
森大樹 Oki Mori
パートナー
東京
NO&T Client Alert
NO&T Technology Law Update テクノロジー法ニュースレター
消費者庁は、同庁に設置されていた「アフィリエイト広告等に関する検討会」が、2022年2月15日付けで公表した報告書(以下「 本報告書」)および意見募集の結果を踏まえ、2022年6月29日、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成26年内閣府告示276号。以下「 本指針」)の改正および「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(以下「本留意事項」)の改定を行いました。
アフィリエイト広告とは、アフィリエイトサービスプロバイダ(以下「ASP」)等が仲介するアフィリエイトプログラムを利用した成果報酬型の広告であり、アフィリエイターが自己の運営するブログやSNSサイト等にアフィリエイター以外の者(広告主)が供給する商品・サービスの広告等を当該広告主の販売サイトのハイパーリンクと共に掲載し、当該サイトを閲覧した者が当該ハイパーリンクをクリックしたり、当該ハイパーリンクを通じて広告主のサイトにアクセスして広告主の商品・サービスを購入したりした場合などに、あらかじめ定められた条件に従って、アフィリエイターに対して、広告主から成功報酬が支払われるものをいいます。
アフィリエイト広告の市場は年々拡大されているものの、アフィリエイターにはクリック数等に応じた歩合制での成功報酬が支払われることが多いため、虚偽・誇大広告を作成するインセンティブが生じるおそれがある一方で、広告主とアフィリエイター間には直接の契約関係が無いことが多く、アフィリエイターの数も膨大であることから、アフィリエイターへの監督が十分に機能しない構造があることが指摘されています。実際にも、アフィリエイト広告の広告主に対して措置命令が下された事例も発生しています※1。そのような中で、本報告書において、アフィリエイト広告の表示内容については、ASPやアフィリエイターではなく、まずは広告主が「表示内容の決定に関与した事業者」として責任を負うべき表示主体であると考えられる点が明らかにされ、本指針の改正および本留意事項の改定によって、消費者庁としてのアフィリエイト広告に関する考え方やアフィリエイト広告について事業者が講ずべき管理措置の内容が具体化されました。本報告書に関する詳細な解説はNO&T Client Alert 2022年3月1日号・テクノロジー法ニュースレター 2022年3月号No.9「アフィリエイト広告等に関する検討会の報告書の公表」をご参照ください。
景表法26条1項において、事業者は、アフィリエイト広告に限らず、不当表示の未然防止等のため管理上の措置を講じなければならないこととされており、同条2項に基づき、本指針が定められています。本指針は、不当表示の未然防止等のため管理上の措置についての「基本的な考え方」と「事業者が講ずべき表示等の管理上の措置の内容」を定めた上で、本指針の別添の「事業者が講ずべき表示等の管理上の措置の具体的事例」において、管理上の措置の具体例を記載しています。
まず、「基本的な考え方」として、表示等を行う事業者が、当該事業者と取引関係はあるが、表示等を行っていない事業者(以下「取引関係事業者」)に当該表示等の作成を委ねる場合には、自らの不当表示の未然防止等のため管理上の措置の実効性が確保できるよう、取引関係事業者に対し、自らの措置についての理解を求め、取引関係事業者が作成する表示等が不当表示等に該当することのないよう指示することが求められるとしました。
事業者が講ずべき表示等の管理上の措置の各内容について、事業者が表示等の作成を他の事業者※2に委ねた場合も含める形で修正されました。主な追記内容は以下のとおりです。
また、アフィリエイトプログラムを利用する広告については、アフィリエイターが自らのアフィリエイトサイトに単にアフィリエイトプログラムを利用した広告を行う事業者のウェブサイトのURLを添付するだけなど、当該事業者の商品または役務の内容や取引条件についての詳細な表示を行わないようなアフィリエイトプログラムを利用した広告については、通常、不当表示等が発生することはないと考えられるとしています。また、アフィリエイターの表示であっても、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、通常、広告主が表示内容の決定に関与したとされることはないと考えられるとしています。
本指針の別添「事業者が講ずべき表示等の管理上の措置の具体的事例」において、特にアフィリエイト広告に関して講ずべき管理上の措置として、主に以下の具体的事例が追記されています。
上記(ⅰ)~(ⅷ)に加えて、アフィリエイトサイトの表示について、第三者の体験談や感想であるのか、事業者が対価を支払って作成を委ねた表示であるのかを、消費者が判断できない場合があることから、事業者とアフィリエイターとの関係性を理解できるような表示を行うよう、アフィリエイターに求めるなどの対応を行うことも求められています。望ましい文言、表示位置、大きさ、色等についても、以下のとおり具体的に記載されています。
本留意事項においては、アフィリエイト広告について、広告主がその表示内容の決定に関与している場合(アフィリエイターに表示内容の決定を委ねている場合を含む)には、景表法上は、広告主が行った表示とされ、他方で、アフィリエイターはアフィリエイトプログラムの対象となる商品・サービスを自ら供給する者ではないため、景表法で定義される「表示」を行う者には該当せず、景表法上の問題は生じないと明記されました。
ただし、本指針と同様に、アフィリエイターが自らのアフィリエイトサイトに単にアフィリエイトプログラムを利用した広告を行う事業者のウェブサイトの URLを添付するだけなど、当該事業者の商品・サービスの内容や取引条件についての詳細な表示を行わないようなアフィリエイトプログラムを利用した広告については、通常、不当表示等が発生することはないと考えられるものとされています。
また、こちらも本指針と同様に、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、通常、広告主が表示内容の決定に関与したとされることはないと考えられるとし、広告主が表示内容の決定に関与しているか否かは、個別の取引実態に応じて判断されると記載されています。さらに、広告主との契約等においてアフィリエイターと位置付けられている事業者が、広告主と共同して商品または役務を一般消費者に供給していると認められる実態にある場合は、当該事業者についても景表法上の問題が生じる場合があるとされています。
これらの内容は、本指針においても明記されることになった内容ですが、これは、単にアフィリエイト広告の典型的な実態から、まずは広告主が「表示内容の決定に関与した事業者」として責任を負うべき表示主体であると述べたにとどまる本報告書から更に進んで、個別の取引実態によっては、景表法上、広告主が表示内容の決定に関与したとされない場合や、アフィリエイターと位置付けられている事業者についても景表法上の問題が生じる場合があることをより明確にしたものといえます。
意見募集の結果の公示においては、本指針および本留意事項の改定案に対する意見と、それに対する消費者庁の考え方がまとめられています※4。
とりわけ、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、通常、広告主が表示内容の決定に関与したとされることはないとの記載があることから、広告主が表示内容の決定に関与したかどうかの判断基準に関して意見が多く寄せられています。このような意見に対する消費者庁の回答は、個別事案についての解釈についての回答は困難で一般論にとどまるとの留保がありますが、例えば以下のものが消費者庁による今後の法解釈や運用の手がかりになるものとして参考になります(下線は筆者らによります。)。
アフィリエイト広告の内容について広告主に景表法が適用されるかどうかは議論がありましたが、執行事例も複数現れており、かつ、本報告書、本指針の改正および本留意事項の改定によって、広告主に景表法が適用されるという前提で消費者庁による今後の法執行が行われることが明確になったものと考えられます。さらに本報告書においては悪質な広告主等に対する厳正な法執行の重要性が説かれていることからすると、今後、アフィリエイト広告に関する景表法等の執行・処分事例の増加が見込まれます。そして、改正・改定後の本指針および本留意事項において、消費者庁としてのアフィリエイト広告に関する考え方や必要と考えられる措置内容が具体的にまとめられています。そのため、アフィリエイトプログラムの利用にあたってアフィリエイターの表示内容について従前は十分な注意を払っていなかった広告主についても、本指針および本留意事項の内容をよく検討し、これらに沿った対応が求められるものと考えられます。
※1
2021年3月3日付け消費者庁「株式会社T.Sコーポレーションに対する景品表示法に基づく措置命令について」、2021年11月9日付け消費者庁「株式会社アクガレージ及びアシスト株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」、2022年4月27日付け消費者庁「株式会社DYMに対する景品表示法に基づく措置命令について」
※2
本指針に関する意見募集の結果の公示においては、「他の事業者」は、「取引関係事業者」と異なる概念として整理されています。すなわち、「取引関係事業者」とは、本指針の措置を講ずべき事業者と取引関係はあるが、表示等を行っていない事業者のことをいう一方で、「他の事業者」は、本指針の措置を講ずべき事業者と直接的な取引関係がない事業者を含み、例えば、「他の事業者」には、広告主がアフィリエイターに表示作成の委託を行い、当該アフィリエイターが第三者のライターに更に委託する場合の事業者(広告主から見た再委託先の事業者)も含むものと整理されています(消費者庁「『事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針』の一部改正案に関する主な御意見及び当該御意見に対する考え方」12頁)。
※3
なお、不当表示等が発生する原因や背景として、表示等の作成に自社以外の複数の事業者が関係する場合における関係者間の連携不足・情報共有が希薄であることも新たに挙げられており、情報の共有を行うに当たっては、このような原因や背景を十分に踏まえた対応を行うことが必要であるとしています。
※4
消費者庁「『事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針』の一部改正案に関する主な御意見及び当該御意見に対する考え方」、消費者庁「『インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項』の一部改定案に関する主な御意見及び当該御意見に対する考え方」
※5
「『事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針』の一部改正案に関する主な御意見及び当該御意見に対する考え方」・3~4頁等
※6
「『事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針』の一部改正案に関する主な御意見及び当該御意見に対する考え方」・11~12頁
※7
「『事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針』の一部改正案に関する主な御意見及び当該御意見に対する考え方」・16頁、「『インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項』の一部改定案に関する主な御意見及び当該御意見に対する考え方」・4頁
※8
「『事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針』の一部改正案に関する主な御意見及び当該御意見に対する考え方」・21頁等
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
(2025年3月)
小山嘉信、粂内将人、鳥巣正憲(共著)
弘文堂 (2025年3月)
森大樹(編集委員)、須藤希祥(執筆責任者)、梅澤舞、馬渕綾子、野口夏佳、生田敦志、中坪真緒、本田陽希、栗原杏珠(執筆協力)
(2025年2月)
殿村桂司、小松諒、今野由紀子、松宮優貴(共著)
(2024年11月)
森大樹、梅澤舞(共著)
(2025年3月)
小山嘉信、粂内将人、鳥巣正憲(共著)
弘文堂 (2025年3月)
森大樹(編集委員)、須藤希祥(執筆責任者)、梅澤舞、馬渕綾子、野口夏佳、生田敦志、中坪真緒、本田陽希、栗原杏珠(執筆協力)
(2024年11月)
森大樹、梅澤舞(共著)
森大樹、本田陽希(共著)
東崎賢治、羽鳥貴広、近藤正篤(共著)
(2025年4月)
殿村桂司、小松諒、糸川貴視、大野一行(共著)
(2025年4月)
関口朋宏(共著)
殿村桂司、松﨑由晃(共著)
東崎賢治、羽鳥貴広、近藤正篤(共著)
(2025年4月)
関口朋宏(共著)
殿村桂司、松﨑由晃(共著)
(2025年3月)
犬飼貴之