川合正倫 Masanori Kawai
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「設備調達の国産優先戦略の動き(中国)」
特集「経済安全保障」
中国政府は、2015年5月に「中国製造2025」の産業政策を発表した。同政策において、次世代情報技術、新エネルギー車及び高性能医療機器など10の重点分野と23の品目を設定し、製造業の高度化を目指す旨を宣言した。その後、中央政府及び地方政府は、ハイレベルの半導体を含む多数の対象品目について細分化した政策を打ち出している。
こうしたなか、中国国家市場監督管理総局及び中国国家標準化管理委員会(以下、あわせて「規制当局」という。)は、政府当局や重要インフラ運営者が購入することのできるオフィス設備製品を、中国国内で設計、開発、製造された製品に限定する新たな規制を検討しており、外資排除や技術移転の懸念が報道されている。
本稿では、この新規制に関して、その概要、外資企業の懸念点及び政府調達法との関係に触れながら、外国企業の留意点について紹介する。
規制当局は、2022月4月16日付けで国家規格である「情報セキュリティ技術オフィス設備セキュリティ規範」草案(中文表記は「信息安全技术 办公设备安全规范」、以下、「オフィス設備規格草案」という。)を策定したとされている。本稿の執筆時点において、オフィス設備規格草案は正式には公開されておらず、今後草案が正式に公布され意見募集のプロセスが踏まれる可能性もあるが、報道等の情報によると、同規範の主な規制は以下の内容を含む。
オフィス設備規格草案の内容については、外資企業をはじめとする関連事業者の関心を集め、主に以下の懸念が示されている。
中国日本商会は、2022年7月に中国政府への要望書を提出し、技術規格の制定プロセスで外資企業を含む関係者の意見を取り入れること、外国製品及びサービスを差別的に取り扱わないよう制度や運用面で配慮すること、また、政府調達等で日本企業を不当に排除しないよう政府調達法を改正すること等を求めた。
2022年7月15日、中国財政部は改正「政府調達法」のパブリックコメント募集案を公表した。現行法との比較で、特に注目されているのは、同パブコメ案に新たに規定された自国産業への支持(23条)及び国家安全の保護(24条)である。
これらの条文によると、政府調達においては、中国国内で入手できないもの又は合理的な商業条件で入手できないものを除き、政府当局は自国の貨物、工事及びサービスを購入しなければならず、また、同一条件を満たす場合には中国国内製造品が評価優遇を受けるとされている。また、政府調達について安全審査制度を実施し、国家安全に影響を及ぼしうる調達活動を対象とする旨も定められている。
中国の中央政府及び各省レベルの地方政府は、集中調達品目を制定しており、政府当局が同品目に該当する製品を購入する場合には、集中調達を実施しなければならない(政府調達法7条)。また、「中央予算単位政府集中調達品目及び基準(2020年版)」※2では、オフィス設備規格草案の規制対象とされている複合機、プリンター及びスキャナーはいずれも集中調達の対象に含まれている。
このため、オフィス設備規格草案は推奨規格にとどまるものの、同規格の適用製品には、政府当局の集中調達品目に含まれるものが多く、今後の政府調達法の改正及び運用次第で、これらの製品には上記自国産業への支持及び国家安全の保護の原則が適用される可能性があり、この場合、実質的に強制的効力を有することになる。その意味で、オフィス設備規格草案に定められる国産化規制は、政府調達法の改正案に取り上げられている自国産業への支持という原則の現れという評価もある。
外商投資法及び外商投資ネガティブリストにおいては、複合機やプリンターのような事務用機器の設計、開発及び製造等の事業は許可類に分類され、外資投資企業が自由に従事することができるが、オフィス設備規格草案に定める国産化規制の内容が法定化される場合には、中国国内における設計、開発、製造の要請が強まるといえる。
オフィス設備規格草案はいまだに草案にとどまり、一般公開の段階にも至っていないが、今後、政府調達等に適用され、これに伴い民間企業の調達取引にも影響を及ぼす場合には、外国企業は、技術漏えいのリスクを負いながら国産化にシフトするか検討を迫られることになる。
経済安全保障の観点からも、特にハイテク分野においては、今後も自国生産品を優遇する傾向は強まるものと考えられ、オフィス設備規格草案及び政府調達法等の法令改正の動向が注目される。
※1
国家規格は強制規格(GB)、推奨規格(GB/T)及び指導規格(GB/Z)に分類され、GBは強制的効力を有するが、GB/T及びGB/Zは強制的効力を有さない。
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