
佐々木将平 Shohei Sasaki
パートナー/オフィス代表
バンコク
NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報
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労働者保護法に在宅勤務及びリモートワーク(以下「リモートワーク」という。)に関する規定を追加する改正法(以下「改正法」という。)が、2023年3月19日付で官報に掲載され、4月18日付で施行された。タイにおいても、コロナ禍を契機としてリモートワークが広まったが、リモートワークに関しては従業員にとって業務とプライベートの垣根が曖昧になる等の問題も指摘されている。かかる問題を踏まえ、改正法においては、労働者のウェルビーイングを高める観点から一定の規律を定めるとともに、労働者に対していわゆる「つながらない権利」を認める改正が行われている。改正の目的としては、上記に加えて、リモートワークの活用が使用者側の事業運営上有用であるという点や、交通渋滞問題やエネルギー消費の削減といった社会課題の解決に繋がるという点も、掲げられている。
改正法に関しては、労働保護福祉局が説明資料(以下「当局説明」という。)を公表しており、その内容も踏まえつつ、その概要を紹介する。
改正法23/1条1項においては、使用者の事業運営のため並びに従業員の生活及び仕事の質を向上させるため、又は、必要性のある場合、使用者及び従業員は、事業所外又は使用者のオフィスの外で業務を行うことが便利である性質又は状況の業務について、自宅若しくは居住地で行うこと、又は、テクノロジーを利用して任意の場所での勤務を認めることを合意することができる旨が規定されている。
まず、当該規定は、リモートワークに関する労使合意が認められることを明記した規定であり、使用者又は従業員いずれも、改正法によって、リモートワークの実施を強制されるものではない。また、当該規定により、リモートワークの実施に際しては、使用者と従業員との間でその実施について合意すべきこととなる。もっとも、従来、リモートワークに関しては、従業員から明示的な個別の同意を取得することなく、使用者からの一方的なアナウンスにより実施されることが多かったのではないかと思われる。そのような対応が今後も認められるのか否かは、当局説明においても明らかにはされておらず、改正法が今後どのように解釈・運用されていくかを注視する必要があると思われる。
リモートワークに関する合意は、雇用契約締結時に限らず、雇用期間中何時でも行うことができるが、その内容については、使用者が、書面化(電子データを含む)することが求められる(同2項)。改正法には、その合意内容として、以下の項目が挙げられている。もっとも、これらの項目全てを合意内容に含むことが義務づけられているわけではなく、これらの項目に制約されることなく、労使間で合意内容を定めることが可能である。また、書面化の方法については特に限定はないため、就業規則の改定という形を採ることは必須ではなく、社内文書・規定として書面化することで足りる。
改正法23/1条3項においては、いわゆる「つながらない権利」が定められている。具体的には、「労使で合意された通常の就業時間の終了後又は使用者から指示された業務の終了後は、事前に書面により同意していない限り、従業員は、使用者、上司、指示者又は検査者とのいかなる方法による連絡も拒絶することができる」旨定められている。事前に従業員の書面同意(メール等の電子的な方法によることも可能と解される)を得ている場合は例外とされているため、業務上就業時間外や休日に連絡が取れるよう確保すべき従業員については、予め雇用契約に定めるか、別途合意により、時間外又は休日の連絡に応じる旨の同意取得を検討する必要がある。
また、当局説明によれば、この規定の効果として、(従業員が同意によってつながらない権利を放棄していない限り)就業時間後に連絡がつかないことを理由として従業員を罰することは認められないこととなる。
改正法23/1条4項においては、リモートワークをする従業員は、使用者の事業所又はオフィスで勤務する従業員と同一の権利を有する旨、規定されている。言い換えれば、改正法の下では、リモートワークを行う従業員を、オフィスで勤務する従業員と比して不当に不利益に取り扱うことは認められないこととなる。具体的にどのような場合が問題になりうるかは、当局説明においては明示されていないが、たとえば、オフィスで勤務する従業員のみに対して通勤手当を支給することは合理性が認められ、問題ないと思われる。また、出勤を奨励するためにオフィスで勤務する従業員に対してのみインセンティブを付与することも、インセンティブとして合理的な範囲であれば差し支えないと思われるが、その態様や程度によっては、リモートワークを行う従業員を差別的に取り扱うものであるとして、上記規定に反するとの評価を受ける可能性もあると思われるため、注意が必要である。
改正法により追加された各規定に関しては、罰則は設けられていない。もっとも、当局説明によれば、使用者が各規定を遵守していない場合、労働者保護法139条(3)に基づき、労働検査官が各規定の遵守を求める命令を行うことができ、当該命令に従わない使用者は、2万バーツ以下の罰金の対象となりうる。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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