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ニュースレター

米国の対中投資規制に関する規制案の公表

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

著者等
逵本麻佑子木原慧人アンドリュー(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T U.S. Law Update ~米国最新法律情報~ No.126(2024年9月)
業務分野
キーワード
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2024年6月21日、米国財務省は、countries of concern(「懸念国」)として定義される、中華人民共和国(中国)、香港およびマカオへの特定の投資を制限する規制にかかる規則案(Notice of Proposed Rulemaking、以下「NPRM」といいます。)を発表しました※1。このNPRMは、2023年8月にバイデン大統領が発表した「懸念国における特定の国家安全保障技術および製品への米国投資への対応」に関する大統領令※2(以下「大統領令」といいます。)、および同時に発表された事前提案公告(Advance Notice of Proposed Rulemaking、以下「ANPRM」といいます。)に基づくものです※3。NPRMは、ANPRMに対して寄せられたコメントに基づき、具体的な規則の内容を定めており、大要、米国人による、一定の国家安全保障に関する技術および製品にかかる活動に関与する中国企業への投資について、投資の禁止または米国財務省への事後通知を義務づけています※4。今後、NPRMのパブリックコメント手続を経て、最終的な規則が公表される予定です。

 本ニュースレターでは、NPRMの概要および日本企業への影響について解説します。

規制対象

1. NPRMの対象者

 NPRMの対象となる米国人(U.S. persons)とは、①米国市民および合法的永住権保持者、②米国法または米国内の法域の法に基づいて組織された事業体(そのような事業体の海外支店を含む)、ならびに③米国内に所在する個人を含むと定義されています※5。なお、たとえ親会社が非米国法人であっても、米国内で設立された事業体は米国人に含まれます。

 NPRMは米国人以外には適用されませんが、「非米国人である事業体において権限を有する米国人」は、米国人が直接行った場合にNPRMにおいて禁止される取引について、当該事業体による取引を「故意に指示すること」が禁じられます※6。そのため、非米国企業で「役員、取締役、上級顧問、その他上級レベルの職権を有する」役割を担っている米国人は、そのような投資にかかる意思決定において忌避する必要があります。

 また、NPRMは、米国人に対して、米国人が直接行った場合にNPRMにおいて禁止される取引を、その支配下にある外国企業が行うことを禁止し、防止するための合理的な措置を講じることを求めており※7、また、支配下にある外国企業が、米国人が行った場合には通知対象となる取引を行った場合も、当該米国人が米国財務省に対する通知を行うものとしています※8。これにより、米国の会社または個人によって支配されている非米国企業は、実質的にはNPRMの禁止行為の適用を受けることになります。

2. 規制対象となる投資

 NPRMは、米国人による、対象国家安全保障技術および製品(covered national security technologies and products)に関連する対象活動(covered activity)に従事する、対象外国人(covered foreign person)との対象取引(covered transaction)を禁止する、または対象取引について米国財務省への事後通知を義務付けるものです※9。禁止されるまたは事後通知が必要となる取引は、対象活動の類型によって分けられています。

(1) 対象活動

 大統領令においては、懸念国の軍事、諜報、監視およびサイバー対応能力にとって重要である、半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術およびAI分野の機密技術・製品を対象国家安全保障技術および製品と定義しており、NPRMにおいて、これらの技術および製品の開発や生産等が対象活動として定義されています。具体的には、集積回路設計またはパッケージングの自動化ソフトウェア、半導体製造装置、スーパーコンピューター、量子コンピューター、軍事・諜報・大規模監視用AIシステム、といった、国家安全保障上の重要性の高い製品の開発や生産については、これに従事する企業との投資取引が禁止されています。また、集積回路の加工・パッケージング、軍事・諜報・大規模監視用ではない一定のAIシステムの開発、といった行為に従事する企業との取引が、事後通知の類型として規定されています。

(2) 対象外国人

 NPRM上、以下の3つのいずれかに該当する者が、対象外国人とされています※10

  1. 対象活動に従事している懸念国の者※11である場合
  2. (i)直接または間接に、①の議決権、取締役指名権または持分を保有しているか、①の経営またはポリシーを指示する権能を持ち、(ii)その収益、純利益、資本支出または営業費用の50%超を、①が占めている場合
  3. 米国人とのジョイントベンチャー(JV)に参加する懸念国の者で、そのJVが対象活動に従事している場合
(3) 対象取引

 対象取引とは、大要、米国人による直接または間接の、以下の行為を指します※12

  1. 対象外国人の持分または偶発的持分の取得、および偶発的持分の転換
  2. 対象外国人に対するローンの提供で、そのローンが持分へ転換可能な場合、ローンによって貸手に一定の経営権や統治権を与える場合、または債務不履行後の担保差押えが持分の取得につながるか、つながる可能性がある場合
  3. 対象外国人の設立のための、事業、土地、不動産、その他の資産の取得、リース、開発(いわゆるgreenfield投資)
  4. 所在地がどこであろうと、対象外国人との間でJVを設立し、そのJVが対象活動に従事する場合
  5. 半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術またはAI分野における懸念国の者に投資する可能性が高い非米国人であるファンドのリミテッド・パートナー(LP)持分を取得する場合であって、当該ファンドが、米国人が行っていれば対象取引となる取引を行う場合

 これらの行為について、対象外国人であるかどうか、JVが対象活動に従事するかどうか、ファンドが懸念国の者に投資するかどうかについては、行為時に米国人が知っていたことが要件とされています。知っていたかどうかについては、実際の認識だけではなく、その可能性が高いことを認識していたことや、当該事由が存在することを知る理由があったことも含まれている点に留意が必要です※13

エンフォースメント

1. 罰則の対象となる行為

 NPRMは、NPRMで禁止されている行為を行うこと、NPRMが要求する行為を指定された期間内および指定された方法で行わないこと、NPRMが要求する情報を米国財務省に提出する際に「著しく虚偽または誤解を招く」(materially false or misleading)説明を行うことなど、違反となる行為をいくつかのカテゴリーに分類しています※14。さらに、NPRMは、NPRMの禁止事項のいずれかを回避する行為、または回避を目的とする行為を違反とみなしています※15

2. 罰則

 NPRMの違反については、International Emergency Economics Powers Actの第206条に基づき、368,136ドルまたは違反の根拠となった取引の取引額の2倍のいずれか高い方を上限とする民事罰、および、故意の違反行為(故意の共謀または違反行為の幇助を含む)の場合は、最高100万ドルの刑事罰もしくは最高20年の禁固刑、またはその両方が課されます※16。なお、米国財務省はこのような民事罰を課し、刑事罰のため違反を米国司法省に通知する権限を有します※17

3. 処分

 米国財務省は、関係省庁の長と協議の上、最終規則の発効日以降に行われた禁止される取引を無効にし、あるいは処分を強制するための措置をとる権限を有します※18

4. 自主申告

 米国人が実際の違反または違反の可能性を米国財務省に申告した場合、米国財務省が実際に違反があったと判断した場合には、罰則の賦課の可能性を含め、適切な対応を決定する際の緩和要因として当該申告を考慮するものとされています※19

今後の手続と日本企業の留意点

 米国財務省がパブリックコメント手続において受領したコメントを検討した後、最終規則が公表される予定であり、最終規則の発効までには数ヶ月を要する可能性があります。NPRMは基本的に米国人や米国企業を規制対象とするものですが、日本企業であっても、米国人が中国関連の投資の意思決定に関わる可能性がある場合は、規制対象となる取引に米国人が関与しないように留意する必要があります。また、米国企業はその支配下にある外国企業に禁止取引を行わせないようにする義務を負っているため、米国企業の日本子会社においては実質的に禁止取引を行うことができないことになります。加えて、中国事業が収益、純利益、資本支出または営業費用の50%超を占めており、規制対象となる半導体事業等に従事している場合は、日本企業であっても対象外国人に該当し、米国企業からの出資等について制限を受ける可能性があります。

脚注一覧

※4
31 CFR § 850 at 55846.

※5
31 CFR § 850.229

※6
31 CFR § 850.303

※7
31 CFR § 850.302

※8
31 CFR § 850.402

※9
事後通知は、米国の国家安全保障にとって脅威となる技術や製品に関する取引にかかる情報を米国政府が収集し将来の政策を検討するためのものとされています。

※10
31 CFR § 850.209

※11
懸念国の者(person of a country of concern)とは、大要、①懸念国の市民または永住者であって米国市民または永住者でない者、②懸念国に主たる事業所があるあるいは懸念国の法律に基づき設立された事業体、③懸念国政府および当該政府が議決権の50%以上を保有する事業体、ならびに④①から③のいずれかが直接または間接に議決権の50%以上を保有または支配する事業体、と定義されています(31 CFR § 850.221)。

※12
31 CFR § 850.210

※13
31 CFR § 850.216

※14
31 CFR § 850 Subpart F

※15
31 CFR § 850.604

※16
50 U.S.C. 1705

※17
31 CFR § 850.702

※18
31 CFR § 850.703

※19
31 CFR § 850 Subpart G

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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