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有価証券報告書等における「経営上の重要な契約」の開示の充実 ~金融審DWGにおける非財務情報(ガバナンス)の開示に関する議論を踏まえて~

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1.はじめに

 現在、金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(令和3年度)(以下「DWG」)において、投資家の投資判断に必要な情報を適時に分かりやすく提供し、企業と投資家との建設的な対話に資する企業情報の開示のあり方について幅広く検討されており、現状の開示実務の問題点や改善策に関する議論が進んでいます。DWGでは、サステナビリティを巡る企業の取組み、コーポレートガバナンスの議論の進展などの経済社会情勢を踏まえた非財務情報の開示拡充にまつわる多様な論点が取り上げられていますが、その1つとして、「経営上の重要な契約」の開示のあり方も議論されています。

 具体的には、有価証券報告書等における「経営上の重要な契約」の開示に関し、企業・株主間(特に、企業と支配力を有する主要株主との間)のガバナンスや保有株式に関する合意、ローン・社債に付されるコベナンツなどについて、従来の開示の不十分性が指摘され、その充実に向けた制度見直しの必要性が示唆されています。本ニュースレターでは、このDWGの議論をご紹介するとともに、制度見直しに向けた各社の留意点を整理します。

 なお、上記のDWGにおける制度見直しや、改訂CGコード補充原則4-8③に基づく「特別委員会」の設置など、支配(的な)株主を有する上場会社にまつわるガバナンス・情報開示に関する最新動向をご紹介するライブ配信セミナー「改訂CGコードを踏まえた少数株主保護の最新実務」を、以下のとおり開催しますので、ご興味のある方はあわせてご参加ください。

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申込方法: こちらから2022年4月7日(木)11:00までにお申し込みください。

2.DWGで提起された問題意識

 2022年1月19日開催の第5回のDWG※1で、「経営上の重要な契約」に関する日本の開示は、欧米と比較して開示内容が不十分であり、投資家の投資判断にとって重要な情報が必ずしも明らかにされていないとして、その充実に向けた制度見直しの必要性が示唆されました。

 DWGの議論の前提となるのが「経営上の重要な契約」の開示に関する現状の規定です。有価証券報告書では、事業の全部もしくは主要な部分の賃貸借または経営の委任、他人と事業上の損益全部を共通にする契約、技術援助契約その他の「経営上の重要な契約」を締結している場合には、その概要を、また、事業年度の開始日から末日までの間に、これらの契約について重要な変更または解約があった場合には、その内容を記載することが求められます※2

 これを受け、開示ガイドライン※3は「経営上の重要な契約」に該当するか否かの判断において特に留意すべき点として、以下の事項を掲げています。

開示ガイドラインが掲げる「留意事項」

  • ① 当該契約の締結が、会社法362条4項に規定する取締役会の決議事項に相当する場合
  • ② 当該契約の締結によって、契約の相手先に対する事業上の依存度が著しく大きくなる場合(例えば、原材料の供給・製品の販売等に係る包括的契約、一手販売・一手仕入契約等)
  • ③ 当該契約の締結相手によって、著しく事業上の拘束を受ける場合(例えば、営業地域の制限を伴うフランチャイズ契約、ライセンス契約等)
  • ④ 当該契約の締結が、重要な資産の管理、処分(譲渡、取得、賃貸借等)に該当する場合(例えば、重要な固定資産の譲渡(取得)または、多額の出捐、債務負担を伴う場合(例えば、規模の大きい共同出資事業契約等))

 DWGの議論において、こうした日本の「経営上の重要な契約」の開示に関する規定自体は欧米と大きな差は見られないとの評価があったものの※4、欧米での開示実務に比して、我が国の開示実務には以下の問題点があるとの指摘がなされ、投資家に対し十分な情報が提供されていないという見方で一致しました。

DWGで指摘された問題点

  • ① 契約の締結日、相手方および契約名といった外形的な情報のみの開示に留まっている事例が多い
  • ② 平時には「経営上の重要な契約」としての開示がなかったものの、相手方との契約関係解消に向けた動きの中で「事業等のリスク」として特定の契約が言及された事例がみられる
  • ③ 外国企業と日本企業の間の契約に関し、外国企業側では詳しく開示される一方で、日本企業側では詳細な開示がされない事例がみられる

 また、コーポレートガバナンスに関する議論の進展を踏まえたとき、企業・株主間(特に、企業と支配力を有する主要株主との間)の、以下の類型のガバナンスや保有株式に関する合意が投資者の投資判断にとって重要な影響を与えうるものとなります。しかしながら、前述の開示府令・開示ガイドラインは、必ずしもそうしたコーポレートガバナンスに関する合意の存否・重要性に着目した規定ぶりにはなっていません。そのため、現状の有価証券報告書、半期報告書および四半期報告書(以下「有報等」)では、こうした合意に関する開示が不十分となっており、投資家が企業のコーポレートガバナンスに関する評価を行うために必要となる情報が十分に提供されていない、という評価につながっています。

(DWGで示された投資家の投資判断に重要な影響を与えうる合意の例)※5

A 企業のガバナンスに関する合意

  • ① 役員候補者指名権の合意
  • ② 議決権行使内容を拘束する合意
  • ③ 事前承諾事項に関する合意

B 株主の保有株式に関する合意

  • ④ 保有株式の譲渡等の禁止・制限の合意
  • ⑤ 保有株式の買増しの禁止に関する合意
  • ⑥ 株式の保有比率の維持の合意

  • ⑦ 契約解消時の保有株式の売渡請求の合意

3.大量保有報告書における開示との関係性

 上記のDWGの問題意識に対して、例えば、「そうした合意の開示は、株主が提出する大量保有報告書における『当該株券等に関する担保契約等重要な契約』を通じた開示で十分ではないか」といった考え方もありうるところです。

 この点、大量保有報告書では、「保有株券等に関する貸借契約、担保契約、売戻し契約、売り予約その他の重要な契約又は取決めがある場合には、その契約の種類、契約の相手方、契約の対象となっている株券等の数量等当該契約又は取決めの内容を記載すること」とされています※6。そして、これらの担保契約等重要な契約として記載が求められるものの意義として、「将来の株券等の移動にかかわる契約または取決め」がこれに当たると解されてきました※7

 しかし、DWGでは、①一覧性・網羅性の観点から投資家の利便性の向上・情報収集コストの削減のために、対象企業側の有価証券報告書で開示することに意義がある、②有価証券報告書と大量保有報告書は趣旨・目的が異なり、大量保有報告書における開示の枠組みの存在が有価証券報告書で「経営上の重要な契約」の開示をしない理由にはならない、といった指摘がなされています。

4.今後の見直しの方向性

 以上の問題意識を踏まえ、DWGでは、前述の企業・株主間(特に、企業と支配力を有する主要株主との間)のガバナンスや保有株式に関する合意の開示の充実に向けた施策として、以下の意見が示されました。具体的な制度見直しの手法・範囲は今後議論が深められていくこととなりますが、各社においては、こうした施策の具体化に向けた今後の議論の進展を注視する必要があります。

  • ① 有価証券報告書等における記載項目の追加
  • ② 企業内容等開示ガイドラインの見直し
  • ③ 好事例集の公表
  • ④ 重要性の判断に係るガイダンスの実施

 コーポレートガバナンスの進展を踏まえた「経営上の重要な契約」の開示の充実が投資家の適切な投資判断のために重要であることは論を俟ちません。一方で、開示対象が際限なく拡大することは、企業に過度な負担を強いるとともに、経営の健全性・機動性を阻害するおそれや、株価形成への悪影響も想定されるところであり※8、開示のメリットとデメリットを踏まえた制度設計が望まれるところです。この点、DWGの議論では、既に締結済みの契約の開示を求めるのは避けるべき、法的拘束力がある合意のみを開示対象とすべき※9、企業秘密の保護に配慮すべき、開示対象となる合意に係る株主の保有割合を限定すべきといった意見も示されました。施策の具体化に当たって、こうした問題意識がどのように配慮されるかが注目されます。

5.制度見直しに向けた各社のチェックポイント

 このように「経営上の重要な契約」の開示の具体的なあり方については、制度見直しのメリット・デメリットを踏まえた、DWGにおけるさらなる議論の進展が待たれますが、各社においては少なくとも「『経営上の重要な契約』に関する現状の開示が不十分である」との問題意識の下で議論が進んでいることを念頭に、今後の制度見直しに備えることが肝要です。

 具体的には、DWGで繰り返し確認された「投資家の投資判断にとっての重要性」という観点から、以下の対応が当面の備えとして考えられます。

  • ① 既存の合意内容の点検
  • ② 今後締結する合意・契約は、将来的に開示が求められうることを意識
  • ③ 自発的な、より充実した開示の実践

 ①について、DWGでは、先に触れたとおり「既に締結済みの契約の開示を求めるのは避けるべき」との意見も示された一方で、全体的な方向感としては既に締結済みの契約も見直しの対象とすることを念頭に議論が進行している模様です。企業と支配力を有する主要株主との間で、前述したガバナンスに関する合意や保有株式に関する合意を交わしている例は少なくないと考えられます。一方、伝統的な開示実務の下で、かかる合意について必ずしもその具体的な内容を詳細に開示してこなかった例もあると推察されます。今後は、こうした制度見直しに向けた議論が進行していることを前提に、企業・株主の双方において、既存の合意内容を点検することが求められます。これまでも、かかる合意に関する上場会社のコーポレートアクションが取引所の適時開示規則に基づく開示事由に当たる場合には、上場会社の適時開示を通じて、投資家が企業情報を適切に理解・判断するために必要な事項の開示がなされてきたところですが、有報等では期中に重要な変更があった場合にその内容の開示が求められる点や、適時開示制度では個別具体的な開示事由が存在することが前提となる点など、有報等と適時開示での開示には差異があります。

 また、②について、今後、新たにかかる合意を取り交わす場合には、見直し後の新たな開示制度の下では、有報等において当該合意の開示が必要になりうることを意識して合意内容を検討することが、企業・株主の双方において不可欠となります。

 こうした検討に加え、③のとおり、各社においては、DWGで指摘された問題意識を踏まえ、自社の従来の有報等の記載内容の十分性を点検し、自発的に、より充実した開示を実践していくことが、企業のコーポレートガバナンスに関する適時かつ分かりやすい情報提供、企業と投資家との建設的な対話に資する企業情報の開示という観点から、望ましい対応であるといえます。

6.おわりに

 以上、DWGにおける「企業と支配力を有する主要株主との間の合意と『経営上の重要な契約』の開示のあり方」に関する議論の状況と、制度見直しに向けた各社のチェックポイントをご紹介しました。

 DWGでは、「経営上の重要な契約」の開示に関して、本ニュースレターで取り上げた企業・株主間の合意のほか、ローンや社債に付されるコベナンツの開示の充実についても議論されています。我が国では、届出時にコベナンツの内容が開示される公募債を除き、コベナンツの情報が財務上、重要な影響を与えるものであったとしても、必ずしも十分な開示が行われていないとの指摘がなされています。これを受け、有報等や臨時報告書における非財務情報の開示として、コベナンツが付されたローン契約、社債その他の財務上影響を及ぼす契約の締結等の開示を求めることが論点とされています。こうしたコベナンツの開示は、企業・株主間の合意の開示と並んで、企業の経営や各種のステークホルダーに大きな影響を及ぼしうるものとなりますので、今後の議論を注視することが必要です。

脚注一覧

※1
過去のDWGの資料・議事録は、<https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/base_gijiroku.html#disclosure_wg>で公開されています。なお、DWGでは、この他にも、気候変動を含む非財務情報の開示の充実に向けて活発な議論が進められています。こうした気候変動に関する開示の動向について、弊所では、ADVANCE企業法セミナー「気候変動対応を企業価値向上に活かすための法務戦略~脱炭素経営におけるディスクロージャー、エンゲージメント、ガバナンスのあり方~」(弊所パートナー弁護士 大沼真・宮下優一・渡邉啓久)でもご紹介しています。

※2
開示府令第3号様式「記載上の注意」(13)・第2号様式「記載上の注意」(33)a。なお、半期報告書および四半期報告書では、当該中間連結会計期間または当該四半期連結会計期間に、「経営上の重要な契約」を締結した場合またはかかる契約に重要な変更もしくは解約があった場合、その内容を記載することが求められます(第5号様式「記載上の注意」(12)a、第4号の3様式「記載上の注意」(9)a)。

※3
企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)B5-17

※4
DWG第5回「事務局説明資料(経営上の重要な契約)」47頁
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclose_wg/siryou/20220119/01.pdf

※5
前掲注4、10頁

※6
株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令 第1号様式「記載上の注意」(14)

※7
三井秀範・土本一郎 編、野崎彰・宮下央・池田賢生 著「詳説 公開買付制度・大量保有報告制度Q&A」商事法務(2011年7月)148頁

※8
前掲注4、42頁では、契約書全体を開示するという海外の事例に関して「40~50ページにわたるような契約書を丸ごと添付するのは、投資家にとって分かりやすいのかも疑義がある。」との指摘が紹介されています。

※9
もっとも、DWGの議論では、法的拘束力の有無を問わず合意の内容や実際の影響に注目して開示の要否を検討すべきとの意見も示されました。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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