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ニュースレター

株式会社の代表取締役等の住所を非表示とする措置の創設

NO&T Technology Law Update テクノロジー法ニュースレター

著者等
平津慎副殿村桂司小松諒(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Technology Law Update ~テクノロジー法ニュースレター~ No.47(2024年4月)
関連情報

本ニュースレターの英語版はこちらをご覧ください。

業務分野
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 会社法上、会社の設立や役員変更の登記に関して、代表者、具体的には、株式会社の代表取締役や代表執行役、合同会社の代表社員、合名会社及び合資会社の社員の住所が登記事項とされています(会社法第911条第3項第11号等)。代表者の住所は、会社の不法行為責任に関連して被害者が代表者に個人責任を追及する際に必要な情報として、登記事項として一般に公開されてきたものです。また、会社に事務所や営業所がない場合の当該会社の普通裁判籍を決する基準となるものであるところ、登記事項とすることで第三者が把握することもできます※1。しかし、特にいわゆるスタートアップ企業の起業家から住所の公開に抵抗感を示す声があり、また、経団連がプライバシー保護を理由に非公開を認めることを求める※2など、近年は住所の公開に関する議論が高まっていました。

 このような状況の中、2024年4月16日、法務省は、パブリックコメントを経て、一定の要件の下で株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」といいます。)の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービス(以下「登記事項証明書等」といいます。)に表示しないこととする措置(以下「代表取締役等住所非表示措置」といいます。)を創設するため、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)(以下「本省令」といいます。)を公布しました※3

 本ニュースレターでは、代表取締役等住所非表示措置の制度概要、要件及び留意事項をご紹介いたします。

代表取締役等住所非表示措置の概要

1. 制度の概要

 代表取締役等住所非表示措置は、一定の要件の下で株式会社の代表取締役等の住所の一部を、登記事項証明書等に表示しないこととするものです(改正後商業登記規則第31条の3)。対象は、株式会社に限定され、合同会社や合名会社及び合資会社は対象に含まれません。また、住所の全てが非表示となるものではなく、非表示措置の対象は住所の一部です。具体的には、代表取締役等の住所につき「行政区画以外のものを記載しない措置」であり、最小行政区画(市区町村(東京都は特別区、指定都市は区))までは記載されることとなります。また、代表取締役等住所非表示措置の対象は、併せて申請される登記において記録される住所に限られ、過去の記載は対象となりません※4。つまり、既に登記された住所を遡って非表示にすることはできません。

 施行日について、パブリックコメントの段階では施行予定時期は2024年6月3日とされていましたが、本省令の施行日は2024年10月1日と定められています。

 なお、代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、代表取締役等の住所が登記事項であることは変更ありません。代表取締役等の住所が記載された書面を閲覧することについて法律上の利害関係を有する者は、利害関係を有する部分を登記簿の附属書類として閲覧することが可能であり、代表取締役等の住所の役割とプライバシーの保護のバランスを図った制度となっています※5

2. 申請の要件

 代表取締役等住所非表示措置を講じるための要件は、以下の①登記申請と同時に申し出ること、及び②所定の書面を添付することの2つです。

① 登記申請と同時に申し出ること

 代表取締役等住所非表示措置を講じるためには、設立登記や代表取締役等の就任(重任を含みます。)又は住所変更による変更登記等の登記申請と同時に申し出る必要があります。言い換えると、代表取締役等住所非表示措置のみを単独で申し出ることはできません※6

② 所定の書面を添付すること

 代表取締役等住所非表示措置の申出に当たっては、株式会社の区分に応じた書面の添付が必要となります。具体的には、以下の書面の添付が必要となります(改正後商業登記規則第31条の3第1項)。

  1. 上場会社である株式会社:金融商品取引所に当該株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面
  2. 上場会社以外の株式会社(代表取締役等住所非表示措置が講じられていない場合):(イ)乃至(ハ)の書面

    1. (i) 資格者代理人が株式会社の本店がその所在場所において実在することを確認した結果を記載した書面、又は(ii) 株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面
    2. 代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書(例:住民票の写し)
    3. 株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面(例:資格者代理人の法令に基づく確認の結果を記載した書面)
  3. 上場会社以外の株式会社(既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合):上記(b)の(ロ)のみ

 登記官は、申出が適当と認めるときは代表取締役等住所非表示措置を講じるとされています(改正後商業登記規則第31条の3第2項)。どのような場合に「適当」と認めるかについては、必要な書面が添付される等の規定された要件を満たしているかの観点から判断するとされています※7

3. 代表取締役等住所非表示措置が講じられた後の留意事項

(1) 代表取締役等住所非表示措置の終了

 既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている株式会社に関して新たな登記申請があった場合、代表取締役等住所非表示措置が講じられている代表取締役等の住所に変更がないときは、引き続き代表取締役等住所非表示措置が講じられます(改正後商業登記規則第31条の3第3項)。代表取締役等住所非表示措置は、当該株式会社から代表取締役等住所非表示措置を希望しない申出があったとき、当該株式会社の本店がその所在場所に実在すると認められないとき若しくは当該株式会社が上場会社であった場合に上場会社でなくなったとき、又は当該株式会社の閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められるときに終了します(改正後商業登記規則第31条の3第4項)。どのような場合に「実在すると認められない」こととなるか等の詳細については、今後通達において明らかにされることが予定されています※8

(2) その他の留意事項

 その他、実務上の留意事項として、以下の2点が法務省から注意喚起されています※9

  • 代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されること
  • 代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、会社法上の登記義務が免除されるわけではないため、代表取締役等の住所に変更が生じた場合には、その旨の登記の申請をする必要があること

今後の展望

 本省令による代表取締役等住所非表示措置により、起業家の住所公開への懸念が緩和され、スタートアップなどの起業を後押しする効果が期待されます。但し、上記のとおり、代表取締役等住所非表示措置の対象は株式会社に限られます。外国法人が日本において子会社を設立する際、合同会社を選択する場合も多いですが、合同会社は代表取締役等住所非表示措置の対象とはなっていません。今回の代表取締役等住所非表示措置の導入を受けて、外国法人が日本に子会社を設立するに当たり、子会社代表者の住所が登記事項として公開されることを懸念する場合には、法人形態として株式会社を選択する傾向が強まる可能性があるように思われます。

 また、会社法以外では、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律における一般社団法人及び一般財団法人の代表理事の住所も登記事項とされている等、会社法以外の法人形態にも同様の懸念が当てはまる場合があります。これら株式会社以外の法人形態への対象拡大については、パブコメ回答において施行状況も勘案しながら引き続き検討するとしています※10

 株式会社以外の法人形態への対象拡大を待たずに代表取締役等住所非表示措置の適用を受けることを希望する場合、代表取締役等住所非表示措置の適用を受けるために、合同会社等から株式会社に組織変更を行うことも選択肢として考えられます(但し、既に登記に記載された住所を非表示とすることができない点は、上記のとおりです。)。例えば、合同会社から株式会社へ組織変更を行うに当たっては、代表取締役等住所非表示措置の適用によって代表者の住所が公開されることがなくなるというメリットだけでなく、監査役選任の要否や決算公告の要否が異なる等、組織変更によって生じる負担にも留意しつつ、その適否を慎重に検討する必要があります。

脚注一覧

※1
森本滋・山本克己編『会社法コンメンタール 第20巻 雑則(2)』(商事法務、2016年)272頁

※2
一般社団法人日本経済団体連合会「デジタル化とグローバル化に対応した会社法を目指してー会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案に対する意見―(2018年4月17日)」(https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/030.html

※3
法務省ウェブサイト(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html

※4
法務省民事局商事課「『商業登記規則等の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」(以下「パブコメ回答」といいます。)6及び36参照。(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000273035

※5
パブコメ回答13参照。

※6
パブコメ回答25参照。

※7
パブコメ回答14参照。

※8
パブコメ回答38等参照。

※9
法務省ウェブサイト(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html

※10
パブコメ回答12参照。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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