経済安全保障とは?
経済安全保障とは、安全保障(=国家・国民の安全)の確保のための経済施策と考えられています 3。経済安全保障推進法案は、以下の4つの柱から成り立っており、有識者会議では4つの柱それぞれが、昨今の安全保障をめぐる国際事情に対応するための経済施策と位置付けられました。
01
重要物資や原材料のサプライチェーンの強靭化
- 産業基盤のデジタル化・医療の高度化による半導体、医薬品等の供給逼迫時の影響の甚大化
- 新興国の成長、グローバルバリューチェーンの深化による、重要物資の供給逼迫時におけるわが国の供給確保能力の相対的低下
02
基幹インフラ機能の安全性・信頼性の確保
- インフラのIT化、複雑化によるサイバー攻撃等による脅威・影響の顕在化
03
官民で先端的な重要技術を育成・支援する仕組み
- 国家、国民への攻撃手段の高度化・多角化に伴う、各国の先端技術の研究開発の過熱
04
特許出願の非公開化等による機微な発明の流出防止
- 各国の安全保障上の機微情報に関する流出防止対策の強化の動き
上記の施策を実行するために策定された経済安全保障推進法案が、事業者に対して与える影響はおおむね以下のとおりです。
第1の柱では、特定重要物資等の供給者である事業者は、安定供給確保計画を策定し、認定を得て支援措置を受けることができます。
第2の柱では、基幹インフラの事業者は、設備の導入、維持管理等の委託にあたり、計画書を提出して事前審査を受けることが必要となります。
第3の柱では、特定重要技術の研究開発に取り組む事業者に対して、指定基金からの補助金が得られる可能性があります。
第4の柱では、安全保障に関わる特定の技術(核技術、武器技術)の開発に携わる事業者に対して、特許出願の非公開が求められることになります。
第2、第4の柱では、法令遵守の観点からの「守り」の対応が求められます。これに対して、第1、第3の柱では、経済安全保障推進法案が提供する新たな支援を活用する「攻め」の対応を検討することが求められます。いずれの場合も高次の経営判断が必要となります。
法律が制定・公布されてから9か月ないし2年のうちに適用が予定されていますので、その間に制度の詳細を分析し、適切な対処方針を固めることが必要です。
以下では、上記の4つの柱のそれぞれにつき、経済安全保障推進法案の概要と、実務上の留意点を解説します。経済安全保障推進法案の4つの柱の解説の冒頭には、特に影響の大きいとみられる業種/事業者および施行時期を記載しています。
なお、本稿は2022年2月25日閣議決定時点での経済安全保障推進法案および政府関係資料をもとに作成されており、今後制度の内容に追加・変更が生じる可能性がある点にご留意ください 。