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ニュースレター

【From Singapore Office】シンガポールにおける外国判決の相互執行~近時の改正~

NO&T Dispute Resolution Update 紛争解決ニュースレター

著者等
クレア・チョン
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Dispute Resolution Update ~紛争解決ニュースレター~ No.7(2023年4月)
関連情報

本ニュースレターは、「全文ダウンロード(PDF)」より日英併記にてご覧いただけます。シンガポール・オフィスの紛争解決チームについてPDF内にてご紹介しております。

業務分野
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

シンガポールにおいて、外国の裁判所が下した判決の承認と執行に関する法制の改正が行われた。

一般的に、シンガポールにおいて外国判決は、(i) コモンロー上の判決債務に関する請求によるほか、(ii) 法令の定めに基づいて登録を行うことによって執行可能になる。後段の外国判決の登録手続は、2023年3月1日から、「外国判決相互執行法」単一の枠組みにより、規律されることとなる。

新法制の重要な点としては、外国判決相互執行法において対象となる判決の範囲が拡大されたことが挙げられる。さらに、シンガポールが個別の国との間で相互執行の合意を取り付ける交渉を行う基盤ができたともいえる。外国判決相互執行法の体制が確立していく中で、訴訟の当事者はより幅広く、外国裁判所から得られる民事上の救済の実現を期待することができる。

外国判決相互執行法の重要な改正点

法制の統合

今回の法制変更は、「1921年コモンウェルス諸国判決相互執行法」の廃止とそれに伴う「外国判決相互執行法」の改正の組合せによるものである。コモンウェルス諸国判決相互執行法の廃止により、判決の相互執行の法制は外国判決相互執行法の下での単一の枠組みに統合された。統合の意図は、手続を合理化するとともに、外国裁判所の判決をシンガポールにおいて執行しようとする当事者のために効率性を高めることにある。

承認の対象となる法域

外国判決相互執行法は、現状、下記の法域に適用される。多くはコモンウェルス諸国判決相互執行法からそのまま持ち越されたものである。

  • オーストラリア
  • ブルネイ・ダルサラーム
  • インド
  • 香港特別自治区
  • マレーシア
  • ニュージーランド
  • パキスタン
  • パプアニューギニア
  • スリランカ
  • グレートブリテン及び北アイルランド連合王国

シンガポールと上記国との相互執行の取決めの詳細(すなわち承認された裁判所と登録可能な判決の種類など)は次の二つの施行令によって定められる。

  • 外国判決(香港特別自治区)相互執行施行令2001
  • 外国判決(英国及びコモンウェルス諸国)相互執行施行令2023

外国判決相互執行法の下で登録された判決は、執行の目的においてはシンガポールの裁判所が発行した判決と同一の効力を有する。

外国判決相互執行法は、追って、他国との相互執行合意や取決めを含むよう拡大する可能性がある。こうした拡大は、それぞれの国と個別に交渉・合意されることとなる。これに関するあり得る考慮要素は、シンガポールの裁判所システムと対象となる外国のそれとの間に互換性が認められるか、訴訟当事者のニーズ及び各国の国益などである。

対象となる判決

改正前は、承認された法域の上級裁判所の最終的な金銭的判決のみが登録によって執行可能であった。外国判決相互執行法においては、その対象として新たに次の四種類の民事判決が加えられている。

  • 非金銭的判決
  • 下級審判決
  • 保全処分
  • 裁判上の和解、同意判決・命令

この改正は、次の点で重要といえる。

  • 差止命令(資産凍結命令や一定の行為の禁止を命じる命令を含む)などの非金銭的判決や特定履行の命令は訴訟当事者の権利を実現する上で重要な手段である場合が多い。最終判決の実効性を確保する上では保全処分が有効となることもある。これらの命令や処分は、シンガポールの裁判所にとってその執行が正当かつ適切であるといえる場合、外国判決相互執行法の下で登録され得ることとなる。
  • 承認される判決の範囲について、それを出す外国裁判所の審級を拡大したことにより、訴訟当事者は外国訴訟の成果を活用しやすくなる。
  • 当事者は訴訟を完遂することなく和解することができる。この場合、裁判所の面前での和解合意は同意判決又は命令として記録されることがある。裁判上の和解、同意判決・命令が外国判決相互執行法において承認されることにより、当事者の紛争の終結を確実なものとし、和解合意に確定的かつ拘束的効力が与えられることとなる。

外国判決相互執行法の枠組みは相互主義を基礎にするものであることから、同法においては外国判決が承認されない場合が列挙されている。例えば、次の判決は承認されない。

  • 承認されている裁判所が、承認されていない裁判所に係属していた事件の上訴を受け、これについて下した判決
  • 承認されている裁判所の判決であると執行手続上はみなされているものの実際には更に別の外国である第三国において作成された判決又はその他の法的文書
  • 承認されている外国の裁判所が、更に別の第三国の裁判所の判決の執行を目的として開始された訴訟手続において出した判決
  • 外国判決相互執行法の枠組みは、ハーグ管轄合意条約のシンガポール国内実施法たる「管轄合意法」の下でシンガポールにおいて承認されたり執行され得る外国判決には適用されない。

日本の訴訟当事者への影響

シンガポールは日本との間で相互執行合意や取決めを締結していないため、日本の裁判所の金銭的判決をシンガポールで執行するためには、当該判決の金額の支払を求める新たな訴訟提起によることとなる。この訴訟の成否はコモンロー上の要件、すなわち判決が確定金額の支払を命じるものであり、同一の当事者間で終局的なものであることなどを充足するかどうかによって左右される。

ただし、外国判決相互執行法の下で承認されている上記法域において同法の対象となる判決を取得した日本の訴訟当事者は、外国判決相互執行法の登録によって執行を求めることができる。

おわりに

シンガポールは、定期的な法制の見直しや改正を通じて、引き続き国際紛争解決の中心地としての地位を固めている。新しい外国判決相互執行法の枠組みにより、実務的な観点からは、訴訟当事者が、重要な非金銭的判決や保全処分を含む、外国裁判所のより幅広い判決を執行することができることとなる。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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