
森大樹 Oki Mori
パートナー
東京
NO&T Client Alert
消費者庁は、2024年9月26日、「No.1表示に関する実態調査報告書※1」(以下「報告書」という。)を公表した。この報告書は、「顧客満足度No.1」などのいわゆるNo.1表示および「医師の●%が推奨しています。」というような表示(以下「高評価%表示」といい、No.1表示と総称して「No.1表示等」という。)について、合理的な根拠に基づかない不適切なものが社会的に多く存在すると見受けられることから、消費者庁が実施した調査の結果とともに、その調査結果に基づいて、景品表示法上の考え方を整理したものである。消費者庁は、近時、不適切なNo.1表示等を減らすために、集中的に執行に取り組んできたが、事業者の間では、調査会社に調査を委託し、調査レポートが作成されれば、その調査方法にかかわらず、その内容をそのまま表示することが許容されるという風潮が一部で存在していたように思われる。今般、消費者庁が報告書を公表して、No.1表示等を適法に行うためには、事業者自らの責任で合理的な根拠に基づいて行う必要があることを明確に示した。この報告書の公表によって、消費者庁はますます不当なNo.1表示等についての執行を強化することが考えられるので、事業者においては、自社におけるNo.1表示等の存否およびその適切性・適法性を検証する必要性が高まっているといえる。そこで本ニュースレターでは、近時のNo.1表示等に関する処分事例を紹介し、報告書に記載されている調査結果の概要を紹介するとともに、事業者が適法にNo.1表示等を行うための留意点について説明する。
商品等の内容の優良性または取引条件の有利性を訴求するために「売上No.1」「安さ第1位」などと強調する表示を「No.1表示」という。No.1表示は、合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、優良誤認表示または有利誤認表示(以下総称して「不当表示」という。)に該当し得る。
近時、消費者庁は不当なNo.1表示に対する執行に力を入れており、令和5年度だけでも、表示内容に見合った調査が行われていなかったことを理由に、不当表示該当性が認められて処分された事例が13件存在する(報告書(以下略)2頁注1)。
具体的な処分事例として、モバイルルーターのレンタル事業者が、「お客様満足度No.1※ 海外Wi-Fiレンタル」、「海外旅行者が選ぶ No.1※ 海外Wi-Fiレンタル」、「顧客対応満足度No.1※ 海外Wi-Fiレンタル」と表示するなど、あたかも、同社が提供する役務について、実際に利用したことがある者に対して「お客様満足度」等の各項目をそれぞれ調査した結果において、同社が提供する役務の順位がそれぞれ第1位であるかのように表示していたが、実際には、同社が委託した事業者による調査は、回答者における同種役務の利用有無を確認することなく、同社および同種役務を提供する任意に選択された事業者のウェブサイトの印象を問うものであり、客観的な調査に基づくものではなく、かつ、調査結果も正確に引用されていなかったという事例※2が挙げられる。
また、蓄電池の販売・施工事業者が、「口コミ人気 No.1蓄電池販売会社」、「アフターフォロー満足度No.1蓄電池販売会社」、「コストパフォーマンス満足度No.1蓄電池販売会社」および「工事品質満足度No.1蓄電池販売会社」と表示することにより、あたかも、同社が提供する商品および役務について、「コストパフォーマンス満足度」等の各項目につき、実際の利用者への調査において同社の提供する役務の順位がそれぞれ第1位であるかのように表示していたが、実際には、同社が委託した事業者による調査は、回答者における同種商品・役務の利用有無を確認することなく、同社および同種商品・役務を提供する任意に選択された事業者のウェブサイトの印象を問うものであり、客観的な調査に基づくものではなく、かつ、調査結果も正確に引用されていなかったという事例※3についても、事業者は処分されている。
以上の各事例からも窺われるとおり、近時の処分事例においては、No.1表示のうちでも、特に「顧客満足度」や「コスパが良いと思う」といった第三者の主観的評価を指標としたNo.1表示が問題とされ、表示内容に見合った客観的な調査が行われていなかったことを理由に景品表示法に違反する不当表示と認定されるものが多数存在する。そのような背景から、今回の実態調査においては、主観的評価によるNo.1表示が調査対象の中心に据えられた(3頁)※4。なお、報告書では「医師の●%が推奨しています」などの表示も、商品等についての第三者の主観的評価を訴求している点において、主観的評価によるNo.1表示と同じであることから、本調査の対象とされた(3頁)。本ニュースレターにおいては、No.1表示等の中でも、特に報告書において問題とされている、「顧客満足度」や「コスパが良いと思う」といった、第三者の主観的評価を指標とするNo.1表示に関する問題を中心に取り上げる。
今回の調査項目のうち消費者の意識調査および広告主に対するヒアリング調査の結果について、簡潔に紹介する。
不当表示該当性は、表示内容全体から一般消費者が受ける印象・認識を基準として判断される※5ことから、一般消費者の認識は、不当表示該当性を検討する上で重要な要素になる。
報告書によれば、No.1表示については、4割を超える消費者が、実際の利用者に調査をしていると思っており、特に「顧客満足度No.1」「人気No.1」を訴求する表示については、その割合が5割を超えていた(10頁)。
また、高評価%表示について、「G商品は、医師の90%が推奨すると回答」という表示については約5割、「▲▲に悩む方の90%が支持すると回答」という表示については約4割の消費者が、同種の他社商品と比べて優れていると認識することが確認された(11頁)。特に、前者の表示については、医師が客観的なデータを根拠として、専門的な知見に基づいて推奨している商品であると認識する消費者が約5割存在することが明らかになった(12頁)。
No.1表示等を行った契機については、No.1表示等を行うことを自ら検討し、調査会社を探した事業者よりも、調査会社・コンサルティング会社等からの勧誘・提案を受けた事業者の方が多かった(13頁)。
具体的な調査会社の起用理由については、調査は適法であるという旨の説明を受けたということを理由に挙げる事業者が多かった(13~14頁)。このような説明を信用してか、調査の具体的な内容について、「インターネット上で消費者に対してアンケートを実施していること」という程度の認識に留まっている事業者が多く、具体的な質問内容や比較対象となる競合他社等の詳細については、ほとんどの事業者が認識していなかった。また、アンケート調査の内容が、いわゆるイメージ調査※6である場合に、多くの事業者は回答者が具体的に事業者のウェブサイトのどこを見て回答していたのかを把握しておらず、そもそもイメージ調査が何かを把握していない事業者も見受けられた(14~15頁)。
さらに、景品表示法上、一般に、事業者は、管理上の措置(22条1項)として、表示の根拠を確認することが求められる(管理措置指針※7第4・3(2))が、ほとんどの事業者において、少なくともNo.1表示等については、表示の根拠が十分に確認されている様子は窺われなかった。また、事業者は、表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために資料の保管等必要な措置を採ることが求められている(管理措置指針第4・6)にもかかわらず、調査会社から納品されたレポート等の根拠資料を適切に保管していない例が複数見られた(16頁)。
景品表示法上、上述のような管理上の措置を行う義務を負う主体も、不当表示による措置命令および課徴金納付命令の名宛人となるのも、広告主たる事業者である(5条、7条、8条)ことからすると、処分の公表に伴うレピュテーションリスクを含む様々なリスクを負う事業者が、自ら責任を持って表示の内容・根拠を確認する必要があるのに、それが行われていない実態が明らかになったといえる※8。
No.1表示については、合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には不当表示として景品表示法上問題となる。
そして、合理的な根拠に基づく表示と認められるためには、一般論として、(1)No.1表示の根拠とされる調査が、関連する学術界もしくは産業界において一般的に認められた方法もしくは関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること、または、社会通念上および経験則上妥当と認められる方法で実施されていること、(2)表示内容が(1)の調査結果と適切に対応していることの2つを満たす必要がある。
第三者の主観的評価によるNo.1表示を行う場合、アンケート調査やヒアリング調査等を実施する場合が多いと考えられるが、当該調査の結果が合理的な根拠と認められるためには、少なくとも次の①から④までを満たしている必要がある。このうち、①から③までは上記(1)に該当するものとして求められる要件である(17頁)。
以下、上記①~③の要件に即して、調査の実施に際して留意すべき点を述べる。
以下のような調査手法が用いられた場合には、景品表示法上問題となるおそれがある(17~18頁)。
前提として、調査対象者は、恣意性を排除するために、無作為に抽出された者である必要があり、以下のような場合には、景品表示法上問題となるおそれがある(18~21頁)。
また、調査対象者の属性についても適切に表示する必要がある。すなわち、表示内容全体から見たときに特定の属性を有する者(例えば、その商品等を実際に利用したことがある者等)への調査結果のように示されているが、実際にはそうでなかった場合、当該表示との関係で合理的な根拠があるとはいえず、景品表示法上問題となるおそれがある。とりわけ、「顧客満足度No.1」という表示は、実際の利用者を対象に調査をしていると一般消費者に思わせるので、(たとえ、サイトイメージ調査である等の注記が付されていたとしても、)イメージ調査のみが実施された場合には景品表示法上問題となり得る。
なお、報告書においては、消費者への意識調査の結果を踏まえ、「~したい」や「~と思う」等のフレーズを用いたNo.1表示についても、表示の内容によっては、実際の利用者に調査をした結果、第1位であったかのように示す表示に当たる場合があるとされている点には注意が必要である。ただし、具体的にどのような表示内容であれば、不当表示に当たるか否かの基準は、報告書においては示されていないことから、このような表示の不当表示該当性については、事案ごとの判断が必要になる。
以下のような調査手法が用いられた場合には、景品表示法上問題となるおそれがある(21頁)。
高評価%表示に関する留意点についても簡潔に述べる。高評価%表示については、消費者の意識調査の結果を踏まえ、主観的評価によるNo.1表示と同様、商品等の優良性を示す場合があると指摘されている(22頁)。
また、報告書は、高評価%表示についての合理的な根拠についての考え方は、必ずしも同種商品等との比較を前提としないという違いはあるものの、基本的にはNo.1表示と共通するとしている。一方で、医師のような一定の有資格者や専門家の主観的評価を訴求するものについては、一般消費者への影響が大きいと考えられることから、特に留意する必要があるものとされており、例えば以下のような場合には景品表示法上問題となるおそれがあるとされている(22~23頁)。
報告書においては、今回の調査結果も踏まえ、「不当なNo.1表示等が疑われる事案に対しては、迅速に指導を行い是正を図ることを含め、引き続き、景品表示法に基づき厳正に対処していく」とされており(26頁)、今後一層、消費者庁によるNo.1表示に係る執行が強化されることが見込まれる。
事業者としては、現在行われている自社の商品またはサービスの表示の根拠の確認を徹底し、表示と実態との齟齬が生じないように一層留意することが重要になる。とりわけ、調査を外部のリサーチ会社だけに任せるのではなく、調査手法に問題がないかを丹念に確認するとともに、その表示に関する根拠についても、事後的に確認できるよう資料の保管等の適切な措置を採る必要があるといえる。なお、報告書においては、表示の根拠となる調査の内容を一般消費者が確認することができるようにすることが望ましいとして、具体的には、表示物に調査方法の概要を表示することや、それが難しい場合には表示物にQRコードを記載する等して調査方法の概要を容易に確認できるようにする方法を提示している(25~26頁)。
今回の調査でも、事業者からは、No.1表示等を行っている理由として、他社が同様の表示を行っているため、見劣りしたくなかったという旨の回答が複数あったとのことであるが(13頁)、「他社が同様の表示を行っているので当社としても行いたい」「他社が摘発されていないのになぜ当社は行えないのか」という事業部門の方々からの声は、しばしば我々弁護士のもとにも届く。日々、市場で厳しい競争を戦っている事業部門の方々の心情は理解できるが、その一方で、公道で速度超過をしている自動車が存在するからといって、いざ自分が検挙された際にそのことを以て自らの速度超過を正当化できないのと同様に、他社が同様の表示を行っているということは、当該表示が許容されることの理由にはならない。したがって、事業者においては、他社の表示にかかわらず、報告書で示された考え方を踏まえた適切な対応が必要になる。
※2
令和6年2月28日付け措置命令(https://www.caa.go.jp/notice/entry/036514/)
※3
令和6年3月6日付け措置命令(https://www.caa.go.jp/notice/entry/036590/)
※4
なお、本年3月21日の新井ゆたか消費者庁長官の記者会見において、No.1表示についての実態調査を行うことが発表された際にも、違反事例の多くは、「商品あるいはサービスの「イメージ」を尋ねた結果をもって「満足度No.1」と表示するなど、およそ客観的な調査に基づくとはいえないものでありました。」と述べられており、消費者庁として、後述のイメージ調査を含む主観的評価によるNo.1表示を問題視していることが明確にされていた。
※5
高居良平ほか『景品表示法〔第7版〕』(商事法務、2024年)69頁
※6
アンケートの回答者に対して、対象商品等や、これと比較する商品等を提供する各事業者のウェブサイトのURLを示し、当該ウェブサイトの閲覧を促した上で、「ご覧いただいたサイトの中で、「サポートの手厚さ満足度が高い○○」だと思うものを、すべて選んでください。 [複数回答可]」というような質問をする調査をいう(14~15頁)。
※8
これに加えて、調査会社に調査を委託する場合には、調査会社の選定にも慎重を期す必要があるといえる。具体的な調査会社のブランドにも言及しつつ、調査会社の起用に関する問題点を指摘するものとして、カライスコスアントニオスほか「座談会 最近の景品表示法違反事件をめぐって」(公正取引887号)4頁以下がある。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
(2025年3月)
小山嘉信、粂内将人、鳥巣正憲(共著)
弘文堂 (2025年3月)
森大樹(編集委員)、須藤希祥(執筆責任者)、梅澤舞、馬渕綾子、野口夏佳、生田敦志、中坪真緒、本田陽希、栗原杏珠(執筆協力)
(2025年2月)
殿村桂司、小松諒、今野由紀子、松宮優貴(共著)
(2024年11月)
森大樹、梅澤舞(共著)
(2025年3月)
小山嘉信、粂内将人、鳥巣正憲(共著)
弘文堂 (2025年3月)
森大樹(編集委員)、須藤希祥(執筆責任者)、梅澤舞、馬渕綾子、野口夏佳、生田敦志、中坪真緒、本田陽希、栗原杏珠(執筆協力)
(2024年11月)
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