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個人情報保護・プライバシー 2024年の振り返りと2025年の展望 ~欧州編~

NO&T Data Protection Legal Update 個人情報保護・データプライバシーニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

本ニュースレターでは、5回にわたり、日本米国、欧州、東南アジア・インド東アジアという各主要地域について、昨年の個人情報保護・データプライバシーに関する動き(法令改正・当局ガイダンス、当局による執行事例、生成AIやクラウドサービスその他注目を集めたトピック)を振り返ると共に、本年の展望をご紹介しています。

1 法令改正・立法(EU)

 EUにおいては、引き続きデータ・AI等に関連して多岐にわたる法令改正・立法の動きがありますが、そのうち、2024年の主な法令改正及び立法に関する動向は以下のとおりです。

(1) GDPRに関連する法令改正・立法等

① 新SCCに関する意見募集を開始する意向の公表

 2024年9月12日、欧州委員会は、EU域内に所在するデータ輸出者が、GDPRの域外適用を受けるEU域外のデータ輸入者に対して個人データを移転する場合に用いることができるStandard Contractual Clauses(標準契約条項、SCC)についての意見募集を開始する予定であることを公表しました。欧州委員会によれば、同SCCの意見募集は、2024年第4四半期に実施され、2025年第2四半期に承認される予定であるとされていましたが、現時点で意見募集は開始されておらず、同SCCの案文は公表されていません。

(2) データに焦点を当てた法令改正・立法

① データ法(Data Act)

 2024年1月11日にデータ法(Regulation on harmonised rules on fair access to and use of data)が発効しました。同法は、IoT機器の普及を踏まえて、データのポータビリティの強化やデータの提供者と受領者の関係を規律するルールの整備により、データの生み出す価値を公平に分配することを目的とする規則で、2025年9月12日から適用が開始されます。同法については、2024年9月6日、欧州委員会からFAQが公表されており、データ法の適用範囲を含め、条文上必ずしも明らかではない多くの論点について見解が示されています。

(3) AI関連の法令改正・立法

① AI法(AI Act)

 2024年8月1日にAI法(Regulation laying down harmonised rules on artificial intelligence)が発効しました。同法は、生成AIを含むAIに関する包括的な規制法であり、AIシステムを①許容できないリスク、②ハイリスク、③特定の透明性が必要なリスク、④最小リスクの4つのカテゴリに分類し、リスクがより高いAIシステムについて、より厳格な要件を定めています。分類①に該当し、利用が禁止されるAIに関する規制等は2025年2月2日から、生成AIを典型とする汎用目的AI(General Purpose AI)モデルに関する規制等は同年8月2日から、残りの多くの規定は2026年8月2日から適用が開始されることになります。

 なお、欧州委員会は、2024年5月29日、AI法の施行の支援を目的としたAIオフィス(the European Artificial intelligence Office)を同委員会内に設立したと公表しました。AIオフィスは、AI法の実施(特に汎用目的AIモデルに関する同法の実施)において重要な役割を果たす予定であるとされています。

② 汎用目的AIモデルに関するQ&A及び行動規範(Code of Practice)案

 AIオフィスは、2024年11月14日に、AI法における汎用目的AIモデルの定義、汎用目的AIモデルの提供事業者の義務等について明確化するQ&Aを公表しました。

 また、AIオフィスは、2024年11月14日に汎用目的AIモデルに関する行動規範の第1次ドラフトを公表し、その後2024年12月19日に第2次ドラフトを公表しました。AIオフィスが公表している暫定的なスケジュールによれば、同行動規範は、2025年4月までに最終案が公表され、2025年5月以降に欧州委員会において実施法(Implementing Act)を通じて承認される見込みとなっています。この行動規範は、汎用目的AIモデルを提供する事業者及びシステムリスクを有する汎用目的AIモデルを提供する事業者に対するAI法のルールについて詳細に規定するものであり、事業者にとってAI法への準拠を実証するための中心的なツールとなるべきであるとされています。

③ AI協定(AI Pact)

 2024年7月22日、欧州委員会は、AI協定のドラフトを公表しました。同協定は、AI法の適用開始までの移行期間に、企業に対してAI法上の義務への自主的な遵守を求めるものであり、参加企業間がベストプラクティスの意見交換をするための場を提供する第1の柱と、参加企業によるAI法上の義務の早期遵守を促すための枠組みとなる第2の柱を中心に構成されています。欧州委員会は、同年9月25日、AI協定及び同協定に付属する自主的な誓約に100社以上の企業が署名したと発表しています。

④ 製造物責任指令

 2024年12月8日に、新たな製造物責任指令(EU Directive on Liability for Defective Products)が発効しました。新指令※1は、デジタル時代の製品とその関連リスクの性質を反映した責任規定に更新すること等を目的として従前の製造物責任指令を改正するものであり、アプリケーション、オペレーティングシステム(OS)、AIシステムを含むあらゆる種類のソフトウェアが新指令の適用対象となることが明確化されています。EU加盟国は2026年12月9日までに同指令を国内法に組み込む必要があり、同指令は2026年12月9日以降に市場に投入された製品に適用されることになります。

(4) デジタル市場関連の法令改正・立法

① デジタルサービス法(Digital Services Act)

 2024年2月17日に、デジタルサービス法(Regulation on a Single Market For Digital Services(Digital Services Act))の全ての対象事業者に対する適用が開始されました。同法は、オンラインプラットフォーム等の仲介サービスを対象として、事業者の違法コンテンツへの対策に関する責任等を定め、ユーザーの保護を強化するとともに、サービスの透明性やアカウンタビリティを高める枠組みを提供するものです。

② デジタル市場法(Digital Markets Act)

 2024年3月7日に、2023年9月6日に欧州委員会に指定されたゲートキーパー※2に対するデジタル市場法(Regulation on contestable and fair markets in the digital sector(Digital Markets Act))に基づく義務の適用が開始されました。同法は、公正で開かれたデジタル市場を実現することを目的とし、一定の基準を満たすオンラインプラットフォームをゲートキーパーとして指定した上で、ゲートキーパーが遵守すべき義務を規定するものです。

③ 欧州デジタルIDフレームワークの確立に関する改定規則

 2024年5月20日に、欧州デジタルIDフレームワークの確立に関する改定規則(European Digital Identity Regulation)が発効しました※3。2014年7月に制定され、2016年7月に発効した域内市場における電子取引のための電子的本人確認及びトラストサービスに関する規則(eIDAS規則)では、EU域内で相互運用可能なデジタルIDの発行・提供が加盟国の義務ではなく、任意とされていたため、デジタルIDの普及が十分に進まなかったことを踏まえ、新たな規則では、加盟国に対し、国のデジタルIDと他の個人属性(運転免許証、銀行口座等)の証明をリンクさせることのできるデジタルウォレットを市民や企業に提供することが義務付けられています。

④ デジタル公正性に関するフィットネスチェック(Digital Fairness Fitness Check)にかかる報告書の公表

 2024年10月3日、欧州委員会は、デジタル公正性に関するフィットネスチェックにかかる報告書を公表しました。同フィットネスチェックは、具体的には、デジタル環境における高度な消費者保護を確保するために、現行のEUの消費者保護法令※4が目的に適っているかどうかを評価するものです。この報告書では、現行のEUの消費者保護法は、デジタル環境における現在及び新たに発生している消費者被害への対策として十分な効果を発揮していないことが指摘されています。この報告書は、欧州委員会がデジタル公正法(Digital Fairness Act)と呼ばれる新たなEU消費者法の策定に着手する意向を後押しするものといえます。

(5) サイバーセキュリティ関連の法令改正・立法

① 改正ネットワーク及び情報システム指令、重要事業体のレジリエンスに関する指令

 2023年1月16日に発効した改正ネットワーク及び情報システム指令(NIS2指令)(Directive on measures for a high common level of cybersecurity across the Union)、及び、重要事業体のレジリエンスに関する指令(CER指令)(Directive on the resilience of critical entities)により、EU加盟国は、これらの指令に対応する国内法を2024年10月17日※5までに制定する必要があるとされていました。なお、NIS2指令は、サイバーセキュリティリスクの対策に関する措置及び報告義務のベースラインを定める指令であり、CER指令は、重要事業体のレジリエンスの強化に関する国家戦略の策定や定期的なリスク評価の実施、重要事業体の特定等の加盟国の義務等を定める指令です。

 しかし、上記の期限までに国内法の整備が進んでいない国が多く、NIS2指令については、2024年11月28日に、欧州委員会が、完全な国内法化が完了していないとして23の加盟国※6に通知を送付し、2か月以内に国内法化を完了し欧州委員会に実施した措置を通知するよう求めたことを公表しました。

② サイバーレジリエンス法(Cyber Resilience Act)

 2024年12月10日に、サイバーレジリエンス法(Regulation on horizontal cybersecurity requirements for products with digital elements)が発効しました。同法は、デジタル要素を含むソフトウェアやハードウェア製品を購入する消費者や企業を保護することを目的として、デジタル要素を含む製品についてセキュリティ要件の実装、脆弱性の管理、インシデント報告、サプライチェーンにおけるデューデリジェンスの実施等を求めるものです。2026年9月11日から脆弱性/インシデントの報告義務に関する部分の適用が開始され、2027年12月11日から全面的に適用されます。

③ サイバー連帯法案(Cyber Solidarity Act)

 2024年12月2日に、EU理事会は、サイバー連帯法案を採択しました。同法案は、EU全域のサイバーセキュリティを強化するために、各国、政府機関、主要組織の間で、法的に裏付けられた集団防衛、協力、リソース共有の枠組みを提供することを主な目的とするものです。サイバー連帯法(Regulation laying down measures to strengthen solidarity and capacities in the Union to detect, prepare for and respond to cyber threats and incidents)は、2025年1月15日に官報に掲載されており、2025年2月4日に発効する予定です。

④ 2019年サイバーセキュリティ法(Cybersecurity Act of 2019)の改正

 2024年12月2日に、EU理事会は、2019年サイバーセキュリティ法の改正法案を採択しました。同改正法は、2019年サイバーセキュリティ法で既にカバーされている情報技術(ICT)製品、ICTサービス、及びICTプロセスに加えて、いわゆるマネージドセキュリティサービス(managed security service)※7を対象とした欧州認証スキームの採用を可能とすることを目的としています。改正法(Amendment to the Cybersecurity Act on Managed Security Services)は、2025年1月15日に官報に掲載されており、2025年2月4日に発効する予定です。

(6) その他の個別セクターについての法令改正・立法

① 欧州ヘルスデータスペース(European Health Data Space)に関する規則

 2024年4月24日、欧州議会は、欧州ヘルスデータスペースに関する規則案を承認しました。同日、欧州委員会は、欧州議会による同規則案の承認を歓迎すると発表し、同規則に関するQ&Aを公表しました。同規則は、個人の電子健康データへのアクセスと管理を改善することを目的としており、同時に、欧州の患者の利益のために、特定のデータを研究やイノベーションの目的で再利用できるようにすることを目指しています。

 2025年1月21日に、EU理事会は同規則案を採択しました。今後は、EU理事会と欧州議会によって正式に署名された後、官報に掲載されてから20日後に発効する予定です。

2 法令改正・立法(英国)

 2024年の英国における主な法令改正及び立法に関する動向は以下のとおりです。

(1) UK GDPR関連の法令改正・立法

 2024年10月23日にUK GDPR及び2018年データ保護法等の改正に向けたデータ(利用及びアクセス)法案(Data (Use and Access) Bill)が議会に提出されました※8。英国政府は、経済成長、英国の公共サービスの改善、人々の生活を容易にすることが同法案の主な目的であるとしており、同法案では、たとえば、クッキーにかかる本人同意が不要な場合の拡大とクッキーにかかる法令違反時の制裁金の引き上げ※9、データの越境移転についての規定の修正、監督機関の組織・権限の変更等が規定されています。

(2) AI関連の法令改正・立法

 2023年11月にAIに関する政策の調整等を行う当局の設置や、AIに関する規則を制定する閣内大臣の義務等を定めるAI法案(Artificial Intelligence (Regulation) Bill)が議会に提出されていましたが、2024年には同法案は成立に至らず廃案になりました。このため、2024年7月17日の国王演説において、英国政府がAIモデルを開発するための適切な法令の制定を模索する旨が述べられたものの、現時点ではAIに関する包括的な法令は存在せず、UK GDPR等の各分野の法令がAIに関して規律することになっています※10

(3) デジタル市場関連の法令改正・立法

 2024年5月24日には、競争・市場庁の権限強化、サブスクリプション契約に関する消費者保護等を定めるデジタル市場、競争及び消費者法(Digital Markets, Competition and Consumers Act)が成立し、2025年1月1日に施行されました。

(4) サイバーセキュリティ関連の法令改正・立法

① サイバーセキュリティ及びレジリエンス法案(Cyber Security and Resilience Bill)

 2024年7月17日の国王演説において、英国政府は2025年にサイバーセキュリティ及びレジリエンス法案を議会に提出する意向であることを公表しました。この法案自体はまだ公表されていませんが、英国の経済およびインフラをより良く保護するために、英国のサイバーセキュリティに関する分野横断的な法規制を強化することを目的とするとされています。

② 製品セキュリティ及び通信インフラストラクチャー法(Product Security and Telecommunications Infrastructure Act 2022)

 2024年4月29日に、製品セキュリティ及び通信インフラストラクチャー法(Product Security and Telecommunications Infrastructure Act 2022)が施行されました※11。この法令は、インターネットやローカルネットワークへの接続機能を有する製品の製造者等に対して、サイバーセキュリティ確保のための一定の義務を課すものです。

3 当局ガイダンス等

 2024年にEU及び英国で採択又はアップデートされた主なガイダンス等(意見、ガイドライン、報告書等を含む。)は以下のとおりです。

(1) EU

(2) 英国

4 当局による執行事例等

(1) 主な執行事例及び判断

 2024年のEU及び英国における主な執行事例及び判断は以下のとおりです。

No. 日付 データ保護当局 事業者 処分内容
1. 1月23日※12 フランス AMAZON FRANCE LOGISTIQUE 倉庫で勤務する従業員の行動モニタリングが過度なものであり処理の適法性を欠きデータの最小化の原則に反する等として3,200万ユーロの制裁金
2. 5月16日 オランダ Clearview AI Inc. 法執行機関等向けサービスにおける個人データの処理について適法な法的根拠を欠き、また求められるデータ主体への情報提供も行われていなかったとして3,050万ユーロの制裁金(同社に対しては既に2022年10月にフランスが2,000万ユーロの制裁金)
3. 8月7日 イギリス Advanced Computer Software Group Ltd サイバー攻撃により約8万3,000人の個人データ(センシティブな個人データを含む)が漏えいした事案について処理者として個人データの適切な保護措置をとっていなかったとして609万ポンドの制裁金(暫定)
4. 8月26日 オランダ Uber 欧州のタクシー運転手の個人情報を米国に対して適切な保護措置をとらずに移転したことについて2億9,000万ユーロの制裁金
5. 9月27日 アイルランド Meta Platforms Ireland Limited 特定のユーザーのパスワードについて暗号化による保護をせずに誤って社内システムに「平文(plain text)」で保存していたことについて適切な安全管理措置を確保していなかったとして9,100万ユーロの制裁金
6. 10月24日 アイルランド LinkedIn Ireland Unlimited Company 行動分析及びターゲティング広告について透明性、公正性及び適法性に関する違反があるとして3億1,000ユーロの制裁金
7. 11月2日 イタリア OpenAI OpCo LLC 適切な法的根拠を特定せずにユーザーの個人データをAIの学習用データとして処理し、透明性の原則及びユーザーに対する情報提供義務に違反したとして1,500万ユーロの制裁金
8. 12月17日 アイルランド Meta Platforms Ireland Limited 約300万人のEU/EEA(世界で約2,900万人)の個人が影響を受けたデータ侵害について2億5,100万ユーロの制裁金

(2) 主な裁判例

 2023年のEUにおける主な裁判例は以下のとおりです。

No. 日付 裁判所 判旨
1. 1月25日 欧州司法裁判所
  • GDPR82条1項に基づく財産的損害及び非財産的損害の賠償請求について、同条は抑止的な機能を有するものではなく補償的な機能を有するものであって、損害賠償を請求する者は損害の発生を示さなければならない。個人データを含む書面が権限のない第三者に提供されて当該第三者が個人データに気付いていなかったような場合は、データ主体が将来的な悪用を恐れるというだけでは、非財産的な損害が存在するとはいえない。

【関連する裁判例】※13

  • 4月11日の欧州司法裁判所:GDPRで定めるデータ主体の権利に係る条項違反それ自体ではGDPR82条1項の非財産的損害の損害賠償請求には不十分であり、損害の発生を示さなければならない。
  • 6月20日の欧州司法裁判所:GDPR82条1項の損害の額の決定にはGDPR83条の制裁金の基準を準用する必要はない。
2. 3月7日 欧州司法裁判所
  • 業界組織(IAB Europe)による、GDPRに基づく同意又は不同意及びGDPRの透明性義務の遵守を書面化する透明性及び同意フレームワークにおいて、ユーザーの選好を記号化したTransparency and Consent String(TCストリング)は、当該組織自身ではIPアドレス等と結びつけられないものの、他の組織が提供すべきこととされている情報によって合理的な方法により特定の自然人を識別できるためGDPR上の「個人データ」に該当する。
3. 3月7日 欧州司法裁判所
  • (裁判所への犯罪歴の開示請求の事案において、)口頭による個人データの開示はGDPR上の「処理」に該当し、また、個人の裁判記録に含まれている情報は、実体的適用範囲を定めるGDPR2条1項に関して、「ファイリングシステム(filing system)」の一部を構成する。
4. 7月11日 欧州法裁判所
  • GDPR80条2項は、「処理の結果」としてデータ主体の権利が侵害されたと判断する場合に一定の非営利団体等がデータ主体からの委任なくデータ主体を代表して訴訟等を提起できると規定している。これらの組織等が個人データの処理の過程で管理者のGDPR12条前段や13条1項(c)及び(e)に基づくデータ主体への情報提供義務の違反があったと判断する場合にも、当該要件を満たす。
5. 9月12日 欧州司法裁判所
  • 投資ファンドのパートナーが、当該ファンドの間接的持分を信託会社を通じて有するすべてのパートナーの氏名・住所の開示を信託会社に求めている場合、GDPR6条1項(b)に依拠できるのは、その処理が当該パートナーに対して意図された契約上の義務に必須の目的のために客観的に不可欠である場合に限られる。また、当該契約で他のパートナーへの開示を明示的に禁止している場合には、この場合に該当しない。
  • 加盟国の判例法を根拠としてGDPR6条1項(c)に依拠できるのは、管理者が服する関連する当該加盟国の判例法で説明される法律に基づく法的義務の遵守に必要な場合であって、判例法が明確かつ正確で、適用に予測可能性があり、公共の利益の目的を満たすものであり、またそれと比例的であるときである。
6. 10月4日 欧州司法裁判所
  • スポーツ連盟が会員の個人データを当該連盟のスポンサーに対して対価を得てプロモーション活動の目的で開示することの適法性について、商業的利益がGDPR6条1項(f)の正当な利益に該当する可能性を排除しないが、GDPR6条1項(f)の正当な利益の要件を満たすには、処理が正当な利益の目的のために厳密に必要であり、かつ、関連するすべての状況において、会員の利益及び基本的権利が正当な利益に優先しない場合でなければならない。
7. 10月4日 欧州司法裁判所
  • GDPR5条1項(c)のデータ最小化の原則は、ソーシャルネットワークプラットフォーム等の管理者がデータ主体又は第三者から取得しプラットフォーム内外で収集したすべての個人データについて、時間の制限なしに、またデータの種類の区別なしにターゲティング広告の目的で集計、分析及び処理することを妨げるものである。
  • GDPR9条2項(e)は、一般公開されたパネルディスカッションの際に個人が自身の性的指向について発言した事実について、オンラインソーシャルプラットフォームの運営者が当該プラットフォーム外で取得した当該個人の性的指向に関するその他のデータを、その個人にパーソナライズされた広告を提供するために集計及び分析する目的で処理することを認めるものではない。

5 2025年の展望

(1) 法令の適用開始に向けた対応

 2024年に発効したEUの法令のうち、データ法について本年9月12日から適用が開始されることとなっています。また、AI法において許容できないハイリスクに該当するとして利用が禁止されるAIシステムに関する規制等は本年2月2日から適用開始となり、生成AIを典型とする汎用目的AIモデルに関する規制等も本年8月2日から適用開始になります。それらの各法の適用開始までに、自社の事業における対応の要否を検討した上で、対応すべき場合の具体的な対応事項の整理、そのための体制作りと実務的対応への落とし込みをしていく必要があります。したがって、規律の対象となる事業者は、このような対応を速やかに進めるとともに、また、当局の執行に関する動向についても併せて注視する必要があります。

(2) 越境移転に関する動向

 欧州委員会は、EU域内に所在するデータ輸出者が、GDPRの域外適用を受けるEU域外のデータ輸入者に対して個人データを移転する場合に用いることができるStandard Contractual Clauses(標準契約条項、SCC)についての意見募集を開始する予定であることを公表しています。当初は2024年第4四半期に意見募集が実施されて2025年第2四半期に承認される予定であるとされいたものの、現時点で意見募集は開始されていませんが、2025年に意見募集が実施される可能性があります。

(3) 2025年の法令改正・立法

① EUのAI責任指令案(AI Liability Directive)に関する進展

 契約外の民事責任に関するルールをAIに適用することを目的するAI責任指令案は、2022年9月に欧州委員会により提出され、2023年12月には、欧州議会とEU理事会との間で非公式に文言の合意が形成されていました※14。他方で、新たな製造物責任指令においてソフトウェアが適用対象として明示されたことを踏まえ、AI責任指令の必要性が議論されていました。2024年9月19日に欧州議会調査局(European Parliamentary Research Service)が公表したAI責任指令に関する補完的な影響評価では、AI責任指令は引き続き必要であるとされているものの、適用範囲について大幅な変更を加えることが推奨されています。今後は、欧州議会※15において、2025年5月までにAI責任指令に関する意見の採択が行われる見通しとなっており※16、また、EU理事会の議長国であるポーランドも、2025年1月から6月までの任期中に、AI責任指令に関する作業を進めることについての意欲を見せていることから※17、2025年には、同指令案についての進展が見られる可能性があります。

② その他の法案

 英国では、データ(利用及びアクセス)法案(Data (Use and Access) Bill)についての議論が2025年に議会で進められることになっており、2025年に成立する可能性もあるものと思われます。

(4) おわりに

 2024年にもデータ・AI等に関連して法令改正・立法の動きがありましたが、2025年には、近時の多岐にわたる法令改正・立法を踏まえてデータ法やAI法などの重要な法令の適用が開始されていくことになりますので、既存の法令への対応はもちろんのこと、新たな法令の適用に向けた準備が求められる場面が増えていくものと思われます。最新の実務動向について把握する必要性がますます高まっていくと考えられますので、弊所としても引き続きこうした対応のサポートや情報発信を積極的に行って参りたいと考えております。

脚注一覧

※1
EUにおける「指令(directive)」は、加盟国国内法の立法なしに、加盟国の企業や個人に対して直接適用されず、加盟国の政府に対して当該指令に定める政策目標を期限内に達成するための国内立法等の措置を取ることを義務付けるルールを意味するものです。

※2
Apple、Alphabet、Meta、Amazon及びMicrosoft and ByteDanceの6社が指定されていました(Digital Markets Act: Commission designates six gatekeepers)。その後、欧州委員会は、2024年4月29日にiPadOSについてAppleをゲートキーパーに指定し(それ以前はAppleのオペレーティングシステムについてはiOSのみが対象とされていました。)(Apple’s iPadOS under the Digital Markets Act)、2024年5月13日にBooking.comについてBookingをゲートキーパーに指定しています(Commission designates Booking as a gatekeeper)。なお、ゲートキーパーに追加的に指定された企業については、それぞれ指定から6か月間、義務遵守のための期間が与えられています。

※3
2024年11月28日には、欧州委員会が欧州デジタルIDウォレットの国境を越えた利用に関する技術標準を採択しました(Commission adopts technical standards for cross-border European Digital Identity Wallets | Shaping Europe’s digital future)。

※4
具体的には、不公正商行為指令(Unfair Commercial Practices Directive)、消費者権利指令(Consumer Rights Directive)及び不公正契約条項指令(Unfair Contract Terms Directive)の有効性を評価しています。

※5
なお、同日には、欧州委員会が重要な事業体及びネットワークのサイバーセキュリティに関する初の実施規則を採択しました(New rules to boost cybersecurity of EU’s critical entities)。この実施規則では、サイバーセキュリティのリスク管理措置の詳細に加えて、インシデントが重大(significant)と見なされ、デジタルインフラやデジタルサービスを提供する企業がインシデントを各国当局に報告すべき場合について規定されています。

※6
ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、エストニア、アイルランド、ギリシャ、スペイン、フランス、キプロス、ラトビア、ルクセンブルク、ハンガリー、マルタ、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランド、スウェーデン

※7
一般に、企業や組織の情報セキュリティシステムの運用管理を、社外のセキュリティ専門企業等が請け負うサービスをいいます。

※8
2023年にもデータ保護・デジタル情報法案(The Data Protection and Digital Information Bill)が提出されていましたが、当該法案は成立に至らず廃案となりました。

※9
英国ではクッキーについては、Privacy and Electronic Communications (EC Directive) Regulations 2003(PECR)が規律しており、現在は同法に違反した場合の制裁金の上限が50万ポンドであるのに対して、データ(利用及びアクセス)法案が成立した場合、UK GDPR及び2018年データ保護法に違反した場合と同様に、制裁金の上限が最大で1,750万ポンド又は全世界における年間売上の4%のいずれか高い方に引き上げられます。

※10
英国におけるAIについての規制状況の概観については、以下の英国議会のウェブサイトもご参照ください。
https://post.parliament.uk/artificial-intelligence-ethics-governance-and-regulation/#heading-1

※11
2024年4月29日に施行されたのは同法の第1部(第1条から第56条)であり、他の条項については異なる施行日が設定されている場合があります。

※12
公表日であり、決定は2023年12月27日。

※13
この他にも、2024年6月20日の、本文で紹介しているものとは別の欧州司法裁判所や、同年10月4日の欧州司法裁判所の裁判例においても同様の判断が示されています。

※15
具体的には、域内市場・消費者保護委員会(The Internal Market and Consumer Protection Committee)

※16
既に意見採択に向けた詳細なタイムテーブルが示されています(Highlights | Home | IMCO | Committees | European Parliament)。

※17
ポーランドが公表した議長国プログラム(Programme of the Presidency)において、「議長国は、AI責任指令案に関する作業を継続する準備ができている。」とされています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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