
クレア・チョン Claire Chong
カウンセル
シンガポール
NO&T Dispute Resolution Update 紛争解決ニュースレター
本ニュースレターは、「全文ダウンロード(PDF)」より日英併記にてご覧いただけます。シンガポール・オフィスの紛争解決チームについてPDF内にてご紹介しております。
2023年5月、シンガポールは、1965年の民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(以下「ハーグ送達条約」という)に加入した。この動きは国際訴訟を円滑に進めるためのシンガポールの近時の一連の法整備と位置付けられる。
民事訴訟を有効に提起するにあたり、訴状を始めとする文書を相手方に送達することは重要な手続である。しかし、国際紛争においては、送達を行うために予期しないコストや遅延が発生することもあり、不確実性があることは否めない。この送達の過程に外交官や領事官が関与する場合には複雑な手続になることもあった。
このような問題に対応するため、ハーグ送達条約が創設され、条約締約国(日本を含む)の間での送達ルートの調和と合理化が図られた。
締約国において訴訟を提起しようとする者は、他の締約国所在の者に対して送達を行うにあたって、合理化された手順を踏むこととなる。そのため、シンガポール以外の締約国に所在する被告に対してシンガポール国内で民事訴訟を提起しようとする当事者(外国企業の現地法人としてのシンガポール法人を含む)は合理化された手続の恩恵を受けるし、その逆に、シンガポール所在の被告に対してシンガポール以外の締約国において民事訴訟を提起しようとする当事者もメリットを享受する。
ハーグ送達条約はシンガポールにおいて2023年12月1日に発効する予定である。
ハーグ送達条約は、外国における裁判上及び裁判外の文書の送達に関して、統一的な規則を定める多国間条約である。この条約は、国際取引を行う際の法的確実性を高め、ひいてはビジネスの信頼性を高めることを目的としている。
現在、この条約の締約国となっているのは、シンガポールの主要貿易相手国である英国、米国及び日本を含む82か国である。
同条約は、裁判上及び裁判外の文書を海外に送達するための主な送達手段を定めており、これには、各締約国が他の締約国からの送達要請を受けるために指定する中央当局が関与する。日本は外務省を中央当局に指定しており、シンガポールは法務省を中央当局に指定する予定である。
送達を他国に依頼することとなる締約国(嘱託国)の関係当局又は裁判所職員は、依頼を受ける別の締約国(受託国)の中央当局に対し、送達すべき文書とともに送達依頼書を提出する。その後、依頼を受けた中央当局は、自ら文書を送達するか、又は権限のある機関により名宛人に送達されるよう手配し、その後、所定の様式による証明書を発行する。証明書には送達完了の旨、また、送達未了の場合にはその理由が記載される。
ハーグ送達条約は締約国に対し、以下の代替的な送達手段も認めている。
ただし、上記の代替的な送達手段の使用について締約国が異議を唱えることがある。例えば、日本は、条約第8条及び第10条(a)に対して異議を唱えており、外交官又は領事官を通じた送達や郵便による送達の方法によって日本国内での外国裁判文書等の有効な送達を行うことはできない。したがって、訴訟を提起しようとする者は、送達先の締約国ごとに認められている送達方法を確認する必要がある。
シンガポールはハーグ送達条約を発効させるために、送達に関する関連規則の改正を以下のとおり行う。
ハーグ送達条約の発効に関する更なる詳細については、シンガポール法務省から追って発表される。
シンガポールのハーグ送達条約への加入は歓迎すべき動きである。これにより、シンガポールに所在する原告が他の締約国に所在する被告に対し訴訟を提起し最終的に他国で権利を行使する場合の容易性と確実性が向上すると考えられ、同様のことはシンガポール国外からシンガポールに所在する被告に対して権利を行使しようとする場合にも当てはまる。送達の無効を理由に訴訟の有効性が争われたり、その手続を停止されたりするリスクが減り、また判決を得た後の執行の段階になって判決の有効性が争われるリスクも減る。全体として、この条約の締約国の法域をまたいで請求権を行使しようとする訴訟当事者にとって、時間とコストの節約となり得る。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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