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シンガポールにおけるマネー・ロンダリング対策強化の動き

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 2023年8月、シンガポール史上最大規模のマネー・ロンダリング事件が摘発された。同事件では、詐欺やオンラインギャンブル等の海外における組織的犯罪によって得た資金が洗浄されたとされ、これまでに10人の外国籍の容疑者が起訴され、押収・凍結された資産は、現金、不動産、高級車、宝飾品等を合わせて、総額約28億シンガポールドル(約3000億円)にのぼる。シンガポールは近年マネー・ロンダリング対策に力を入れてきたが、今回の事件の摘発を受けて、更なる規制強化の動きが出てきており、今後シンガポールでの会社設立や口座開設の手続が厳格化され、シンガポールへの投資を検討する外国企業にも影響が及ぶ可能性が高い。そこで本稿では、かかる規制強化の動きを現在のマネー・ロンダリング対策規制の概要と併せて紹介する。

2. マネー・ロンダリング対策規制の概要

(1) CDSAによる規制

 シンガポールにおけるマネー・ロンダリング対策に関する主要な法令としては、汚職、薬物取引その他重大犯罪の利得没収法(Corruption, Drug Trafficking and Other Serious Crimes (Confiscation of Benefits) Act(CDSA))が挙げられる。同法は、一定の薬物取引その他の重大犯罪によって得られた収益の取得、保有、使用、隠匿及び移転等の行為を禁止して刑罰を定めるとともに、かかる収益の没収について規定している。また、同法は、ある財産がかかる収益であること又はこれに関連して使用され若しくは使用される予定であることを、取引や業務等の過程で知り又は疑うに足りる合理的な理由がある者に対し、疑義取引報告(Suspicious Transaction Report)を義務づけている。

(2) 特別法による規制

 銀行等の金融機関をはじめとする一部の業種又は専門職に対しては、特別法等によって、マネー・ロンダリング対策のための規制が加重されている。例えば、金融機関、不動産代理業者、企業向けサービスプロバイダー、弁護士・会計士、貴金属類取引業者等は、取引を開始する際等に、顧客に対するデュー・ディリジェンスを実施することが要請されている。特に最近は金融庁(Monetary Authority of Singapore)による指導強化により、金融機関による顧客に対するデュー・ディリジェンスが厳格化されており、日本企業がシンガポールに子会社を設立する場合でも、手続きに数ヶ月単位の時間を要したり、最終的に口座開設を断られたりする事案も発生している。

(3) 会社法による規制

 シンガポール会社法(Companies Act 1967)上、会社は、シンガポールに居住する取締役を最低1名選任しなければならない。これは、会社による違法行為があった場合にその責任をとる者を確保するためであり、マネー・ロンダリング対策の一環でもある。かかる要請を満たすため、シンガポールには、現地居住者を名義取締役(nominee director)として派遣するサービスを提供する会社があり、外資系企業等で現地に居住する取締役を確保することができない会社は、かかるサービスを利用して現地居住の取締役を確保している。

3. マネー・ロンダリング対策強化の動き

 今回の事件を受け、10月初旬、マネー・ロンダリング対策強化に向け、金融庁、内務省(Ministry of Home Affairs)、法務省(Ministry of Law)、人材省(Ministry of Manpower)及び貿易産業省(Ministry of Trade and Industry)からなる委員会が新たに設置されることが発表された。同委員会は、(1)企業構造のマネー・ロンダリングへの悪用防止、(2)金融機関による疑わしい取引に対する統制及び連携の強化、(3)その他企業向けサービスプロバイダー、不動産代理業者、貴金属類取引業者等によるマネー・ロンダリング・リスクの監視の強化、及び(4)疑わしい活動の発見のための政府横断的な監視能力の集中と強化、という4項目を中心に、反マネー・ロンダリング体制の見直しを図る。

 また、会計企業規制庁(Accounting and Corporate Regulatory Authority(ACRA))は、本事件が発覚する前から、マネー・ロンダリング対策の強化に動き出しており、昨年2022年、ACRAは、名義取締役の不適切な使用によって、会社の実質的支配者が不明瞭になり、マネー・ロンダリングを助長している状況を問題視し、名義取締役に関する情報の公開や名義取締役の適性確保に関する会社法その他の関連法令の改正に関する意見公募手続を実施した。これに加えて、複数法人の取締役兼務に規制を強化することも検討されている。これらに関連する法案は、来年の早い時期に議会に提出される見込みであり、上述のとおり、現在多くの外資系企業に利用されている名義取締役の利用にも今後一定の制限が課せられる可能性がある。

4. 終わりに

 金融センターとして国際的に評価の高いシンガポールにおいて、今回のような巨額のマネー・ロンダリング事件が発生したことは驚きをもって受け止められており、シンガポール当局が今後更に規制や監視を強化させることはほぼ確実な状況にある。一般の外国企業による投資や事業活動への影響が出てくる可能性も高く、これからの法改正の動きを注視していく必要がある。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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