
川合正倫 Masanori Kawai
パートナー
東京
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中国の現行会社法は全面改正されたものが2006年1月1日より施行され、その後2013年及び2018年に小規模な改正を経ている。このたび2021年12月24日に、現行会社法の構成は概ね維持しつつも、約70条を実質的に追加することにより内容を充実させた会社法全文の改正案(以下、「会社法改正案」という。)が公表された。会社法改正案において新たに追加された内容には、一定規模の会社の董事会に従業員代表の董事の選任を求めるなど外資企業の運営に重大な影響を与える内容も少なくない。本稿では、多岐にわたる変更点のうち、特に注目される内容と実務上の影響を紹介したい。
会社法改正案は、新たに第二章「会社登記」を設け、法律レベルで会社登記について規定を設けている。このなかで、企業情報開示システムを通じて定款を開示するとした(34条)。これまで、定款は一般的な公開資料に含まれていなかったが、会社法改正案の施行後は、誰でも公開情報として定款を取得することができるようになる。定款を確認することにより、株主構成に関する詳細な情報、株式譲渡に関する制限、各社の組織機構、決議事項等に関する情報を外部から入手できるようになることが期待される。また、これまで定款のメンテナンスを行っていない企業については、会社法改正案の施行前に定款を最新法令に適合する内容に変更しておくことも考えられる。
会社法改正案は、従前の画一的な組織機構と比較し多様な組織機構を認めている。董事会において董事により構成される監査委員会を設置する場合には、監事(会)を非設置とすることを認めており(64条)、監事(会)の設置を必須とする現行会社法と異なり、単層型の管理モデルを採用している。また、規模が比較的小さい有限責任会社は、董事会を設置せずに、董事又は総経理1名を置くとされている(70条)ことから、董事不在の会社も認めているように読める。他方で、従業員人数が300名以上の有限責任会社は、董事会の構成員に従業員の民主的選挙により選任される従業員代表を入れなければならないとされた(63条)。製造業を中心に300名以上の従業員を有する外資企業も少なくなく、董事会に従業員代表を入れることが義務づけられることによる影響は大きい。具体的には、董事会において、会社の決算に関する情報や、企業買収、リストラ又は撤退等の従業員に極秘で進める必要のあるプロジェクトに関する議論を行う際の情報管理が懸念される。
董事、監事、高級管理職の忠実義務及び勤勉義務について具体的な内容が追加され、前者に関し権限を利用して不正な利益を図ってはならいこと、後者に関し職務履行にあたって、会社の利益最大化のために管理職が通常あるべき合理的な注意を尽くさなければならないことが明確化された(180条)。
また、董事、監事、高級管理職が直接又は間接に関連取引(利益相反取引)を行う場合には、契約締結又は取引に関する事項を董事会又は株主会に報告し、定款の規定に従い決議を経ることを求めている。さらに、利害関係を有する董事は当該決議に参加することができない。中国において典型的な不正形態である近親者が直接又は間接に支配する企業等と取引をする場合にも同様の規制が及ぶ旨が規定されており(183条)、法律レベルで新たな規制が導入されたものと評価できる。
董事、高級管理職が職務履行に関連して、故意又は重過失により他人に損害した場合には、会社と連帯して責任を負うとされた(190条)。現行の会社法では、董事については対会社の責任が規定されているものの第三者に対する直接責任を定めておらず、重要性の高い改正といえる。特に、日本企業から中外合弁会社に派遣される董事等については、董事等の第三者への直接責任が認められる場合には、これまでにも増して慎重な対応が求められるといえよう。
また、会社の支配株主、実質的支配者が会社に対する影響力を利用して董事、高級管理職に指図して会社又は株主の利益に損害を与えた場合には、董事又は高級管理職と連帯責任を負うとされた(191条)。実務的には、合弁企業にマイノリティー出資する日本企業が、合弁パートナーが派遣する董事等による不正行為により損害を受けた場合に、本条を利用して当該董事のみならず株主である合弁パートナーに責任追及することが考えられる。
上記の他にも、清算組の法定構成員の株主から董事への変更、清算における関係者の責任の明確化、簡易減資手続及び簡易抹消手続の法定化、董事会の人数制限の撤廃、会社資本の充実に関する株主及び董事等の責任強化、出資未了の持分が譲渡された場合の出資義務者の明確化、一人株式会社の容認、株式会社における授権資本制度の導入、国家出資会社に関する規定の新設等、様々な改正が行われている。パブリックコメントは2022年1月22日に締め切られているが、特に董事会への従業員代表の参加強制等の点については実務界からの強い抵抗も予想されるところであり、立法までに一部修正が加わる事態も想定されるため、法案成立までの変更点も注目される。
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