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ニュースレター

公取委の立入検査対応の実務

NO&T Competition Law Update 独占禁止法・競争法ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 近時、コロナ禍が落ち着きを見せる中、公正取引委員会(以下「公取委」)の立入検査・執行が活発化しているほか、カルテルを認識・黙認していた取締役個人に高額の損害賠償責任を認めた裁判例(アスファルト合材価格カルテル株主代表訴訟)が現れるなど、企業におけるカルテル・入札談合への対策・対応が引き続き重要となっています。特にカルテル・入札談合の疑いで公取委の立入検査が一旦開始された場合には、厳しい時間的制約の中で、社内調査や課徴金減免申請等の様々な対応を迅速かつ効率的に行う必要があるため、平時において、立入検査や課徴金減免制度の概要を把握するとともに、有事に向けた準備・体制整備に取り組むことが有益です。

 そこで、本ニュースレターでは、公取委の立入検査対応における実務上のポイントについてご説明します。

2. 公取委による独禁法違反事件の調査―立入検査の概要―

 公取委による独禁法違反事件の調査手続には、行政処分を見据えた行政調査※1と刑事告発を見据えた犯則調査※2の2種類があり、それぞれの概要は下表のとおりです。公取委職員が調査のために営業所等を訪れた場合、通常は調査の開始時に、調査手続の種類や被疑事実について説明がなされますが、公取委職員が提示又は交付する文書等を見ることでこれらを把握することもできます。

分類 調査権限 調査手法 公取委職員が提示又は交付する文書等
行政調査 間接強制(独禁法第47条)
いわゆる「立入検査
営業所等への立入検査、帳簿書類等の提出命令・留置等 審査官証の提示
被疑事実等の告知書の交付
任意(法律上の根拠規定なし) 営業所等に赴き、任意で資料の提出等を依頼する 身分証明書の提示
犯則調査 強制(独禁法第102条) 裁判所の令状に基づく臨検、捜索・差押え等 犯則事件調査職員証の提示
令状の提示
任意(独禁法第101条) 嫌疑者・参考人の出頭要求、物件検査・領置等 身分証明書の提示

 上記のうち、公取委の「立入検査」とは、行政調査のうち間接強制(独禁法第47条)として行われる調査を指すのが一般的ですので、以下でもこの立入検査についてご説明します。なお、間接強制とは、調査に応じなかった場合の罰則※3を設けることで、調査に応じることを間接的に強制する方法を指します。犯則調査のように令状に基づいて強制的に捜索・差押えを行うことはできませんが、調査に応じなければ罰則の対象となり得るため、事業者等がこれに応じるか否かを任意に判断できる性格のものではありません。

 立入検査当日の大まかな流れは下図のとおりです。立入検査は朝一から深夜まで続くことも珍しくありません。

3. 立入検査「当日」の対応のポイント

 公取委の立入検査当日の対応においては、特に以下のような点がポイントとなります。

(1) 被疑事実の具体的な把握

 後述のとおり、被疑事実がカルテル・入札談合である場合には、早急に社内調査を行って事実関係を把握し、課徴金減免申請の要否を検討する必要があります。このような立入検査後の対応を迅速かつ効率的に行うためには、公取委の立入検査当日に、可能な限り具体的に被疑事実を把握することがポイントとなります。

 この点、立入検査当日に公取委審査官から交付される「被疑事実等の告知書」には、事件名、被疑事実の要旨及び適用条文が記載されており、被疑事実の概要を把握する際の参考となります。もっとも、この告知書に記載される被疑事実は抽象的な内容にとどまり、詳細な事実関係等は記載されていないことが通例です。そのため、立入検査当日の公取委審査官の調査状況(調査対象となった部署や事業・取引、その優先順位等)、公取委審査官とのコミュニケーション、社内関係者(被疑事実に関係があるとみられるキーパーソン)への事情聴取等を通じて、被疑事実をより具体的に把握するように努めることが重要となります。

(2) 提出物件(関係書類・電子データ等)の特定・把握

 立入検査後の社内調査を迅速かつ効率的に行うためには、被疑事実の具体的な把握に加えて、公取委審査官が収集した物件(関係書類・電子データ等)を可能な限り特定・把握しておくことがポイントとなります。

 この点、公取委審査官が、物件の提出命令・留置を行う際に交付する「提出命令書」及び「留置物に係る通知書」には、対象物件の品目を記載した目録が添付されることになっており、この目録には、物件の標題、所在場所、所持者・管理者等が記載されます。

 また、公取委審査官が物件を留置する(持ち帰る)際には、立入検査場所となった営業所等を管理する責任者等の面前で物件を1点ずつ提示し、全物件について当該目録の記載との照合を行います。日々の事業活動に用いる必要があると認められるものについては、この照合手続のタイミングで謄写(コピー)を要望することができます。

 しかし、これらの物件目録の記載や照合手続では、いくつかの関係書類・電子データ等をまとめて「1点」として取り扱われ、後から物件目録を見るだけでは留置された物件を特定できないことも少なくないため、これらの物件収集活動への立会や照合手続等を通じて、公取委審査官が収集した物件を可能な限り具体的に特定・把握することが重要となります。

 なお、立入検査の翌日以降も、公取委と日程調整の上、公取委が指定する場所において提出・留置物件の閲覧・謄写(コピー)をすることが可能ですが、立入検査後は、早急に社内調査・課徴金減免申請等の対応を行う必要があるため、立入検査当日に可能な限り具体的に、提出物件を特定・把握することが重要となります。

(3) 検査妨害(証拠隠滅等)の防止

 立入検査を拒否・妨害する行為等については、個人について1年以下の懲役又は300万円以下の罰金、法人について2億円以下の罰金の刑事罰が規定されています(独禁法第94条、第95条第1項第3号)。

 立入検査は、事前通告なく突然開始するため、混乱の中で会社の関係者が独断で慌てて関係書類や電子データ等の証拠を破棄・隠匿する可能性があります。そのため、立入検査開始後、速やかに社内関係者に対し、証拠隠滅行為やそれと疑われるような行為を禁止すること、証拠隠滅行為は刑事罰や社内処分の対象になることをメール・口頭等で周知することがポイントとなります。

4. 立入検査「直後」の対応のポイント―社内調査と課徴金減免申請―

 カルテル・入札談合については、公取委に「自首」することで課徴金の免除・減額を受けることができる課徴金減免制度があります。課徴金減免申請には申請期限があり、また申請の順位によっても減免率が変わるため、カルテル・入札談合の疑いで公取委の立入検査が一旦開始された場合には、早急に社内調査や課徴金減免申請等の対応を行う必要があります。以下では、立入検査後の対応のポイント等を述べます。

(1) 社内調査の方針・ポイント

 内部通報等を端緒とする通常の社内調査では、被疑事実への関与が疑われる役職員に調査を行っていることを知られないよう秘密裏に、客観証拠の収集や周辺の役職員への事情聴取等を先に行った上で、被疑事実への関与が疑われる役職員に事情聴取を行うといった調査方針を立てることが一般的です。客観証拠の収集等が不十分な状態で当該役職員に事情聴取をした場合、被疑事実への関与を否認されるリスクや、客観証拠の破棄・隠匿、他の関係者等と口裏合わせをされるリスクがあるからです。

 しかし、公取委の立入検査は、会社に対する事前通告なく突然開始するため、会社側で上記のような事前調査を十分に行うことはできず、また、立入検査後の社内調査に充てられる時間も非常に限られています。そのため、立入検査後の社内調査では、客観証拠の収集・精査と同時並行的に、立入検査の対象となった部署や事業・取引の関係者(キーパーソン)に事情聴取を行う必要があります。そして、事情聴取を行う際には、将来の課徴金リスク等を最小限にすべく、早急に事実関係を明らかにする必要があること等を説明し、事実関係を詳細かつ正確に話すように説得することが重要です。

 また、被疑事実への関与が疑われる役職員やその他の関係者に対して事情聴取を行う際には、(a)被疑事実となっているカルテル・入札談合(これに関連する他社との競争機微情報の交換を含む。)を今後一切禁止すること、(b)被疑事実の内容や社内調査・課徴金減免申請の対応状況等に関する情報漏洩を禁止すること、(c)証拠隠滅を禁止すること等について十分に説明し、誓約書を取得することが考えられます。

 さらに、立入検査後の対応の時間的制約に鑑み、一定の期間以内にカルテル・入札談合に関与していたことを申告した場合(あるいは申告しなかった場合)には社内処分において一定の考慮をする等の社内リニエンシー制度を活用し、被疑事実に関する情報や類似の製品・サービスにおける違反行為の有無等の情報を収集することも検討に値します。

(2) 課徴金減免制度の概要・ポイント

 まず、課徴金減免制度の概要を簡単にご説明します。カルテル・入札談合に対しては、違反行為期間中(始期は調査開始日から最長10年前まで遡及。)の関連商品・サービスの売上高の10%※4の課徴金が課されます。事業者が自ら関与したカルテル・入札談合について、その違反内容を公取委に自主的に報告した場合、①減免申請の順位に応じた減免率に、②公取委の調査への協力度合いに応じた減算率を加えた減免率の適用により、課徴金が減免されます。具体的な減免率については下表のとおりです。

調査開始 申請順位 ①申請順位に応じた減免率 ②協力度合いに応じた減算率
1位 全額免除
2位 20% +最大40%
3~5位 10%
6位 5%
最大3社(※) 10% +最大20%
上記以下 5%

 ※調査開始前の減免申請者と合わせて最大5社まで

 上記のとおり、公取委による調査開始後であっても、減免申請及び調査協力※5により最大30%の減額を得られる余地がありますが、調査開始後の減免申請の期限は、「当該違反行為に係る事件についての調査開始日から起算して20日を経過した日」(減免規則第8条)とされています。したがって、通常、立入検査日から20日以内※6には、社内調査を踏まえて課徴金減免申請を行うか否か決める必要があります。

 さらに、自社への立入検査日が調査開始後の減免申請の期限の起算日になるとは限らない(すなわち、同一事件に関する他社への立入検査日が起算日となる場合がある)ことに注意する必要があります(東京高判平成25年12月20日(VVFケーブル事件))。そのため、同業他社に立入検査が入った場合には、自社に立入検査が入っていなかったとしても、独禁法違反の疑いのある行為がないか、一定の社内調査を行う方がよいでしょう。

 また、会社の取締役が、立入検査等により会社がカルテル・入札談合に関与している可能性を認識したにもかかわらず、適切な社内調査や課徴金減免申請の検討を怠った場合には、取締役の善管注意義務違反(会社法第330条、民法第644条)が問題となり得るため、このような観点からも、特にカルテル・入札談合の疑いでの立入検査後は慎重に対応する必要があります。

 この点、社内調査や課徴金減免申請の懈怠が問題となった事例ではないものの、独禁法違反に関する取締役の責任が問題となった最近の事例として、アスファルト合材価格カルテル株主代表訴訟(東京地判令和4年3月28日〔控訴〕・資料版商事法務459号131頁)があります。同事例では、カルテルに直接関与していた取締役のほか、カルテルを認識・黙認していた取締役について、取締役としての善管注意義務(法令遵守義務)に違反したとして、約15~18億円の損害賠償責任が認められています。

5. 平時の体制整備の重要性

 以上のとおり、カルテル・入札談合の疑いで立入検査が一旦開始された場合には、厳しい時間的制約の中で、社内調査、課徴金減免申請の検討、情報漏洩・証拠隠滅の対策等の様々な対応が必要となります。そのため、平時において、立入検査を受けた場合の対応手順やポイントの整理、社内調査体制・課徴金減免申請に係る体制(決裁手続等)や社内リニエンシー制度の整備、立入検査後の対応に必要となる各種文書(情報漏洩・証拠隠滅の禁止や違反行為の禁止に関する社内通達、誓約書、QAの雛形等)の準備等、立入検査後の対応を想定した準備・体制整備に取り組むことが有益です。ご要望に応じて個別に模擬立入検査のワークショップ等を行うことも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

脚注一覧

※1
排除措置命令等の行政処分の対象となり得る独禁法違反被疑事件を審査するための手続

※2
刑事処分を求める告発の対象となり得る独禁法違反被疑事件を調査するための手続

※3
個人について1年以下の懲役又は300万円以下の罰金、法人について2億円以下の罰金(独禁法第94条、第95条第1項第3号)。

※4
違反行為を繰り返した場合又は違反行為において主導的役割を果たした場合には15%、違反行為を繰り返しかつ主導的役割を果たした場合には20%の課徴金が課されます。

※5
調査協力により実際にどの程度の減額が得られるのか(評価後割合)は、調査の終盤にならないと分かりませんが、公取委は、運用指針において、事業者による報告等の内容が、(ⅰ)具体的かつ詳細であるか否か、(ⅱ)公正取引委員会規則で定める「事件の真相の解明に資する」事項 について網羅的であるか否か、(ⅲ)事業者が提出した資料により裏付けられるか否かの3つの要素を考慮して決定するとしています。この3つの要素を全て満たす場合には20%、うち2つの要素を満たす場合には10%、うち1つの要素を満たす場合には5%の減額が与えられることになります。

※6
期間の計算方法については技術的なルールが存在するため、個別案件における正確な申請期限の日を確認するにあたっては、公取委(課徴金減免管理官)に問い合わせをして確認することが確実です。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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