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宇宙ビジネスの法務


大久保 涼

先日、当事務所宇宙プラクティスグループのメンバーで執筆した『宇宙ビジネスの法務』が出版されました。この座談会では、本の紹介も兼ねて、各章のポイントについて当事務所の執筆者間でカジュアルにお話してみたいと思います。

対談者

髙橋 優
武原 宇宙
岡﨑 巧
松本 尊義
小原 直人
川合 佑典
松本 晃

CHAPTER
01

宇宙ビジネスに関連する法体系(総論)

SECTION.01

宇宙ビジネスに適用される国際宇宙法


大久保
『宇宙ビジネスの法務』が出版されました。この執筆プロジェクトを立ち上げたのが2年半前でしたので、大分時間がかかってしまいましたね。その間、執筆者である大島弁護士・宇治野弁護士の転職もありました。今回は、本の目次に沿って、簡単にポイントとなるトピックについて皆様とお話したいと思います。宜しくお願いします。

大久保
では早速、最初のトピックである国際宇宙法ですが、国家間の取り決めである条約のもと、各国の宇宙法制が定められることを考えると、民間企業が行う宇宙ビジネスとの関係においても、国際宇宙法が関係してくることもありますね。例えば、宇宙空間での採掘などを行おうとする場合、宇宙条約が掲げる、国家による月その他の天体を含む宇宙空間の所有を禁止する「領有禁止原則」をどう整理するかというのは議論のあるところです。

髙橋
はい、この領有禁止原則のもと、国、民間企業や個人が月や火星などの土地の所有権を主張することは違法と考えられていますが、更に月や火星で採掘された岩石などの宇宙資源の所有の可否の問題があります。天体の所有権と同様にそこから採掘される資源の所有も同様に禁止されるとの考え方もある一方で、資源は領有禁止原則の対象外とする考え方もあります。日本では、私人による宇宙資源に対する所有権を認める宇宙資源法が今年制定され、宇宙資源は領有禁止原則の対象外とする考え方を前提にした法整備を進めています。

大久保
1984年に発効した月協定以降、国際条約は策定されていません。近年は、条約に代わって、法的拘束力のないソフトローと呼ばれる規範も重要になってきていますね。

髙橋
日本やアメリカなどの宇宙活動に大きく関与している国とこれから宇宙活動に進出しようとする国の間の利害対立などによって、法的拘束力のある形でのルールメイキングというのは非常に難しくなっています。しかし、宇宙活動に関連する技術が急速に発展し、多くの国・民間企業が宇宙活動に進出しつつある中で、デブリ問題を始めとして、何らルールのない無秩序の環境を放置しておくというのも問題です。そこで、比較的コンセンサスのとりやすい法的拘束力がない形でのルールメイキング、例えば国連総会決議や宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)において策定されるガイドラインといったソフトローの重要性が増しています。
SECTION.02

日本の宇宙ビジネス法


大久保
日本は宇宙基本法の下、2016年に宇宙活動法と衛星リモセン法が制定されましたが、それに加えて、今年、先ほども触れた宇宙資源法が制定されました。人工衛星の打ち上げにかかる許可や事故による損害が発生した場合の関係者の責任等は、基本的には宇宙活動法で規律される建て付けとなっています。
SECTION.03

米国の宇宙ビジネス法


大久保
このように、宇宙ビジネスに関する法規制の整備は各国それぞれで進んでいますが、やはり米国が主導的な立場にありますね。

武原
はい、米国で商業宇宙打上法(Commercial Space Launch Act)が制定されたのは1984年ですが、このことからも分かるように、米国は古くから宇宙ビジネスに関する法規制の整備に積極的に取り組んでいました。米国の宇宙ビジネス法の改正は多々行われていますが、近年の改正としては、2015年の商業宇宙打上法の改正が重要だと思います。

大久保
2015年の商業宇宙打上競争力法の一部を構成するものですね。どのような事項が改正されたのでしょうか。

武原
例えば、商業宇宙飛行に関して、旅客の安全性確保のための基準の策定延期や、クロス・ウェ-バー及び宇宙保険の対象に宇宙旅行者も含まれることが明記されたことなどが注目されます。

大久保
なるほど。日本の企業が宇宙ビジネスを行う場合に米国の宇宙ビジネス法の規律に服する場合はあるでしょうし、また、日本における宇宙ビジネスの法規制も、米国の法規制を参考した部分も相応にあるでしょうから、日本の宇宙ビジネス関係者にとって米国の宇宙ビジネス法の理解は非常に重要ですね。

武原
その通りだと思います。また、米国は連邦制を採用しているので連邦法だけでなく、州法によって各州独自の規制・宇宙産業支援等が行われている場合もあり、州法にも目を配る必要があります。

大久保
ところで武原宇宙さんは名前が「宇宙」ですね。どのような由来なのでしょうか。

武原
子供の頃は「スケールの大きな人間になって欲しかったから」などと曖昧なことを言われていたのですが、大人になってから改めて尋ねたところ、西洋哲学の根本原理を「宇宙」、東洋哲学の中核概念を「空(くう)」と捉えて、長男の私には「宇宙」と名付けたようです。本書の出版にあたって両親に報告したところ、まさか宇宙ビジネスに関与するとは思わなかったと驚かれました(笑)
SECTION.04

国際宇宙ステーションおよびアルテミス計画


大久保
ISS(国際宇宙ステーション)については運用終了について議論されて久しいですが、最近は長編映画の撮影が行われたり、民間人宇宙飛行士の滞在ミッションが行われる等、活用の幅が民間に広がっているようですね。

岡﨑
はい、ISSは、従来、研究開発、地球観測や気象診断等に活用されていますが、最近は2019年6月7日にNASAにより商業利用に係る方針(NASA Plan for Commercial LEO Development)が発表されるなど、企業の広告やマーケティング活動、民間人宇宙飛行士の受け入れ等、その活用の幅が広がっています。
また、アルテミス計画と呼ばれるNASA主導の月面探査プロジェクトでは、新たに月周回有人拠点(ゲートウェイ)の建設が織り込まれているのですが、このゲートウェイにおいても、ISSの経験が活かされる予定です。

大久保
アルテミス計画の話がありましたが、多国間での月面活動に関する法的枠組みを整備する動きも活発化してきていますね。

松本
はい、2020年10月14日にアルテミス合意が締結されました。2021年12月現在、日本、アメリカ、ルクセンブルクを初め、13カ国が参加しています。アルテミス合意は、署名国における宇宙資源の採取や利用の方法や、各国における宇宙活動の干渉防止等、アルテミス計画を遂行する上で必要となる、月面および月周辺での活動について国際ルールを定めています。

大久保
ISSの運用方法を定めたIGA(民生用国際宇宙基地のための協力に関するカナダ政府、欧州宇宙機関の加盟国政府、日本国政府、ロシア連邦及びアメリカ合衆国政府の間の協定)でも、各国間で法的ルールが整備されていたように思いますが、IGAとアルテミス合意の関係やアルテミス合意の意義はどのようなものになるのでしょうか?

岡﨑
IGAは、主に、(ISSの)平和目的利用、管轄権、刑事裁判権、知的所有権、損害賠償請求権の相互放棄等、ISSにおける活動に関連する法的問題に対応する内容が定められています。IGAは法的拘束力がある多国間条約とされている一方、アルテミス合意は、法的拘束力のない政治的宣言と整理されているという点で両者の法的性質は異なります。

松本
アルテミス合意の特徴は、法的拘束力のない政治的宣言とはいえ、宇宙資源の採取、利用方法や宇宙活動の不干渉等、宇宙産業が発展した将来、各国間で調整が必要となると思われる事項も盛り込まれていることです。各国でも宇宙資源開発に関する法整備が進んでいる中、アルテミス合意は、今後策定されるであろう宇宙活動における国際間のルールの先駆け的存在になると考えられます。
CHAPTER
02

宇宙ビジネスの法務(各論)

SECTION.01

衛星打上げサービス


大久保
人工衛星の打上げは、近年ますます日常的に行われていますよね。

武原
はい。とりわけ、打上げコストが従来よりも非常に安く抑えられる小型衛星や超小型衛星と呼ばれる、サイズが小さく重量も軽い人工衛星の打上げが、非常に活発になっています。

大久保
その背景には、人工衛星の相乗り(ライドシェア)の普及がありますね。人工衛星の相乗りの打上げ契約に関して留意しておくべき事項はどのようなものがありますか。

武原
もちろん案件によって様々ですが、相乗りする側はロケットに“乗せてもらう”側なので、通常自己の都合で打上げのスケジュールを変更することができないことには特に注意する必要があります。もっとも、打上げ事業者によっては、相乗り衛星であっても、所定の手数料を払うことによって、別のロケットに相乗りするよう変更(rebooking)できる場合もあったりします。

大久保
人工衛星の打上げサービスは、今後、提供する事業者も参加する事業者も増え、内容も多様化する一途でしょうから、案件の内容に応じた契約書のドラフィングがますます重要になりますね。
SECTION.02

衛星サービス一般


大久保
近年は、SpaceXのStarlink計画に代表されるような、小型衛星を多数軌道上に展開することでサービスを提供するいわゆる「コンステレーション」の計画が盛んです。
SECTION.03

衛星リモートセンシングビジネスおよび衛星リモセン法


大久保
人工衛星の用途は色々ありますが、人工衛星ビジネスの中では、衛星リモトーセンシングを活用したリモートセンシングビジネスが中核と言えます。この分野は、国連リモトーセンシング原則、衛星リモセン法など関連する法令が多いことに加え、衛星から取得されたデータを販売等することになることから、データや知的財産に関する法制度が絡んできて、法的には複雑になります。契約書のドラフティングには特に専門性が求められる分野だと言えると思います。
SECTION.04

軌道上サービス


大久保
近年、人工衛星同士の衝突や人工衛星破壊実験などによって、スペースデブリの問題は特に深刻化しています。この問題を解決するため、日本企業も含めてデブリの除去などを行う軌道上サービスの分野の発展も活発になっています。

髙橋
そうですね、日本では2020年の宇宙基本計画において、民間事業者による軌道上での活動等をめぐる国際的な議論動向等を踏まえた必要な制度整備の検討や措置を講じることが明記されました。2021年には「軌道上サービスを実施する人工衛星の管理に係る許可に関するガイドライン」も公表され、審査実務のプロセスも具体化してきていますね。

大久保
軌道上サービスが活発化していくと、将来的に事故の発生は避けられないと思いますが、損害補償の在り方は今後の制度整備や議論の深化が求められる分野になりますね。

髙橋
例えば、軌道上サービスを提供する際に、機器の不具合によって第三者の人工衛星に衝突して損害を発生させてしまった場合には、様々な法的論点が生じ得ますね。まずは、外国の事業者が運用する人工衛星に損害を与えてしまった場合には、どの国の法律に従って解決すべきなのか悩ましい点になります。この他、このようなケースでは過失がある場合に限って損害賠償することが想定されていますが、宇宙空間に行って現場検証できるわけではありませんので、過失の存在をどう調査して立証していくのかという点も実務上問題になり得そうです。一つの意見として、政府補償や保険によって最終的な解決を図るという考え方もありますが、政府が民事上の損害を補償することの是非や採算性の問題もあります。宇宙産業を育成する観点から、国としてどのような制度設計を行っていくのか制度整備が喫緊の課題になりますね。
SECTION.05

宇宙資源開発および宇宙資源法


大久保
月や小惑星において採取できる水、鉱物等の宇宙で採掘された資源、いわゆる宇宙資源の開発を目指す活動が注目されていますね。

小原
はい、特にロケット燃料や宇宙飛行士の生活水など宇宙空間での活動に利用できる水の採取が期待されています。日本でも、株式会社ispaceが、NASAが計画する、民間企業が月のレゴリスを取得してNASAに月面上で譲渡するという案件のパートナー企業に選出されるといった動きがあり、注目されています。

大久保
既に何度か出てきていますが、日本では、本年6月に宇宙資源法が成立しています。日本はアメリカ、ルクセンブルク、UAEに次いで、4カ国目に宇宙資源開発について明記した法律を制定した国になりました。宇宙資源法では、どのようなことが規定されているのですか?

松本
特に注目すべきこととしては、事業者が国に提出した事業活動計画に従って採掘した宇宙資源について、事業者に所有権の取得を認める明文を設けていることですかね。この法律の施行によって、事業者は、採掘した宇宙資源について、第三者からの毀損や盗難のリスクから法的に保護されることになります。

大久保
宇宙資源の開発は諸外国の利益とも関わってくる領域だと思いますが、宇宙資源開発に関する国際的な議論はどのような状況なのですか?

川合
国連の宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)では、宇宙資源開発に関する国際的な枠組みのあり方について検討するワーキンググループが設置され、2022年にはその詳細な作業計画について合意がなされる予定です。ほかにも、ハーグ宇宙資源ガバナンスWGが「宇宙資源活動に関する国際枠組みの発展についての基本要素」を発表するなど、宇宙資源開発に関する国際的な規制枠組みのあり方について現在進行形で模索がなされている状況です。
SECTION.06

民間有人宇宙飛行


大久保
民間有人宇宙飛行については、2021年は将来、エポックメーキングな年として記憶されるくらい飛躍した年になるでしょうね。

武原
Blue Origin、Virgin Galactic、SpaceXなどが次々と宇宙旅行者をサブオービタル及びオービタルに打ち上げた他、日本からも前澤友作氏がISSを訪問しましたからね。

大久保
これらはいずれも米国・ロシアなど海外からの打上げですが、日本からの宇宙旅行を実現するためには法整備が必要で、今色々と議論が進んでいる分野です。
SECTION.07

宇宙保険


大久保
宇宙が身近になったと言っても、まだまだリスクは大きいので、宇宙保険は大変重要です。

武原
ロケット打上げや衛星運用に関する宇宙保険は従前から揃っていますが、近年は様々な新しい宇宙ビジネスや民間宇宙飛行に対応した保険商品の設計が必要となりつつありますね。
SECTION.08

スペースポート・その他


大久保
最後に、日本でも一般社団法人Space Port Japanの音頭の下、和歌山県串本町や北海道大樹町などにスペースポートの設置計画が進んでいますが、スペースポートに関する法整備も現在議論が進んでいるところという状況です。

大久保
以上、本でカバーしている内容をベースに執筆者でカジュアルな対談をさせていただきましたが、今後も、このウェブサイト上、その他いろいろな形で宇宙ビジネスと法に関する最新情報を発信していく予定ですので、宜しくお願いします。

本対談は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。