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ニュースレター

<宇宙法アップデート> 日・米宇宙協力に関する枠組協定の発効

NO&T Technology Law Update テクノロジー法ニュースレター

著者等
大久保涼森脇達希(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Technology Law Update ~テクノロジー法ニュースレター~ No.39(2023年8月)
業務分野
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2023年6月19日、「平和的目的のための月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の枠組協定」※1(以下、「本枠組協定」といいます。)の効力発生のための外交上の公文の交換がワシントンD.C.で行われ、同日に効力が生じました※2

 従前、日本と米国との間では宇宙活動に関する包括的な協力のための枠組協定の締結が長年に亘り検討されていたものの、NASAと他の各国の宇宙機関等が締結している枠組協定の内容のうち損害賠償責任条項のみを取り出した「平和的目的のための宇宙の探査及び利用における協力のための損害賠償責任に係る相互放棄に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(以下、「日米CW協定」といいます。)のみが締結されており、日米間の宇宙開発に関する協力を内容とする国際約束は都度個別に協議・締結されるという状態にありました※3。そのような背景の中で、本枠組協定は、「アルテミス計画」への積極的な参加の実現を主目的※4として、ついに日米間で包括的な国際約束としての枠組協定が発効したという重要な転機となりました。そこで、今回の宇宙法アップデートでは、本枠組協定のポイント及び今後留意すべき点を、これまでのアルテミス計画・合意に係る国際約束との関係性も踏まえつつ、当事務所宇宙プラクティスグループのメンバーが解説します。

本枠組協定の背景にある重要な国際約束

1. アルテミス合意

(1) アルテミス計画

 アルテミス計画とは、2024年後半か25年初頭に有人拠点を月周回軌道に乗せ、最終的に人類を月に送り込むことを目指すNASAを中心とした国際的な宇宙開発プロジェクトです。アルテミスⅠ※5は既にミッションを完了しており、今後数年のうちにアルテミスⅡ※6及びアルテミスⅢ※7が具体的に予定されています。また、月面及び火星に向けた中継基地としての月周回有人拠点(ゲートウェイ)も開発中であり、2024年ごろから月軌道上組み立てが予定されています※8

(2) アルテミス合意

 アルテミス計画の推進を意図しつつ、アルテミス計画に賛同する国の間で、国際的に宇宙の平和協力の原則を定めた政治的宣言※9がアルテミス合意であり、①相互運用性に関する合理的な努力、②緊急時に必要な援助への合理的な努力、③宇宙空間に打ち上げられた物体の登録に関する条約(以下、「登録条約」といいます。)に基づいた宇宙物体の登録に関する協力、④科学的データの伝達・公開を行う権利の留保、⑤宇宙資源の取扱いについて宇宙条約に準拠することの確認、⑥宇宙活動の干渉防止、⑦軌道上のデブリの安全な処分計画策定の誓約といった内容が定められています※10,※11

(3) 本枠組協定との関係

 アルテミス合意自体には法的拘束力はありません。従って、アルテミス合意の内容について具体的な法的拘束力を持たせるためには、国家間で別途法的拘束力を有する建付けの国際約束を締結する必要があることになります。本枠組協定は、法的拘束力を有する国際約束であり、アルテミス合意の内容を念頭に置いて、具体的な法的拘束力を持たせた規範であるといえます。

2. ゲートウェイMOU

(1) 概要

 アルテミス計画・合意を踏まえて本枠組協定に先行して締結された日米間の宇宙開発に関する重要な国際約束として、2020年12月31日に発効した民生用月周回有人拠点のための協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国航空宇宙局(NASA)との間の了解覚書(以下、「ゲートウェイMOU」といいます。)があります※12

 ゲートウェイMOUは、その名称のとおり、月周回軌道上の有人拠点であるゲートウェイの開発・組み立てに関する協力を実施するための日本国政府とNASAとの間の了解覚書です。ゲートウェイMOUでは、ゲートウェイの概要・要素や日本とNASAの義務及び責任範囲が定められており、これに基づいて、日本(JAXA)は国際居住モジュールの建設等を担当することになっています。また、①ゲートウェイの資源はNASAが全体を統合して管理すること、②MOUの効力発生前及び範囲外で行われた、又は創作されたものに対する知的財産権は他方当事者に当然に付与されるものでなく、MOUの履行において一の当事者又はその貢献者によって行われた発明又は創作された著作物に対する知的財産権は当該当事者又は当該貢献者が有すること、③日本及びNASAは、ゲートウェイMOUの下でのそれぞれの責任を果たすために必要な物品及び技術データ(ソフトウェアを含む。)のみを移転する義務を負うこと等の内容が定められています。

(2) 本枠組協定との異同

 ゲートウェイMOUもアルテミス計画・合意を踏まえて締結された法的拘束力を有する国際約束であり、この点で本枠組協定と共通点を有します。他方で、ゲートウェイMOUは、本枠組協定と異なり、日米間の包括的な取り決めではなく、ゲートウェイの整備という個別の事項に関する取り決めとなっています。

 また、法的枠組みの階層も本枠組協定とは異なります。すなわち、国家間の宇宙機関の協力について取り決める法的枠組みの類型としては、①条約、②行政取極、③実施取決めの3階層が存在します※13。そして、①の条約レベルの法的枠組みとして、既に国際宇宙ステーション(ISS)に関する「民生用国際宇宙基地のための協力に関するカナダ政府、欧州宇宙機関の加盟国政府、日本国政府、ロシア連邦政府及びアメリカ合衆国政府の間の協定」(以下、「IGA」といいます。)が存在するところ、IGAはゲートウェイのような月軌道における有人拠点もカバーすると考えられていますので、ゲートウェイMOUはIGAの下位規範である②の行政取極として機能しています。他方で、本枠組協定は、国会承認を経て①の条約として締結されています。

本枠組協定の内容

1. 実施機関間での協力に関する実施取決めの作成(第3条)

 日本の宇宙機関であるJAXAは国際約束の締結権限を有していないため、従前は、日米で新たな宇宙活動を共同実施する際に、日本国政府が当事者となって個別の国際約束を締結する必要がありました。しかし、本枠組協定においては、共同活動の特定の条件については、枠組協定に基づく実施機関間の実施取決めで定めるとされ、日本側の実施機関にはJAXAが含まれていますので、今後は、宇宙活動の共同実施時における日本における国内調整手続の大幅な簡素化が期待されます。

2. 協力に必要な物品等の輸出入に係る税の免除義務及び手数料免除の努力義務(第5条)

 宇宙活動に係る協力時には税の免除義務及び手数料免除の努力義務が日米両国政府に課されています。

3. 物品及び技術データの移転(第8条)

 宇宙活動に係る協力時には、日本及び米国は、本枠組協定に基づく共同活動の実施のために必要な物品及び技術データ(ソフトウェアを含む。)のみを移転する義務を負うこととされており、その際には輸出管理や秘密情報管理に関するものを含めた全ての適用法令を遵守することが求められています。また、物品、財産的価値を有するデータ及び輸出管理の対象となる技術データの全ての移転については、事前の書面による許可なしに他の団体に開示され、又は再移転されないこととされており、移転されたデータの保護の取り決めもなされています。加えて、一定の財産的価値を有するデータ及び輸出管理の対象となる技術データの返還及び処分のルールも定められています。

 日本及び米国は、契約上の仕組み又はこれと同等の措置を通じ、その関係者にも上記の物品及び技術データの移転に関する規定を遵守させる義務を負っています。

4. 知的財産権の保護(第9条)

 本枠組協定の効力発生前及び範囲外で行われた、又は創作されたものに対する知的財産権は他方当事者に当然に付与されるものでないことが確認されており、本枠組協定に基づく共同活動の実施において専ら一方の当事国政府又はその貢献者によって行われた発明又は創作された著作物に対する知的財産権については、当該一方の当事国政府又はその貢献者が有すると定められています。

 また、一方の当事国政府とその貢献者との間の当該発明又は当該著作物に対する権利又は利益の配分は、適用される法令、規則及び契約上の義務により決定することとされています。

5. 科学的データの共有(第11条)

 日本及び米国は、実施取決めの下で作成されたデータ管理計画において詳細に定めるところにより、枠組協定に基づく共同活動によって得られる全ての科学的なデータについて当該科学的なデータが公に利用可能となった場合には速やかに共有することとされています。

6. 損害に関する責任の相互放棄(クロス・ウェイバー)(第12条)

 本枠組協定は、いわゆるクロス・ウェイバー規定、すなわち、各当事国政府が、他方の当事国政府(実施機関を含む。)、他方の当事国政府の関係者及び他方の当事国政府又は当事国政府の関係者の被雇用者に対する損害(人的損害、財産的損害、収益及び間接損害を含む。)についての請求を相互放棄する旨を定めています。また、各当事国政府は、また、自己の実施機関がその関係者に対し、契約その他の方法により相互放棄を当該関係者に及ぼすことを確保する義務を定めています(いわゆる「flow down」)。もっとも、例外的に、①一方の当事国政府とその関係者との間又は一方の当事国政府の関係者の間の請求、②自然人の身体の傷害その他の健康の障害又は死亡について当該自然人又はその遺族等によって行われる請求、③悪意によって引き起こされた損害についての請求、④知的財産に係る請求、⑤実施機関が責任に関する相互放棄を自己の関係者に及ぼすことができなかったことから生ずる損害についての請求、⑥他方の当事国政府が枠組協定に基づく自己の明示の義務を履行することができなかったことから生ずる一方の当事国政府による請求については、相互放棄の対象とはなりません。

 かかる責任の相互放棄に関する規定は、米国内において適用のある責任の相互放棄規定※14と基本的に同一です。

 また、かかる責任の相互放棄に関する規定は、基本的に現行の日米CW協定とも同内容の規定になっているところ、現行の日米CW協定は本枠組協定に置き換えられる趣旨で、追って終了させることが予定されています※15

7. 自国が登録する宇宙物体及び宇宙空間における自国民等に対する管轄権の保持(第13条)

 日本及び米国は、打上げについて定める実施取決めについて、いずれの実施機関が自己の政府に対して宇宙物体の登録を要請するかを両当事国政府の実施機関が決定すること及びその要請があった政府が登録条約の規定に従い当該宇宙物体を登録することに合意することが定められています。また、両国は、自己が登録した宇宙物体及びその乗員並びに月その他の天体を含む宇宙空間にある自国民である人員に対し、管轄権及び管理の権限を保持する旨も定められています。

今後の展望

 宇宙公法の観点からは、本枠組協定は長年日米間で検討されてきた包括的な宇宙協力に関する枠組協定が締結されたものであり、その意義は大きいものといえます。一方で、本枠組協定の内容が、現時点において宇宙ビジネスに対して直ちに大きい影響があるとまでは考えられません。

 もっとも、今後本枠組協定の規定を基に国内で宇宙ビジネスに影響が生じうる新たなルールが作られる可能性もありますし、本枠組協定の内容を踏まえて、より具体化し宇宙ビジネスに影響が生じうる内容の個別の実施取決めがJAXA・NASA間で締結されていくことも想定されていますので、引き続き今後の動向を注視する必要があると考えられます。

脚注一覧

※1
原文は外務省ホームページをご参照ください。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100446927.pdf

※3
小塚荘一郎・佐藤雅彦編著『宇宙ビジネスのための宇宙法入門〔第2版〕』104頁(有斐閣、2018年)

※4
外務省「日・米宇宙協力に関する枠組協定」概要説明

※5
無人の状態の宇宙船オリオンで月軌道を周回するミッション。25日半かけて月の周りを周回し、2022年12月11日に帰還しました。

※6
有人宇宙船による月周回飛行の実施、宇宙飛行士の宇宙適応や新たな技術の評価、月面着陸に必要な技術開発や月の自然環境の調査を目的とした有人ミッション。2024年予定。

※7
実際に有人で月面着陸を行うミッション。2026年予定。

※8
JAXA国際宇宙探査センターウェブページ
https://www.exploration.jaxa.jp/program/#gateway

※9
2023年8月7日時点で、米国・日本を含む28カ国が締結しています。

※10
原文はNASAホームページをご参照ください。
https://www.nasa.gov/specials/artemis-accords/img/Artemis-Accords-signed-13Oct2020.pdf

※11
具体的な内容については、大久保涼・大島日向編著『宇宙ビジネスの法務』55頁(弘文堂、2021年)以下もご参照ください。

※13
小塚荘一郎・佐藤雅彦編著『宇宙ビジネスのための宇宙法入門〔第2版〕』99頁(有斐閣、2018年)

※14
例えば、NASAの調達規定であるNASA FAR Supplement (NFS) 1852.228-78参照。

※15
外務省「日・米宇宙協力に関する枠組協定」概要説明

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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