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年頭挨拶「法的サービスのグローバル化」

明けましておめでとうございます。昨年は新世紀初年度であったにもかかわらず、テロによる世界貿易センタービルの破壊に象徴される世紀末的な悲しむべき年になってしまいました。今年は少なくとも平和な年であって欲しいと思います。

冷戦構造の崩壊頃を境として、安全保障の分野だけでなく広く政治、経済、社会の全般にわたってそれまでの安定を支えてきた基本的なシステムが崩壊し、新しい時代を支えるべき新しいシステムの構築に向けて様々な努力が払われてきたにもかかわらず、未だその第一歩を踏み出したとすら言えないような混迷の時代が続いています。ただ見方を変えれば経済至上主義、物的豊かさ至上主義の功罪をじっくり反省し、人間が幸福を実感できる社会の再構築を行う良い機会なのかもしれないと思うこともあります。

このような混迷の時代において法および法律家の果たし得る役割は、安定した時代におけるそれよりも大きいはずです。そのひとつとして、経済のグローバライゼーションと歩調をあわせて法的サービスのグローバライゼーションということが盛んに言われています。この分野の最前線に立つ実務家の一人として、数カ国にまたがる企業買収や資本取引に日常的に関与しておりますと、グローバルな法的サービスの必要性が急速に高まっていることを否定することはできません。しかし経済においても法的サービスにおいても、グローバライゼーションは必ずしも世界的統一スタンダードで物事を処理することを意味する訳ではありません。各国はその歴史や文化の違いに応じた国民性の違いを抱えており、ある国でスムーズに受け入れられる制度が他の国では定着しない例は沢山あります。

私が米国に留学していた1979年から81年頃には米国はベトナム戦争の傷跡から未だ回復しておらず、政治的にも経済的にも自信喪失の状態で、"JAPAN AS NO.1"などで代表されるように、日本の終身雇傭制度に学ぶべきだとか、官民協調システムに学ぶべきだとか、品質管理システムはどうなっているのだとかいった類の発言を数多く耳にしましたし、この種のセミナーのパネリストになったりもしました。しかし現在の米国経済の成功が日本的なシステムのいくつかを導入した結果だとはとても思えませんし、米国に定着した日本的なシステムの話も聞いたことがありません。日本は現在の不況から脱出する方策を考えるにあたって、勇気を持って他国の良い制度を導入する必要があることは当然ですが、同時に日本だからできる事、日本だからできない事という日本または日本人の特性から目をそむけるべきではありません。

法的サービスの観点だけから言えば、そのグローバライゼーションとは、多国籍経済取引に参加するメンバーの母国法が他国のメンバーの行動決定の指針となるのに十分な程度の客観性、透明性を有しており、かつその運用に必要な能力を備えた法律家が必要な数だけ存在するということに外ならないと思います。

2000年1月1日に旧長島・大野法律事務所と旧常松簗瀬関根法律事務所を合併して現在の長島・大野・常松法律事務所という日本最大の法律事務所を設立した趣旨も、ある意味では先の意味での日本の法的サービスのグローバライゼーションに資するということにありました。合併時の弁護士数は95人でしたが、2001年1月1日時点では126人になり、また本年1月1日時点では143人となっております。当事務所の弁護士の能力の面では、欧米の一流事務所の弁護士の能力に一歩も引けを取らないという自信を持っておりますが、弁護士の数の面では残念ながら未だニーズに十分に対応できているとは言い切れない状況です。高度な質を維持しつつ数の面でも社会のニーズに応じられる体制を作るという困難な仕事に今後も勇気を持って取り組んで行く覚悟です。

規制緩和が進むなか、日本の国内市場における国際的競争が激化しており、そういう意味では純国内的な商取引分野でも法的サービスのグローバライゼーションが急速に進行しております。すなわち、外国企業、外国資本の活発な日本市場への参入の結果、これまで外国人には理解しにくかったいわゆる日本的な取引慣行や日本的な法律に対するものの考え方が日本国内市場における企業活動から少しずつ姿を消して、より国際的客観性・透明性を持ったものに取って代わられつつあると思われます。その当然の結果として、これまで国際取引関係に軸足を置いたいわゆる渉外法律事務所と考えられがちであった当事務所の取り扱う案件のなかで純国内案件(紛争処理案件を含む)の占める割合が飛躍的に増大しており、当事務所も名実ともにいわゆる渉外法律事務所から総合法律事務所への変容を遂げることができたと自負しています。

日本国内市場の国際化にともなうもうひとつの現象として、外国法律事務所の日本参入も従来にない勢いを示しております。また外国法律事務所と日本人弁護士との特定共同事業の数も急速に増加しております。このこと自体は日本経済にとって歓迎すべきことであり、また自然なことであると思われます。しかし、これが外国人弁護士による日本人弁護士の支配という事態にまで進展することは、先に述べた日本の歴史・文化に裏打ちされた日本人の国民性とか日本人の特性を理解した法の運用という観点から必ずしも好ましいこととは思えません。決して国粋主義的なものの考え方をしている訳ではありませんが、日本人の手による日本法の運用の重要性を過少に評価すべきではないと思います。当事務所に限らず多くの日本の法律事務所、法律家が同様の認識を持って、法的サービスのグローバライゼーションの動きに一方では積極的な対応を怠らず同時に他方では世の中のムードに安易に流されない賢明さを維持していかなくてはならないと思います。

最後になりましたが、本年もよろしくお願い申し上げます。

マネージング・パートナー
弁護士 原 壽

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