粂内将人 Masato Kumeuchi
パートナー
東京
NO&T Health Care Law Update 薬事・ヘルスケアニュースレター(法律救急箱)
臨床研究法施行規則の一部を改正する省令が2024年2月14日に公布されており、同年4月1日に施行されます。製薬会社などの医薬品等製造販売業者等は、自社が製造販売をし、又はしようとする医薬品等を用いる特定臨床研究についての研究資金等の提供に関する情報のほか、特定臨床研究を実施する者又は当該者と特殊の関係にある者に対する金銭その他の利益の提供に関する情報についても一定の範囲において公表しなければなりません(臨床研究法第33条)。今般の改正では、臨床研究法第33条に基づいて公表が求められる事項を具体的に定めた臨床研究法施行規則第90条が改正され、情報提供関連費及び交際費(接遇費)の公表が新たに義務づけられることとなりました。
今回新たに公表が義務づけられることとなった情報提供関連費及び接遇費については、臨床研究を実施する特定の医療関係者等に必要実費の範囲を超えて直接支払われる性質のものではなく、当該費用提供が臨床研究の不正につながる蓋然性は低いと考えられていたことから、研究資金や寄附金等と異なり、これまで臨床研究法に基づく公表の対象にはされてきませんでした。
他方で、日本製薬工業協会(製薬協)は、会員会社の活動における医療機関等との関係の透明性を確保することを目的に、2011年から、自主的に「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」及び「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドラインについて(解説)」を策定しており、製薬協の会員企業は、これまでも、上記ガイドラインを参考に自社の「透明性に関する指針」を策定した上で、情報提供関連費や接遇等費用についても情報公開を行ってきました。
また、臨床研究法制定時に、「学問の自由に配慮しつつ臨床研究の一層の信頼確保を図るため、研究資金等の提供に関する情報等の公表制度の実施状況を踏まえながら、本法の公表の対象外とされている情報提供関連費や接遇費等を公表の対象とすることについて検討すること」との付帯決議が付されており、当時から、情報提供関連費及び接遇費を公表の対象とすることについての検討が行われてきました。
上記のような背景の下、更なる透明性の確保及び研究の信頼性の確保を企図して今回の改正に至ったものと考えられます。今回の改正については、2024年1月31日に開催された第34回厚生科学審議会臨床研究部会において具体的な議論がなされており、当該部会において使用された資料(資料4:研究資金等の提供に関する情報公表の範囲について)によると、2022年6月3日に開催された厚生科学審議会臨床研究部会の参考資料である「臨床研究法施行5年後の見直しに係る検討のとりまとめ」において、「特定臨床研究に関与する企業について、費目の付け替えが行われている可能性の有無を確認できる状態とするよう、企業における情報提供関連費及び接遇費の年間総額の公表を法令で義務付けるべきである」とされたこと等を踏まえ、今般の省令の改正を行うものであるとされています。
前述のとおり、製薬企業を含む医薬品等製造販売業者等は、自社製品を用いた特定臨床研究についての研究資金等の提供に関する情報のほか、特定臨床研究を実施する者等に対する金銭その他の利益の提供に関する情報のうち臨床研究法施行規則第90条で定めるものを公表しなければならないとされています。
臨床研究法施行規則第90条で定める情報としては、特定臨床研究を実施する者等に対する研究資金等、寄附金並びに原稿執筆及び講演その他の業務に対する報酬に係るものが既に規定されていました。
<これまで公表が求められてきた事項>
① | 研究資金等(研究の管理等を行う団体(医薬品等製造販売業者等が特定臨床研究についての研究資金等を提供したものに限る。)が当該特定臨床研究の実施医療機関に提供した研究資金等を含む。) |
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厚生労働省が整備するデータベースに記録される識別番号 提供先 実施医療機関 各特定臨床研究における研究の管理等を行う団体及び実施医療機関ごとの契約件数 各特定臨床研究における研究の管理等を行う団体及び実施医療機関ごとの研究資金等の総額 |
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② | 寄附金(特定臨床研究の実施期間及び終了後2年以内に当該特定臨床研究を実施する研究責任医師又は当該研究責任医師と特殊の関係のある者に提供したものに限り、当該研究責任医師に提供されないことが確実であると認められるものを除く。) |
提供先 提供先ごとの契約件数 提供先ごとの提供総額 |
|
③ | 原稿執筆及び講演その他の業務に対する報酬(特定臨床研究の実施期間及び終了後2年以内に当該特定臨床研究を実施する研究責任医師に提供したものに限る。) |
業務を行う研究責任医師の氏名 研究責任医師ごとの業務件数 研究責任医師ごとの業務に対する報酬の総額 |
今回の改正により、情報提供関連費及び交際費もその対象に加わることになります。新たに公表が求められる具体的項目は以下のとおりです。
<新たに公表が求められる事項>
① | 医療関係者に対して行う自社で製造販売をする医薬品に関する情報等の提供に関する事項 |
---|---|
講演会、説明会その他の会合の件数及びその実施に要した費用の総額 情報提供のための書籍等の提供に要した費用の総額 |
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② | 交際費 |
接遇を行う際の飲食に要した費用、慶弔費等の総額 |
※いずれも前事業年度分が公表対象
また、新しく公表が求められる上記項目については、(i)医薬品等製造販売業者等が行う事業全体に係る年間総額を公表するか(臨床研究法施行規則第90条第1号)、(ii)特定臨床研究の実施期間及び終了後二年以内に当該特定臨床研究を実施する研究責任医師に提供されたものに限定して公表するか(同条第2号)の選択が可能となっています。
改正後の臨床研究法施行規則第90条は、臨床研究法施行規則の一部を改正する省令の施行日である2024年4月1日以後に開始する最初の事業年度から適用されることとされています(同省令附則第2項)。したがって、実務的には2025年4月以降に、その時点の前事業年度である2024年度の費用総額の公表に係る対応を行う必要があるということになります。
また、前述のとおり、製薬協が策定する「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」及び「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドラインについて(解説)」においては、今般の改正前から、講演会等会合費、説明会費、医学・薬学関連文献等提供費をその項目とする「情報提供関連費」及び接遇等費用をその項目とする「その他の費用」の年間総額を公開すべきことが規定されています。したがって、同ガイドライン等に基づき既に情報提供関連費及び交際費について自主的に公表対応を行っている企業も多いと思われますが、製薬協に加盟していない等の理由で自主的な公表対応を行っていない企業は、施行規則改正の施行までに法令に従った公表のために必要な体制を整えておく必要がありますし、既にガイドライン等に沿った対応を行っている企業についても、今後は同項目が法令により公表が求められる事項となることを踏まえ、今一度、自社における公表事項が適切かについて見直しておくことが望ましいと思われます。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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