
川合正倫 Masanori Kawai
パートナー
東京
NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報
中国の会社法の第三回改正草案(以下、「第三回改正案」という。)が2023年9月1日に公表された。同草案は、2021年12月24日及び2022年12月30日に公表された改正草案(以下、それぞれを「第一回改正案」※1及び「第二回改正案」※2という。)に対する意見募集及び審議を受けたものである。
第三回改正案では、登録資本金、監査委員会、支配株主等に関する規制及び少数株主の保護等を含め外資系企業にも影響がある事項について、変更が加えられているため、重要な留意点を中心に紹介する。
2013年の会社法改正により、一般的な会社※3については、登録資本金の払込期限が撤廃され、会社設立時や増資時に長期間の払込期限を設定することが可能となった。第一回改正案及び第二回改正案においても、この点に関する変更は行われていなかった。
もっとも、第二回改正案の審議において、払込期限規制の撤廃により、確かにスタートアップ企業を促進する側面はあるものの、実務上は、長期間の払込期限が設定されることにより、会社の支払能力が低下し取引安全が図れないことや、債権者保護の欠如等の問題もあると指摘されていた。これを受け、第三回改正案では、全ての株主は、引き受けた資本金を会社設立後5年以内に払い込まなければならないとされている。
この規制が、増資時にも適用されるのか、また、5年以上の払込期限が設定されている設立済みの既存の会社に適用されるのかという点は明らかにされていない。
外資系企業との関係では、中外合弁企業において長期の払込期限が設定される事例が散見され、新規制が特に改正前の会社にも適用される場合には重大な影響が生じうることになる。
現行法では、現物出資の場合に限って、会社設立時に特定の株主に払込未了がある場合に他の株主の責任を認めている。具体的には、現物出資財産の価値が株主の引き受ける登録資本金を著しく下回る場合に、他の株主に連帯責任が課されている。この点に関し、第二回改正案では、他の株主に加えて、董事、監事及び高級管理職にも連帯責任の成立可能性を認めていた。第三回改正案では、これらの役員による連帯責任に関する規定を削除する一方で、現物出資の場合に限らず、設立時に、定款に従い現金の出資を払い込まない場合にも、他の株主が連帯責任を負うとしている。この場合、自らの引受分について適時に全額の払込みを行った株主であっても、他の株主による払込未了について責任を負いうることになるため、合弁会社の株主となる場合には留意が必要となる。
第二回改正案において、登録資本金が適時に払い込まれない場合、董事会に、株主に対して払込みの催促をする義務が課されていた。第三回改正案では、これに加え、董事会が当該催促義務を履行せず、これによって会社に損害をもたらした場合、催促義務の不履行について責任がある董事が損害賠償責任を負うとされ、義務違反の効果が明確にされている。
現行法においては、減資は許容されるが、その方法について、既存株主の出資比率に応じて登録資本金を按分で減少させなければならないか、それとも特定の株主の保有分のみ減少させること※4も許容されるかという点について規定がなく、実務において、特定の株主の保有持分のみを対象とする減資を行い、これにより当該株主の撤退を実現させる等の活用事例も存在した。
この点に関し、第三回改正案では、減資を実施するにあたっては持分比率に応じた按分の減資しかできないと明確に規定された。このため、合弁会社において減資に基づき投資先企業から撤退を実現させることはできなくなるものと思われる。
現行法では、会社の財務及び会計等に対する監督の権限は、監事及び監事会にのみ付与されている。第一回改正案は、同様の監督権限を有する組織機関として、董事により構成される監査委員会※5を設置することを認め、この場合、監事又は監事会を設置しないことができるとされていた。
第二回改正案では、監査委員会を設置する場合に監事又は監事会を設置しないことができる点は維持しつつも、監査委員会が董事により構成されるという文言は削除された。第三回改正案は、当該文言を復活させたうえ、監事又は監事会に代わり監査委員会が設置される場合、監査委員会が監事会の権限を行使すると規定している。但し、有限責任会社の監査委員会の人数等は規定されておらず※6、また、董事により構成される場合、いわゆる自己監督の問題もありうる点が指摘されている。
現行法では、董事、監事及び高級管理職は会社に対する忠実及び勤勉義務を負い、これは諸外国の法令における善管注意義務に相当するものと考えられている。第一回改正案及び第二回改正案も当該義務を維持している。第三回改正案では、会社の支配株主又は実質支配者が董事を務めていないものの実際には会社の業務を執行している場合、董事等の役員と同様に忠実及び勤勉義務を負うと明確に規定されており、支配株主等に対する規制が強化された。現行法における勤勉義務は個人を主体とする義務であることから、本規定の対象となる支配株主又は実質支配者は個人を対象としているものと考えられる。
現行法においては、会社に5年間連続して利益が生じているにもかかわらず利益配当を行わない場合や、会社の合併若しくは分割又は主要な財産の譲渡等を実施する場合において、これらの行為に関する決議に反対する株主には、会社に対して、持分の買取りを請求する権利が付与されている。
第三回改正案では、これらに加え、支配株主が株主権を濫用し、会社又はその他の株主の権利に重大な損害をもたらした場合、他の株主は会社に対して合理的な対価で自らの保有持分を購入するよう求める権利を有すると規定されている。
第三回改正案の意見募集は2023年9月30日に終了する。第三回改正案では、払込期限の短縮を含め、第二回改正案と比較して規制が強化される点も少なからず存在する。今後、改正案に対する検討及び議論が引き続き実施されることに伴う第四回の意見募集の有無や、草案の成立時期については目処が立っておらず、引き続き会社法の改正動向が注目される。
※1
第一回草案については、「『会社法』改正案(パブコメ版)」(中国)(NO&T Asia Legal Update ~アジア最新法律情報~No.107(2022年2月))を参照。
※2
第二回草案については、「『会社法』改正案の第二回パブコメ版」(中国)(NO&T Asia Legal Update ~アジア最新法律情報~No.143(2023年3月))を参照。
※3
個別法令において登録資本金に関する規制が設けられる特定事業分野に従事する会社を除く。
※4
中文表記は「定向減资」である。
※5
中文表記は「审计委员会」である。
※6
第三回改正案第121条第2項は、監査委員会の人数が3名以上と定めているが、当該第121条は第五章の株式会社(中文表記は「股份有限公司」)に関する条文であり、有限責任会社にも適用するか明確に規定されていない。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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