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ニュースレター

気候変動法の制定に向けた最新動向(タイ)

NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報

著者等
佐々木将平
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Asia Legal Update ~アジア最新法律情報~ No.202(2024年8月)
関連情報

ESG/SDGsと企業法務

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 タイ政府は、2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)、2065年までに温室効果ガス排出のネットゼロを、それぞれ達成することを目標として掲げている。かかる目標達成に向けた取組みのひとつとして、気候変動対策に関する法令(Climate Change Act)の制定に向けた検討が進められており、天然資源環境省の気候変動環境局(以下「DCCE」)が公表した法案について、2024年2月から3月にかけてパブリックヒアリングが実施された。本稿では、本法案により導入が予定されている制度及び規制の概要について、民間事業者に適用され又は関連する部分を中心に、紹介する。

2. 温室効果ガスデータベースの構築

 温室効果ガス排出量を正確に評価し、対応するために、DCCEが、国の温室効果ガスデータベースを構築することとされている。当該データベースは、所定の削減計画期間中に、人間活動から生じる温室効果ガス排出量、自然活動及び人間活動によって吸収される温室効果ガスの量、並びに、温室効果ガスの正味量の詳細といった情報により構成される。それらの情報は、主として、農業協同組合省、エネルギー省、工業省などの8つの政府機関、及び温室効果ガス情報を保有する可能性のあるその他の機関から収集される。これに加えて、DCCEは、必要に応じて、民間部門(エネルギー産業の事業者や、省エネルギー促進法に基づく管理対象の工場や建物の所有者等)に対し、その温室効果ガスデータを報告するよう要求することができる。

 また、民間法人及び公的法人に対しては、温室効果ガスの排出量及び再吸収量を測定し、報告書(以下「温室効果ガス報告書」)を提出する義務が課される。温室効果ガス報告書には、温室効果ガスの排出、貯留及び再吸収の量、測定計画、排出削減計画、並びに、排出削減のために過去に行った措置などの情報を記載しなければならない。当該報告書は、タイ温室効果ガス管理機構(以下「TGO」)の認定を受け、毎年末から3ヶ月以内に提出することが求められ、報告者は、提出後少なくとも7年間、報告書及びすべての関連文書を保存しなければならない。

 温室効果ガスの排出量及び再吸収量は、公共のアクセスのために公表することができる。もっとも、報告者が、当該公表が営業秘密に重大な影響を及ぼすと判断した場合には、これらの詳細の公表を差し控えるよう、DCCEに対して申し立てることもできる。

3. 排出量取引制度

 本法案においては、いわゆるキャップ・アンド・トレード型の排出量取引制度(ETS:Emission Trading System)の導入についても規定されている。DCCEは、同制度の監督管理を行うとともに、3年以上の期間を設けて、温室効果ガス排出枠割当計画(以下「排出割当計画」)を策定することとされている。計画には、事業の種類や性質ごとの、割当対象となる温室効果ガス排出枠の総数、排出枠の数、各年の割当の時期、基準、方法、及び、管理対象となる温室効果ガス排出活動の範囲などの詳細が規定される。

 本法案の下では、排出枠に対する権利が、証券取引法に基づき購入、売却又は取引が可能な譲渡可能資産と認められている。DCCEは、まず、DCCE委員会及び排出割当計画で規定されている特定の基準、量、期間、方法に基づき、管理対象となる事業体(以下「管理対象事業体」)※1に対して温室効果ガス排出枠を割り当てる。管理対象事業体は、実際の排出量が割り当てられた排出枠を下回る場合、その差分を別の管理対象事業体に売却することができる。また、DCCEの承認を得て将来の排出枠を借り入れたり、将来の使用のために排出枠を留保したりすることも認められている。さらに、管理対象事業体は、カーボンクレジットや炭素税の支払いの証拠を、排出枠(カーボンオフセッティングクレジット)に変換することもできる。

4. カーボンクレジット

 「カーボンクレジット」とは、温室効果ガス削減活動を通じて削減又は隔離された温室効果ガス排出量のうち、二酸化炭素換算重量(CO2e)で測定され、カーボンクレジット認証機関の登録システムにおいて認証かつ記録されたものをいう。各組織が、再生可能エネルギー、林業又はエネルギー効率に関するプロジェクトなど、温室効果ガス排出量を削減・撤廃するためのプロジェクトや活動を、自主的に実施する。これらのプロジェクトによって達成された温室効果ガス排出削減量が、価値を有するカーボンクレジットとなる。本法案では、カーボンクレジットは、一部又は全部の譲渡又は売却が可能な、取引可能資産と認められている。また、本法案におけるカーボンクレジットは、国内で使用されるものか又は国際的に使用されるものであるかを問わず、TGO(又はDCCEにおける登録を受けたカーボンクレジット認証サービス事業者)による登録又は認証が必要となる。なお、カーボンクレジットの取引の仕組みとしては、既にTGOが運営するT-VER(Thailand Voluntary Emission Reduction Program)というプラットフォームが存在し、タイ国内で自主的に実施されるプロジェクトによるカーボンクレジットの売買が行われている。

 上述のように、管理対象事業体は、カーボンクレジットを、排出量取引制度における排出枠に変換することができる。したがって、管理対象事業体が排出枠を超えて温室効果ガスを排出する場合には、排出量取引制度内の他の管理対象事業体から排出枠を購入すること以外にも、自主的に実施されたプロジェクトからカーボンクレジットを購入した上で、DCCEに対して申請して、排出量取引制度内の排出枠に変換するという対応も採り得る。

 本法案では、カーボンクレジット事業のうち、主要な3つの種類(すなわち、①カーボンクレジット取引センター、②カーボンクレジット認証サービス及び③その他のカーボンクレジット)について、概要を定めている。これらの事業の運営者は、DCCEにおいて、カーボンクレジット事業の登録を受けなければならない。さらに、カーボンクレジット事業の種類ごとに、追加的な資格と要件が規定されている。たとえば、カーボンクレジット取引センターの運営者は、カーボンクレジット取引システムをTGOの登録システムに統合するためにTGOと契約を締結し、証券取引所法を遵守しなければならない。同様に、カーボンクレジット認証サービスの運営者は、TGOが定めるカーボンクレジットの認証基準を遵守しなければならない。

5. 炭素税

 温室効果ガスの削減を促進するため、本法案においては、原材料の採掘、製造、生産、流通、利用、廃棄などの、製品のライフサイクルにおける一定の段階について、温室効果ガスの排出量に応じて課税を行う炭素税制度が導入されている。この制度では、所定の製品の産業事業者、製造事業者及び輸入事業者に対して、炭素税の納付が義務付けられる。炭素税を徴収するための税率及び基準、方法及び条件の具体的な詳細は、省令で規定される。

6. まとめ

 本法案は、今後、DCCEにおける検討を経て年内に閣議に諮られる見込みであるが、その後、議会における審議を経るため、制定までには相応の時間を要すると思われる。また、温室効果ガス報告制度の詳細や排出枠管理の対象となる管理対象事業体の範囲等は、下位規則に委ねられることになるため、それらの内容にも注視が必要である。

脚注一覧

※1
別途省令により定められる、特定の種類の事業に従事し、温室効果ガスの排出に直接又は間接に関与する、民間又は公的な法人をいう。これらの事業体は、DCCEに登録しなければならない。管理対象事業体として定義されていない事業体であっても、自ら申請して、管理対象事業体とみなすことの許可を求めることもできる。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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