
黒田裕 Yutaka Kuroda
パートナー
東京
NO&T Corporate Legal Update コーポレートニュースレター
ニュースレター
【速報】2023年6月総会の傾向分析と2024年度総会に向けた検討(2023年8月)
2023年8月のコーポレートニュースレターにて速報としてお伝えしたとおり、2023年の株主総会においては2022年に引き続き、株主提案の数が増加し、過去最大となりました。
また、株主提案の内容も多様化が進んでおり、従来からの定番であった定款変更議案や役員選任議案にとどまらず、可決事例は未だ生じていないものの、近時においてはESG関連の株主提案も複数出されています。さらに、少数株主が招集する株主総会に限られますが、近年は毎年のように会社法316条2項に基づく調査者選任を求める株主提案が活用される例も見られるところです。
近年は各社において株主提案がなされる現実的可能性が高まっており、かつその内容も多様であることを踏まえますと、改めて株主提案の要件の全体像について整理し、理解を深めておくことは有用であるように思われます。そこで、本ニュースレターにおいては、株主提案の概況を紹介しつつ、改めて株主提案の要件・手続を整理し、近時の裁判例や法改正、トピックを踏まえた実務上の判断ポイントを簡潔に説明していきます。
2023年1月1日から同年12月31日までに提出された臨時報告書において報告された、上場会社の株主総会における株主提案(動議を除く)の内容ごとの議案の数及びその会社数(注1)は以下のとおりです。
議案の内容 | 可決 | 否決 | その他(議案撤回) |
---|---|---|---|
買収防衛策の承認(継続・一部改定含む) | – | 5個/5社 | – |
自己株式の取得 | – | 35個/35社 | – |
定款の一部変更 | – | 246個/72社 | – |
監査役選任 | 1個/1社 | – | – |
取締役選任 | 20個/4社 | 55個/23社 | – |
取締役解任 | 3個/1社 | 51個/17社 | 1個/1社 |
取締役・監査役の報酬額改定・決定 | 2個/2社 | 11個/8社 | – |
剰余金処分・配当(注2) | 2個/1社 | 46個/41社 | – |
その他 | 1個/1社 | 17個/13社 | – |
(注1) 会社数は株主提案のあった会社数です。株主総会が複数回開催された会社は、それぞれの株主総会につき1社として集計しています。
(注2) 剰余金処分・配当の株主提案については、剰余金配当の決定機関に関する定款規定の変更に関する議案も含まれます(逆に、定款の一部変更の議案にはそれらの議案は含まれていません。)。
上記表のとおり、株主提案の内容としては、従来からの定番といえる定款変更議案、役員選解任議案、剰余金処分・配当議案が大多数を占めている傾向については変わっていません。もっとも、近時の傾向として、定款変更議案の内容としてESG関連の株主提案がされていますが、2023年においてもその傾向は継続しています。
また、自己株式の取得を求める株主提案が増加傾向にあることも注目されます。2021年~2023年に提出された臨時報告書の記載によりますと、2021年の自己株式の取得に関する株主提案は9件だったのに対し、2022年は29件、2023年は35件と増加傾向が見て取れます。背景には、政策保有株式の解消が一層進むと共に、東証のPBR改善の要請を受けて、株主が自己株式の取得を提案しやすい環境となったことがあると思われます。なお、株主との合意による自己株式の取得のためには、株主総会決議によって取得する自己株式の数、取得の総額及び自己株式を取得する期間等の取得の枠を決定しなければならないため(会社法156条1項)、自己株式の取得に関する株主提案は、同項に基づくものとして提案されることが通例です。
株主提案を受領した会社は、まず株主提案の適法性を検討します。株主提案が会社法の要件・手続を満たさないものである場合、会社としては当該株主提案を議案として採り上げる必要がないためです。株主提案が適法であると認められるための要件をまとめると以下のとおりです。また、本稿で解説する株主提案とは、株主総会前に行われる、「議題」の追加を求める意味での株主提案であり、総会において議題に関する「議案」を提出するいわゆる修正動議(会社法304条)を除きます。
上場会社の株主が株主提案権を行使するためには、個別株主通知の手続が必要です(振替法154条2項)。その上で、提案株主は、会社に対して個別株主通知がなされた後4週間以内に株主提案権の行使をしなければなりません(振替法施行令40条)。
なお、株主提案権の行使の方法について会社法上の制限はありませんが、株式取扱規程において書面により行使すべきことを定めている例も多く、実務上は、上場会社は株主から取締役宛てに郵送等の方法で書面が提出されることにより、株主提案権が行使された事実を知ることが多いと思われます。
株主提案権の行使にあたっては持株要件が定められています。上記1で述べたとおり、株主提案権の行使にあたっては事前の個別株主通知の手続が必要ですから、実務上は、個別株主通知を受けた振替機関が上場会社に対し、個別株主通知をした株主の保有株式数の増減等を通知することにより、当該通知を受けた上場会社において、当該株主が持株要件を満たすか否かを判断することが可能です。
当該継続要件についても、上記2で述べたことと同様に、上場会社は振替機関からの通知を受けることにより、株主提案権を行使した株主が継続的に持株要件を満たしているのかを確認することができるのが通常です。
株主総会の会日と株主提案権の行使日(請求日)との間に丸8週間空いていることが必要とされています。
株主提案権について定める会社法303条1項においては、株主は「株主総会の目的」を提案することができると定められていますので、株主提案権を行使する株主は、株主総会の目的、すなわち「議題」(例えば、「取締役1名選任の件」)のみを提案すれば足りるにようにも読めます。しかし、少なくとも上場会社においては、証券取引所の上場規則において書面投票制度の採用が義務付けられているため(有価証券上場規程(東京証券取引所)435条本文)、会社法上、株主総会参考書類の提供が必須であるところ(会社法301条1項)、株主総会参考書類には議案まで記載することが必須とされています(会社法施行規則73条1項1号)。このことから、少なくとも上場会社の株主が株主提案権を行使する場合には、議題だけでなく「議案」(例えば、「●●氏を取締役候補者とする。」)の提案も伴うものであることが必要と考えられています※1。
会社法上、株主総会で決議することのできない事項を議題とする株主提案は不適法ですので、株主提案として採り上げる必要がありません。株主提案の内容が、「定款一部変更の件」や「取締役●名選任の件」等、実務上よく見受けられる一般的な議題であれば迷うことはありませんが、勧告的決議に係る議題等のイレギュラーな議題の場合、本要件を満たすかが問題となり得ます。
近時の裁判例においても、株主には買収への対応方針(いわゆる買収防衛策)の廃止に係る議題を提案する権限は定款に特段の定めがない以上は認められず、株主総会の決議事項とはならないと判断したものがある一方で(東京高決令和元・5・27資料版商事法務424号118頁)、産業競争力強化法に基づく株式分配型スピンオフが株主提案として提出された事案で、当該スピンオフを実施するには同法に基づく経産大臣の事業再編計画の認定や子会社株式の上場承認等が必要であるため、かかる株主提案に係る株主総会決議には法的拘束力がなく、勧告的な意味しか有しない決議(勧告的決議)ではあるものの、会社法上は剰余金の配当に関する株主提案であり、それが株主総会の決議事項に属する事項である限り、原則として株主提案権の対象になるとの一般論を述べたものもあります(京都地決令和3・6・7資料版商事法務449号90頁)。両裁判例の理解については学説上も様々な議論がありますが、前者の裁判例も後者の裁判例もいずれも、株主提案権の対象となる事項は株主総会の決議事項である必要があることを前提としている点は重要です※2。
実務対応としては、後者の裁判例の存在を踏まえ、勧告的決議であっても株主提案権の対象となるとの立場から、法令及び定款において株主総会の決議事項から明示的に排除されている場合を除き、一律に株主提案として採り上げるとの保守的な対応も考えられますが、この点について実務上確立した対応があるものではなく、後者の裁判例に否定的な見解※3も存在することからすれば、少なくとも、会社法又は定款上株主総会の決議事項に該当しない株主提案については、株主総会の決議事項ではないものを提案したものとして、当該株主議案を不適法として採り上げない対応とすることも合理的と考えられます。
提案された議案に法令・定款違反がある場合は稀であると思われますが、令和元年の会社法改正により規定された提出議案数の制限(会社法305条4項)を超過した議案等がこれに該当します。
なお、2021年に「会社法第316条第2項に定める株式会社の業務及び財産の状況を調査する者の選任の件」(以下「調査者選任議案」といいます。)が可決された東芝の例があり、実際に調査者による調査報告書が公表されて世間の耳目を集めたことを契機として、近年、調査者選任議案が注目を集めています。近時の学説においては、株主が、調査者選任議案のみを議題とする株主総会の招集請求をし得るか(会社法上、調査者選任議案を決議できるのは株主により招集された総会に限られます。)について一定の議論がされているものの、少なくとも、会社法の明文においては、調査者選任議案のみを議題とする株主総会の招集請求は禁止されていません。そうだとしますと、株主が調査者選任議案のみを提案することが直ちに法令違反とはいえず、実務においては株主提案として採り上げる場合が多いと考えられます。
適法な株主提案がなされた場合には、株主提案の内容を会社法施行規則93条に従って株主総会参考資料に記載する必要があります。この際、株主提案の提案の理由等を全文掲載すべきかどうかが実務上問題となることがあります。
会社法施行規則93条1項柱書は、株主提案の提案の理由等について、「株主総会参考書類にその全部を記載することが適切でない程度の多数の文字、記号その他のものをもって構成されている場合」として、「株式会社がその全部を記載することが適切であるものとして定めた分量を超える場合」には、全文ではなく「概要」を記載することで足りるとしています。実務上は、会社法施行前の旧商法施行規則の規定を受け継ぎ、「400字以内」といった字数制限を設けている会社もありますので、当該字数制限を超えた場合には一律に概要を記載する方針とすることも考えられます。もっとも、(i)「概要」の文章を検討すること、又は提案株主に概要を提出させること自体に工数がかかること、(ii)概要の作成の仕方が不適当である場合には、株主提案権の不当な制限である等として法的紛争に発展する可能性もあること、(iii)字数の制限を可能とする同項の趣旨の一つには、会社のコストを合理的に制限することを許容する点にあったところ、電子提供制度の開始により、「コスト制限のために字数を制限する」との理屈がやや説得力に乏しくなったこと※4等を踏まえますと、字数制限を大幅に超え、かつ不適当な表現が散見される等の例外的な場合を除き、たとえ字数制限を超過する株主提案であったとしても、提案株主より通知された内容については全文掲載する方針が穏当であると思われます。
他方で、株主提案については、これに対する取締役会としての意見の内容も株主総会参考書類に記載するのが通例ですが(会社法施行規則93条1項2号)、取締役会の意見については分量・文字数の制限がありません。そのため、実務上は、株主提案の提案の理由と比べると長大な取締役会としての反対意見が株主総会参考書類に記載されていることも相応に見受けられます。
今後も株主提案は増加することが予想されるため、本ニュースレターが今後の株主総会に向けた準備の一助になれば幸いです。
※1
なお、上場会社が株主全員に対して委任状勧誘を行う場合には書面投票の採用は義務付けられませんが(有価証券上場規程(東京証券取引所)435条ただし書き)、委任状勧誘を行う場合には金商法に基づく参考書類を株主に提供しなければならず、当該参考書類には議案まで記載することが必須とされていますので(金商法施行令36条の2第1項、上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令1条1号ロ)、いずれにせよ、上場会社の株主が株主提案権を行使する場合には、議案の提案も伴うものであることが必要と考えられています。
※2
東京高決令和元・5・27資料版商事法務424号118頁は、「本対応方針を廃止する旨の本件議題を本件株主総会の目的とすること……が認められるためには、本対応方針の廃止が相手方の株主総会の権限の範囲に属する事項である必要がある。」と明確に述べた上で、会社の定款の定め等を詳細に検討し、最終的に、「相手方の株主総会が、本件定款15条1項により、本対応方針のような事前警告型買収防衛策の導入等を決定する権限を有しているとしても、抗告人は、本対応方針を廃止する旨の本件議題の提案等をする本件議題提案権等を有していない」と結論付けたものであり、「株主提案権の対象となる事項は株主総会の決議事項である必要がある」との命題は共通しています。
※3
鈴木千佳子「勧告的な意味を有する株主提案の取り扱い」法学研究96巻7号51頁
※4
電子提供制度導入以後も会社法施行規則93条1項柱書は改正されることなくそのまま残されていますので、現在でも、会社の定めた合理的な字数制限を超えるものについては概要を記載する対応とすること自体は適法になし得ると考えられます(野澤大和「電子提供制度における会社側の主張のみを記載した書面の追加提供の可否」旬刊商事法務2313号58頁、渡辺邦広ほか「株主得総会資料電子提供制度の実務対応Q&A(7)」旬刊商事法務2311号99頁)。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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