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ニュースレター

<オーストラリア>外資買収法改正の概要と重要インフラ安全保障法改正による外資規制への影響

NO&T Corporate Legal Update コーポレートニュースレター

著者等
対木和夫松﨑景子ピーター・バンゲイト(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Corporate Legal Update ~コーポレートニュースレター~ No.19(2022年11月)
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本ニュースレターの英語版はこちらをご覧ください。

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1 はじめに~オーストラリアにおける外国投資規制の強化~

 オーストラリアにおいて、2021年1月1日、「外資による取得及び買収に関する法律(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975)」(以下「外資買収法」)の改正法が施行されました。かかる法改正により、国家安全保障の観点から重要とされる土地や事業に対する外国投資は、投資額の多寡を問わず、オーストラリア連邦政府による事前審査の対象とされることとなりました。また、2021年12月14日に施行された「重要インフラ安全保障法(Security of Critical Infrastructure Act 2018)」の改正法により同法の適用対象が拡張されたことと合わせて、近年オーストラリアにおける外国投資に対する規制は、大幅に強化・拡大されています。

 オーストラリアにおける外国投資に関連する近時の法改正は、新たにオーストラリアへの進出を検討している企業や既にオーストラリアに進出している企業の投資決定に大きな影響を与えうると考えられます。そこで、本レターにおいては、オーストラリアにおける外国投資規制の基本的枠組みについて簡単にご紹介したうえで、2021年外資買収法改正の重要なポイント、及び2021年重要インフラ安全保障法改正による外資規制への影響についてご説明させていただきます。

2 外国投資規制の基本的枠組み

 オーストラリアにおける外国投資に対する規制は、上記の外資買収法及び同法規則(Foreign Acquisitions and Takeovers Regulation 2015)において規律されています。オーストラリア連邦政府は、外国からの投資を原則として歓迎する立場を取っていますが、一定の種類の外国投資に関しては外国投資審査委員会(Foreign Investment Review Board、以下「FIRB」)に対する事前届出を行い、連邦財務大臣(Treasurer)の承認を受ける必要があります。連邦財務大臣は、FIRBの助言に基づき投資案件の内容や性質に応じて諸般の事情を総合的に考慮して審査を行い、「国益」や「国家安全」に反する外国投資を禁止したり、「国益」や「国家安全」に反しない方法で投資が実行されるよう投資実行に一定の条件を付する等、外国投資に関する最終決定権限を有しています。

 FIRBに対する事前届出義務の有無は、外国投資家の種類、投資の種類や性質、投資金額等によって決定されます。外国投資の届出は、オンラインフォームを通じて行われ、届出時に所定の申請手数料を納付する必要があります。法定審査期間は、延長がなされない限り※1申請手数料受領日から起算して30日間であり、必要な届出義務の懈怠、その他の外国投資規制の違反があった場合等には、民事制裁金や刑事罰が科されたり、投資行為の巻戻しを求められたりする可能性があります。

 オーストラリアにおける外国投資規制の適用対象となる「外国投資家」は、外資買収法及び同法規則において、以下のとおり定義されています。

  • オーストラリアに通常居住していない個人
  • 外国政府または外国政府投資家
  • 以下のいずれかに該当する法人、信託の受託者、またはリミテッド・パートナーシップの無限責任パートナー
    1. 1名の非居住者(オーストラリアに通常居住していない個人、外国法人または外国政府)が単独で20%以上の持分を有するもの
    2. 複数の非居住者が合計で40%以上の持分を有するもの

3 外資買収法改正(2021年1月1日施行)の概要

 オーストラリアにおける2021年の外資買収法改正は、外国投資に対する規制を強化する目的で実施されたものであり、日本、米国、中国等の主要各国における近年の外国投資規制強化の流れと一致するものです。本改正による改正箇所は多岐にわたります※2が、本改正の重要なポイントは、(i)「国家安全(National Security)」の観点での審査が明示的に導入され、「国家安全通知義務行為(Notifiable National Security Action)」に該当する外国投資について、投資額の多寡に関わらず一律にFIRBの承認を取得することが新たに義務付けられた点です。また、これに付随し、連邦財務大臣またはFIRBが国家安全上の懸念があると判断した投資について、連邦財務大臣に対して(ii)審査請求権(Call-In Power)及び(iii)最終審査権(Last Resort Review Power)が付与されることとなりました。

<2021年外資買収法改正の重要ポイント>

  • i. 「国家安全」基準の新規導入
  • ii. 連邦財務大臣に対する審査請求権(Call-In Power)の付与
  • iii. 連邦財務大臣に対する最終審査権(Last Resort Review Power)の付与

(1) 「国家安全」基準の新規導入

 2021年改正前においては、外国投資の許否に関する審査は、外国投資が「国益(National Interest)」に反するかどうかが基準とされていました。「国益」の定義は法令には定められておらず、連邦財務大臣には、「国益」に反するかどうかを判断するにあたって、裁量が与えられており、(i)国家安全、(ii)オーストラリア市場への影響、(iii)その他のオーストラリア政府の政策、(iv)オーストラリア経済などへの影響、(v)投資の性質を含む、幅広い事情が考慮されていました。このように同改正前において、国家安全についても考慮されてはいたものの、その点が、法令上は明記されていませんでした。2021年改正後も、従来の「国益」審査基準は引き続き維持されていますが、同改正により、「国家安全(National Security)」の観点からの審査も行われることが明示されました。さらに、同改正前は届出が不要であったケースであっても、投資額に関わらずFIRBの承認取得が義務付けられる「国家安全通知義務行為(Notifiable National Security Action)」の概念が新たに定義されました。

 2021年改正法において、「国家安全通知義務行為」は、以下のとおり定義されています。

  • 「国家安全保障に関する事業(National Security Business)」の新規開始
  • 「国家安全保障に関する事業」に関する一定の持分または支配権の取得
  • 以下に該当するものに対する権利の取得
    • オーストラリア国軍や防衛省が所有または使用する土地・建物
    • オーストラリアの諜報機関が権利を有する土地
    • その他、連邦財務大臣が定める土地

 そして、「国家安全保障に関する事業」とは、事業の全部または一部がオーストラリアで行われ、かつ、主に以下のいずれかに該当する事業を指します。

  • オーストラリア重要インフラ安全保障法において定義される「重要インフラ資産」を運営し、または一定の権益を保持する事業(下記4にて詳述します。)
  • 「オーストラリア電気通信法(Telecommunications Act 1997)」で定義される通信事業
  • 国防または諜報機関によって軍事目的で使われる物品や重要技術の開発、製造または供給を行う事業
  • 国防または諜報機関に重要なサービスを提供する事業
  • 防衛技術や防衛関連情報の保管、管理または回収を行う事業

 上記のとおり、外国投資家は、「国家安全通知義務行為」の定義に該当する投資を行う場合には、少額投資であってもFIRBに対する事前申請が義務付けられることになります。外国投資家としては、投資実行前のデューデリジェンスの過程等において、投資対象となる事業が外資規制の対象になりうるか否かを、2021年改正法に照らしてより慎重に調査する必要があると考えられます。

(2) 連邦財務大臣に対する審査請求権(Call-In Power)の付与

 審査請求権(Call-In Power)とは、投資実行の時点ではFIRBによる審査・承認が必要なかったものの、連邦財務大臣またはFIRBが国家安全上の懸念があると判断した投資について、事後的に審査を行う連邦財務大臣の権限を意味します。審査請求権行使の対象となる投資は、改正法施行日である2021年1月1日以降に実行された投資行為のみであり、審査請求権の行使可能期間についても、投資実行から10年に限定されています。審査請求権が行使された場合の審査期間は、FIRBに対する申請が法的に義務付けられる投資案件の審査期間と同様です。財務連邦大臣は、審査請求権を行使した場合、通常の事前審査のときと同様に、その審査結果の内容に応じて、当該投資を承認したり、投資実行に一定の条件を付したりすることができます。

 本改正によって連邦財務大臣に強力な審査請求権が付与されたことにより、外国投資家は、オーストラリアにおいて実行済みの投資について事後的に条件を付される、売却を強制される等のリスクを負うこととなりました。かかる審査請求権行使の不確実性への対応措置として、外国投資家に届出義務がないケースであっても、企図している投資が国家安全に反しないかどうかの確認を求めるべく、FIRBに対して任意に申請を行うことができる制度(任意申請制度)が合わせて新規導入されました。外国投資家が任意申請を行う場合の申請手数料は、FIRBに対する申請が通常義務付けられる同種の投資に関する手数料の25%に設定されています。

 外国投資家が任意申請を行うか否かは、(i)国家安全に関する懸念があると判断される可能性の程度、(ii)FIRBのガイドラインで任意申請が推奨されているか否か、(iii)任意申請をすることによる不利益の程度等を踏まえて、戦略的に判断する必要があると考えられます。

(3) 連邦財務大臣に対する最終審査権(Last Resort Review Power)の付与

 最終審査権(Last Resort Review Power)とは、既にFIRBによる審査対象とされた投資案件について、連邦財務大臣またはFIRBが国家安全上の懸念があると判断した場合に、当該投資案件の再審査を行い、新たな条件を課し、既存の条件を変更し、または実行済みの投資の売却を強制する等の連邦財務大臣の権限を意味します。審査請求権行使の対象となる投資は、改正法施行日である2021年1月1日以降に実行された投資行為のみに限定されています。

 最終審査権は、連邦財務大臣に対して非常に強力な権限を付与するものであるため、改正法においても、以下のとおり最終手段として位置付けられています。

  • 最終審査権の行使は、外国投資家から届出のあった事項に誤解を招くような記述や申告漏れがあった場合、または投資実行後の状況に重大な変化があった場合のみに限定。
  • 最終審査権に基づく命令発動は、国家安全に対するリスクを回避または減少させるよう、外国投資家と誠実に交渉するための措置がとられたことが条件。
  • 外国投資家は、対象投資行為が国家安全上のリスクとなるという連邦財務大臣の決定に対して、行政不服審判所に不服を申し立てることが可能。

4 2021年重要インフラ安全保障法改正による外資規制への影響

 重要インフラ安全保障法は、オーストラリアの重要インフラに対する国家安全保障のリスクを管理する目的で、2018年に施行された法律です。近年の国際的なインフラに対するサイバー攻撃の増加等を背景として、2021年12月14日に同法の改正法が施行され、同法の適用対象となる業界が大幅に拡大されるとともに、企業の義務※3及び政府の権限の強化が図られました。

 2021年改正前の重要インフラ安全保障法は、ガス、電気、水及び港の業界にのみ適用されていましたが、2021年改正法によって、同法の対象範囲が以下の業界に拡大されることとなりました。以下の各業界によって保有される「重要インフラ資産」の内容については、2021年12月14日に施行された同法定義規則(Security of Critical Infrastructure (Definitions) Rules 2021)において具体的に定義されています。

  • データ保管・処理
  • 金融
  • 上下水道
  • エネルギー
  • ヘルスケア・医療
  • 高度教育・研究
  • 食品
  • 輸送
  • 宇宙技術
  • 防衛

 上記3(1)のとおり、2021年に改正された外資買収法上、重要インフラ安全保障法において定義される「重要インフラ資産」の運営・保持事業は、「国家安全保障に関する事業」に該当し、外国投資家によるかかる事業への投資は、「国家安全通知義務行為」として、投資額の多寡に関わらず、FIRBの事前承認取得が義務付けられることになりました。したがって、2021年の重要インフラ安全保障法改正に伴う同法の適用対象業界の拡張によって、FIRBの審査対象となる外国投資の範囲についても大幅に拡大されたことになります。

5 最後に

 英国においては、2022年1月より新たな外国投資規制が施行されるなど、各国において、外国投資規制は強化される傾向にあります。上記のとおり、オーストラリアにおいても、今後は、投資額の多寡にかかわらず、当局の事前承認取得が必要となる場合もあり、オーストラリアに対する投資を行うに際しては、常に、外資買収法上の検討を慎重に行う必要があることになります。

脚注一覧

※1
2021年改正法により、財務大臣の権限により、審査期間を最大180日(法定審査期間30日と合わせて最大210日)まで延長できるようになりました。実務上は、FIRBが外国投資家に任意の期間延長を要請し、投資家がこれに応じることが多く、FIRBの公表する“FIRB Annual Report 2019-20”によると、審査期間は平均48日間とされています。

※2
2021年外資買収法改正の重要ポイントとして挙げた3点のほか、申請手数料体系の改正、審査期間延長の仕組みの改正、法執行権限の強化、違反時における制裁・罰則の強化等の重要な改正がなされていますが、紙面の制約上、本レターにおいては説明を割愛させていただきます。

※3
同法の適用対象となる企業に対しては、重要インフラ資産の登記、政府による情報収集・インシデント発生時の介入に対する対応、サイバー・インシデントの報告(2021年改正法により追加)等の義務が課されています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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