鼎談者
パートナー
福原 あゆみ
法務省・検察庁での経験をバックグラウンドとして、企業の危機管理・争訟を主たる業務分野としており、海外当局が関係したクロスボーダー危機管理案件の経験も豊富に有している。そのほか、ビジネスと人権の分野を含むコンプライアンス体制構築に関するアドバイスも行っている。
ゲスト
石川 えり
難民支援協会の代表理事。大学在学中、難民支援協会(JAR)立ち上げに参加。大学卒業後、企業勤務を経て2001年よりJARに入職。アフガニスタン難民への支援、日本初の難民認定関連法改正に携わり、クルド難民国連大学前座り込み・同難民退去強制の際にも関係者間の調整を行った。
ゲスト
新島 彩子
難民支援協会 支援事業部マネージャー。大学卒業後、民間企業に就職。2001年にアフガニスタン出身の難民認定申請者が一斉に収容された件をきっかけに約5年間、JARの生活支援スタッフとして勤務。その後、民間企業に勤務しながら、理事として活動に携わり、2016年12月より現職。
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福原
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日本における難民の問題については、入国管理局に収容中のスリランカ人女性が亡くなられた件等を発端とする収容の問題や入国管理法(「入管法」)改正案に関する議論等を通じて、世論の関心も高まりつつあるように感じられます。NO&Tでは、プロボノ活動の一環として、難民認定申請代理による難民支援を行っており、今回は難民支援協会の代表理事である石川えり様と支援事業部の新島彩子様をお招きして、難民案件に関する弁護士への期待等についてお話をお伺いしました。
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新島
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難民支援協会(JAR)は、1999年に日本に逃れてきた難民を総合的に支援する団体として設立されました。難民への直接支援、難民を受け入れることができる日本社会を目指し、政策提言と広報活動の3つの活動を柱としています。このうち法的支援については、難民申請を希望する方との初回面談や弁護士への案件の紹介、出身国情報(COI)※1の収集等を行っています。
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福原
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日本では、2019年の難民認定申請者数10,375人に対し難民認定者数44人、2020年はコロナの影響等で難民認定申請者数が大幅に減少したものの、難民認定申請者数3,936人に対し難民認定者数が47人と難民認定率が非常に低い数字にとどまっています。この点は、難民認定申請者において「難民」であることの立証責任を一次的に負担していることに伴う立証のハードルも影響していると思われますが、どのようにお考えでしょうか。
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石川
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難民認定率の低さは大きな課題だと考えていますが、立証責任の点に加え、実際の難民認定実務において、本国政府から個別把握されていることなど難民と認められる要件が非常に厳格であることや、難民認定申請者の供述の信憑性の有無が厳しく判断されることなどが影響していると思われます。
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福原
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私自身も難民認定申請の代理人を務めた経験がありますが、陳述書において供述の信憑性を高めるには、難民認定申請者からの細かい時系列の聞き取りを必要とします。一方で、通常行っている企業法務でのヒアリングよりもご本人にとって非常に辛い経験を思い出してもらう必要があるため、難しさを感じます。
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石川
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難民支援を行う弁護士の方には、思い出したくないトラウマ的な経験を深掘りすることについて心理的な面もぜひ配慮していただければと思います。また、難民認定申請者の教育レベルや文化的背景も様々であり、それらをくみ取りつつ聴取することの難しさもありますが、法的観点から聴取するということは弁護士の方にしかできないことですので、じっくりと話を聞いていただければと思います。
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福原
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ありがとうございます。現在の実務では代理人は難民認定申請(一次審査)における難民調査官のインタビューに立ち会うことができないため、難民認定申請者との事前の面談を重ね、信頼関係を築くとともに、安心してインタビューに臨んでもらうことも重要だと感じています。
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新島
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インタビューへの立会ができない点は、インタビューに通訳が入った場合に仮に誤訳等があったとしても訂正が困難であるという観点からも問題であり、難民認定申請手続の長期化とともに今後改善していなければならない点だと感じています。手続の過程において、難民認定申請者は非常に不安定な状況に置かれることになりますので、弁護士の方にはぜひ継続的なサポートをお願いしたいです。
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福原
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難民案件は先ほどお話ししたようなセンシティブな面もありつつ、公益性という観点からは非常に重要な分野だと思いますので、今後も法的なサポートを継続できればと思います。本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
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難民の地位またはその他の国際的保護の形態に関する申立てを評価するための手続において利用される情報
本鼎談は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。