の法律枠組みに完全準拠し、またその適用を受ける形で行われるべきとの考え方が示されています。

(3) 第2原則:宇宙探査と利用の自由・[万人の]宇宙へのアクセスと国家による独占の禁止(案A)/ 宇宙資源活動の[実施の]自由(案B)

 第2原則においては、宇宙空間、月及びその他の天体においては、すべての国家が宇宙資源活動を行う自由があり、すべての国家がこれら宇宙空間等にアクセスする自由を維持しなければならないとしています。そして、宇宙資源活動によって、国家が宇宙空間、月及びその他の天体を直接的又は間接的に支配してはならないとの考え方が示されています。

(4) 第3原則:平和的目的

 第3原則においては、月及びその他の天体はすべての国家によって専ら平和的目的で使用され、宇宙資源活動は専ら平和的目的で行われるべきであるとの考え方が示されています。従って、宇宙資源活動を軍事的利用の目的により行うことは禁じられています。

(5) 第4原則:安全性[、救助][、救助活動][、緊急事態に関する規定][、及び復元]

 第4原則においては、宇宙資源活動は、安全な方法で行われ、人命及び身体の維持が優先されなければならないとの考え方が示されています。その具体的内容として、[宇宙資源活動を行う]国家は、月及びその他の天体での事故、遭難、緊急着陸、その他の状況又は現象により人命や身体に危険が及ぶ可能性があるときには、すべての可能な手段を講じて救助し、必要な援助を提供するべきであるとの考え方が示されています。

(6) 第5原則:地球・宇宙空間の環境の持続可能性と保護

 第5原則においては、宇宙資源活動を開発、計画、実施する際に、地球及び宇宙空間の環境への配慮のため国家が取るべき措置についての考え方が示されています。具体的には、地球環境に悪影響を及ぼす可能性のある地球外物質の持ち込みを避けること(第5原則(A)(b))、月及びその他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染を避けること(同号(c))、月及びその他の天体の軌道上及び周囲における宇宙ゴミの生成を最小限に抑えること(同号(d))、宇宙資源活動によって影響を受けた領域を可能な限り修復し、活動完了後にはそれらを元の状態に戻すこと(同号(f))等が挙げられています。

(7) 第6原則:科学研究及び調査の[優先][自由][関与][及び協同]並びに国際協力

 第6原則においては、宇宙資源活動は全人類の利益と共通の利益のために行われるものであるとした上で、国家は、宇宙資源活動を行う際には、月及びその他の天体を含む宇宙空間の科学調査の自由を確保し、その調査における国際協力を促進し奨励するべきであり、(a)全人類の利益を促進する科学研究及び調査及び(b)それを支援する宇宙資源活動が優先されるべきであるとの考え方が示されています。

 宇宙資源活動は特に各国の民間宇宙企業によって行われる場合にはその実施主体の利益を図る目的で行われることも多いと考えられる中で、本原則がどのように適用されるかについては、今後の議論が待たれるものと思われます。具体的には、(i)宇宙資源活動はその実施主体の利益を図る目的で行われることが多い(例えば、地球と月面間の商業輸送サービスを展開する企業が月面から地球に向かうロケットの燃料にするため月の南極のクレーター内に露出している氷を取得・利用する場合)中で、全人類の利益と共通の利益のために行うという点はどのように実現される想定なのか、(ii)科学研究調査にどの程度の「優先」が必要とされるのか(上記の例で言えば、科学研究調査用に少量氷を残しておけば後は全部商業用に使ってしまって良いのか)、(iii)あらゆる宇宙資源活動は、それが商業的側面を持つものでも科学研究調査の側面は持ち得るはず(例えば、上記の例では、科学研究機関が月の石を地球に持ち帰って研究するため当該輸送サービスを利用することが考えられます。)なので、優劣関係をどのように判断するのか、などが議論になり得るように思われます。

(8) 第7原則:情報及びデータの共有

 第7原則においては、宇宙資源活動を行う際、国家は、その活動の性質、場所等について、国連等に対して、[実行可能な最大限の範囲で]適時に通知するべきであり、また、国家は、宇宙資源活動の実施において得た知見や科学的及び技術的データを[実行可能な最大限の範囲で]適時に共有するべきであるとの考え方が示されています。

(9) 第8原則:[通知、]調整、協力及び協議[、及び正当な配慮]

 第8原則においては、宇宙資源活動を開発、計画、実施する際に、国家が配慮すべき事項についての考え方が示されています。具体的には、国家は他のすべての国家の利益を考慮し、必要な場合は相互援助を提供するほか、[実行可能な最大限の範囲で]他国との調整及び協力を行うべきとしています。また、宇宙資源活動を開発、計画、実施する際に、国家は他の国家の活動、特に宇宙資源活動に有害となる可能性のある干渉を行ってはならず、他の国家が当該有害な干渉を引き起こす可能性があると信じるに足る理由がある場合、国家は、当該活動についてその国家との協議を要請し、要請を受けた国家は、要請国との協議を適切に行わなければならないとの考えが示されており、宇宙資源活動に関連して国家間での衝突を避けるよう、適切に調整・協議を行うべきとの方向性が示されています。

 この点については、月面に露出している氷が発見された場合など、入手可能な宇宙資源が限定的である場合などに適用されると考えられますが、実際にどのような調整が行われるかについては今後の課題と考えられます。

(10) 第9原則:非政府機関による活動に対する国際的責任

 第9原則においては、宇宙条約(月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約)第VI条と同様、国家が、政府機関のみならず、当該国家に属する非政府機関によって行われた宇宙空間、月及びその他の天体における国家の活動(宇宙資源活動を含む。)に対して国際的責任を負うものとし、これらの活動が本原則に準拠して行われることを保証すべきであるとの考え方が示されています。その上で、非政府機関が主体として又は非政府機関の関与のもと行われる宇宙資源活動について、国家は、(a)環境影響評価を含む許認可制度及び(b)宇宙資源活動の実施には当該許認可制度に従った正式な許認可を取得済みであることを確保し、また非政府機関の関与のもと、行われる宇宙資源活動について継続的な監督を実施するための必要な措置を講じなければならないとの考え方が示されています。

(11) その他の原則

 当初提案された本原則案においては、第10原則「原則の見直し」として、以上の各原則の見直しに関する規律が置かれていました。具体的には、宇宙資源活動が進化(発展)するにつれて、各国はCOPUOS及びその小委員会を通じ、本原則を見直し、必要に応じてこれらの原則を改定及び修正することができる旨が示されていました。しかしながら、修正後の本原則では、第10原則はなくなり、代わりに「定義」「国際協力」「統制」、「原則の[監視及び]見直し」という追加の原則を設けることとされています。もっとも、これらの追加の原則は題名だけになっており、その具体的な内容については、記載されていません。

4. 第二部について

 上記2.で述べたとおり、本原則案では、宇宙資源WG内で共通理解(common understanding)が見られていない事項について、今後の議論の出発点となる追加条項案(possible additional draft provisions)が示されています。追加条項案は、第一部で示された原則に新たな原則を付け加える形(例:第11原則)ではなく、各原則の条項として挿入される形式で整理されています。本稿では、追加条項案の中でも今後の宇宙法制に対する影響の観点から、特に重要性が高いと考えられる追加条項案を中心に取り上げます。

(1) 宇宙資源の採掘が「国家による取得」(宇宙条約第II条)に該当しないことの明確化(第2原則への追加条項案)

 第2原則との関係では、宇宙資源の採掘(extraction)が、宇宙条約第II条の「国家による取得」(national appropriation)に該当しないことを明記する追加条項案が示されています(第2原則(C))。

 宇宙条約第II条では月その他の天体を含む宇宙空間は「国家による取得」(領有)の対象とはならないことが明記されているものの、宇宙資源の開発利用が「国家による取得」に当たるのかは明確ではありませんでした。地球上の資源については、各国に自国の資源を開発利用する権利(天然資源に対する恒久主権)が認められており、これは天然資源そのものについて国家主権が及んでいるともいえるところ、宇宙資源についても国家主権が認められるのかは上記宇宙条約第II条との関係で不明瞭となっています。

 本追加条項案は宇宙資源の採掘が「国家による取得」に該当しないことを明確化し、宇宙資源に対して国家主権が及ぶことを否定する立場を打ち出すものであり、今後宇宙資源活動が活発化することにより問題となるであろう、宇宙資源の国家による採掘について、重要な考え方を提供するものといえます。なお、同様の考え方は、各国の研究機関や宇宙機関などから構成されるハーグ宇宙資源ガバナンスワーキンググループ(the Hague International Space Resources Governance Working Group)が2019年に提示した宇宙資源活動に関する国際的枠組み検討のためのビルディングブロック(Building Blocks for the Development of an International Framework on Space Resource Activities。以下「ハーグビルディングブロック」といいます。)※6や、日本を含む50カ国以上が署名しているアルテミス合意(Artemis Accords)※7などにおいても示されています(ハーグビルディングブロック セクション8.3、アルテミス合意セクション10第2項)。

 (参考)

 宇宙条約第II条

 月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない。

(2) 宇宙資源活動に伴う一時的な安全区域・安全措置の設定(第4原則への追加条項案)

 宇宙資源活動の実施に当たっては、各国間で物理的・運用的な干渉が生じるリスクが考えられます。このような干渉を防止するために、追加条項案では、一時的な安全区域(temporary safety zone)、ないしは安全措置(safety measure)の設定を認めることが提案されています(第4原則(C))。また、本追加条項案では、ブラケット内にて、上記区域設定・措置設定を行うためにはすべての他国に対して十分な事前通知を必要とする旨の規定を置くことも示されています。

 この安全区域・安全措置が具体的にどのようなものとなるのか、どのような手続で実施するのかなどについて、本原則案上は明確化されておらず、後述の修正前の第10原則への追加条項案で、安全調整区域・安全調整措置の詳細について、今後本原則内で明確化・具体化する可能性がある旨記載されています。この点に関し、ハーグビルディングブロックやアルテミス合意においても、本追加条項案と同様に安全区域(safety zone)の設定に関する言及がなされており(ハーグビルディングブロック セクション12、アルテミス合意セクション11第6~11項)、その考え方は本原則案における安全区域の設定に関しても参考になるものと考えられます。

 ハーグビルディングブロックにおける安全区域の設定については、安全区域は宇宙条約に適合する形で設定・維持されなければならないこと、安全区域は関係する活動の通常の運用又は異常事象が、他の人員・装置等に対して有害な干渉(interference)を引き起こす可能性があると考えられる範囲を特定することによって設定されるべきであることなどからなる5つの原則が示されており※8、本原則案上における安全区域の設定に関しても同様の考え方が取り入れられる可能性があります。また、ハーグビルディングブロックの解説(Commentary)のAnnexには、安全区域の設定に関する具体例も記載されており※9、その観点からもハーグビルディングブロックの安全区域の設定に関する記載は、本追加条項案に基づく安全区域の設定の態様を考察していく上で、参考になるものと考えられます。

 また、アルテミス合意においても、安全区域の規模及び範囲は、合理的な方法で、広く受け入れられた科学的及び工学的原則を活用して決定されるべきであること、安全区域は一時的なものであり、作業の進捗や性質の変化に応じてその規模や範囲が調整され、作業の終了とともに廃止されることなどからなる4つの原則(アルテミス合意セクション11第7項)が示されており、こちらも、本原則案上における安全区域の設定に関しても同様の考え方が取り入れられる可能性があります。

(3) 既存の科学研究・調査が宇宙資源活動よりも優先する事の明確化(第6原則への追加条項案)

 上述のとおり、宇宙資源活動の実施に当たっては既存の科学研究・調査と宇宙資源活動が衝突してしまうような場面も考えられます。そこで第6原則に、科学研究・調査を目的としない宇宙資源活動は既存の科学研究・調査を目的とする活動に対して不当な干渉を行ってはならない旨を追記する追加条項案が提案されています(第6原則(D))。もっとも、本追加条項案をもってしても、科学研究・調査を目的としない宇宙資源活動の範囲などについては、上述のとおり今後議論の余地があるように思われます。

(4) 今後の改定及び修正事項の具体的内容の追記(修正前の第10原則への追加条項案)

 追加条項案では、修正前に第10原則として提案されていた各原則の見直しに関する条項(以下、本項において「旧第10原則」といいます。)に、今後の改定及び修正(旧第10原則(B)(b))の具体的内容を追記することも提示されています(同原則(C))。本原則の修正・改定は本追加条項案に示された点を中心に議論がなされていくものと考えられます。

 追加条項案に列挙されている主な改定・修正事項は、下記のとおりです。

  • 宇宙資源活動に関する規則・基準の策定(旧第10原則(C)(a))
  • 宇宙資源活動の利益を国家間に公平に分配する規範・メカニズムの構築(同号(b))
  • 開発途上国・新興宇宙利用国に対する宇宙資源活動に関連する技術移転(同号(c))
  • 宇宙資源活動のために相互運用可能なインフラ・基準の整備(同号(e))
  • 宇宙資源活動によって生じた損害に関する国家間の国際責任(同号(f))
  • 一時的な安全区域・安全措置についての規則・国際慣行等の整備(同号(h))
  • 宇宙資源活動の認可・監視・調整、宇宙資源の管理、宇宙資源活動に用いられた又は宇宙資源を用いて構築された人工物の登録、本原則に従った協議の調整、宇宙資源活動に関連する平和的紛争解決を目的とする国際的な仕組み作り(同号(l))

(5) その他追加条項案

 上記に取り上げた追加条項案の他にも、科学的・環境的・歴史的・文化的遺産価値又は先住民族(indigenous people)にとって特別な意義を有する地域の保護(第5原則(A)(g))、宇宙資源の枯渇・宇宙資源が存在する天体の破壊(destruction)防止(同号(h))、宇宙資源活動への参加を促進する措置の実施(第6原則(E))、宇宙資源活動の実施に先立つ一般への情報の通知(第7原則(A))、宇宙資源活動によって有害な干渉を受ける国との事前協議の実施(第8原則(C))が提案されています。

5. まとめ

 上述のとおり、本原則案は、今後各国が宇宙資源活動に関する法制度を整備するに際して、参考となるものであり、今後の国内外の宇宙法制に大きな影響を及ぼすことが予想されます。本原則案については今後もCOPUOSにて議論が進められていく見込みであり、引き続きその動向に注視が必要です。

脚注一覧

※2
Steven Freeland教授(ウェスタンシドニー大学名誉教授)。なお、同教授は本原則案を回覧した段階では副議長でしたが、同じ第64回法律小委員会の会期中において議長として選任され、現在は議長となっています。

※4
原文は、「space resources include extractable and/or recoverable natural, abiotic resources [material] [such as minerals, water, ice, other liquids, and gases] located [in situ] in outer space, including [on the surface or in the subsurface of] the Moon and other celestial bodies [and do not include satellite orbits, radio spectrum, solar energy or other resources not of a physical nature]」。

※5
原文は、「space resource activities include activities conducted in outer space, including the Moon and other celestial bodies, for the [primary] purpose of searching for space resources, the extraction of space resources, and the exploitation and utilization of space resources [as well as related activities such as processing and transportation]」。

※8
Olavo de O. Bittencourt Netoほか編『Building Blocks for the Development of an International Framework for the Governance of Space Resource Activities: A Commentary』(Eleven International Publishing、2020年)66~67頁

※9
同126~128頁

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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